言語での設計研究の体系的レビュー
エグゼクティブサマリ
言語での設計(language-based design)は、設計者の意図・要求・制約を「自然言語(日本語/英語)」「制約付き自然言語(CNL)」「設計用DSL/プログラミング言語」「モデル記述言語(SysML等)」として表現し、それをCAD/CAE/製造・検証へ接続する研究領域である。近年は特に、大規模言語モデル(LLM)とCADデータ表現(スケッチ制約/履歴木/STEP等)を接続して、設計作業を“自動化”ではなく“支援・増幅”する方向に急速に進展している。
過去15年の中心的トレンドは、(1) 要求工学×MBSE(自然言語要求を構造化・形式化し、SysML等のモデルとトレーサビリティを確保)、(2) パラメトリックCADを「プログラム」とみなす潮流(履歴・コマンド列・制約を学習/生成対象にする)、(3) 自然言語→CAD/3D生成(テキストからCADコマンド列、スケッチ制約、または3D資産を生成)の三本柱として整理できる。これらは共通して、「曖昧な言語」から「厳密な幾何・制約・検証可能な仕様」へ落とし込む過程で、**設計意図(design intent)**の取り扱いがボトルネックになる。
設計意図の観点では、履歴ベース・パラメトリックCADの“変更に対して予測可能に振る舞う”という価値(編集性)を維持するには、スケッチ制約や幾何拘束の「過不足(under/over-constrained)」を避ける必要がある。近年は、この問題を「design alignment(設計意図への整合)」として明示し、ソルバからのフィードバックで学習を整合させる研究(例:93%のスケッチを過不足なく完全拘束、等)が現れた。
一方、text-to-3D(拡散モデル等)で生成される3Dは、ビジュアル資産・コンセプト探索に強いが、機械設計に必要な編集可能性(パラメトリック性)や製造制約との接続はまだ限定的である。そこで2024–2026の新潮流として、CAD/STEPのような工学的表現にLLMを接続する研究(Text2CAD、CAD-Llama、STEP-LLMなど)が増え、さらにRAGや強化学習、視覚フィードバックを組み合わせて「生成の実行可能性」を高めようとしている。
産業応用の現実解は、現時点では「完全自動設計」よりも、(a) 要求→モデルの構造化、(b) CADの補完(autocompletion)/制約付与(autoconstraint)/編集支援、(c) 標準形式(SysML v2、STEP等)を介したデジタルスレッドの強化に寄っている。日本語圏でも、MBSEの導入・ツール整理、自然言語記述から設計知識コードへの変換(古典的試み)などが確認でき、今後は「日本語要求→モデル→CAD」の一貫実験基盤が研究価値を持つ。
研究背景と定義
本レビューでは、ユーザ指定キーワード(“language-based design”, “design intent”, “natural language to CAD”, “requirements-driven design”, “MBSE”, “text-to-3D”, “specification-driven design”および日本語キーワード)を用い、直近15年(概ね2011–2026)を中心に、重要古典(設計根拠/設計意図/標準)を遡及して、査読論文・主要会議/ジャーナル・技術報告を統合した。要求工学(NLP4RE)やMBSEは学術レビュー(systematic review/mapping)の比重が高く、CAD/3D生成はCV系会議(CVPR/ICCV/ECCV等)とCAD/CG系ジャーナルの比重が高い点を前提に整理した。
「言語での設計」は、少なくとも次の3層を包含する概念として定義できる。
第一に、要求・仕様の言語化である。自然言語要求は曖昧さ・欠落を含むため、EARSのようなテンプレート化(制約付き表現)によって要求の構造化を行う枠組みが提案されてきた。EARSは“Easy Approach to Requirements Syntax”として、自然言語要求を一定のパターンに落とす実務指向の手法であり、要求工学コミュニティで広く参照される。
第二に、モデル/形式仕様への変換である。MBSEではSysML等を用いて要求・構造・振る舞い・検証など複数側面を統合表現し、モデルを中心にシステムを設計・検証する。Object Management GroupのSysML v2仕様ページは、SysMLがMBSEアプローチを支える汎用モデリング言語であり、要求・構造・振る舞い・解析/検証ケースを表現可能であること、またSysML v2.0が2025年9月にformalとして公開されたことを明示している。
