承知しました。子供のゲームの時間と学業成績との関係について、年齢層や成績指標、ゲームの種類などの制約を設けず、国内外の論文を幅広く調査します。
研究の方法論、主な結果、傾向、また相関や因果関係の有無なども含めて整理し、学術的に信頼性のある情報を提供いたします。
調査が完了次第、まとめてご報告いたします。
子どものゲーム時間と学業成績の関係:文献レビュー
調査背景と目的
近年、子どものゲームプレイ時間と学力との関連が注目されている。一般的には「ゲーム時間が長いほど学力が下がる」といわれる一方、研究によって結果はまちまちである。本調査では小学生から高校生を対象に、ゲーム時間(テレビゲーム・コンピュータ・スマホゲーム等)と学業成績(テスト成績や評価など)の関係を報告した論文を幅広く検討した。以下、論文ごとに目的・対象・方法・結果・結論を整理し、相反する結果の要因も検討する。
成績低下を示す研究例
- Jackson et al. (2011)(米国、12歳482名)など多くの研究は「ゲームプレイ時間が長い子ほど成績が低い」ことを報告している。例えば Jackson らは12歳児を対象にアンケート調査を行い、ビデオゲームのプレイ時間が長いほどGPAが下がると報告した。Tanaka (2020) のレビューにも、欧米や日本の調査結果として同様の傾向がまとめられている。
- 文部科学省・ベネッセ調査 (2011, 2009)(日本)では、小中学生を対象に追加調査を実施し、ゲームプレイ時間と学力テスト結果の間にいずれも負の相関を見出している。ベネッセコーポレーション (2009) の調査でも、小学5年生2952名で「プレイ時間増加=成績低下」が報告された。また野々上ら(2008)の調査では中学生648名中、ゲームをしない層の成績が最良で、プレイ時間が増すほど成績は下がったとされる。
- 須藤康介 (2021)(日本、パネル分析)では、全国の小中高生の縦断データを分析し、学校段階別に平日のゲーム時間と成績・睡眠を比較した。結果として、中学生では「ほぼゲームしない層で成績に正の効果、週3時間以上層で負の効果」があったが、高校生ではゲーム時間が成績・睡眠に明確な影響は見られなかったという。影響は小中であっても大きくはなかったとまとめている。
無影響・正の影響を示す研究例
- Drummond & Sauer (2014, PLOS ONE)(22か国・PISAデータ 192,000名)では、中学生の科学・数学・読解の成績とゲーム時間を分析し、「ビデオゲームプレイ時間は学業成績にほとんど影響しない」と結論付けている。国際的データでも、ゲーム時間による成績差は統計的に無視できるレベルであった。
- Islam et al. (2020, Scientific Reports)(オーストラリア、NAPLANデータ)では、週末のインターネット・ゲーム利用と成績の関係を分析した。平日1–2時間のゲームプレイ群は読解スコアが非プレイヤーより13%高くなる傾向があった。さらに、平日2時間超のゲームプレイ群では読解スコアが16%高い結果となり、適度なゲーム利用では学力(特に読解力)にプラス効果が示唆された。一方で、ゲーム依存傾向を示す群では学力低下が見られるなど、過度・病的な利用は負の影響を与える可能性がある。
- Malek et al. (2019, Communication Management Review)(クロアチア、207名)では、アンケートからゲーム頻度と学校での成功(現在・予想成績)を検討した。週3–4回プレイ層の成績が最も低く、逆に週5–6回や毎日プレイ層はやや高いなど、強い傾向は見られなかった。重回帰分析ではゲーム頻度が高いほど若干学校成績が低下する傾向(β=−0.11, p=0.15)を示したが、有意差はなく、「頻繁にプレイするほど成績が悪い」と断言できる水準ではなかった。
- Hastings et al. (2009, Issues Ment Health Nurs)(米国、小学〜中学生)では、保護者報告でゲーム利用と学校適応を調査した。結果、総プレイ時間が多いほど学校適応(school competence)に負の相関が見られたが、教育的(学習系)ゲームの場合は逆に学業成績が良好であった。暴力的ゲームは注意散漫と関連し、教育ゲームは学業成績向上と関連するなど、ゲーム内容によって影響が異なっていた。
メタ解析・系統的レビュー
- Adelantado-Renau et al. (2019, JAMA Pediatrics) は幼児〜18歳を対象とする58件の横断研究・メタ分析で、「テレビ視聴やビデオゲームは学業成績と負の相関がある」と報告している。特に13~18歳の青少年では負の関連(学業成績低下)が顕著で、ビデオゲームの影響量(効果量)は合成スコアで約−0.15(95%CI:−0.22〜−0.08)と評価された。教育・保健関係者は監督・制限の重要性を指摘している。
- Ferguson (2015, Perspectives on Psychological Science) は101研究のメタ分析で、ゲームと学業成績の相関効果量を調べた。学業成績低下との相関はほぼゼロ(r = −0.01)で、他の精神面指標同様「ほとんど無視できる程度」と結論付けている。
- 以上より、大規模データやメタ解析では「ゲーム時間と学業成績には弱い(または無い)関連しか見られない」という報告も多い。
結果の相違・要因分析
研究間で結果が異なる背景には、対象・方法・指標の違いが大きく影響していると考えられる。たとえば、対象年齢では、思春期以降の青少年で影響が強いとする報告があるが、小学生段階では影響が小さいともされる。測定方法では、ゲーム時間を「平日何時間」「週末何時間」と細かく分けるか、またテスト得点や教員評定か自己評価かで結果が変わる可能性がある。Islam ら(2020)は平日と週末で効果が逆転する事例を示した。ゲームの種類・内容も影響する。Hastings らの研究では、暴力的ゲームは注意力低下に関連し、教育用ゲームは学業成績向上と関連するなど、内容別に効果が異なった。
また、ほとんどの研究は相関関係に基づくものであり、因果関係の有無には慎重である。Tanaka (2020) は「ゲーム時間が長い子は家庭環境が悪い可能性があり、学力低下は環境要因によるかもしれない」と指摘し、逆に「学力が低いからゲームに逃げる」といった逆因果も想定している。統制変数(睡眠時間や家庭学習時間、社会経済要因など)の違いも、結果の相違を生む要素である。
まとめ
文献を総合すると、ゲーム時間が長いほど学力が低下するという傾向は多数報告されているものの、その影響度は小さいケースが多い。適度なゲーム利用では学力への悪影響は認められず、時には学習支援的な効果も指摘される。一方で、1日3〜4時間を超える長時間利用では成績低下と関連する研究もある。文化的・教育的背景の違いもあり、たとえば日本国内では学力競争が厳しいためか、メディア時間への警戒論が強く出やすい。結論としては「ゲーム時間と学力は相関する可能性はあるが、直接的な因果関係は証明されておらず、他の要因(睡眠・家庭学習・コンテンツ内容等)と併せた影響を総合的に考慮する必要がある」と考えられる。
参考文献: 主要論文より要旨を記載。その他にも国内外の複数研究を参照した。