自動運転除雪機研究の動向

近年、日本や海外では少雪・過疎化に悩む地域における高齢化対策として、小規模エリア(家庭の車庫前や歩道、店舗前など)の除雪を担う自動・半自動除雪機の研究が進められている。国内では新潟県の除雪ロボット、函館高専や会津大の自律型除雪ロボット、北海道大の歩道除雪機自動化研究など、国外では屋内掃除ロボットの概念を屋外に適用したSnowEater(Yamagata大)やスウェーデンLuleå大のSnowBOTsなどが知られる。主要な研究開発例と技術要素を以下に整理する。

代表的システムと研究事例(国内外)

  • 新潟県・愛知万博実証(真柄ら 2005年): 新潟県工業技術総合研究所らは、屋根から排出した雪を圧縮してブロック化・搬出する自律除雪ロボットを開発pref.niigata.lg.jp。機体は重量約600kgで最大速度5m/s、駐車場など均一舗装域で1日約2m³の除雪能力を持つpref.niigata.lg.jp。全天周カメラ、ステレオカメラ、D-GPS、超音波センサを搭載し、自身の位置推定と障害物検出を行う仕組みであるpref.niigata.lg.jppref.niigata.lg.jp。自己位置計算にはカメラで設置マーカを認識するCassini法とDGPSを併用したpref.niigata.lg.jp。このシステムは2005年の愛・地球博で実証実験を実施し、以降実用化を目指し改良が続けられたpref.niigata.lg.jppref.niigata.lg.jp

  • 会津大学・北陸地方整備局(齋藤ら 2022-): 家庭向けの除雪ロボット開発に取り組んでいる。本体はCuboRex社の電動クローラCuGoをベースにスノープローを搭載し、Raspberry Pi+ROS上で動作する。LiDAR(Slamtec PRLiDAR A3M1)やUSBカメラ、GPSを装備し、SLAM(Google Cartographer)による地図作成と自己位置推定を行うthr.mlit.go.jp。日々降雪を検知する簡易積雪センサ(超音波式)により雪深15cm超でロボットに除雪指示が送られるthr.mlit.go.jp。事前に人手でLiDARを動かしSLAMマップを作成後、経路計画した除雪ルートを自動走行する方式で、障害物(車や雪塊)はLiDARや深層学習(YOLO)で検出し、安全に回避・停止する設計が取られているthr.mlit.go.jpthr.mlit.go.jp。2022-2023冬に実証実験を予定し、家庭レベルでの実装に向けた検証を進めている。

  • 函館工業高専(浜ら 2021年): 高齢者世帯の負担軽減を目的に自律走行除雪ロボットを開発した。プロトタイプ実験とコスト試算により「低コスト・簡素な構造」で除雪できるシステムの有効性を示したjstage.jst.go.jp。具体的な機体詳細は非公開だが、「完全自律型」であることを目的とし、実験ではプロトタイプで効果を確認しているjstage.jst.go.jp

  • 北海道大学(豊田・深作研): 積雪環境下の自動運転技術を研究。近赤外LiDARやステレオカメラ、可視カメラ、熱画像カメラを用い、高精度3次元地図の作成とSLAMによる自己位置推定を行うmaff.go.jpmaff.go.jp。歩道除雪機では従来、作業員が誘導する必要があったが、AI技術を使った人検出・警報システム(YOLO+LiDAR、白アウトでも赤外サーモカメラで人物検知)により、誘導員の役割を代替する試みを進めているmaff.go.jp

  • 国内外スタートアップ・実証: Everblue社(日本)の「除雪ドローン®」は市販小型除雪機に自動操船ユニットを搭載し、スマホアプリで遠隔監視・自動走行を実現した例prtimes.jpprtimes.jp。RTK-GNSSでセンチオーダーの位置精度を確保し、実証では自動直進・旋回や雪かき性能(手動と同等)を確認したprtimes.jpprtimes.jp。米国のLeft Hand Roboticsなどでも歩道向け自動除雪機(SnowBot Pro)が開発されており、GPSマーカーやLiDAR等で既知ルートを辿る方式が採られている。

技術要素:センサ・自己位置推定・経路計画

  • センサ技術: LiDAR、GNSS(GPS/RTK)、カメラ(RGB/ステレオ/全天周)、超音波センサ、熱赤外カメラなどが利用される例が多い。たとえば新潟のシステムは全天周カメラ+ステレオカメラにDGPS・超音波を組み合わせているpref.niigata.lg.jp。会津大のロボットはLiDARとUSBカメラに加えGPSを搭載しthr.mlit.go.jp、熱カメラも研究中である。米国SnowEaterは低解像度USBカメラ+地上マーカー(屋外版ロボット掃除機に類似)でナビゲーションするresearchgate.netresearchgate.net。Everblueの市販モデルはRTK-GNSSを活用し、車載モータの自己位置計測を行っているprtimes.jp

