燃料電池に欠かせない重要な白金触媒や固体分子膜は、田中貴金属や旭化成、JSRといった日本の素材・化学メーカーが世界的に競争力を持つようになっている。
各社がしのぎを削る開発が追い風となり、2000年を迎えた頃には、日本のFCVが世界最先端を誇示する段階にまで進んだ。
その後、日本が大きな強みを持っている炭素繊維をベースにした700気圧の水素タンクの実現によってFCVの技術はいっそう進化を遂げ、航続距離の拡大が実現した。
かつては1台1億円だったFCVも、コスト低減効果によりミライの場合、国の補助金制度を活用すれば510万円程度で手に入れられる。
現時点で本格的な市販に漕ぎつけたのはトヨタとホンダ、それと近年存在感を示してきた現代自動車のみ。
技術の構築、技術進化、特許やノウハウの知財力、先進性を軸としたブランド力向上という意味では、日系2社が際立っている。
この2社に割って入ってきた現代自動車のNEXOの販売台数は、2019年に限って見ればトヨタのミライの台数を大きく上回る5,000台弱まで躍進させた。
それゆえに、他社も次世代自動車として見過ごすわけにはいかず、BMWはトヨタと、GMはホンダと、ダイムラーとフォードはニッセンとアライアンスを構築した。
BMWは2020年に少量生産を計画しているが、これにはトヨタのFCスタック(発電装置)が採用される予定だ。
この背景には、部品点数の多いFCVのコストはEVに比べて高くなることで、部品の共有化などでコスト低減する戦略が重要であることが挙げられる。
となると、このアライアンスに入り込めないほかの自動車メーカーは、FCVでは苦戦を強いられることになる。
2019年7月6日付の日刊工業新聞によると、ホンダは2020年を目標に市場投入を計画していたFCV次期モデルについて、2~3年延期する判断をしたという。
水素充填インフラ整備が不十分なことなどから、いまだ本格普及は難しいと判断したからとのこと。
当面は、まずFCVよりもEVを優先した方向に経営資源を集中することとした。
2017年に、ホンダはGMとFCVの心臓部であるFCスタックの開発と生産で協業を合意し、共同事業化を目指す方針を打ち出した。
2020年を目途に米国で量産をはじめ、それを搭載したFCVを両社それぞれが同国などで発表する計画だったが、スタックの開発と量産準備は予定通り進めるものの、車両投入を遅らせるとのこと。
一方、トヨタ自動車は2020年後半の投入を計画する新型ミライを、現行モデルと比べ大幅増産する計画でホンダの戦略とは大きく一線を画すこととなる。
FCV本体の開発のみならず、二酸化炭素フリーとなる水素製造法の確立や、給油所の製造コストの4~5倍ともいわれる水素ステーションの設置など、多くの課題が山積みしているもの事実だ。
研究開発費、研究開発マンパワーなど、大きな経営資源を必要とするFCVであるから、中堅規模の自動車会社にとっては大きな負担となる。
FCVを構成する基幹コンポーネントであるFCスタック、モーター、二次電池、パワー半導体、制御システム、さらには触媒や固体分子膜、セパレーターなどの素材・部材分野は日本勢が強みを持つ領域である。
それらをテコに日本勢が、今後も FCVの開発で世界をリードしていくことは想像に難くない。
●FCVの客観的評価
FCVに魅力はあるものの、解決すべき課題も多々あるのが実情だ。
FCV本体価格の問題、1基約5億円が必要とされる水素ステーション(ガソリン車にとっての給油所)の設置障壁、白金触媒の需要増大とともに生じる資源問題等々、普及には10年以上の期間を要するものと映る。
走行エネルギーとしての水素は、天然ガスのクラッキング(触媒分解)で生成させるため、この段階ですでに二酸化炭素を排出する。
したがってライフサイクル評価としては、FCVは完全なゼロエミッション自動車とは言えない。
将来的には水素生成の段階での二酸化炭素フリーのプロセスが必要になる。
同時に、水素燃料費の価格低減を実現できなければ消費者にとってはメリットがないことになる。
では、EVならどうか。
電気代のランニングコストはすこぶる魅力的だ。
しかし、車両価格の他に家庭に充電器を設置しないとりようできないため、充電器価格を上乗せする形で議論しなければならない。
航続距離や充電時間の問題はすべて電池性能に依存する。
何と言っても車載用二次電池の進化がEVの進化を決める。
そういう意味から現在のリチウムイオン電池の性能向上のみならず、ポスト・リチウムイオン電池である革新電池の研究に期待と拍車がかかる。
日本政府も各省単位で様々な国策プロジェクトに少なからぬ資金を投じていることから、それを受けての研究開発は成果をアウトプットそして社会に還元し、貢献する責任がある。
一方、HEVは完全なる普及段階に達しており、社会的認知度も非常に高い。
とくにガソリン価格の上昇局面では、燃料消費の少ないHEVは消費者がメリットを直接的に享受できる商品だ。
日本の道路事情や、都市部での始動・停止頻度の高い市場においては効果が顕著である。
このようにFCV、EV、HEVの実社会での立ち位置は、地域や経済情勢によって大きくことなる。
もっと知るには・・・
(EVに興味ある方や、EV関連に投資している方は読んだ方がよい本。管理人は読んでて面白くて、ワクワクしました。)
技術に興味のある方:リチウムイオン電池についてもっと知るには
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