設問
参照:https://www.engineer.or.jp/c_topics/006/attached/attach_6640_2.pdf
キーワード
田口メソッド、ロバスト設計、品質工学
田口メソッド、ロバスト設計、品質工学
品質工学とは,
品質に対するあらゆる技術的対策とも定義できるが,
それでは技術そのものにほかならず,技術工学とい
うべきである.技術工学の中の一部である機能性の
評価と改善を品質工学というべきだが,品質も定義
の必要であるし,機能性の評価方法なども具体的に
説明する必要がある.
品質工学では機能そのものや好みの問題は取り扱わないが,機能が理想機能からば
らつくことは品質工学で取り扱う中心問題である.
ヤング率,引張り強さ,インピーダンス,Q値などの中流の品質特性は生産や取引用で,
技術研究や設計研究には効率が悪く,品質工学では使わないように主張している.
それでは,設計や技術開発の研究では,どういう
特性値を用いるかが問題である.製品企画後に設計
される製品設計や工程設計で用いられるのが目的機
能の機能性で,品質工学では静的SN比や動的SN比
で表される.
製品企画前や,製品企画後でも広範囲の製品に使
える技術を開発するときに用いられるのが,基本機
能の機能性の評価で,動的SN比である.それは,
目的機能を調べるものではなく,技術的手段の確実
性を評価する方法で,次の重要な特徴を持っている.
・先行性(製品企画の前に研究が可能)
・汎用性(多くの製品に利用できる)
・再現性(下流での再現性が大きく,設計変更を
する必要がなくなる)
欧米の研究の中心は,R&Dにおける基礎研究で
ある.したがって,研究はテストピースで行われて
いるので,その研究結果が実際の製品で,大規模生
産で再現できなくて困っている.日本の研究は実物
による設計研究,実工程による生産方法の研究が中
心で再現性は当然欧米よりも良かったが,製品ごと
の設計研究で能率が悪く技術部門は多忙である.
企業(特に製造業)の製品に関する活動は次のよう
に分けられる.
(1)技術開発(基礎技術の研究と開発)
(2)製品企画(市場を決め,品種を決める)
③ 製品設計(企画で決められた品種の設計をする)
(4)工程設計(生産工程の設計)
4 品質工学 Vol.1No.2
(5)生産(工程のコントロールと製品のコントロー
ル)
(6)販売(製品の販売をする)
(7)クレーム処理(商品のクレームに対する処理を
する)
これらの中で,品質工学が関係するのは,(1),(3),
(4)の技術に関する活動と(5)の日常の生産活動で,前
者をオフライン品質工学,後者をオンライン品質工
学という.
オフライン品質工学は,いずれも次の3段階に分
ける.
・システム(コンセプト)の選択
・パラメータ設計(システムパラメーターの水準
を決める)
・許容差設計(許容差の決定も含む)
(3)の製品設計の成果は図面とスペックである.
次の3段階を考え具体的な案を決めることが
技術者の任務であり,品質工学フォラムとしては,
多くの分野からの実施例を提供するからそれを参考
にして自分で考えて決めるようにと言うだけである.
3段階というのは次の通りである.
ステップ(1)すべての基本機能は,信号としての入
力と出力の関係を利用している.入力信号をM,出
力特性をyとして,その間の理想関係を明白にする.
ほとんどの理想関係は次の比例式である.
y=βM (1)
入力信号,出力特性が単純計量値(複素数も含む)で
ないことも少なくないので,理想機能は計測可能な
入力と出力で定義することが必要で簡単でないので
ある.
ステップ② 広範囲に使える技術を開発するために
信号の水準Mに対して,できるだけ広範囲の値を持
っ信号の水準を決める.いま信号の水準数をk水準
とする.シュミレーションによる開発研究では,入
力信号に対して直線性が仮定されていることが多い
が,その場合は止むを得ず信号の水準は固定する.
すなわち信号の水準数は1である.
