謎の流体運動への新たな洞察を発表――遷移流の新概念を説明 沖縄科学技術大学院大学 | fabcross for エンジニア
沖縄科学技術大学院大学(OIST)流体力学ユニットの教授 ピナキ・チャクラボルティ氏、連続物理ユニットの教授 グスタボ・ジョイア氏らは2020年1月25日、謎の流体運動への新たな洞察を発表した。将来的に、乱流遷移と乱流についてより包括的で概念的な理解をもたらすという。
研究は、遷移流研究の新たなアプローチを開発するため、数十年前からの乱流の概念理論から出発。
特定の条件下で乱流状態を説明するために役立つ概念理論が、乱流の遷移状態にも適用できるかを理解するために研究を開始した。
乱流は不規則運動であるという点を除いて層流と区別する根拠はなく、層流を記述する式、ナビエストークス方程式、連続の式、および境界条件としての粘着条件がそのまま適用される。しかし、初期条件は一義的でないため、これに応じて無数個の解が存在することになるから、速度分布や流れの挙動を知るという実用的な目的に対しては統計的方法が有効である。
統計的手法を用いて導出した式は、平均値の他に二重積を未知量に持ちこのままでは解けないため、統計的手法の取り扱いに工夫が必要である。
一様等方性乱流
均一な流れ場において変動速度の確率分布が座標軸の併進、回転、反射に対して不変である流れを一様等方性乱流といい、箱の中で格子を振動させた場合や格子下流の風洞乱流中で近似的に実現される。いずれも減衰する乱れで統計処理は集合平均について行うが、一般的に減衰は緩やかな変化であるから変動についての時間平均で置き換える事ができる。
当方乱流は減衰する乱流である。
局所等方性乱流
レイノルズ数が十分大きいとき、流れの場の尺度に比べて十分小さな乱れは統計的に等方かつ定常であるとみなすことができ、エネルギーが大きな乱れから補給されて平衡を保つことになる。
コルモゴロフはこのような乱れの統計的状態は一義的にきまるとしてスペクトルの平衡関係を導き、さらに特性長さに比べて十分大きな尺度の乱れ領域は粘性に影響されないとすることによって、エネルギースペクトルの-5/3条則を得た。
非等方性乱流
実際の流れに見られる乱流は非等方性で、しかも自由乱流境界の間欠的構造で代表される大規模運動や壁面近くのバースト現象のような秩序運動が重畳していて、
これを純粋な統計理論の対象とする事が困難なため、その記述には半経験的な乱流モデルが用いられる。
乱流拡散
流れの中で物質が拡散によって広がっていく様子を考えると、流れ場が層流状態である場合に比較して、乱流状態では非常に短時間に濃度分布が一様になる。
このことをマクロに見れば、乱流の作用により拡散係数が増大したと表現する事ができる。ただし、乱流拡散は乱流の渦運動による混合作用であり、
分子拡散モデルとなる分子の不規則運動に比して複雑なメカニズムを含有するため、フィックの法則のような単純な勾配拡散近似が成立しないことも多い。
近年の発達した実験技術や乱流の直接シミュレーションから得られる詳細な情報によって、乱流現象の本質が明らかになるにつれ、乱流拡散という言葉で表されてきた現象の多様性に対する認識が深まりつつある。
乱流拡散の本質は変動する速度場による対流輸送にある。
乱流拡散を拡散係数の増大としてあらわす古典的な方法は直感的ではあるが
乱流現象の一面を表しているにすぎない。
乱流の制御
個体壁面に沿う乱流の壁面近傍には縦渦とそれに誘起される低速ストリーク構造が存在し、その不安定化がバースト、レイノルズ応力生成や高周波カスケードへと発展する。
この縦渦を中心とした乱流構造は有限な寿命を持ち、やがて減衰するが、別のあらたなストリークが発生し、その繰り返しによって全体として1つの平衡状態が保たれている。
その過程で引き起こされる壁面に向かっての運動量輸送が乱流摩擦を生み出している。この一連の過程に介入することによって別の平衡状態を実現し、乱流摩擦を低減する事が
壁乱流制御の主な狙いである。
従来の提案の大部分は直感と経験から出発したものであったが、その後の実験や数値解析技術の進歩のおかげで、効果があると認められたものについては、
効果の機構が乱流構造との関連においてほぼ説明できるようになっている。
ストリーク発生の予防
境界層中に迎え角をもった翼型などを設置することで乱流摩擦が低下する場合がある。LEBUと呼ばれるこの手法は、LEBU板の後縁から離脱する孤立渦を利用して外層領域を低下するスパン方向大規模渦を弱め、縦渦・ストリークへの進化を妨げているものと解釈されている。速度変動が最も抑制される無次元周波数範囲があり、これが乱流境界層中の大規模渦構造の特性周波数範囲に入るように寸法を決めるのが効果的とされている。
ただし、期待通り供試面上の摩擦抵抗は減少させることができたとしても、同時にLEBU板自身の表面での摩擦が加わるため、総合的に見て効果が得られるとは限らない。
発生したストリークの消去
いったん発生したストリークを弱め、あるいは消去することでバースト発生率を低下させる方法にアクティブフィードバックがある。
ストリークの安定化
ストリークの平均間隔より狭い間隔で、主流方向に縦渦を多数、平行に配置したリブレット面が乱流摩擦低減に有効である事が知られている。
ストリークのスパン方向への遥動を阻止して安定化させることによって、バーストの発生や小スケールへのエネルギーカスケードが抑制されたものと理解されている。
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