第三に、CAD/形状表現への接続である。機械設計で一般的な履歴ベースのパラメトリックCADでは、設計は「操作列(スケッチ、押し出し等)+拘束(平行、接線等)+パラメータ」として表現され、変更容易性(編集性)を支える。設計意図はしばしば履歴木(design tree)に暗黙に埋め込まれるが、Oteyらは設計意図を「変更時に予期された振る舞いをすること」と捉え直し、スケッチ拘束・操作間関係・操作そのものの3層を強調している。
この「言語→CAD」接続を産業的に成立させる鍵は、標準的データ表現の存在である。National Institute of Standards and Technology(NIST)の技術ノートは、ISO 10303(STEP)がIGESよりも広範で、製品ライフサイクル全体のデータ交換を目的とし、CAD間や下流システム間のデータ交換で産業的に認識されていること、またEXPRESSにより情報モデルを定義することを説明する。これは自然言語→STEPのような研究(STEP-LLM)が“実務フォーマットへの直接出力”を狙う背景でもある。
主要論文の要旨と比較表
下表は、(a) 要求/MBSE、(b) 設計意図/設計根拠、(c) CADをプログラムとして扱うデータセット/生成、(d) 自然言語→CAD(LLM)、(e) text-to-3D の代表的研究を横断的に抜粋したものである。引用数は各ポータル(出版社/arXiv/OpenReview/Semantic Scholar等)に表示される公開値を参照しており、継続的に変動しうる点に留意されたい。
| 著者・年 | 会議/誌 | 目的 | 手法 | データ/評価 | 主な結果 | 引用数/影響(例) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Jeff A. Estefan (2008) | INCOSE系技術報告 | MBSE手法の俯瞰整理 | 方法論/ツール/プロセスの分類レビュー | 事例・手法比較(サーベイ) | MBSE導入で「モデル中心」のプロセス整理が必要であることを体系化 | MBSE導入資料として広く参照(技術報告) |
| Alistair Mavin (2009) | IEEE International Requirements Engineering Conference | 要求文の構造化(EARS) | 要求をパターン化する簡易構文 | 産業例(Rolls-Royce等)を含む | 自然言語要求の曖昧さ低減・レビュー容易化の実務手法 | “Cited by 477”表示例 |
| Tobias Kuhn (2014) | ACM Computing Surveys | CNLの分類と系譜整理 | CNLの特性軸(自然度/精度等)で分類 | 文献レビュー | 自然言語と形式仕様の“橋渡し”としてCNLを整理 | “Cited by 623”表示例 |
| Lucian B. Zhao (2021) | ACM Computing Surveys(Technical Briefings) | NLP4RE研究のマッピング | タスク/技術/評価の整理 | Systematic mapping(多数研究の分類) | 要求抽出・曖昧さ検出などの研究地図を提供 | “Cited by 404”表示例 |
| Andreea Necula (2024) | Requirements Engineering Journal | NLP4REのsystematic review | 309文献を対象に分類 | 309論文レビュー | 技術・評価・課題を整理 | “Cited by 8”表示例 |
| Xiang Zhong (2023) | Systems Engineering | NLからSysML図生成の動向整理 | NLPによる要件抽出→SysML図生成のサーベイ/枠組み | 文献レビュー | SysML生成の自動化課題・評価方法を整理 | “Cited by 53”表示例 |
| Tianhua Zhang (2025) | arXiv | SysML生成評価ベンチマーク | LLM向けSysMLベンチ(SysMBench) | ベンチマーク提案・テスト | SysML生成の比較可能性を向上 | arXivベンチとして参照 |
| Object Management Group (2025) | SysML v2.0 仕様 | MBSEの標準言語の更新 | SysML v2.0 formal公開 | 標準文書 | 要求・構造・振る舞い・解析/検証ケース表現を明示 | 仕様として基盤的影響 |
