切れ刃の材質に求められる条件は、硬さ、粘さ、耐熱性、高熱伝導率、表面が滑らか、低摩擦係数、容易な成型性、化学的安定性などがあります。
これらの条件が切削工具ごとにどのようになっているか把握してみましょう。

炭素工具鋼

炭素工具鋼の材料記号は「SK」で表します。
炭素(C)の含有量0.55~1.50%の範囲で11種類に分類され、含有量が最も少ないものを「SK60」、最も多いものを「SK140」と定義しています。

<特徴>

・200℃を超えると、急激に硬さが低下する。
(焼き戻し温度を超えることに起因)

・HRC60程度の硬さを有している。
(焼きなまし後、焼き入れ、焼き戻しが必要)

 

合金工具鋼

合金工具鋼は適用例によって、「SKS」、「SKT」、「SKD」の3種類で表される。
炭素工具鋼に耐熱性、耐衝撃性、熱処理性の向上を目的として、合金元素(クロム、タングステン、モリブデン、バナジウム、ニッケル)を1種類または2種類以上含有した工具鋼です。

<特徴>

・200℃を超えると、急激に硬さが低下する。
(焼き戻し温度を超えることに起因)

高速度工具鋼

高速度工具鋼は「HSS」と表示され、略称ハイスと言われる。
(JISではSKHで表記される)
高速度工具鋼は粘さに優れており、少々の衝撃では欠け難い。
(粘さが必要なドリルやタップに有効)

炭素工具鋼、合金工具鋼と硬さは同じ程度だが、600℃まで硬さが低下しない。

<特徴>

・600℃まで硬さが低下しない。
(開発当初高速に削れる工具だったが、今となっては切削速度が高いとは言えない)

成分と種類

ハイスは、タングステン(W)系とモリブデン(Mo)系があります。
JISでは、JISG4403にまとめられています。

タングステン系には、おおよそ18%前後のタングステンが添加されています。モリブデンは含んでいません。種類としては、SKH2、SKH3、SKH4及びSKH10があります。
このシリーズは耐摩耗性が大きいので、切削工具等に多く使われています。

モリブデン系は、おおよそ5%前後のモリブデンと、6%前後のタングステンが添加されています。種類としてはSKH51〜SKH59までの9種類があります。
このシリーズはじん性が高いことから、衝撃を受けるプレス金型に適しています。よく使われているのはSKH51(旧名SKH9)です。

 

モリブデンハイスにコバルトを加えた工具鋼にコバルトハイスがあります。
モリブデンハイスにくらべてさらに硬度が上がり、耐摩耗性に優れます。

 

●ハイスは製法によって、溶解ハイスと粉末ハイスという二つに分けることができます。

溶解ハイスがあります。
これは、通常の鉄鋼材料をはじめ合金鋼や工具鋼を製造する要領と同じで、
原料を電気炉などで溶かしたものを形にしていき圧延したものになります。
金属組織を構成する粒径は比較的粗いものになります。

もう一方で粉末ハイス鋼とは、粉末冶金法によって製造されるハイス鋼のことで、
製造方法は型に元となる材料の粉をいれて、熱と圧力をかけながら焼結していきます。
元となる材料は一度溶かしており、それをさらに微粉末にして焼き固めるという
方法をとることで金属組織がより緻密で結晶粒も小さいものになります。

溶解ハイスと粉末ハイスでは、粉末ハイスのほうが強靭で耐摩耗性に優れ、
疲労に強く靱性に優れた鋼材となります。
寿命も粉末ハイスのほうが溶解ハイスより長くなります。

超硬合金

超硬合金は、1920年頃、切削工具材料として開発され、現在、切れ刃(チップ)材質として最も多く使用されています。
超硬合金の主成分は炭化タングステン(WC)で、そこに結合剤(接着剤)としてコバルトを添加し、高圧高温で焼結したものを超硬合金といいます。

超硬合金は材料に含まれる成分の含有量によって、K種(赤色)、P種(青色)、M種(黄色)の3つに分類されます。

・K種(赤色)は炭化タングステン(WC)にコバルトを添加し焼結したもの。純粋な超硬合金。
せん断形の切りくずやき裂形の切りくずが発生し、すくい面摩耗よりも逃げ面摩耗が激しい材料に適する(機械的損傷に強い)
鋳鉄など硬い材料の加工に有効(鉄鋼材料には不向き)
最も硬く、粘り強い

・P種(青色)はK種より炭化タングステンを減らし、炭化タンタル、炭化チタンを多く添加したもの。
流れ形の切りくずが発生し、熱が発生する加工に適する(熱的損傷に強い)
鉄鋼材料の切削が可能(耐溶着性に優れている)
K種より硬さが劣る

