機械要素部品の概要と種類
はじめに
機械要素とは、機械を構成する基本的な部品や部品群であり、軸・ベアリング・歯車・ねじなどが含まれます。こうした要素は動力の伝達、支持、接続、制御などの役割を果たし、機械の性能や信頼性に大きな影響を与えますmecha-basic.com。本レポートでは機械要素部品を体系的に調査し、代表的な種類や役割をまとめました。
以下の図は本レポートで扱う代表的な機械要素のイメージです。左からボルト(締結要素)、ギア(歯車)、ばね(緩衝要素)、軸受(ベアリング)を示します。
機械要素の分類
機械要素は多岐にわたりますが、機能によって大きく以下のように分類されますkeyence.co.jp。
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締結要素 – 部品同士を固定・結合する(ねじ、ボルト、ナット、リベット、キー、ピン等)。
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伝達要素 – 動力やトルク・回転を伝達する(軸、軸受、軸継手、歯車、ベルト・チェーン等)。
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液体伝達要素 – 流体を伝えて制御する(管・フランジ・バルブ等)。
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密封要素 – 気体や液体を漏れなく密封する(Oリング、ガスケット、パッキン等)keyence.co.jp。
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案内要素 – 回転や直線運動時の摩擦を抑え、動きを支える(軸受、スライドユニット等)keyence.co.jp。
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制御要素 – 機械の制御に関わる(コンピュータ、リレー、スイッチ等)keyence.co.jp。
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エネルギー変換要素 – 動力の向きや大きさを変換する(リンク、カム、クランク等)keyence.co.jp。
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緩衝要素 – 動いているものや衝撃エネルギーを吸収する(ばね、ダンパー、ブレーキ等)keyence.co.jp。
以下の節では代表的な機械要素部品について解説します。
締結要素:ねじ・ボルト・ナット・キー・ピン
ねじの種類
ねじは「物を締め付けるために付けられた、表面に一様ならせん状の切り込み」を指し、ボルト・ナット・小ねじなどのねじ部品に分類されますkeyence.co.jp。ねじには切り込みの形状や構造により主に次のタイプがありますkeyence.co.jp:
| ねじの種類 | 特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 三角ねじ | ねじ山が三角形。緩みにくく、メートルねじ・ユニファイねじ・管用ねじがある。メートルねじとユニファイねじは60°、管用ねじは55°の角度keyence.co.jp。 | 締結用ボルトや配管接続などkeyence.co.jp。 |
| 台形ねじ | ねじ山が台形で角度は30°。摩擦が低くバックラッシが小さい。締結には向かないが製作が容易で精度が高いkeyence.co.jp。 | 工作機械の送りねじなど位置決めや駆動用。 |
| 角ねじ | ねじ山の角度が90°。摩擦力が小さいが精度は低い。大きな伝達力を持つkeyence.co.jp。 | 万力やジャッキに利用される。 |
| ボールねじ | おねじとめねじの間にボールが組み込まれ、ボールが転がることで摩擦とバックラッシが小さいkeyence.co.jp。 | 工作機械の精密位置調整など高精度な直線運動に適用。 |
これらのねじに加え、ボルトやナット、割ピン、座金といった部品が組み合わさることで確実な締結が行われます。
キー・ピンなどによる固定
シャフトと歯車・プーリーなどを結合する際にはキーやピンが使われます。キーは軸と部品の溝に嵌め込んで回り止めを行う部品であり、動力伝達時のずれを防ぎます。ピンは位置決めや締結の補助に用いられ、テーパー状の円錐ピンやスプリングピンなどがあります。軸と軸受の固定については別節で扱います。
軸要素と軸受(ベアリング)
軸の役割と種類
軸は動力を伝えたり他の要素を支えたりする部品で、伝動軸(回転軸)と従動軸(回される側)がかみ合って動力を伝えるkeyence.co.jp。例えば車輪の車軸は車体からの荷重を支える固定軸であり、クランクシャフトはピストンの往復運動を回転運動に変換する回転軸ですkeyence.co.jp。軸の接続には軸継手(カップリング)が用いられ、モーター側と負荷側の軸の芯ズレを吸収し振動や偏摩耗を低減しますkeyence.co.jp。
軸受の種類
軸受は回転する軸のブレを抑えて支える部品で、滑り軸受と転がり軸受に大別されますkeyence.co.jp。以下に特徴をまとめます。