| Michael J. Pratt (2001) | NIST Technical Note | STEP(ISO 10303)の解説 | 製品データ交換標準の構造説明 | 標準解説 | STEPがIGESより広範でライフサイクル全体を扱う | 工業標準の基礎資料 |
| Hsiang-Yu Kim (2008) | Computer-Aided Design | 設計意図を保持したCAD交換 | feature-based CAD交換で意図保持を議論 | 概念整理・枠組み | 幾何だけでなく意図/特徴保持が課題 | “Cited by 225”表示例 |
| Jorge Camba (2014) | Computer-Aided Design | 3D注釈で設計意図伝達 | PMI/3D annotation拡張 | 事例・提案 | 意図伝達・再利用性向上を強調 | “Cited by 116”表示例 |
| Bradley W. Otey (2017) | Computer-Aided Design | 設計意図の概念整理 | 履歴木/拘束/操作の3層整理 | 文献と課題整理 | 変更時の予測可能性を軸に再定義 | 設計意図研究の整理軸提供 |
| Jef Raskin Conklin (1988) | ACM(CSCW系) | design rationale支援(gIBIS) | Issue-Basedの議論構造化 | システム提案 | 設計根拠を議論構造として外在化 | “Highly Influential”表示例 |
| Allan MacLean (1991) | HCI(Taylor & Francis) | QOCで設計空間を表現 | Questions/Options/Criteria | 実例提示 | 設計議論を選択肢・評価軸で記述 | “Cited by 1505”表示例 |
| Sahil Mathur (2020) | Computer Graphics Forum | GUIと“対話的プログラミング”の融合 | 操作履歴をプログラム化し編集支援 | 6名ユーザスタディ等 | “黒魔術”的スクリプトを対話的に生成/編集し生産性向上を示唆 | CGF掲載の設計体験研究 |
| Alex Seff (2020) | ICML Workshop / arXiv | CADスケッチ制約の大規模データ | 15Mスケッチ+拘束グラフ | 条件補完/自動拘束など用途提示 | autocompletion/autoconstrainを課題として提示 | “Cited by 117”表示例 |
| Karl D. D. Willis (2021) | arXiv / TOG系 | 人間設計のCAD構築系列を公開 | 8,625設計+Fusion 360 Gym | ベンチ/指標/探索復元 | sketch+extrudeの人間系列データを初めて提供と主張 | “Cited by 315”表示例 |
| Rundi Wu (2021) | ICCV | CAD操作列そのものの生成 | コマンド列を学習し生成 | 大規模CAD系列 | “drawing process”としてのCAD生成を主張 | “Cited by 371”表示例 |
| Shuai Wu (2024) | European Conference on Computer Vision | 画像+テキストでCAD補完/制約 | CadVLM:Entity/Sketch/CAD-F1で評価 | SketchGraphs(15M)からフィルタ後62.6万学習等 | CAD-F1等で既存/ChatGPT系基線を上回る | “Cited by 33”表示例 |
| Badagabettu Karthikeyan (2024) | arXiv | 自然言語→CadQueryコード | 2段階:Query要約→コード生成 | 例示評価 | CadQuery生成で実行成功率改善(例:0→47.5%等) | arXivの新提案 |
| Khan R. (2024) | NeurIPS | テキストからCAD作成(Text2CAD) | LLMでCADシーケンスを生成(概要) | 工学形状生成 | ベンチ/生成パイプラインを提示 | NeurIPS採録の影響 |
| Chaofan Lv (2025) | Computer-Aided Design | CADの指示追従データ/訓練 | マルチタスク指示データ(部品/アセンブリ等) | 3種モジュールで微調整 | CAD作業の多段支援を志向 | “Cited by 7”表示例 |
| Chang Liu (2025) | CVPR | LLMをCAD生成へ適応 | SPCC(階層注釈)+事前学習/指示調整 | Text-to-CAD等でACCT/MCD等 | Text-to-CADでACCT 84.72、MCD等で改善 | “Cited by 44”表示例 |
