旋盤用中ぐりバイトの種類と最小加工内径・加工深さ(L/D比)

調査の背景

旋盤の内径加工では、工具の剛性が不足すると刃先がびびって寸法精度や面粗さが悪化する。このため、加工したい穴の内径に合わせてバイトの種類を選び、棒の突出し長さ(L)とシャンク径(D)の比(L/D=突出し長さ÷径)を守る必要がある。一般的な鋼シャンクのバーはL/D比が大きいとたわみや振動が増えるため、硬質合金製防振ダンパー付きのバーが用意されている。また、穴径に合わせて極小径用から大径防振バーまで多くのシリーズが発売されている。

以下では各メーカーの代表的な中ぐりバイト(内径旋削用バイト)について、最小加工内径と推奨される最大突出し長さ(L/D比)、主な特徴をまとめた。L/D比が大きいバーは「加工できる深さ」も深くなるため、表中ではL/D比=5なら「直径の約5倍までの深さ」で加工可能と考えればよい。

メーカー別の代表的な中ぐりバイト

メーカー/シリーズ 最小加工内径の目安 推奨最大L/D比(加工できる深さ) 特長・備考
京セラ – EZバー(EZB‑HP/EZB‑ST/EZB‑NB) 1 mm〜。小径用の固体バーで、カタログに「最小加工径は1 mm」とある 標準鋼シャンクはL/D≒3、動バーブタイプは4、振動吸収機構付きのエクセレントバーは5、エクセレント動バーバーは5.5 京セラ独自のEZ調整機構で刃先高さ調整が容易。スリーブと組み合わせてオーバーハングを調整できる。固体バーは超硬シャンクで非常に細い穴加工に対応する。
京セラ – EZ Bar PLUS(EZBT) 5 mm〜。交換チップ式のEZバーで、カタログで「EZ Bar PLUS の最小加工径は5 mm」と記載 L/D比は基本的にEZバーと同じ(鋼製バーで3〜4、エクセレントバーで5〜5.5)。 インサート交換式のため刃先交換が簡単。高剛性スリーブと組み合わせて内径・溝入れ・ねじ切り加工に使える。
京セラ – ADバー(Advanced Dampener bar) 約7 mm〜63 mm。総合カタログには、交換ヘッドごとに対応する最小加工径φAが7 mmから63 mmの範囲で用意されている 最大L/D≒6。ADバーは重金属製ダンパーを内蔵し、カタログで「アドバンスドダンパー効果でL/D=6 max対応」と説明されている ヘッド交換式の防振バー。直径32・40・50 mmのシャンクに各種ヘッド(PCLN12, PDUN15, PTFN16, SCLC09, SDUC11)が取付けられ、びびりを抑えて大きな切り込みと高送りに対応
三菱マテリアル – 小径中ぐりバイトシリーズ(Micro‑Mini Twin / Micro‑Mini / Micro‑Dex) カタログではMicro‑Mini Twinが最小加工径2.2 mmMicro‑Mini3.2 mmMicro‑Dex(インデキサブル)が5.0 mm 三菱の加工基礎では鋼シャンクのバーはL/D比4〜5までが目安とされ、これを超える場合は送りや切り込みを落とすか高剛性バーに変更することが推奨されている Micro‑Mini Twinは超硬シャンクで2つの切れ刃を持ち、内径加工と面削りを連続して行える。Micro‑Dexはインサート交換式で、工具突出し長さを調整できる
住友電工 – Stickバーシリーズ(ステッキィツイン/スティックバー/ステッキィ) ステッキィツイン(Stick Twin)は2.2 mm、スティックバーは5 mm、ステッキィは3.2 mm メーカーはこれら小径バーの推奨突出し長さをL/D≒5までとし、これを超える場合は切削条件を下げるよう注意している 超硬シャンクの固体バーで極小径穴の切削や溝入れ、ねじ切りに対応。ステッキィツインは背面にも刃があり内径加工から端面加工まで連続加工が可能。
住友電工 – SumiTurn X‑Bar(防振バー) 交換ヘッド式ではない防振バー。ブログではシャンク径8〜40 mmがラインアップされ、最小加工径は約シャンク径と同等(最小バーで8 mm程度) 防振機構によりL/D≒6まで安定加工が可能。ただし直径32 mm以上で6×Dまで対応し、小径バーでは浅くなる シャンク底面が平らで取り付けやすいが、ヘッド交換式ではない。安価な防振バーとして深穴用に用いられる。
三菱・住友の一般的な内径バー 一般的な鋼シャンクのバーはL/D≒3–4、超硬シャンクや重金属シャンクでは5程度まで可能。詳細は各社カタログを参照 標準の無防振バーはL/D比が大きくなると共振しやすく、送りや切り込みを減少させる必要がある。
サンドビック – CoroTurn XS スイス旋盤や小物加工向け。製品ページでは最小加工径0.3 mm(旋削)、溝入れ・ねじ切りは4.2 mm、端面溝加工は6.2 mmとされる 公開資料にはL/D比は明示されていないが、工具径が小さいため通常は2〜3倍程度の浅穴加工に用いられる。 極小径の旋削・溝入れ・ねじ切り・端面溝加工を1つのホルダで行えるモジュラーシステム。
サンドビック – Silent Tools(防振バー) ブログ記事では超硬強化防振バーでL/D≒14まで延長できると紹介されている。具体的な最小加工径はバー径による(多くは16 mm以上)。 最大L/Dは14。鋼製バーや重金属バーよりさらに深い穴でもびびりを抑制できる サンドビックの防振バーシリーズは交換ヘッド式で、内径加工・溝入れ・ねじ切り・端面加工など様々なヘッドを用意。
タンガロイ – TinyMini‑Turn(超小径ソリッドバー) ブログでは最小加工内径0.6 mmから使用できると解説されている。カタログにも146種類のソリッドバーで最小内径0.6 mmと記載 一般的な超硬シャンクバーのためL/D比は4〜5程度が目安。深穴加工には適さない。 四方から切削油を供給するスリーブがオプションで、細穴でも切粉排出が容易。溝入れ・ねじ切り用の刃形も用意。
タンガロイ – BoreMeister(防振バー) 付属資料では「最小加工内径20 mm」「長い突出しL/D=10までびびりを抑制」と記載 L/D≒10。深穴用だが標準では10×Dまで、拡張シリーズでは12×Dや14×Dのラインアップもある 交換ヘッド式の防振バー。重金属ダンパーを内蔵し、内径加工・溝入れ・ねじ切り用のヘッドを用意。被削材や加工内容に応じて最適なヘッドを選択する。
イスカル – WhisperLine ブログではシャンク径16〜60 mmL/D≒10の防振バーとして紹介されている L/D≒10。深穴加工向け。 ヘッド交換式で様々なチップ形状に対応。高さ調整機構は無いので治具側で位置決めする。
セコ – Steadyline 比較記事では最大L/D≒10と紹介されている。具体的な最小径はメーカーに確認が必要。 L/D≒10 セコの防振バーシリーズ。溝入れやねじ切り用ヘッドもあり。

