旋盤で丸棒を加工するとき、チャックからどの程度突き出しても加工できるのでしょうか。
一般的には、突き出し長さが直径の3倍程度になると、心押し台のセンター支持を検討するという目安があります。
ただ、実際に汎用旋盤やNC旋盤で加工していると、必ずしも直径の3倍まで問題なく加工できるわけではありません。
私の経験では、寸法公差が厳しい加工では、突き出し長さが直径の2倍を超えるあたりから、切り込み量や送り量、工具のノーズRなどを工夫する必要があると感じていました。
一方、突き出しが長くても、切り込み量を小さくすれば問題なく加工できることもあります。
そこで今回は、旋盤加工におけるワークのたわみと切削条件の関係について、力学の計算式や研究論文を参考に整理してみました。
1. 突き出し量が長くなると、なぜ加工精度が悪くなるのか
チャックで片側だけを固定した丸棒は、力学的には「片持ち梁」として近似できます。
加工中、バイトからワークに加わる力によって丸棒がたわみ、予定した切り込み量どおりに削れなくなる場合があります。
このときの先端たわみ量は、理想的な片持ち梁モデルでは次の式になります。
δ = FL³ / (3EI)
- δ:ワークのたわみ量(mm)
- F:半径方向の切削力(N)
- L:チャックから力の作用点までの距離(mm)
- E:縦弾性係数(N/mm²)
- I:断面二次モーメント(mm⁴)
中実丸棒では、
I = πD⁴ / 64
となるため、
δ = 64FL³ / (3πED⁴)
と表せます。
重要なのは、たわみが突き出し長さの3乗に比例するという点です。
同じ直径・材質・切削力で比較すると、以下の関係になります。
| 突き出し長さ | 相対的なたわみ |
|---|---|
| 直径の2倍 | 1倍 |
| 直径の3倍 | 約3.4倍 |
| 直径の4倍 | 8倍 |
| 直径の5倍 | 約15.6倍 |
つまり、直径の2倍から3倍に突き出しを増やすだけでも、理論上のたわみは約3.4倍になります。
寸法公差が厳しい加工では、直径の2倍程度から影響が気になり始めるという自分の経験も、こうした剛性の変化と関係しているのかもしれません。
ただし、この計算はチャックを完全固定とした理想モデルです。実際の加工ではチャックの把握剛性、工具のたわみ、ワークの材質なども影響します。
また、この式は曲げによるたわみだけを見ています。L/D=2 程度の短い突き出しでは、せん断変形によるたわみが曲げの1割強(筆者の試算で約13%。L/D=3 で約6%、L/D=5 で約2%)上乗せされます。
2. 切り込み量を減らせば、たわみは小さくなる?
では、突き出し量を短くできない場合、切り込み量を小さくすることで対応できるのでしょうか。
この関係を考えるには、切削力を理解する必要があります。
旋削では切削力を、主分力・送り分力・背分力の3方向に分けて考えます。
このうち、ワークの半径方向のたわみや外径寸法の誤差に直接関係するのが、主として背分力です。
通常の旋削条件で用いられるKienzle–Victor型の切削力モデルでは、背分力は概ね次のように表せます。
Fp ∝ ap × f^q
- Fp:背分力
- ap:切り込み量(mm、半径方向)
- f:送り量(mm/rev)
- q:材料や工具条件によって決まる指数(1より小さい)
q の値は材料・工具・切削条件によって変わります。ここでは鋼材を想定して、仮に q=0.55 として計算します(この値は今回の参考文献で確かめたものではなく、計算のための仮定です)。
q=0.55 とすると、切削条件を変更した場合の背分力は以下のようになります。
| 条件変更 | 背分力の変化(概算) |
|---|---|
| 切り込み量を半分 | 約50% |
| 送り量を半分 | 約68% |
| 切り込み量と送り量を両方半分 | 約34% |
このモデルでは、送り量を半分にするよりも、切り込み量を半分にする方が背分力を大きく減らせます。
したがって、ワークのたわみを抑えたいとき、切り込み量の調整は有効な方法の一つと考えられます。
ただし、これらは特定の切削力モデルを使った概算であり、どの材質や工具でも同じ割合になるわけではありません。
3. 突き出し量・切り込み量・送り量を一つの式にすると
ここまでのたわみの式と背分力の式を組み合わせると、次の関係になります。
δ ∝ ap × f^q × L³ / D⁴
突き出し比をL/Dとすれば、
δ ∝ (ap × f^q / D) × (L/D)³