・M種(黄色)はP種で添加した炭化タンタル、炭化チタンの含有率を若干減らしたものです。
ステンレス鋼やアルミニウム鋼の加工に適している(鉄成分の少ない被削材)
P種とK種の中間的な材質

サーメット

サーメットは炭化チタン、炭化タンタル、窒化チタン、を主成分としニッケル、モリブデンを焼結したものです。
サーメットという名称はセラミックスとメタル(金属)の複合材料を意味します。
炭化タングステンより耐熱性に優れている。

セラミックス

セラミックスは、硬さ、耐熱性、化学的安定性(工作物と反応しない)、耐摩耗性、耐欠損性、耐衝撃性など機械的特性にすぐれており、切削工具として非常に優位。
1950年前半から使用されるようになった。
セラミックスは大別するとアルミナ系と窒化けい素系に分類される。

CBN

CBNは「Cubic Boron Nitride(キュービック ボロン ナイトライド)」の略称で、「立方晶窒化硼素」を意味します。
結晶構造はダイヤモンドと同じであるため、とても硬い。
主として、鉄系金属、鋳鉄、焼入鋼、高硬度材などに使用されます。
ただし、粘さに乏しいため断続切削には適用できません。

切れ刃の特徴

工具材料 説明 特徴 主な対象工作物材料
ダイヤモンド もっとも硬い材料であるダイヤモンドの単結晶を成型した工具。 ○耐熱・耐摩耗性に優れる。構成刃先を生じにくい。鋭利な刃先の成型が可能で鏡面切削に向く。
×靭性に乏しくて欠けやすい。鉄系材料では摩耗が大きい。
アルミニウムなどの非鉄金属
ダイヤモンド焼結体 ダイヤモンド微粉にコバルトなどを添加して焼結した多結晶焼結体。 ○ダイヤモンド工具と同様だが、焼結体にすることにより靭性が向上している。
×鋭利な刃先は作りにくい。
非鉄金属、超硬合金、セラミックス
cBN焼結体 ダイヤモンドに次ぐ硬さを持つcBNにコバルト、炭化チタンなどを添加して焼結した多結晶焼結体。 ○鉄系を含む高硬度材料の切削が可能。
×軟質材料の加工では摩耗が大きくなる。
高硬度焼入れ鋼、工具鋼、超硬合金
(HRC70程度まで)
セラミックス 酸化アルミニウム、炭化チタン、窒化珪素などの硬質材料を焼結した材料。
結合添加剤を含まないため、高温硬度、摩耗特性に優れる。
○高温硬さ、耐摩耗性に優れる。
×靭性に乏しく欠けやすい。
鋳鉄、耐熱合金、焼入れ鋼、工具鋼
コーティング 高速度工具鋼、超硬合金、サーメットを母材としてPVDやCVDによって炭化チタンや酸化アルミニウムをコーティングした切削工具 〇母材の高靭性とコーティング材の耐摩耗性・耐溶着性などを併せもつ
×衝撃・熱流入による、母材とコーティング材の密着性に問題がある
炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、高硬度焼入鋼
※母材(ハイス):HRC40程度
※母材(超硬):HRC60程度まで
サーメット 炭化チタン、窒化チタンにニッケル等を添加して焼結した材料。 セラミックスと超硬合金の中間の性質を持つ。 炭素鋼、合金鋼、
超硬合金 炭化タングステン粉末に炭化チタン・炭化タンタルなどを添加して、コバルトで焼結した材料。 ○硬さ、耐摩耗性、靭性をバランスよく備え、切刃の信頼性が高い。
×
炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、各種難削材料
高速度工具鋼(ハイス) 鉄をベースとし、タングステン・クロム・バナジウム・モリブデンなどを加えた合金工具鋼。 ○靭性に優れ、良好な成形性を持つ。
×耐熱性・耐摩耗性に劣る。
炭素鋼、合金鋼
炭素工具鋼 炭素鋼を基本とし、炭素を0.55~1.5%含有した工具鋼(熱処理系工具) 〇焼入れ、焼戻し処理により、HRC60程度(超硬合金と同程度)が得られる。
×200℃超で急激に硬さが低下
コーテッド工具 超硬合金やハイスにPVD・CVDによって炭化チタンや酸化アルミニウムを被覆した工具。
耐摩耗性・摩擦特性が改善される。
○母材の高靭性と被覆材の耐摩耗性・耐溶着性などを併せ持つ。
×衝撃・熱サイクルなどがあるとき、母材と被覆材の密着性に問題がある。
炭素鋼、合金鋼、ステンレス鋼、高硬度焼入れ鋼

参照:切削データベース

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