  • 自己位置推定・SLAM: 自動除雪ではSLAM手法が重要視される。LiDARデータとGNSS情報を融合した高精度地図を生成し、位置同定を行うのが一般的であるmaff.go.jpmaff.go.jp。会津大では事前にSLAMマップを構築し、ルート上の自己位置推定に用いるthr.mlit.go.jp。Niigataロボットでは地上に設置したカラーマーカとDGPSを組み合わせ(カッシーニ法)し、自己位置を算出したpref.niigata.lg.jp

  • 経路計画・走行制御: 小規模領域ではカバレッジパスプランニング(全域走行)手法が採られる例が多い。SnowEaterでは領域中心にマーカーを置き、放射状の直線経路でカバーするアルゴリズムが提案されておりresearchgate.net、低解像度カメラの誤差を吸収する制御設計が特徴である。Niigataシステムは矩形領域の四隅にマーカを置き経路を設定しpref.niigata.lg.jp、会津大ロボットは事前走行による地図上で任意経路を設定する。遠隔操作補助の場合はアプリで経路入力・切替を行い、自動運転と手動操作を併用できる仕組みも実証されているprtimes.jp

雪環境特有の課題

  • 視界・障害物検知: 雪中では降雪や吹雪による視界不良が常態化し、可視光カメラやLiDARの性能低下を招く。範囲レーザ(LiDAR)では降雪による誤検知が生じるため、フィルタ処理(ヒストグラム/メディアンフィルタ)で雪片を除去し路面エッジを検出する手法(SnowBOTsresearchgate.net)が研究されている。会津大のシステムでは、LiDARと深層学習(YOLOv5)による物体検知を併用し、画像認識で車や雪山を検出できない場合は停車させる安全策を組み込んでいる(事前実験レベル)thr.mlit.go.jp。北海道大の歩道除雪系では、YOLOとLiDARにより人検知し、白アウト時はサーマルカメラで検出して10m以内接近時に警告を出すシステムが提案されているmaff.go.jp

  • 走行・トラクション: 雪・氷上は摩擦低下や沈み込みが生じやすく、駆動制御の難易度が高い。特に氷床や柔らかい雪上では滑りやすく、滑動検出・制御が必要である(商用機ではYarbo社が「智能トラクション制御」を謳っている例がある)。会津大はクローラーベースだが、Everblueの最新モデルでは4輪駆動+ブレード式の構造に改良し、湿雪や凍結に強い構造を追求しているeverblue.techeverblue.tech

  • 電力・環境耐性: 低温下ではバッテリ性能が低下し、消費電力が増大する。機体を小型化・電動化する研究が多い一方、消耗対策や暖房管理が課題である。高速風雪下でカメラが凍結しないよう加熱・撥水処理する工夫も検討されている(雪問題とAIによるノート記事note.com)。

  • 法規制・ユーザビリティ: 欧米では自宅前除雪が法的義務とされる地域もあり36kr.jp、自動化ニーズが高まっている。日本では現状、除雪機一般の安全基準はあるが自律機特有の基準は整っていない。無人機の事故防止のため、「作業範囲設定」「緊急停止」「通信途絶時の自動停止」など安全ルールの明確化が必要とされる(道路建設機械の規制ガイドライン類を参照)。実装では操作者が遠隔監視・介入できるUIの工夫や、高齢者でも使える簡便な操作性の検討が求められる。

実証・社会実装の動向

  • 実験・評価: 新潟のロボットは愛・地球博で実証し、性能確認のうえ改良を継続したpref.niigata.lg.jp。会津大学では2022-2023冬にかけてデモ実験を予定し、室内実験から実フィールドへ進めている。Hakodate高専はモックアップで実験し、コスト試算で民生化への展望を示したjstage.jst.go.jp。Everblueは2023年2月に北海道滝川市でPoC実験を行い、センチ精度GNSS誘導とスマホアプリでの自動操縦を確認したprtimes.jpprtimes.jp

  • 安全対策: 研究・製品とも「人・障害物検出による緊急停止」「稼働エリアの仮想フェンス設定」「誘導員代替システム」が検討されている。前掲のようにYOLOやLiDARによる歩行者検出、障害物認識でアラート・停止させる仕組みが試作され、ユーザビリティ面では遠隔操作との切替えや動作状態の可視化が重要視されているmaff.go.jpprtimes.jp

