新たな介護機器の開発、普及に関する課題と解決策
(1)新たに開発する介護機器の課題と分析
介護機器の例として、住宅用電動介護ベッド(以下介護用ベッドという)を挙げる。介護用ベッドはマットレスを置く床面(以下ボトムという)を可動させて、利用者の起き上がり補助し、介護者の負担を軽減する機器である。新たに介護用ベッドを開発する場合の課題について述べる。
1)安全性
介護用ベッドは一般の家庭にも設置されるため、機器の知識が十分でない高齢者や介護者の利用も想定される。また、利用者は可動するベッドの上で操作するため、異常発生時に非常停止などの操作を行うことが困難な場合もある。したがって、利用者が過度に注意を払わなくても安全に使用できるように設計しなければならない。
2)操作容易性
介護用ベッドは介護者だけでなく、利用者自身も操作を行う。視力や聴力が低下している高齢者の場合、操作方法が複雑だと意図したとおりの操作を行うことができない。また、近年は介護の人材不足に対応するため、外国人が教育を受けて介護を行うケースも増えている。そのため、機器の操作方法にはすべての人が使いやすいユニバーサルデザインを取り入れることが望ましい。
3)耐久性
介護用ベッドは利用者が毎日使用するものであり、一度故障が発生すると利用者の生活に支障をきたす。例えば、ボトムの背中部分が起き上がった状態で動かなくなった場合、利用者は就寝することができなくなってしまう。介護用ベッドは故障が利用者に及ぼす影響が大きいため、長期間故障しないように設計する必要がある。
(2)最重要課題と解決策
前述の課題のうち、最も重要な課題として安全性を挙げる。介護用ベッドのボトムは利用者の体重を支えるために1500N以上の荷重で動作する。そのため、身体が可動部に挟まった場合に受ける荷重が大きく、利用者が怪我する可能性が高い。さらに可動部はゆっくりとした速度で動き、徐々に隙間が小さくなるため、身体が挟まるという危険性を認識しにくい。具体的な解決策を如何に示す。
1)挟まり隙間の拡大
身体が挟まる可能性のある隙間を大きく設計する。ボトムが水平になり、ベッドのフレームと最も接近している状態で120mmの隙間が残るようにする。これにより、隙間に腕がある状態でボトムが可動しても過度に圧迫されることがない。
2)挟まり隙間の緩衝
身体が挟まる可能性のある隙間をカバーで覆う。間の大きさはボトムの可動に伴って変化するため、カバーはゴムなど弾力性のある素材で構成する。これにより、隙間が閉じた状態の挟まり荷重を低減し、身体が挟まった際の怪我の程度を軽減できる。
3)挟まり隙間の監視
身体が挟まる可能性のある隙間に光電センサを取り付けて、ボトムの可動域の障害物を検知する。ボトムが可動中に障害物を検知した場合は自動的に停止させ、身体の挟まりを防止する。
(3)新たに生じ得るリスクと対策
前述の解決策は、機器サイズの増加やコストアップにつながるため、すべての隙間に対して安全に実施することが困難である。危険性の高い隙間に限定して対策した場合、利用者が安全性を過信した使い方をするというリスクがある。例えば可動部の停止を操作部で行わず、隙間に手を入れ、センサを反応させて停止させるというような使い方である。対策がなされていない隙間の場合、機器は停止せずに利用者が怪我をしてしまう。このようなリスクへの対策として、異常停止時に警告音を発し、危険性があることを利用者に知らせる。また、異常停止から再始動時に利用者が安全認識を行い、操作部に入力するプロセスを設けて安全性を確保する。これらのしくみにより、利用者が隙間の危険性を認識した上で、対策を有効に機能させることができる。
以上
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