目的
ボルト締めランジュバン型振動子(BLT)を応用した超音波霧化機において、経験則に依存している設計指針を数値シミュレーションにより定量的に最適化することを目的とした。特に、ボルト締付けトルクとバックホーンの形状(長さ)がホーン先端の縦振幅に及ぼす影響を解析した。

手法

有限要素法ソルバー(Marc®)を用いて、振動モード解析および過渡応答解析を実施

モデルにはステンレス製ボルト(M12)、圧電素子(C-203)、ホーン部材を含み、バックホーン裏面を固定

ボルト軸力は50 Nm(約20.8 kN)相当をはじめ複数の条件で変化させ、±50 V・35.57 kHzの正弦波電圧を印加してホーン先端振幅を計算

バックホーン長さも複数モデルを作成し、形状が振幅と共振周波数に与える影響を検討

主要結果

ボルト締付けトルクと振幅の関係

ボルト軸力の増加に伴いホーン先端の縦振幅がほぼ線形に増加。これは過去の実験結果と定性的に一致した。

バックホーン長さの最適化

バックホーン長さを増やすほど振幅は増加するが、約40 mm付近で頭打ちとなることを確認。

一方、共振周波数への影響は小さく、バックホーンの形状よりも質量(カウンターマス)の寄与が大きいと推測された。

モデルと実機の差異

過渡解析で得られた絶対振幅値(約0.9 μm)は実験値(約26.56 μm)と大きく乖離。これは解析時間や接触条件の仮定、圧電素子面圧の違いなどが原因と考えられる。

結論と今後の展望
本解析により、設計経験則に頼らずともボルト締付けトルクやバックホーン長さを指標にBLTの性能向上が可能であることを示した。今後はホーン形状の詳細最適化および実験検証を重ね、シミュレーション精度を向上させることでBLTの最適設計手法を確立する予定である

ボルト締めランジュバン型振動子の応用例を教えてください

以下に、ボルト締めランジュバン型振動子(BLT)の代表的な応用例をまとめます。

超音波洗浄装置
高出力の超音波洗浄槽に振動源として組み込まれ、工業部品や精密機器の洗浄に利用されます
steminc.com
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超音波溶着装置
プラスチックや金属部品を加熱せずに振動のみで接合する超音波溶着機に搭載されます
unictron.com
steminc.com
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医療機器
歯科用スケーラーや外科用超音波メス、薬液の微細霧化(ネブライザ)など、医療・歯科分野で広く使われています
unictron.com
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超音波切断・加工
食品、プラスチック、紙などの精密切断装置で、切削抵抗の低減や断面のきれいな仕上げを実現します
unictron.com
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混合・乳化装置
バイオディーゼルの混合や固液分離プロセスにおいて、超音波撹拌により混合効率や乳化性を向上させます
steminc.com
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ソナー・音響探査装置
水中ソナーや地中レーダー(含むレール・地盤モニタリング)用のトランスデューサとして、長距離伝搬を可能にします
steminc.com
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超音波モーター・アクチュエータ
高トルクのトラベリングウェーブ超音波モーターや、極低温環境下で駆動する超音波モーターに応用されています
steminc.com
J-STAGE
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構造健全性モニタリング
レールや風力タービンなどの誘導波診断によるひび割れ検出システムに利用され、インフラ点検に貢献します
ResearchGate
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非破壊検査(バイブロサーモグラフィー)
超音波励起で試験体内部に局所加熱を起こし、赤外線カメラで欠陥部を可視化する手法に用いられます
steminc.com
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指向性とは何ですか?

