サダム・フセインがイラクの隠れ家で逮捕された日のことである。

この日の午前中、米国債価格は上昇していた。
投資家は安全な投資先(つまり米国債)を物色していたらしい。

そこへ、ブルームバーグ・ニュース・サービスが次のようなヘッドラインを配信した。
「米国債価格は上昇中。フセインの逮捕はテロ抑止にはつながらない見通し。」

 

30分後に国債価格は下落し、今度は次のようなヘッドラインが配信された。
「米国債価格は下落。フセイン逮捕の影響でリスク資産に魅力」。

 

フセインの逮捕は、まちがいなくその日の最大の事件である。
そして私たちの思考は自動的に原因を探すようになっているので、その日の市場で起きたことは、すべてこの事件で説明される運命にあった。

二つのヘッドラインは、一見すると、市場の動きの説明になっているように見える。
だが二つの正反対の結果を一つの理由で説明できる文章には、何の意味もない。

ヘッドラインは結局のところ、つじつまの合う説明を欲しがっている読者のニーズを満足させるだけだった。
大きな事件はさまざまな結果を引き起こすとみなされ、また結果にはそれを説明する原因が必要だと考えられている。

私たちはあの日の大事件に関して限られた情報しか持ち合わせていなかったが、システム1は手持ちの断片的な知識を結び付けて、うまいことつじつまの合う因果関係をこしらえ上げたのだった。

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