| 軸受の種類 | 特徴keyence.co.jpkeyence.co.jp | 主な用途 |
|---|---|---|
| 滑り軸受(スライドベアリング) | 軸と軸受面が直接接触し、内部の潤滑油膜で摩擦を低減する。構造がシンプルで断面積が小さく、低振動・低騒音で衝撃荷重に強いkeyence.co.jp。適切な潤滑・メンテナンスを行えば半永久的に使用できる。 | 自動車や船舶のエンジン動力伝達など。 |
| 転がり軸受 | ボールやローラーで軸を支え、低摩擦で高強度・高耐久を実現する。ボールベアリング、ローラーベアリング、ニードルベアリングに分類されるkeyence.co.jp。規格化されたサイズで交換が容易。 | 一般的な機械装置、電動工具、工作機械など幅広く使用。 |
軸継手とフランジ
軸継手(カップリング)はモーターの伝動軸と従動軸を接続し、芯ズレを吸収して振動を低減する機械要素ですkeyence.co.jp。ピアノ線をより合わせたたわみ軸継手など、ミスアライメントに対応するタイプもあります。フランジは管や軸を接続する部品であり、配管の継ぎ目を密封して漏れを防止しますkeyence.co.jp。
歯車・ベルト・チェーンなどの伝達要素
歯車(ギヤ)
歯車は歯と歯をかみ合わせて回転運動を伝える機械要素で、産業機械から日常製品まで幅広く使われていますmonoto.co.jp。剛性の高い材質で作られるため、高応答性が必要な機械に適し、適切な潤滑を行えばベルトやプーリーより耐久性が高いmonoto.co.jp。歯数を互いに素な組み合わせに選ぶことで長寿命化が可能ですmonoto.co.jp。主な歯車の種類は次の通りですmonoto.co.jpmonoto.co.jp。
| 歯車の種類 | 特徴 | 用途 |
|---|---|---|
| 平歯車(スパーギヤ) | 歯が軸に対して直角方向に切られており、加工が容易でコストが低い。ただし運転中に振動や騒音が発生しやすいmonoto.co.jp。 | 一般的な減速機構。 |
| はすば歯車(ヘリカルギヤ) | 歯が斜めに配置され、かみ合いが滑らかで振動や騒音が少ないmonoto.co.jp。軸方向にスラスト力が発生するためスラスト荷重を受ける軸受が必要。 | 自動車の変速機や工作機械。 |
| かさ歯車(ベベルギヤ) | 直角に交わる軸間で動力を伝達する。歯が直線状のもの(ストレートベベルギヤ)は伝達効率が高く、歯が曲線状のもの(スパイラルベベルギヤ)は静音性に優れるmonoto.co.jp。 | 駆動軸と従動軸が直交する減速機。 |
| ウォームギヤ | ねじ状のウォームとウォームホイールで構成され、一組で大きな減速比が得られる。自己ロック性を持ち、昇降装置などで落下防止に用いられるが伝達効率は低いmonoto.co.jp。 | エレベータやコンベアの昇降装置。 |
| 遊星歯車(プラネタリギヤ) | 中心のサンギヤの周囲を複数のプラネタギヤが回る構造。入力軸と出力軸を同軸にでき、高い減速比を得られるmonoto.co.jp。 | 自動車の自動変速機、ロボット減速機。 |
| ラック&ピニオン | ラック(直線状の歯)とピニオン(小歯車)で構成し、回転運動を直線運動に変換するmonoto.co.jp。 | 工作機械の送り機構や自動ドア。 |
ベルトとチェーン
ベルトはプーリーに巻き掛けて摩擦力で動力を伝える柔らかな伝達装置であり、滑らかな動力伝達や搬送に利用されますkeyence.co.jp。ベルトには平ベルト、Vベルト、ロープ伝動装置、歯付きベルトがあり、CVTに用いられるベルト式変速機では滑らかな無段変速が可能ですkeyence.co.jp。一方、チェーンはスプロケットに噛み合わせて引張力で動力を伝えるため、ロスのない確実な伝動が特徴で、大きなトルクを扱う装置に適しますkeyence.co.jp。チェーンにはローラチェーン、多列ローラチェーン、サイレントチェーンなどがあり、用途や強度に応じて使い分けられますkeyence.co.jp。
減速機とカップリング
歯車や軸などを組み合わせたギアボックス(減速機)はモーターのトルクを増大させるのに用いられ、サイクロイド減速機やハーモニックドライブなど、産業用ロボットでよく使われる特殊な減速機も存在しますmonoto.co.jp。また、モーターと負荷軸を接続するカップリングはミスアライメントを許容し、振動やメンテナンス性の観点から機械設計に不可欠ですmonoto.co.jp。
緩衝要素:ばね
ばねは弾性変形によりエネルギーを蓄積・放出する緩衝要素で、衝撃や振動の吸収や他の機械要素の動作制御に利用されますkeyence.co.jp。ばねには素材や形状によって様々な種類がありますkeyence.co.jp。代表的なものをまとめます。
| ばねの種類 | 特徴・用途keyence.co.jpkeyence.co.jp | 主な応用例 |
|---|---|---|
| コイルばね | 線材をコイル状に巻いたばね。円錐・円筒・樽形などさまざまな形状があり、圧縮コイルばね・引張コイルばね・ねじりコイルばねに分かれる。低コストで小型軽量な製造が可能で、高精度な動作にも対応keyence.co.jp。 | 自動車サスペンション、家電機器、機械の押しばねなど。 |