音響や電波などの波動システムにおける指向性とは、エネルギー(音圧や電界強度など)が全方向に均等に放射されるのではなく、特定の方向へ偏って強く放射される性質のことを指します。

指向性の指標

指向性ファクタ(Directivity Factor, D)
放射エネルギーのうち、もっとも強い方向に集中している度合いを表す無次元量。

指向性指数(Directivity Index, DI)
DI = 10 log₁₀ D で定義され、単位はデシベル(dB)。

物理的背景

波長と振幅分布の関係から、周波数が高いほど指向性は鋭くなる(波長が短くなるため)。

ホーン形状やアレイ素子の配置によって、狙った方向にエネルギーを絞り込むことができる。

主な効果・用途

干渉・回折の抑制
周囲への不要な放射を減らし、ノイズを低減できる。

エネルギー効率の向上
必要な方向へだけ強くエネルギーを届けることで、出力効率が高まる。

空間分解能の改善
超音波イメージングや非破壊検査などで、狙った箇所をより精度よく狙える。

たとえば超音波霧化装置では、振動子とホーンを適切に設計することで、噴霧を特定の方向に集中させ、飛散ロスを抑えつつ微細化を促進します。

— 以上が波動システムにおける「指向性」の概要です。

この論文で行われてい解析はfusion360でもできそうですか?

Fusion 360 のシミュレーション機能で論文にある「ボルト締付けによる前荷重 → モーダル解析および過渡応答解析」を完全に再現するのは難しいですが、以下のように一部は近い形で実施できます。

モデル構築・メッシュ

Fusion 360 の「構造解析」ワークスペースでジオメトリを読み込み、メッシュを生成できます。

ボルト・ナットや圧電素子を部品としてモデリングすれば、同じ形状で解析モデルを作れます。

ボルト前荷重の設定

Fusion 360 では「接触と拘束」の設定でボルトを「圧縮ばね要素」に置き換えたり、面圧(圧力)荷重として前荷重をかけることは可能です。

ただし、有限要素ソルバー内部で“ねじ締結による軸力→部材内応力”への自動変換は行われないため、事前に「ばね定数と軸力」を逆算して設定する必要があります。

モーダル解析(固有振動数)

Fusion 360 の「モーダル周波数解析」スタディで、前荷重をかけた状態の固有周波数とモード形状を求めることは可能です。

解析精度はメッシュ密度や収束設定に依存しますが、共振周波数のトレンド(バックホーン長さの影響など)は十分に評価できます。

ハーモニック(周波数応答)解析

標準エディションでは非線形静解析やモーダル解析のみ提供され、ハーモニック応答解析はサポート外です。

もし「Fusion 360 Ultimate」または専用の Nastran 拡張(In-CAD)ライセンスがあれば、ハーモニックスタディが利用でき、共振周波数近傍での振幅分布も算出可能です。

過渡動解析(トランジェント応答)

Fusion 360 単体では時刻歴解析機能が限られており、圧電-構造連成や音響連成による過渡振動応答は実現できません。

もし「圧電効果」を含めたシミュレーションが必須であれば、ANSYS、COMSOL、MSC Marc などのマルチフィジックス対応ツールを使うほうが適しています。

まとめ

✅ できること:ジオメトリ/メッシュ作成、静的な前荷重設定、モーダル解析による固有振動数評価、(ライセンス拡張での)ハーモニック解析

❌ 難しい/できないこと:圧電‐構造・音響の連成過渡解析、ねじ要素による自動前荷重、実際の振幅値(μmオーダー)の定量評価

結論:
Fusion 360 の標準機能でも「前荷重下での固有振動数トレンド評価」は再現可能ですが,圧電体連成や過渡振動応答の詳細解析が必要な場合は、やはり Marc® や COMSOL® といったマルチフィジックス対応の FEA ツールを併用することをおすすめします。

Fusion 360 の「モーダル周波数解析」スタディで、前荷重をかけた状態の固有周波数とモード形状を求めることは可能です.について詳しく教えてください

Fusion 360 で「モーダル周波数解析」を行う際に,事前にボルト締めによる前荷重(プリロード)を設定して固有周波数・モード形状を評価するには,以下の手順でスタディを組みます。