一般的な選定のポイント

  1. 最小加工内径 – 内径加工用バイトはシャンク径よりわずかに大きい穴で使用するため、まず加工穴径に適合するシリーズを選ぶ。極小穴(<2 mm)には京セラEZバーや三菱Micro‑Mini Twin、タンガロイTinyMini‑Turn、サンドビックCoroTurn XSなどがある。
  2. 加工深さ(L/D比) – 鋼シャンクのバーではL/D比3程度が限界で、突出しを長くするとびびりが増える。超硬シャンクや動バーバーでは4〜5倍、エクセレントバーや防振バーでは5〜6倍、ダンパーを内蔵した専用バー(Silent Tools・BoreMeisterなど)では10〜14倍まで深穴が可能
  3. 防振機構の有無 – 深穴加工では防振ダンパー付きバーが効果的。例えば京セラADバーはL/D≒6、住友X‑BarはL/D≒6、タンガロイBoreMeisterやイスカルWhisperLineはL/D≒10、サンドビックSilent ToolsはL/D≒14といった違いがある
  4. ヘッド交換式と固体バー – 固体バー(Micro‑Mini TwinやTinyMini‑Turnなど)は刃物を研磨することで多様な加工に対応する。一方、ヘッド交換式(ADバー、BoreMeister、Silent Toolsなど)は刃先の交換が簡単で、溝入れ・ねじ切り・端面加工などにも対応できる。

まとめ

旋盤の内径加工では、加工穴径に合わせた中ぐりバイトを選定し、工具の突出し長さを適切に管理することが重要である。表に示したとおり、極小径穴(0.3 mm〜2 mm)は京セラやサンドビック、三菱の固体バーが対応し、中径域(2 mm〜10 mm)は住友や京セラのインサート式バーが適する。深穴加工や大径穴では、防振ダンパー付きバー(ADバー、X‑Bar、BoreMeister、Silent Toolsなど)が有効で、バー径の6〜14倍の深さまで加工できる。加工条件や加工長さに応じて適切なバーを選定することで、高精度かつ効率的な内径加工が可能となる。

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