と表せます。
この式から分かるのは、ワークの直径や材質、工具条件などが同じ場合、
- 突き出し長さが増えると、たわみは3乗で急激に増加する。
- 切り込み量を減らすと、たわみを小さくできる。
- 送り量を減らしても、たわみを小さくできるが、その効果は指数qによって異なる。
ということです。
例えば、直径の3倍の突き出しで問題なく加工できていた条件を、直径の5倍まで延ばすとします。
同じ切削力では、たわみは約4.63倍になります。
理論上、元と同じたわみ量にするためには、送り量を変更しなければ、切り込み量を元の約22%まで減らす必要があります。
ただし、この計算はあくまで静的なたわみに関する相対比較です。切り込み量を極端に小さくしても、必ず高精度で加工できるとは限りません。
4. 計算例:直径20mmの丸棒を加工する場合
もう少し具体的に考えてみます。
次の条件を仮定します。
- 材質:鋼材(縦弾性係数210GPa)
- 直径:20mm
- 背分力:50Nで一定
- チャック把握部:完全固定
- 切削位置:突き出し先端
片持ち梁の式で計算すると、次の結果になります。
| 突き出し長さ | L/D | 先端たわみ(概算) |
|---|---|---|
| 40mm | 2 | 0.00065mm |
| 60mm | 3 | 0.00218mm |
| 80mm | 4 | 0.00517mm |
| 100mm | 5 | 0.01011mm |
直径20mm、突き出し100mmでは、50Nの背分力だけでも理想モデル上の先端変位が約0.01mmになります。
ワークの半径方向変位がそのまま削り残しに結びつく単純な状況なら、直径寸法への影響はおよそその2倍になる可能性があります。
厳しい寸法公差では無視できない数値です。
もちろん、実際の切削力は加工条件で変化しますし、ワークの全長にわたって同じ変位になるわけでもありません。しかし、突き出し長さが加工精度に大きく影響することが分かります。
5. 切り込み量を小さくすればよい、というわけでもない
ここで注意したいのが、工具のノーズRです。
例えば、ノーズR0.8mmのチップで、切り込み量0.1mmの仕上げ加工を行う場合を考えます。
このような小切り込みでは、主にノーズの円弧部分で切削することになり、通常の直線切れ刃を前提とした切削力モデルがそのまま成立しないことがあります。
ノーズRが大きい場合、加工面の粗さを改善しやすい一方で、背分力が増加し、細長いワークのたわみや振動に影響する可能性があります。
工具メーカーのSandvik Coromantも、びびりを抑える対策として、小さいノーズR、ポジティブな刃先形状、切削力の方向を考慮した工具選択を挙げています。
また、切り込み量を極端に小さくすると、切れ刃の丸みに対して切りくず厚さが不足し、材料を切るよりも押しならす作用が大きくなる場合があります。
つまり、切り込み量や送り量を小さくすることと、実際の切削抵抗を安定して小さくすることは、必ずしも同じではないということです。
そのため、精密仕上げではノーズRの変更、刃先の鋭い仕上げ用チップの選択、適切な送り量の設定などを組み合わせることが重要になります。
6. 実際の加工では何を工夫するべきか
突き出し量が長く、寸法公差が厳しい場合は、次のような点を確認するのがよいと考えています。
① 突き出し量をできるだけ短くする
最も基本的な対策です。突き出し長さが3乗で効くため、わずかに短くできるだけでも剛性面で有利になります。
② 切り込み量を見直す
たわみによる寸法誤差が問題になる場合、小切り込みにすることで切削力を減らせる可能性があります。ただし、ノーズRや工具の推奨切削条件との兼ね合いを確認します。
③ ノーズRと刃先形状を見直す
背分力やびびりが問題になる場合、ノーズRを小さくしたり、鋭い刃先を持つ仕上げ用チップを使用したりする方法があります。ただし、ノーズRを小さくすると、同じ送り量では理論上の仕上げ面粗さが悪化しやすくなるため、送り量とのバランスが必要です。
④ 切削力が加わる方向を考える
主切れ刃角を90°に近づけるなど、半径方向の切削力を抑えやすい工具形状を検討します。
⑤ センター支持や振れ止めを使用する
加工条件の調整だけで対応が難しい場合は、心押し台の回転センターや振れ止めによって支持剛性を高める方法が有効です。センター支持で精度を出すときの注意点は、別の記事「旋盤ではめあい公差を出すために役立った実践テクニック ― センター支持とスプリングパス」にまとめています。