| Connor Casey (2025) | ICCV | 制約生成を設計意図に整合 | ソルバFBで整合学習 | 完全拘束率など | 93%完全拘束(SFT基線34%) | “Cited by 3”表示例 |
| Guan C. (2025) | arXiv | 自然言語→CadQueryスクリプト | 110k データ生成+GRPO等で改善 | 実行性・記号的精度 | LLMのCADコード生成を実験的に強化 | arXiv新潮流 |
| Shi Zheng (2026) | arXiv(DATE想定) | NL→STEPの直接生成 | STEPグラフ再直列化+RAG+RL | 40k STEP-キャプション等 | ベンチ不足を指摘し、実行可能STEP生成へ | 2026の方向性を代表 |
| Kevin Chen (2018) | arXiv/ACCV | テキスト→形状(初期的) | 共同埋め込みで生成/検索 | ShapeNet等 | 言語と3D性質の整合埋め込み | “Cited by 325”表示例 |
| Ben Poole (2022/2023) | arXiv/ICLR(OpenReview) | 2D拡散→3D生成 | SDSでNeRF最適化 | 3Dデータ不要と主張 | text-to-3Dの分岐点(3D学習不要) | “Cited by 3550”表示例 |
| Aditya Sanghi (2022) | CVPR | ゼロショットtext-to-shape | CLIP埋込+flow | ShapeNet等 | ペアデータなしで生成 | “Cited by 402”表示例 |
| Rui Chen (2023) | ICCV | 高品質text-to-3D | 幾何/外観の分離学習 | 実験比較 | 高品質生成と編集/再照明互換性を主張 | “751 Citations”表示例 |
| A. Aristidou (2024) | Computer Graphics Forum(STAR) | text-to-3D技術の整理 | STARサーベイ | 文献レビュー | 方式/評価/課題を整理 | “Cited by 29”表示例 |
テーマ別分類と比較
本節では、上表の研究を「表現(representation)」「検証ループ」「評価指標」の3軸で比較し、言語での設計がどこで難しくなるかを明確化する。
まず表現軸では、要求/MBSEは「要求文→構造化(EARS/CNL)→モデル(SysML)」という記号的・離散的表現が中心である。ここでの成功条件は、曖昧さ検出・欠落補完・トレーサビリティ確保といった“仕様品質”であり、NLP4REのサーベイはタスク分類と評価の難しさ(データ・ベンチの断片化)を繰り返し指摘する。
一方、CAD側は「スケッチ+拘束」「操作列(履歴木)」「B-rep/STEP」「CADスクリプト(CadQuery等)」と、多層の表現が存在する。Oteyらが強調するように、設計意図は(1)スケッチ拘束、(2)操作間の関係、(3)操作そのものの選択に現れ、単に“形状が一致する”だけでは編集性が担保されない。
近年の“自然言語→CAD”研究が重要なのは、**評価ループ(検証ループ)**を研究設計に組み込んだ点である。たとえば「完全拘束率」を目的にソルバフィードバックで学習を整合させる研究は、CAD生成を「正解列の模倣」から「実行可能性を満たす探索/最適化」へ移す。 さらにSTEP-LLMは、ベンチ不足を問題提起した上で、STEPグラフの再直列化やRAG、Chamfer距離ベースの強化学習を組み合わせ、最終成果物を“標準フォーマット”に直接出す方向を示す。
評価指標の観点では、text-to-3DはChamfer距離や視覚品質などの連続的指標が多いのに対し、CAD生成は(i)コマンド正解性、(ii)パラメータ正解性、(iii)実行成功率、(iv)拘束の過不足、(v)編集時の予測可能性といった離散+実行性+意図の複合評価が必要になる。CadVLMはEntity Accuracy/Sketch Accuracy/CAD F1で評価し、CAD-LlamaはACCT(コマンド/パラメータ/成功率合成)やMCD等を提示する。
これらの関係を、研究テーマ間の依存としてまとめる。
また、本レビューで選定した主要論文(上表)を母集団として、年次推移とテーマ比率を可視化する(網羅的計量書誌ではなく、代表研究の“出現トレンド”の参考図である)。
技術的課題と研究ギャップ
最大の技術課題は「曖昧な言語」から「厳密な仕様・幾何」へ落とす際の意味の欠落である。要求工学では、曖昧語検出・欠落補完・一貫性検査が主要タスクとして整理されるが、CAD側ではさらに「同じ形状でも意図が異なる」問題が強く、単純な形状一致では不足する。
