
この問題は**運動量欠損法(momentum deficit method)**を使って,2次元物体に働く抗力 per unit span を求める典型問題です。
■ 物理状況
- 一様流 [U_\infty] が物体に当たる
- 物体下流(CD)では速度が (u(y)) に変化
- 図の長方形 ABCD をガウスのコントロールボリュームとする
- 圧力は AB, CD で同じ(よって圧力抗力はなし)
- 抗力は運動量欠損によって求める
■ 抗力の考え方
物体が流体に及ぼす抗力 = 流体が物体に及ぼす力(反作用)
抗力 = 流体の運動量の減少量
流体の運動量流束(1長さあたり)は
[
\rho u^2(y)
]
しかし,下流の
運動量欠損を考えるための表現は
[
\rho u(y)[U_\infty - u(y)]
]
これが,
流れ1本あたりの欠損分です。
物体がなければ下流は全部 (U_\infty)。
なので,欠損流束を (y=-h \sim h) で積分すると抗力:
[
D' = \rho \int_{-h}^{h} u(y)\left(U_\infty - u(y) \right) dy
]
■ 選択肢の確認
選択肢を見比べると,これと一致するのは
✅ ①
[
\rho \int_{-h}^{h} u(y){U_\infty - u(y)} dy
]
✅正解:①
[解答]①
参考
曲管における運動量の法則の問題
技術士第一次試験-令和3年度機械部門Ⅲ-29解答例 | 技術士のたまご
■ よくある間違いの修正
| 選択肢 |
内容 |
間違い理由 |
| ② [ \rho \int (U_\infty^2 - u^2)dy] |
欠損を直接差分 |
渦なし条件で×, 同じ式に見えるが形式が異なる |
| ③ [ \rho \int U_\infty u (U_\infty - u)dy] |
余計な (U_\infty) |
次元が違う |
| ④ [ \frac{\rho}{2} \int U_\infty (U_\infty-u) dy] |
係数・式が誤り |
乱流境界層式の誤応用 |
| ⑤ [ \rho\int (U_\infty-u) dy] |
慣性欠損でない |
質量欠損 |
■ まとめ
抗力 = 下流の運動量欠損
[
D' = \rho \int_{-h}^{h} u(y)(U_\infty - u(y))dy
]
抗力は運動量の欠損なのですか?抗力係数はどうですか?
良い質問です。
重要なポイントを整理します。
✅ 抗力 = 運動量の欠損 なのか?
はい、流れ場で抗力を求めるときは
物体が流体に与えた力(=抗力)
= 流体が持ち去った運動量の減少(欠損)
という考え方を使います。
これは
運動量保存則(Newton 第2法則と流体の制御体積法)に基づきます。
例:運動量欠損法
物体の後流で速度分布が (u(y)) になるとき,
[
D' = \rho \int u(y)\left(U_\infty - u(y)\right)dy
]
という式で抗力(2D物体の単位スパン当たり)を求めます。
物体が流れを減速させた → 運動量が失われた
→ その分の力を物体が受けている(抗力)
という構図です。
✅ 抗力は常に運動量欠損で表すのか?
いいえ、必ずしもこの形で表わすわけではありません。
他の形式:
- 圧力分布の積分
- 摩擦応力の積分
- Navier–Stokes で解析
- CFDで直接算出
しかし
どの方法でも最終的には同じ抗力が出ます。
その根拠は運動量保存則です。
✅ 抗力係数とは?
抗力 (D) を無次元化したもの:
[
C_D = \frac{D}{\frac{1}{2}\rho U_\infty^2 A}
]
- (A):代表投影面積
- (\frac12 \rho U_\infty^2):動圧
抗力係数は,「流れの抗力を規格化した指標」
です。
抗力係数そのものは運動量欠損ではなく
抗力を
動圧 × 面積で無次元化した量です。
✅ まとめ
| 項目 |
意味 |
| 抗力 (D) |
流体が物体を押す力 |
| 抗力の発生源 |
圧力差 + 摩擦 +(仕切り面では)運動量欠損 |
| 抗力は運動量欠損? |
✅ 流れ場から評価するとそうなる |
| 抗力係数 (C_D) |
(D) を (\tfrac12\rho U_\infty^2 A) で無次元化 |
抗力は運動量の欠損から求められる
抗力係数は抗力を無次元化した指標
✅ 補足:物体のどこに抗力が働く?
| 成分 |
説明 |
| 圧力抗力 (form drag) |
前後の圧力差 |
| 摩擦抗力 (skin friction drag) |
壁面摩擦によるせん断 |
後流の運動量欠損には
両方の効果が含まれるので便利。
必要なら
- 運動量欠損法の厳密導出
- 有名な後流の抗力係数(円柱、翼、球など)
- 実験的に抗力係数がどう測定されるか
なども説明できます。
続けますか?
