ポンプが全く吸わなくなった ― 高回転+細い配管が招いたキャビテーション

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機械保全の問題から思い出した現場の失敗

機械保全の勉強をしていて、こんな設問に出会いました。

ポンプに発生したキャビテーションの対策として、吸込揚程を小さくする。

正解です。「吸込側の条件を良くして NPSHa(有効吸込ヘッド)を確保する」という話で、一行で片づきます。

ただ、この一行を読んだとき、私は過去の自分の失敗を思い出しました。小型ポンプで、ある回転数から先でまったく吸わなくなった件です。当時は音から「たぶんキャビテーションだろう」と判断して対処しましたが、なぜそうなったのかを言葉にできていませんでした。

この記事は、その現場の話を保全の知識と突き合わせて整理し直したものです。


当初の設計方針:汚れても止めない、でも低流量

やりたかったことは2つです。

  1. 流体に汚れが混じっても運用を続けたい
  2. 低流量で使いたい

この2つから、当時こう考えました。

  • 汚れが付着して抵抗が増えても流量を維持できるよう、ベースの回転数を高めに設定しておく
  • ただし必要なのは低流量なので、配管径を小さくして絞る

つまり「高回転で回しつつ、細い配管で流量を抑える」という構成です。一見すると理にかなっているようで、ここに落とし穴がありました。


起きたこと:ある回転数から先で完全に揚液しなくなった

運転してみると、ある回転数から先で流量が伸びないどころか、まったく吸わなくなりました。吐出が途切れ、ポンプは回っているのに液が出てこない。同時に、砂利を噛んだような音がしていました。

定格回転数には達していないので、モーター出力の限界ではありません。吸込圧力は流量に応じて変化しており、流量が増えるほど下がっていました。


なぜ起きたか:NPSHa と NPSHr を両側から潰していた

キャビテーションは、次の2つの大小関係で決まります。

  • NPSHa(有効吸込ヘッド):系がポンプ入口に用意できる余裕。吸込配管の損失が増えるほど下がる
  • NPSHr(必要吸込ヘッド):ポンプが要求する最低ライン。おおむね回転数の2乗に比例して増える

私の設計は、この2つを両側から縮めるものでした。

高回転にした = NPSHr を持ち上げた

「汚れても回るように」と回転数のベースを上げたことで、ポンプが要求する吸込条件そのものが厳しくなりました。回転数の2乗で効くので、1.4倍回せば要求は約2倍です。

配管を細くした = NPSHa を削った

ここが今回いちばんの反省点です。配管の摩擦損失は、流量ではなく流速の2乗にほぼ比例します(ダルシー・ワイスバッハの式)。

h_f = f × (L/D) × v² / 2g      v = Q / A

流速 v は同じ流量でも断面積 A に反比例するので、配管を細くすると流速は一気に上がります。つまり、

流量が少ないから配管は細くていい

という直感は成立しません。細い配管では、低流量でも流速が高く、損失が大きい。 しかも損失は流速の2乗で効くので、細くした分の悪化は掛け算で返ってきます。

さらに、汚れの付着がこれを悪化させます。細い配管ほど、同じ厚さの付着物で断面積が減る割合が大きい。断面が減る → 流速が上がる → 損失が2乗で増える。「汚れても使いたい」という要求と、細い配管という選択は、正面から衝突していました。 汚れに強くするつもりの設計が、汚れにいちばん弱い形になっていたわけです。

結果としてブレークダウンに至った

NPSHa が NPSHr を下回ると、羽根車入口で液体が気化します。軽度なら流量が少し落ちる程度ですが、さらに進むと気泡が羽根車の流路を埋め尽くし、全揚程が急落します。これがブレークダウンで、ポンプは回っていても液を送れなくなります。

「流量が伸びない」ではなく「まったく吸わなくなった」という症状は、まさにこの状態だったと考えています。回転数を上げるほど NPSHr が上がり、それに伴って流れが変われば吸込損失も増えて NPSHa が下がる。ある回転数で両者が交差し、そこから一気に崩れた、という筋書きです。