第二に、**検証可能性(executable/solvable)**のギャップである。CAD生成は、(1)CADカーネルで実行できるか、(2)拘束が解けるか、(3)過拘束/拘束不足がないか、(4)後編集で破綻しないか、という実行時条件を満たす必要がある。DeepCADが「長いコマンド列ほどトポロジ的に無効になり得る」ことを明示し、制約生成研究がソルバを学習ループに組み込む方向に進むのは、このギャップが根本要因である。
第三に、データ不足と秘匿性である。Fusion 360 Galleryが「人間設計の構築系列データが利用可能でなかった」点を動機として8,625設計を公開し、SketchGraphsがOnshape由来の大規模スケッチ拘束(15M)を公開したことは、研究の転回点になった。 しかし、実務CADにはフィレット/面取り/複雑ブーリアン/アセンブリ拘束などが多く、公開データセットがカバーする操作が限定されるというギャップは残る。
第四に、評価指標の未統一である。CadVLMのようにCAD-F1等を提案する流れはあるが、目的により「編集性」「寸法再現」「製造制約適合」が異なるため、単一指標での比較は難しい。SysML生成でも同様に、ベンチ(SysMBench)整備が始まった段階であり、産業利用可能な品質基準(例えばレビュー工数や欠陥密度に換算される指標)が不足している。
第五に、言語→標準表現の“意味保存”問題である。STEPはIGESより広いスコープで製品データを扱うが、そもそもSTEP自体がEXPRESS等で定義された情報モデルであり、自然言語との間に大きな抽象度差がある。STEP-LLMの試みは、この差を“中間表現の設計(グラフ再直列化)”と“RAG/強化学習”で埋めようとするが、ここには依然として標準化・検証・責任分界の研究余地が大きい。
実用化と産業応用の事例
MBSE側の実用化は、標準言語とツール連携が推進力となる。SysML v2.0がformalとして公開され、仕様として要求/構造/振る舞い/解析・検証ケースを扱うことが明示されたことで、モデル交換や機械可読アーティファクト(XMI等)を中心に、将来的な自動化・生成支援の足場が整いつつある。 一方で、NLPによる要求→モデル変換は依然としてベンチや実データ不足が課題であり、SysML生成ベンチ(SysMBench)のような取り組みは産業実装前の必須段階と位置づけられる。
CAD側の実用化は「支援型」が先行する。CadVLMはスケッチの補完/制約作成をEntity AccuracyやCAD-F1で定量化し、またChatGPT系を含む基線と比較して性能向上を報告している。 さらに“設計意図整合”を明示する制約生成研究は、ソルバフィードバックにより完全拘束率を大幅に改善し、CAD生成の品質を“編集性”へ寄せる方向性を示した。
自然言語→CADプログラム生成は、短期的には「マクロ/スクリプト生成」「編集指示(追加/削除)」「部品レベルの雛形生成」で有効になりやすい。Query2CADは自然言語からCadQueryコードを生成する2段階手法で、単純プロンプトより実行成功率の改善を報告している。 CAD-Llamaは階層注釈(SPCC)を導入し、Text-to-CADでACCTやMCD等が改善すること、また削除/追加等のタスクでも平均スコアが向上することを示している。
日本語圏の実務的示唆としては、MBSE導入を整理した報告書(ツール/プロセス俯瞰)や、自然言語的な設計手順から設計知識コードを生成する古典的研究がある。たとえばJ-STAGE掲載の研究では、自然言語で記述された設計手順をもとにKnowledge Code(CATIA V5の知識コード)を生成するアプローチが議論されており、現在のLLM時代の「日本語→CAD」研究の前史として位置付けられる。
今後の研究課題と提案
言語での設計を「研究から実務へ」移すために、今後重要になる研究課題を、実験案と評価指標まで含めて提案する。
第一に、多層ベンチマークの設計である。今後のベンチは、(a) 言語理解(要求抽出/曖昧さ指摘)、(b) 中間表現生成(SysML要素/スケッチ要素/制約)、(c) 実行可能性(ソルバ・カーネル通過率)、(d) 意図保存(編集後の振る舞いの妥当性)を分離評価できる必要がある。SysMBenchのような生成ベンチと、CAD側の完全拘束率・実行成功率・ACCTのような複合指標を、同一タスク設計で接続するのが望ましい。
第二に、「設計意図」を教師信号にする方法である。設計意図はラベル付けが難しいため、(i) ソルバ由来のフィードバック(拘束過不足/解の安定性)、(ii) 編集操作後の幾何変化の安定性(パラメータ摂動テスト)、(iii) ユーザが実際に行った編集ログ、を結合した弱教師で近似する設計が考えられる。制約生成研究が示したように、ソルバFBは意図整合の実用的近似になり得る。