ステップ(3)入出力関係を理想関係から乱す変数を
ノイズという.さまざまなノイズがあっても,少数
(多くの場合1~3個)のノイズをとり上げ,できれば
調合(ノイズの水準に対して,出力yを小さくする
条件を重ねた水準と,出力を大きくする水準を重ね
た水準の2水準に調合する方法.ときには標準条件
を含めて3水準のこともある)する.2水準の調合誤
差因子とk水準の信号因子の組合わせでデータを求
める.誤差因子はとらないこともあるが,その場合
には信号因子の水準を多くとることが重要になる.
上記の(1),(2),(3)は個々の技術問題に対して品質
工学の立場からの要請であって,品質工学の本を見
ても解答があるわけではない.いくつかの実施例が
あるだけである.k水準の信号因子の水準M,, M、,
…M、と2水準の誤差因子N1, N、に対する組合せの
データは表1のようになる.表1がもっとも標準的な
データである.
品質工学の中の手法の中心はSN比ηと感度Sを
求めるための実験をすることである.SN比ηは市
場における機能上のばらつきによるトラブルの大き
さの相対値を表すものさしである.もし,SN比が10
デシベル改善できれば,その機能のばらつきによる
市場の品質上のトラブルが10分の1に改善されると
予想することになる.感度Sは,比例定数の平均値
を目標値に持っていくための設計定数を求めるため
である.SN比ηと感度Sを求めるために,機能性
評価のためのステップ(1),ステップ(2),ステップ(3)
を要求するのが品質工学の立場である.
実際には,SN比ηと感度Sを改善するために,
制御因子と呼ばれているさまざまな設計定数をとり
あげ,水準を変えて直交表にわりつけて,SN比η
と感度Sを求める.制御因子をわりつけた直交表(ほ
とんどの場合,直交表L18を用いる)の各実験で,
表1のようなデータを求めて,SN比と感度Sを求め
る.そして,SN比と感度の最適条件を求めるが,
それは品質工学以前に用いられた実験計画法と同じ
であるのでここには述べない.
b. ロバストデザイン(robust design) ロバストデザインと
は,ノイズに対して頑健な設計であることを意味する.特性値の変
動がばらつきであり,特性値を変動させる要因には,技術者が制御
可能なものと,制御不可能なものとがある.制御不可能なばらつき
の原因は,以下の三つのノイズからなっている.
(1) 工程誤差(材料,設備,作業等)
(2) 劣化(経時変化,摩耗等)
(3) 環境変動(電源電圧変動,温度,湿度等)
田口が提案したロバストデザイン手法は,これらの制御不可能な
ばらつき要因を受け入れたうえで,多数の制御可能な変動要因の組
合せによって,変動に頑健(ロバスト)な設計を行うものであ
る.
従来,われわれはばらつきを少なくするために,作り込みに頼っ
ていた.作り込みによるばらつき対策は,右肩上がりの高度経済成
長期には威力を発揮していたが,最近の安定成長で,かつグローバ
ルな優勝劣敗の世界では,もはや通用しなくなってしまった.そこ
で急速に注目を集めてきたのがロバストデザインである.ロバスト
デザインは,開発時点で徹底的にばらつき対策を行い,その後特性
値をスペックに合わせ込む手法である.開発技術者はばらつき対策
まで責任をもたなければならない.製品開発時点で工程変動,劣
化,環境変動に対する徹底的なばらつき対策がなされているので,
製造移管後,あるいは市場出荷後に問題を起こすことが少ない.
これに対して従来の開発手法は,開発技術者がスペックに合わせ
込むパラメータ水準を決め,製造技術者は作り込みでばらつき対策
を,品質管理部門は信頼性試験で劣化と環境変動によるばらつき対
策を確認するやり方なので,その差は明白であろう.一般に作り込
みによるばらつき対策は通常もぐらたたきと呼ばれるもので,多く
の技術者,資金,時間が必要である.以上の関係を図3・24に示
した.
品質工学には,1970年代に導入されて1980年代に発展した静
特性の品質工学と,1990年代になって本格的に発展した動特性の
品質工学とがある.
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