1. 静的スタティック解析(前荷重の設定)
シミュレーション環境へ切り替え
デザイン環境から右上のワークスペース切替で「シミュレーション」を選択。

静的応力スタディの作成
左上の「新規スタディ」→「静的応力(Static Stress)」を選択。

材料,拘束条件の設定

各コンポーネントに適切な材料特性を割り当て

ホーン背面など,実機で固定される面を「固定拘束(Fixed Support)」で拘束

ボルトプリロードの定義

「接続(Connectors)」ツールから「ボルト接続(Bolt Connector)」を追加

〈部材面〉〈ボルト頭面〉 の2面を選択

ボルト径・ねじ長さを入力し,『プリロード荷重(Preload)』に軸力(例:20.8 kN)を設定

メッシュ生成・解析実行

メッシュ密度は固有振動数精度に直結するので要調整

解析終了後,「プリロード状態」の応力分布・変形を得る

2. モーダル周波数解析(固有値解析)
モーダルスタディの作成
「新規スタディ」→「モーダル周波数解析(Modal Frequencies)」を選択。

プリロードの取り込み

スタディの画面右側設定内にある「Include Preload from」メニューで、先ほどの静的スタディを選択

これにより静解析時の応力テンソルがプリストレスとして固有値解析に反映される

モード数・周波数範囲の指定

「モード数(Number of Modes)」に求めたい振動モード数(例:6)を入力

必要に応じて「周波数範囲制限」も設定可能

メッシュの確認

静解析と同じメッシュを使うか,「再メッシュ設定」で別途調整

特にボルト周辺やホーン先端は細かめに

解析実行

実行すると前荷重下での固有周波数リストと,各モード形状(変形アニメーション)が得られる

3. 結果の読み取りポイント
固有周波数シフト
プリロードが増えるほど全体剛性が高まり,通常は固有周波数が上昇します。

モード形状の変化
応力分布の非線形性により,荷重なしの場合と比較して局所的なモード集中箇所が変わることがあります。

検証・調整
実機計測値と比較し,メッシュ/材料特性/プリロード値を調整して解析精度を高めてください。

以上のように、Fusion 360 のモーダルスタディでは「静的スタディで前荷重を設定→モーダルに取り込み」というワークフローで、プリロード下の固有振動解析が可能です。固定版の剛性やボルト締結の効果を反映させたモード解析にぜひご活用ください。

ハーモニック(周波数応答)解析はどのように行いますか?

Fusion 360 でハーモニック(周波数応答)解析を行うには、Standard版ではサポート外なので、以下のいずれかの環境が必要です:

Fusion 360 Simulation Extension

Nastran In-CAD ライセンス

Fusion 360 Ultimate(旧称:Simulation Ultimate)

これらのアドオンを導入すると、「周波数応答(Harmonic Response)」スタディが利用可能になります。以下、典型的なワークフローをご説明します。

1. シミュレーション環境への切り替え
Fusion 360 の右上ワークスペース切替で「Simulation」を選択。

「新規スタディ」→「周波数応答(Harmonic Response)」を選択。

2. ジオメトリ/モデル設定
材料定義
各パーツに正しい材料特性(ヤング率、密度、減衰係数など)を割り当てる。

拘束条件(Boundary Conditions)
固定拘束や対称拘束は「固定サポート(Fixed Support)」などで定義。

荷重条件(Excitations)

点荷重/面荷重(Force、Pressure)

境界での加振(Displacement/Velocity)

「ボルト接続(Bolt Connector)」のプリロードを含めたい場合は、静的スタディで設定したプリロードを「Include Preload from」で取り込む

3. 周波数応答スタディの設定
周波数レンジ

「Frequency Range」に最小/最大周波数(例:10 kHz 〜 50 kHz)を入力

ステップ数/分解能

「Number of Steps」や「Resolution」で周波数掃引の細かさを指定

減衰モデル

材料固有の減衰を使うか、全体一律の比例減衰(Rayleigh Damping)を定義

4. メッシュ生成
メッシュ密度
振動モードを正確に追うには、特にホーン先端や応力集中部を細かくメッシュ化。

収束チェック
周波数応答のピーク振幅がメッシュに依存しないか、粗→細メッシュで比較検証。

5. 解析実行
「Solve」をクリックすると、各周波数ステップでの変位振幅と位相が計算されます。

計算量が大きい場合は、クラウドソルバーの利用を検討。

6. 結果の可視化と評価
振幅スペクトラム
周波数−変位振幅カーブをプロットし、共振ピークを特定。

モード形状アニメーション
代表的な共振周波数での変形モードをアニメーション表示。

位相分布
フェーズマップで振動の進み遅れを確認し、駆動位相の最適化に活用。

7. 注意点とコツ
前荷重の取り込み
静的スタディで設定したプリロードを必ず「Include Preload from」で読み込むことで、ボルト締結効果を反映できます。