運動量と運動エネルギーはことなりますか?
はい、
運動量と運動エネルギーは異なる量です。
しばしば混同されますが、意味も式もまったく違います。
✅ 定義と違い
| 項目 |
運動量 ( \mathbf{p} ) |
運動エネルギー (E_k) |
| 意味 |
質量×速度(運動の勢い) |
運動によって持つエネルギー |
| 式 |
(\displaystyle \mathbf{p}=m\mathbf{v}) |
(\displaystyle E_k=\frac12 m v^2) |
| ベクトル/スカラー |
ベクトル量 |
スカラー量 |
| 保存則 |
孤立系で保存(運動量保存則) |
保存しない(損失や変換あり) |
| 力との関係 |
(\displaystyle F = \frac{dp}{dt}) |
エネルギー変化は仕事と熱で変わる |
✅ 物理的な違いのイメージ
運動量
どれだけ押し返してくるか(力の伝達)
例:
軽いピンポン球(高速) vs 重いボール(低速)
- ピンポン球 → 運動量小さい(弱い衝突)
- 重いボール → 運動量大きい(強い衝突)
運動エネルギー
どれだけ仕事ができるか(破壊力)
同じ速さでも、質量が大きければ大きな破壊力。
自動車や銃弾の威力は運動エネルギーで決まる。
✅ 流体力学での役割の違い
| 分野 |
使う概念 |
例 |
| 流れ場の力(抗力、揚力) |
運動量 |
運動量保存式、抗力=運動量欠損 |
| 圧力や速度の関係 |
エネルギー |
ベルヌーイの式 (p + \frac12\rho v^2 = \text{const}) |
抗力はどちらか?
運動量(と圧力)で決まる
なぜなら力 = 運動量変化率だから
[
F = \frac{d}{dt} \int \rho \mathbf{v}, dV
]
※抗力係数 (C_D) に出る (\frac12\rho U^2) は
動圧であり
「単位体積あたり運動エネルギー」と同じ次元ですが
抗力を直接
運動エネルギーから決めるわけではありません。
ややこしいですが、
- 抗力=運動量の損失
- しかし抗力係数の基準は動圧 (\frac12\rho U^2)
という構造です。
✅ まとめ
| 要点 |
内容 |
| 運動量 = 質量×速度 |
力と衝突に関係 |
| 運動エネルギー = (\frac12 m v^2) |
仕事・破壊力に関係 |
| 抗力は運動量変化 |
エネルギーではない |
| 流体係数に動圧が出る |
スケールとして便利なため(無次元化) |
必要なら、
- なぜ抗力係数に (\frac12\rho U^2) が出るか
- ベルヌーイ式と運動量式の違い
- 後流の損失エネルギーと抗力の関係
なども図で説明できます。続きを聞きたいですか?
運動量のmにあたる部分がρu(y)、vにあたる部分がu-u(y)ですか?mはなぜ後流の速度から求めるのですか
とても良いところに着目されています。
ただし、少し誤解があるので丁寧に整理します。
✅ 流体の運動量の表現
粒子の場合:
[
p = m v
]
流体では「単位時間に通過する質量 × 速度(運動量流束)」を使います。
■ 流体の質量流量
[
dm = \rho, u(y),dy \quad(\text{2次元流れで単位幅})
]
- (\rho):密度
- (u(y)):局所速度
- (dy):厚み
- 単位時間あたり → 質量流量 = (\rho u(y) dy)
つまり
質量流量が ( \rho, u(y),dy )
(m) に相当するものが **「瞬間に流れる質量」**でなく
時間あたりに流れる質量(質量流束)
■ 運動量(流束)
流体の運動量(単位時間あたり)は
[
\text{運動量流束} = (\text{質量流量}) \times (\text{速度})
= \rho u(y),dy \cdot u(y)
= \rho u^2(y),dy
]
これが「流れの運び去る運動量」です。
✅ では抗力は?