第三に、標準表現(STEP/SysML)を“ターゲット言語”にした生成である。STEPはライフサイクル全体を扱い、モデル要素・制約検査の仕組み(EXPRESS等)を備えるため、自然言語→STEPは「CADベンダ依存を減らす」潜在力がある。STEP-LLMはこの方向を示したが、今後は(a)標準のどのサブセットを対象にするか、(b)CADカーネル互換の保証をどう取るか、(c)生成物の検証責任をどう切るか、の研究が必要になる。
第四に、日本語要求→モデル→CADの一貫実験である。日本語は形態素解析、助詞省略、曖昧語体系が英語と異なるため、英語中心のNLP4REやCAD生成研究をそのまま適用すると誤差特性が変わる可能性が高い。実験案として、EARS等のテンプレートを日本語向けに拡張し、(1) 日本語要求→テンプレ化、(2) SysML要素生成(SysMBench形式)→(3) 簡易CAD(スケッチ+押し出し)生成、という段階的パイプラインを構築し、各段で“意味保存率”を測る設計が有効である。
第五に、人間中心評価(HCI)の再導入である。Mathurらが示したように、CADを“コード”として扱う際の障壁(習熟・可読性・デバッグ困難)を下げるには、対話的環境設計とユーザスタディが不可欠である。LLM導入後は「生成結果の正しさ」だけでなく、「設計者が納得して採用できるか(説明可能性・根拠提示)」が品質になるため、設計根拠(QOC/IBIS)と生成支援を接続するHCI研究が再度重要になる。
最後に、オンラインで入手しやすい図表/本文へのアクセス先を、再現性のためにまとめる(URLはコードブロック内に記載)。
(主要PDF/ページ例)
SysML v2.0 About(OMG):
https://www.omg.org/spec/SysML/2.0/About-SysML
NIST STEP解説PDF:
https://tsapps.nist.gov/publication/get_pdf.cfm?pub_id=821600
SketchGraphs(PDF):
https://lips.cs.princeton.edu/pdfs/seff2020sketchgraphs.pdf
DeepCAD(ICCV 2021 PDF, CVF Open Access):
https://openaccess.thecvf.com/content/ICCV2021/papers/Wu_DeepCAD_A_Deep_Generative_Network_for_Computer-Aided_Design_Models_ICCV_2021_paper.pdf
CadVLM(ECCV 2024 PDF):
https://www.ecva.net/papers/eccv_2024/papers_ECCV/papers/08913.pdf
CAD-Llama(CVPR 2025 PDF, CVF Open Access):
https://openaccess.thecvf.com/content/CVPR2025/papers/Li_CAD-Llama_Leveraging_Large_Language_Models_for_Computer-Aided_Design_Parametric_3D_CVPR_2025_paper.pdf
Aligning Constraint Generation(ICCV 2025 PDF, CVF Open Access):
https://openaccess.thecvf.com/content/ICCV2025/papers/Casey_Aligning_Constraint_Generation_with_Design_Intent_in_Parametric_CAD_ICCV_2025_paper.pdf
CLIP-Forge(CVPR 2022 PDF, CVF Open Access):
https://openaccess.thecvf.com/content/CVPR2022/papers/Sanghi_CLIP-Forge_Towards_Zero-Shot_Text-To-Shape_Generation_CVPR_2022_paper.pdf
参考文献
Alistair Mavin et al. “EARS (Easy Approach to Requirements Syntax)”. IEEE International Requirements Engineering Conference, 2009.