⑥ 加工後の寸法を複数箇所で測定する
先端側とチャック側で外径寸法を比較し、テーパが生じていないか確認します。必要に応じて、びびり跡や真円度も確認します。
なお、切削条件を軽くしても、チャックの把握不足やワークのアンバランスに起因する危険は解消できません。支持方法や回転数は機械・チャックの仕様を優先して判断する必要があります。
7. センター支持の目安はL/D=3でよいのか
突き出し比L/D=3は、加工条件を検討するための経験的な目安にはなります。
しかし、実際にセンター支持が必要かどうかは、突き出し比だけでは決まりません。
例えば、寸法公差が比較的緩い部品であれば、L/D=4でも小切り込みで問題なく加工できる場合があります。
反対に、数μm単位の精度を要求される部品では、L/D=2程度でも、切削力や工具形状、把握剛性による影響が問題になる可能性があります。
私自身、寸法公差が厳しい加工では直径の2倍を超えたあたりから切り込み量やノーズRを意識することがありました。
今回、たわみと切削力について調べたことで、その経験を力学的な観点から整理することができました。
もちろん、L/D=2という数値は、すべての旋盤加工に当てはまる境界値ではなく、あくまで現場で工夫を始める一つの目安です。
まとめ
旋盤加工におけるワークのたわみは、片持ち梁の理想モデルでは突き出し長さの3乗に比例します。
さらに、通常の旋削領域における切削力モデルと組み合わせると、
たわみ ∝ 切り込み量 × 送り量のq乗 × 突き出し長さの3乗
という関係で考えることができます(q は1より小さい指数で、本記事では q=0.55 と仮定しました。材料や工具条件によって変わります)。
今回整理して感じたのは、センター支持の必要性をL/Dだけで判断するのではなく、要求精度と切削条件を合わせて考えることが重要だということです。
特に仕上げ加工では、切り込み量を小さくするだけでなく、ノーズRや切れ刃形状、送り量も関係してきます。
これからは、突き出し比と加工条件、寸法誤差の関係を記録していくことで、自分の使用している旋盤や工具に合った判断基準を作っていければと思います。
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参考文献・資料
- Denkena, B. & Köhler, J. (2010). Consideration of the Form of the Undeformed Section of Cut in the Calculation of Machining Forces. Machining Science and Technology. DOI: 10.1080/10910344.2010.533102
- Lu, K., Lian, Z., Gu, F. & Liu, H. (2018). Model-based chatter stability prediction and detection for the turning of a flexible workpiece. Mechanical Systems and Signal Processing. DOI: 10.1016/j.ymssp.2017.08.022
- Tseng, Hu & Hu (2021). A Smart Tool Holder Calibrated by Machine Learning for Measuring Cutting Force in Fine Turning and Its Application to the Specific Cutting Force of Low Carbon Steel S15C. Machines. DOI: 10.3390/machines9090190
- Sandvik Coromant, Turning Handbook. 技術ハンドブック(PDF)
※本記事の計算例は理想モデルによる推定値です。実際の加工条件の安全性や加工精度を保証するものではありません。

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コメント一覧 (1件)
[…] 突き出し量とたわみの関係(たわみが突き出し長さの3乗で増えること、切り込み量・送り量・ノーズRでどこまで抑えられるか)は、別の記事「旋盤加工でワークの突き出し量はどこまで許容できる? 切り込み量・送り…」で計算して整理した。 […]