定格回転数以下だったのに起きたのは矛盾ではありません。NPSH の問題は回転数の絶対値ではなく、その系での NPSHa と NPSHr の関係で決まるからです。細い吸込配管は、その交点を手前に引き寄せます。


対策:まず機械で余裕を作り、次に制御で埋める

最終的に取った対策は2つです。

1. 配管径を大きくする

これが本丸でした。仮に内径を φ13 → φ20 にすると断面積は約2.4倍、同じ流量なら流速は約 1/2.4、損失は2乗で効くのでおおよそ 1/5 以下になります(実際には管径が変わると f や L/D も変わるため、あくまで概算です)。

損失が減れば NPSHa が持ち上がります。設問の「吸込揚程を小さくする」と、やっていることは同じです。どちらも NPSHa を確保するための操作です。

そして重要なのは、流量を絞る役目を配管から取り上げたことです。抵抗で絞るのをやめたので、狙いの低流量はより低い回転数で出せるようになりました。回転数が下がれば NPSHr も下がる。NPSHa と NPSHr の両方が有利側に動きます。

2. フローセンサーによる回転数フィードバック

配管を太くしたことで、回転数に上げしろが生まれました。汚れが付いて抵抗が増えても、回転数を上げて狙いの流量を取り戻せます。

そこで流量を実測し、目標流量に合うよう回転数を自動で決める制御にしました。当初の「あらかじめ回転数を上げておく」という開ループの発想を、「必要なときに必要なだけ上げる」閉ループに置き換えた形です。

対策の順番に意味がある

振り返って一番の学びはここでした。

先に機械側で余裕を作り、その余裕を制御で使い切る。

余裕がない系にフィードバック制御を載せても、制御は限界にぶつかるだけです。当初の設計は、汚れ対策のつもりで回転数の余裕を先に使い切り、細い配管で NPSHa の余裕も削っていました。余裕を先食いしていたのが本質的な誤りです。順番を逆にしたのが、うまくいった理由だと思っています。


現場での切り分けチェックリスト

当時の私は音だけで判断していました。キャビテーション音は特徴的なので現場判断としては妥当ですが、厳密には次を見ると切り分けられます。

流量を増やすと消える → 吸込み再循環(低流量側の別現象)電流値定格に張り付いていればモーター出力の限界吐出圧回転数を上げても上がらない・急落するならブレークダウン呼び水一度止めて再起動で復帰するなら気相の噛み込み

確認項目 見るポイント 吸込圧力 流量とともに下がるなら NPSHa 不足を疑う 音の消え方 流量を減らすと消える → NPSH 不足
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とくに音の消え方は道具がいらないので、現場ですぐ試せます。

なお、低流量運転にはもう一つ別の落とし穴があります。ポンプには**最小連続安定流量(MCSF)**という下限があり、これを下回ると羽根車入口で逆流渦が生じてキャビテーションに似た音を出します(吸込み再循環)。NPSHa 上は余裕があるのに音が出るのが特徴です。「低流量で使いたい」という要求がある時点で、選定段階で MCSF を確認しておくべきでした。


まとめ

  • 「汚れても止めないように回転数を上げておく」は、NPSHr を先に押し上げる行為。余裕の先食いになる
  • 「流量が少ないから細い配管でいい」は誤り。損失は流速の2乗で効き、細い配管は低流量でも流速が高い
  • 汚れが付く前提なら、細い配管は断面減少の影響を強く受ける。太めに取るのが正解
  • NPSHa が NPSHr を下回ると、流量低下では済まずまったく吸わなくなる(ブレークダウン)
  • 「吸込揚程を小さくする」は NPSHa を確保する操作の代表例。配管径の拡大も同じ狙い
  • 対策の順番は、機械で余裕を作る → 制御で使い切る

設問の一行は、現場では設計思想そのものでした。同じ選択肢を見たときに、この失敗を思い出せる人が一人でも増えればと思います。

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