Tobias Kuhn. “A Survey and Classification of Controlled Natural Languages”. ACM Computing Surveys, 2014.
Lucian B. Zhao et al. “Natural Language Processing (NLP) for Requirements Engineering: A Systematic Mapping Study”. ACM Computing Surveys Technical Briefing, 2021.
Andreea Necula et al. “NLP4RE: A systematic review of natural language processing techniques applied to requirements engineering”. Requirements Engineering, 2024.
Xiang Zhong et al. “Natural language processing for systems engineering: a systematic investigation of the transition from real-world requirements to SysML diagrams”. Systems Engineering, 2023.
Tianhua Zhang et al. “SysMBench: A System Modeling Language Generation Benchmark”. arXiv, 2025.
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Jeff A. Estefan. “Survey of Model-Based Systems Engineering (MBSE) Methodologies”. INCOSE MBSE Initiative技術報告, 2008.
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Jorge Camba et al. “Extended 3D annotations as a new mechanism to explicitly communicate geometric design intent and increase CAD model reusability”. Computer-Aided Design, 2014.
Bradley W. Otey et al. “Revisiting the Concept of Design Intent in the Context of Mechanical CAD Education”. Computer-Aided Design, 2017.
Jef Raskin Conklin & Michael L. Begeman. “gIBIS: A Hypertext Tool for Exploratory Policy Discussion”. ACM, 1988.
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Shuai Wu et al. “CadVLM: Bridging language and vision in the generation of parametric CAD sketches”. ECCV 2024.
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Chaofan Lv et al. “CADInstruct: Learning CAD Generation from Instruction Data”. Computer-Aided Design, 2025.
Chang Liu et al. “CAD-Llama: Leveraging Large Language Models for Computer-Aided Design Parametric 3D Model Generation”. CVPR 2025.
Connor Casey et al. “Aligning Constraint Generation with Design Intent in Parametric CAD”. ICCV 2025.
Guan C. et al. “CAD-Coder: A Large Language Model for Computer-Aided Design Code Generation”. arXiv, 2025.
Shi Zheng et al. “STEP-LLM: Large Language Model for 3D CAD Generation in STEP”. arXiv, 2026.
Kevin Chen et al. “Text2Shape: Generating Shapes from Natural Language by Learning Joint Embeddings”. arXiv/ACCV, 2018.
Ben Poole et al. “DreamFusion: Text-to-3D using 2D Diffusion”. arXiv/ICLR, 2022–2023.
Aditya Sanghi et al. “CLIP-Forge: Towards Zero-Shot Text-To-Shape Generation”. CVPR 2022.
Rui Chen et al. “Fantasia3D: Disentangling Geometry and Appearance for High-quality Text-to-3D Content Creation”. ICCV 2023.
A. Aristidou et al. “Text-to-3D Shape Generation (State-of-the-Art Report)”. Computer Graphics Forum, 2024.
(日本語文献例)清水一郎ほか. 「利用知識ベース形状モデリング及びこれに基づく設計プログラミング支援」. J-STAGE, 2003(自然言語的設計手順→知識コード生成の議論を含む)。