  • 規制・運用: 現時点で除雪機の自動運転に特化した法整備は未整備だが、作業範囲や責任所在の議論が必要になる。たとえば欧米では重度の吹雪時に歩道除雪機を無人化するために安全領域設定が検討されており、国内でも建設機械自動化の検証から学ぶ動きがある。導入コスト・保険などの実社会的課題も、今後の研究課題と言える。

技術表:代表システムの概要

以下に主な研究・開発事例をまとめた。対象面積は参考値であり、実際はエリアに応じて変動する。

システム(出典) センサ・技術 制御手法・特徴 対象エリア・規模
新潟・自律除雪ロボットpref.niigata.lg.jppref.niigata.lg.jp 全天周カメラ×1、ステレオビジョン×1、GPS/D-GPS、超音波センサ 360°カメラ+マーカによる自己位置推定(Cassini法) + DGPS併用pref.niigata.lg.jp 事前作成マップ上で経路計画し圧雪ブロック化除雪 広め(駐車場等、数百m²)pref.niigata.lg.jp
会津大・自律除雪ロボットthr.mlit.go.jpthr.mlit.go.jp LiDAR (Slamtec PR LiDAR A3M1)、RGBカメラ、GPS、超音波積雪センサ ROS/CartographerによるSLAM地図生成thr.mlit.go.jp 地図上で除雪ルート計画。積雪感知で自動走行開始、LiDAR/YOLOで障害物検知thr.mlit.go.jp 家庭前の駐車スペース等(数十~数百m²想定)
函館工専・自律除雪ロボットjstage.jst.go.jp (詳細非公開) 屋内掃除ロボットに準じた自律制御 プロトタイプ実験により低コスト自動除雪を検証jstage.jst.go.jp 駐車場・歩道等(高齢者世帯向け)
SnowEater(米、2015)researchgate.netresearchgate.net USBカメラ(640×480)、100×100mmマーカー 低解像度カメラ+環境マーカーによる位置推定researchgate.net 放射状ライン経路に沿って自律走行(屋内掃除機的設計)researchgate.net 小面積(約30m²以下の歩道や玄関前など)
Everblue「除雪ドローン®」(2023実証)prtimes.jpprtimes.jp RTK-GNSS受信機、スマートフォン(アプリ通信) 市販小型除雪機に自動操船ユニットを搭載 RTK-GNSS誘導 + スマホ経由で経路設定・遠隔監視prtimes.jpprtimes.jp 私有地駐車場・庭先等(実証場敷地で検証、数百m²程度)
SnowBOTs(スウェーデン, 2007)researchgate.net スキャニングレーザ(距離計) 雪面ノイズ(落雪)をヒストグラム・中央値フィルタで除去し、ラドン変換で路面エッジを検出するアルゴリズムを提案researchgate.net 自動車テストレンジや歩道(雪氷道路全般)

課題と今後の研究方向

  • 技術的課題: センサノイズの低減や各種環境下での自己位置推定の安定化が不可欠である。現状は事前マッピングやマーカ依存が多いため、構造物の少ない圃場・私道への対応を強化する必要がある。除雪状況に応じた適応型経路生成(降雪予測との連携)、複数機協調除雪、自律充電なども未解決課題である。凍結路や深雪での滑り検出・制御、安全フェイルセーフ機構の高度化も求められる。

  • 社会実装: 実用化には信頼性・安全性の確保が鍵となる。現在は主にデモ実験段階だが、実証データを基にユーザビリティ(操作性・故障対策)を検証する必要がある。法制度面では、無人で除雪作業を行う場合の責任範囲や保険適用などの整備が課題である。

  • 今後の展望: 北陸先端大で進む「生成AIを用いた除雪ロボット」(2024–)kaken.nii.ac.jpのように、深層学習による環境認識や経路最適化の導入が期待される。また、ドローン技術やIoTセンサネットワークとの連携で、降雪予測・広域監視を組み合わせた省力化システムの構築も考えられる。市販小型除雪機の自動化に注力するスタートアップ(Everblue、Yarbo等)は、ハード形状の最適化や多機能化(除草・落葉清掃など)にも言及しており、汎用屋外ロボット化への流れも見られるeverblue.techeverblue.tech

参考資料: 国内外の論文・報告書やメーカー資料から、上述各項目を抜粋・再構成した(例:pref.niigata.lg.jppref.niigata.lg.jpjstage.jst.go.jpresearchgate.netthr.mlit.go.jpmaff.go.jpなど)。各システムの詳細は出典論文・発表資料を参照されたい。