減衰の扱い
過度に小さい減衰値はピーク振幅を不自然に大きく見せるので、材料データに基づく設定をおすすめします。

ライセンス要件
標準版で表示されない場合は、ライセンスが足りない可能性があります。Fusion 360 のアドオン管理画面で「Harmonic Response」が有効化されているかご確認ください。

以上の手順で、Fusion 360 の「周波数応答解析」を用いて任意の荷重条件下での振幅スペクトルとモード形状を評価できます。固有振動数解析(Modal)では得られない共振挙動の詳細が把握できるため、BLT の設計最適化にぜひご活用ください。

動的イベントシミュレーションとは違いますか?

はい。**ハーモニック解析(周波数応答解析)と動的イベントシミュレーション(時刻歴動的解析/Transient Dynamic Simulation)**は、解析の目的も前提も大きく異なります。以下に主な違いをまとめます。

1. 解析の基本原理
解析手法 基本原理
ハーモニック解析(周波数応答) ある一定の周波数範囲で正弦振動荷重を加えたときの「定常状態」を周波数領域で評価
・線形振動系を前提とし、入出力の位相/振幅スペクトルを求める
動的イベントシミュレーション(Transient Dynamic) 時間領域で任意の時間依存荷重(衝撃、パルス、任意波形など)を加え、その過渡応答を時刻歴的に追う
・慣性力・ダンピング・非線形挙動(大変形、接触、塑性)まで扱える

2. 入力条件と解析設定
ハーモニック解析

荷重:一定振幅・一定周波数の正弦波荷重

減衰モデル:比例減衰(Rayleigh)や材料減衰を設定

前荷重:静的解析で設定したプリロードを「Include Preload」で取込可

出力:周波数ごとの変位振幅・位相スペクトル、モード形状

動的イベントシミュレーション

荷重:時間関数的な力・圧力・変位など(例えば衝撃パルス、落下衝突、爆発荷重)

ダンピング:粘性ダンピングやレイリー減衰など

接触・非線形:部品間の接触、材料の塑性変形、ジオメトリの大変形

出力:時刻歴での応力・変形・速度・加速度の推移

3. メリット・用途
解析手法 メリット/用途
ハーモニック解析 ・共振ピークの特定が速い
・モード形状と振幅を周波数軸で把握
・設計段階での振動対策(共振回避)に最適
動的イベントシミュレーション ・実際の時間依存負荷(衝撃、落下、機械的イベント)を模擬可能
・非線形・接触挙動を含めた高精度評価
・安全性評価や疲労評価の入力データとして使用

4. Fusion 360でのサポート状況
標準版(Simulation Standard)

ハーモニック解析:Extension/Ultimateなどの追加ライセンス要

時刻歴動的解析:サポート外

シミュレーション拡張機能(Simulation Extension)や Nastran In-CAD

ハーモニック解析:利用可能

動的イベントシミュレーション:利用可能(Transient Dynamicスタディ)

まとめ
ハーモニック解析:
周波数領域での「定常応答」を効率的に評価し、共振特性や振幅スペクトルを把握するのに優れる。

動的イベントシミュレーション:
時間領域での「過渡応答」を詳細に追い、衝撃や大変形を含む実際の動的イベントを忠実に再現する。

設計目的に応じて、

「共振ピークや振動モードを周波数軸で見たい」→ ハーモニック解析

「実際の時間履歴(衝撃、衝突、接触)を忠実に評価したい」→ 動的イベントシミュレーション

を選択してください。