| 板ばね | 複数の薄板を重ねた構造で高い衝撃吸収能力があるkeyence.co.jp。取り付けが簡単で加工が容易。 | トラックや鉄道車両の懸架装置、コンプレッサーの弁など。 |
| トーションバー | 棒状のねじり復元力を利用したばね。小型・軽量でエネルギー吸収量が大きいkeyence.co.jp。 | 自動車のスタビライザーや建設機械の揺れ抑制。 |
| 皿ばね | 穴の開いた皿状のばね。小スペースで大きな荷重を受けられ、ダイヤフラムスプリングやクラウンスプリングなどの加工により特性を調整できるkeyence.co.jp。枚数を変えた直列/並列組み合わせによってばね定数を調整できる。 | 自動車のクラッチ、トルクリミッター、防振装置。 |
| 渦巻きばね | 薄鋼板や帯鋼を渦巻き状に巻いたばね。接触型渦巻きばねはシートベルト巻取り装置やコード巻取り装置に、非接触型はリクライニング装置や可変バルブタイミング機構に用いられるkeyence.co.jp。 | 家電製品、自動車シートベルト、時計。 |
ばねは単独で使用するだけでなく、ダンパーやショックアブソーバーと組み合わせて減衰機能を持たせることもありますkeyence.co.jp。
エネルギー変換要素:カムとリンク
カム
カムは回転運動を他の運動(直線運動や特定のパターン)に変換する装置で、原動節(カム)と従動節(フォロア)の接触により動作しますkeyence.co.jp。円盤が楕円であると回転に対して従動節が上下運動をするなど、運動方向の変換が可能ですkeyence.co.jp。カムは滑らかな動作、高い精度と耐久性を特徴とし、少ない部品で構成できるためメンテナンスが容易ですkeyence.co.jp。自動車エンジンのバルブ駆動用カムシャフトや自動機のタイミング機構に広く使われます。
リンク機構
リンクとは可動する部品同士を結ぶ棒状の部品で、ジョイント(対偶)を通じて運動を伝えますkeyence.co.jp。対偶には点対偶(ボールベアリングによる点接触)、線対偶(ローラーベアリングによる線接触)、面対偶(回り対偶・滑り対偶・ねじ対偶)、球面対偶などがあり、用途に応じて使い分けますkeyence.co.jp。リンク機構にはオープンループ構造とクローズドループ構造があり、クローズドループ構造では四節クランク機構やスライダクランク機構が代表例ですkeyence.co.jp。リンク機構は産業ロボットのアームや自動車のワイパー、傘の骨などさまざまな場面で活躍します。
密封要素:シール・Oリング・ガスケット・パッキン
液体や気体の漏れを防ぐ密封要素には、Oリング・ガスケット・パッキンなどのシール部品があります。これらは機器の隙間を埋めて圧力を保ち、外部からの異物侵入も防ぎますdaiko-jp.com。
Oリング・ガスケット・パッキンの比較
以下の表はOリング・ガスケット・パッキンの違いをまとめたものですdaiko-jp.com。
| シール部品 | 主な用途 | 形状 | 使用例daiko-jp.com |
|---|---|---|---|
| Oリング | 固定部と運動部の両方で使用できる万能シール。溝にはめ込んで圧縮することで高い密封性を発揮daiko-jp.com。 | 断面が円形のリング。 | 油圧・空圧機器、自動車、家電製品など幅広い分野。 |
| ガスケット | 動かない二つの部品の間に挟んで密封する固定用シールdaiko-jp.com。 | シート状(平面)で接合面の形に合わせた形状。 | 配管フランジやエンジンのシリンダヘッドなどの静的シール。 |
| パッキン | ピストンやバルブなど運動部の隙間から流体が漏れるのを防ぐ運動用シールdaiko-jp.com。 | U字やV字など立体的で摩耗に耐える形状。 | ポンプの軸シール、油圧シリンダなど。 |
シールの使い分け
静止部には面で密封するガスケット、動く部には耐摩耗性の高いパッキン、両方の用途に使えるOリングという覚え方が便利ですdaiko-jp.com。正しいシール選定により、漏れによる故障やエネルギー損失を防げます。
その他の要素
上記以外にも、クラッチやブレーキなど摩擦要素、潤滑油やグリース、センサーや制御装置といった要素が機械の性能や安全性を支えています。摩擦要素は回転を遮断したりエネルギーを吸収したりする要素で、クラッチやブレーキは伝動要素を適切に制御する際に重要です。潤滑油とグリースは機械要素の摩耗を防ぎ長寿命化に寄与します。また近年はセンサーやエレクトロニクスとの融合が進み、機械要素がデジタル制御と連携するケースも増えています。
おわりに
機械要素部品は機械を支える基盤であり、適切な選定と組み合わせによって機械の性能・信頼性・コストが大きく左右されます。本レポートでは締結要素、軸と軸受、歯車・ベルト・チェーン、ばね、カム・リンク機構、密封要素など主要な機械要素を概説しました。各要素はJISやISOなどの規格に基づいて標準化されているため、適切な規格を理解し用途に応じて選定することが重要です。今後も新素材やメカトロニクス技術の発展により、より高性能で小型軽量な機械要素が開発されると予想されます。機械設計者はこれらの要素の特徴と最新動向を把握し、最適な設計に活かしていく必要があります。





