この系では「転がり摩擦なし」で回転運動もするので,見かけの慣性質量(有効質量)が
meff=m+Ir2
と増大します。円板の慣性モーメント
I=12mr2
なので
meff=m+12mr2r2=m+12m=32 m.
ばねの復元力はそのまま
–kx
ですから,運動方程式は
meff ¨x+kx=0⟹¨x+kmeff x=0
したがって固有角振動数は
ω=√kmeff=√k32 m=√2k3m.
よって正解は ① です。
参考:平成26年度技術士第一次試験問題[機械部門] 専門科目Ⅲ-20 剛体の回転運動、並進運動 | 副業の宮殿【PR】
技術士第一次試験-令和2年度機械部門Ⅲ-18解答例 | 技術士のたまご
見かけの慣性質量の求め方を詳しく教えて
以下の手順で,「回転を伴う剛体が平面上を転がりながらばねで引かれる系」を「見かけの慣性質量(有効質量)」
meff
をもつ等価1自由度系として扱う方法を示します。
1. 系のモデル化
- 質量
m,半径
r
の一様な円板(慣性モーメント
I=12mr2
)が,
- 転がり摩擦なしに「すべりなく」床面上を転がる(非滑り条件:
v=˙x=r ω)。
- 円板の重心位置を
x(t)(ばねの取付点から右向きを正)とすると,
- ばねは重心に直接はつながらず,重心と壁の間で力だけを伝えるものとみなす。
(図:重心移動
x
によるばねの伸び縮みが生じる)
2. 運動エネルギーの分解
円板の運動エネルギー
T
は「平行移動」と「回転」の和:
T=12 m v2⏟並進エネルギー+12 I ω2⏟回転エネルギー.
非滑り条件
v=˙x
,
ω=v/r=˙x/r
を代入すると
T=12 m ˙x2+12 I(˙xr)2=12(m+Ir2)˙x2.
3. 有効質量(見かけの慣性質量)の定義
上式はまるで「質量
meff
の質点が並進運動する系」の運動エネルギー
T=12 meff ˙x2
と同じ形をしています。比較して
meff=m+Ir2
を 見かけの慣性質量(effective mass)と呼びます。
4. 円板の場合
一様円板の慣性モーメントは
I=12 m r2
なので
meff=m+12m r2r2=m+12m=32 m.
5. 等価ばね‐質点系としての運動方程式
ばね定数
k
,変位
x
による復元力は
–kx
。
運動エネルギー
T=12meff˙x2
からラグランジュ方程式、
またはニュートン法則
meff¨x+kx=0
を書くと,
¨x+kmeff x=0,
したがって固有角振動数は
ωn=√kmeff=√k(m+I/r2).
6. 他の剛体での応用
- 中空円筒
I=(1/2)mr2と同じ形なので同じ。
- 棒や球 など他の剛体では
Iの式だけ変わり,
meff=m+Ir2が一般に成り立つ。
まとめ
「回転を伴う剛体の並進‐回転運動をばね‐質点系に還元するには,運動エネルギーを並進項
12m˙x2+回転項
12I(˙x/r)2で書き直し,
12meff˙x2の形にまとめる」。
ここからmeff=m+I/r2と導かれます。
この考え方は機械構造やロボットのジョイント動解析,慣性カップリングを考慮した制御設計など幅広く使われます。さらに詳細(例えばラグランジュの正式導出や他自由度系での拡張)が必要ならお知らせください。
慣性モーメントはなぜこのような式になるのですか?
慣性モーメント(回転慣性)は,物体を微小質量要素に分割して「各要素の質量 × 回転軸からの距離²」を足し合わせたものとして定義されます。すなわち
I = ∑imi r2i⟹I=∫r2 dm.
円板の場合(厚さは一定で,重心まわりに回る薄い円板を考えます)には,面密度を
σ=mπR2(質量m, 半径R)
と置くと,微小面積要素は
dA=r dr dθ
なので
dm=σ dA=σ r dr dθ.
よって
I=∫2π0 ∫R0r2 (σ r dr dθ)=σ∫2π0 ∫R0r3 dr dθ=σ (2π) R44=2πσR44
ここで
σ=mπR2
を代入すると
I=2π4 mπR2 R4=12 m R2.
まとめ
- 定義:
I=∫r2 dm。
- 円板の微小質量:
dm=σ r dr dθ。
- 積分:
∫2π0∫R0r3 dr dθ=πR42。
- 結果:
I=12 m R2。
このように,「面密度」あるいは「体積密度」を使って連続体の各微小要素の contribution を積分すると,円板の慣性モーメントが
12mR2
になるわけです。
並進エネルギーのvは重心の移動速度ではなく外周の速度になるのですね?
いいえ、ここでの
v
はあくまで 重心の並進速度(重心が動く速さ)を表しています。
- 並進エネルギーの項
12 m v2は質量mの物体が重心を速さ
vで並進するときのエネルギーです。
- 回転エネルギーの項
12 I ω2では角速度ωを使いますが、「滑らず転がる」境界条件から
ω=vcomrと書けるため、回転エネルギーも
12 I(vr)2の形で
v(重心速度)を用いて表しています。
つまり、
- 転がり条件:外周の速度
vedge=rωが、
重心並進速度vcom
に等しい(滑りなし)
⇒vedge=vcom=v
- 並進エネルギーは常に「重心が動く速さ」で計算する
- 回転エネルギーも上記の関係を代入して「重心速度
v」で表現している
という整理になります。
ポイントまとめ
- 並進 KE =
12 m v2com - 回転 KE =
12 I ω2=12 I (vcom/r)2 - 「外周の速度が重心速度に等しい」のは回転+並進の混合運動における非滑り条件によるもの、
v自体は重心速度です。