CO2排出量低減や環境保全を実現するため、 自動車における電動化は必須な流れであり、日 本国内の新車販売台数におけるHV(ハイブ リッド自動車)を中心とする環境対応車比率は 2007年ごろから急激に増加し、現在、新車販 売の40%にまで達している。このHV車も1997 年にトヨタ自動車が最初に市場導入した時点は ニッケル水素電池が採用された。その後、2003 年初には赤信号などで停止した時にエンジンを 停止させ、青信号の時に再度エンジンをかける エコランと呼ばれるシステムにリチウムイオン 電池が採用されている。 その後、体積当たりのエネルギー密度が大き いことからPHV(プラグインハイブリッド自 動車)、EV(電気自動車)にも採用され主流の 電池となった。しかしながら、電気のみをエネ ルギー源とするEVは未だごく限られた数(約 1%)しか市場導入されておらず、現状のリチ ウムイオン電池(液系リチウムイオン電池)自 体の課題そのものがEVの課題となり、普及を 妨げている。EVはガソリンエンジン車等、従 来の内燃機関を原動力とする自動車と比較し て、①航続距離の不足、②高価、③充電時間が 長い、④構成材料が可燃性を有し、車両システ ムとしての安全対策が必要である等が課題とし て挙げられる。 図1に示すように、現行の液系リチウムイオ ン電池では、EV用途においてエネルギー密度 に限界が見られており、より高エネルギー密度 を実現可能な次世代リチウムイオン電池が求め られている。次世代の電池として検討されてい るさまざまな種類の革新電池は多価イオンや硫 黄電池などがあるが、それらの中で最も実用化 が近いと思われるのが、硫化物系固体電解質を 使用した「全固体リチウム イオン電池」である。エネ ルギー密度の大幅な向上が 見込めると同時に、セルあ たりの容量増加によるWh あたりのコスト低減、部品 /システムの簡略化による コスト低減も期待される。 また、固体電解質を使用す ることによる急速充電の実 現や可燃物である有機系電 解液を使用しないことによ る安全性面でのメリットも大いに期待される。
全固体リチウムイオン電池
図2に従来の液系リチウムイオン電池と、全 固体リチウムイオン電池との構造の差異を記載 した。基本的な構成は同一であり、正極/負極 間でLi+イオンを伝導させる電解液、及び正極 /負極の絶縁性を保証するセパレータの二つ を、固体電解質一つに置き換えた所が差異点で ある。電解質の固体化によりシンプルなセル構 造となり、低コストを実現するリチウムイオン 電池が期待される。固体電解質の研究は以前よ り取り組まれていたが、有機電解液のイオン伝 導度(1.6×10-2 S/cm)1 に比べると低い伝導 度であったため、リチウムイオン電池への適用 は困難であった。しかしながら、大阪府立大学 の辰巳砂教授らのグループ2, 3と、東京工業大 学の菅野教授らのグループ4 によって有機電解 液に匹敵するLiイオン伝導度を示す硫化物系 個体電解質が開発されたのをきっかけとして、 世界的に全固体リチウムイオン電池が注目を集 め、研究開発が加速している。欧米では高分子 固体電解質(SPE)の開発も盛んに行われてい るが、硫化物系固体電解質については、日本が 先行している状況にある。その他、酸化物系固 体電解質、ポリマーやイオン液体などと無機固 体電解質を複合したハイブリット系での検討も 行われている。現状では、固体電解質粉末を一 旦溶媒に溶かして塗工し、乾燥させて溶媒を飛 ばすことにより電解質層を形成する工法を採用 し小型電池を作製しているが、硫化物系固体電 解質は成型性に優れるため、固体/固体界面の 形成がし易く、実用化に向けた研究が国内では 多くなされている   引用:https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/25/2/25_2_26/_pdf/-char/ja