現在、全固体電池に熱い視線を送るのは自動車業界である。
電気自動車(EV)の課題となっているのが、一回あたりの充電で走れる距離(構造距離)だ。
電気自動車だとどうしても車体のスペースが限られているため、電池を積める量に限界があるから、容量当たりの性能を高める必要がある。
現在のリチウムイオン電池に代わって固体電池を使えば、安全で、なおかつ航続距離を現在の2倍程度の700~800キロメートルと、飛躍的に伸ばせる試算がある。
それだけではない。
電気自動車のリチウムイオン電池が全固体電池に代わると、日本のエネルギー事情は一変する。
電気自動車が、その地域の蓄電に役立つかもしれないからだ。
「V2G(ビークル・トゥ・グリッド)」が大化けする可能性がある。
V2Gとは、自動車などを蓄電池としてインフラ活用する技術だ。
これがあれば、地域に安定した電力の供給や調整ができるようになる。
しくみは簡単だ。
電気自動車を使わないときに、車の大容量電池を電力の貯蔵に利用するのだ。
V2Gでは、電気自動車を電力系統に連携し、車と系統との間で電力を行き来させる。
先ほどもいったが、再生可能エネルギーは天候に左右される。
だから、たとえば、太陽光の発電が過剰な場合は車に電気を貯め、発電量が少ないときには車から電気を持ってくる。
停電時や災害時のバックアップ電源にもできる。
これが出来れば、当然使える電気が増える。
全固体電池がEVに搭載されれば、V2Gの普及に弾みがつく。
日本の電気自動車の保有数は中国、アメリカ・ノルウェーに次いで世界第4位だ。
2030年までに乗用車の新車販売に占めるEVの割合を30%に拡大することを目指しており、V2Gが広まる土壌は豊かだ。
V2Gが広まる大きな理由はもうひとつある。
全固体電池は日本企業の競争力が高い分野なのだ。
特許の半分はトヨタ自動車を筆頭に日本勢が保有する。
2020年の全固体電池の特許出願数を国別にみると、日本が54%と圧倒的なシェアを握る。
アメリカ(18%)や欧州諸国(12%)を寄せ付けず、治世代技術でもリードしていることがわかる。
日本企業にしてみても、全固体電池の開発の成否が自社の命運を握っているといっても過言ではないだけに必死になるはずだ。
小型の産業機器向けなど、容量が小さい電池は一部で生産が始まっていて、村田製作所やマクセルなど電子部品各社がこぞって参入している。
電池という日本の「お家芸」の裾の広さがうかがえる。
自動車向けの全固体電池の実用化はもうそこまできている。
2020年代半ば以降からはじまり、本格普及は2030年前後とみられる。
それまでには、太陽電池の発電効率も飛躍的に高まっているはずだ。
効率良く太陽光で発電し、販売台数が増えるEVに電力を貯蔵するようになれば、エネルギー政策の根本も変わる。
全固体電池は、日本の自動車業界のみならずエネルギー事情も様変わりさせる可能性を秘めている。
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