物体は流れの運動量を減らす
→ 減った分が抗力
物体がなければ下流速度は (U_\infty)
よって
運動量欠損:
[
\Delta(\rho u^2)\ dy = \rho\left[U_\infty^2 - u^2(y)\right]dy
]
しかしこれを分配すると
[
U_\infty^2 - u^2 = (U_\infty - u)(U_\infty + u)
]
後流近くでは
(U_\infty + u ≈ 2u) とみなせるので、
実用形として
[
D' = \rho \int u(y)\left(U_\infty - u(y)\right)dy
]
が使われます。
✅ 質問の回答
Q1:
運動量の m にあたる部分が ρu(y)、v にあたる部分が u−u(y) ですか?
違います。
| 粒子物理 |
流体力学 |
| 質量 (m) |
質量流量 ( \rho u(y)dy ) |
| 速度 (v) |
速度 (u(y)) |
です。
((U_\infty - u)) は「損失した速度成分」を表すために出てきます。
Q2:
mはなぜ後流の速度から求めるのですか?
理由:
物体の影響は後流に現れるから
→ 下流の速度分布から運動量損失を測る
上流は一様 (U_\infty) なので
物体による影響は後流にしか現れません。
✅ もっと短くまとめると
| 量 |
意味 |
| (\rho u(y)dy) |
単位時間に通過する質量(質量流量) |
| (\rho u^2(y)dy) |
単位時間に通過する運動量 |
| (\rho u(y)(U_\infty - u(y))dy) |
運動量損失(抗力) |
✅ 例え話
水路を流れる水の勢いが物体の後ろで弱くなる
→ 勢いの低下=物体が受けた力
だから
後流(wake)の情報で抗力が決まるのです。
必要なら、図で
なども説明できます。
次は「排除厚さ δ* と運動量厚さ θ の関係」も話しましょうか?
後流近くでは ∞ + ≈ 2 U ∞+u≈2u とみなせるので、がよくわかりません。大きさが異なり近似できるように気がしません
ご指摘の点、とても良いところです。
「(U_\infty + u \approx 2u) とみなす」という説明は誤解を招く表現でした。
あなたの直感どおり、
一般に成り立つ近似ではありません。
この近似は、「後流の速度 (u(y)) が (U_\infty) にかなり近い(=薄い後流・弱い抗力)」という
特定の状況でのみ使われることがありますが、本質的には必要ありません。
正確な説明に修正します。
✅ 正しい抗力の運動量欠損式
物体が流れを減速させる → 運動量を失わせる
[
D' = \rho \int_{-h}^{h} [U_\infty^2 - u^2(y)],dy
]
ここで恒等式
[
U_\infty^2 - u^2 = (U_\infty - u)(U_\infty + u)
]
なので、
[
D' = \rho \int (U_\infty - u)(U_\infty + u),dy
]
これが正しい理論式です。
✅ なぜ教科書で (\rho \int u(U_\infty - u),dy) と書くの?
「運動量厚さ (θ)」の定義と一致させるための
便宜的な書き換えです:
[
\theta = \int_0^\delta
\frac{u}{U_\infty}\left(1-\frac{u}{U_\infty}\right) dy
]
これを使うと、抗力 per unit span は
[
D' = \rho U_\infty^2 \cdot 2\theta
]
となるので、よく使う形は
[
D' = \rho \int u(U_\infty - u)dy
]
ただし、これは**小さな後流(薄い境界層近似)**で
[
u \approx U_\infty
]
が成り立つときに、
[
U_\infty + u \approx 2U_\infty
]
と置いて
[
(U_\infty - u)(U_\infty + u)
≈ (U_\infty - u)\cdot 2U_\infty
= 2U_\infty(U_\infty - u)
]
と
線形化したものです。
✅ 正しい近似はこれです
[
U_\infty + u \approx 2U_\infty \quad(\text{後流が薄いとき})
]
(U_\infty + u \approx 2u) ではありません。
あなたが違和感を覚えたのは正しいです。
✅ なぜ後流の速度を使うの?
- 上流は一様 (U_\infty)
- 抗力は「流れの勢いがどれだけ減ったか」
だから
後流の運動量だけを見れば十分です。
✅まとめ
| 誤解しやすい点 |
正しい内容 |
| (U_\infty + u \approx 2u) |
❌ 一般に成立しない近似 |
| 薄い後流で (u \approx U_\infty) |
✅ 正しい |
| 近似なら (U_\infty + u \approx 2U_\infty) |
✅ 正しい |
| 抗力=運動量欠損 |
✅ 本質 |
もし希望なら、次の説明もできます:
- 運動量厚さ (θ) の導出
- CFD後流分布から抗力を求める方法
- 実験データで抗力を積分評価する方法
どこまで掘り下げますか?