3Dプリンターで植木鉢を作るとき、最初に迷うのがフィラメントの選択です。
手元にあるのはたいていPLA。安くて印刷が楽で、失敗も少ない。そのまま使いたくなります。
ですが、常に水に触れる用途ではPLAを避けるべき理由があります。特に食虫植物の腰水栽培のように、鉢が年中水に浸かっている環境では決定的です。
この記事では、PLAとPETGの違いを鉢という用途に絞って整理します。
結論から
腰水で使うならPETGです。ASAやPPも選択肢になります。
判断の分かれ目は3つあります。
| 項目 | PLA | PETG |
|---|---|---|
| 水中での加水分解 | する | しにくい |
| 耐熱温度(荷重たわみ) | 約55〜60℃ | 約70〜75℃ |
| 屋外の紫外線 | 弱い | やや強い |
| 印刷の難易度 | 易しい | やや難しい |
| 価格 | 安い | やや高い |
以下、それぞれ詳しく見ます。
違い1:PLAは水中で加水分解する
これが最大の理由です。
PLA(ポリ乳酸)はエステル結合を持つ樹脂で、水分と反応して分子鎖が切れていきます。これが加水分解です。分子量が下がると材料は脆くなり、最終的に指で欠けるほど強度を失います。
PLAが「生分解性プラスチック」と紹介されるのは、この性質があるからです。環境には優しい特性ですが、年中水に浸かる鉢としては欠点そのものになります。
進行速度は温度に強く依存します。常温の水ならすぐには壊れませんが、夏場の腰水は水温が上がるため加速します。どのくらいの期間で脆くなるかは水温・肉厚・フィラメントの銘柄で大きく変わりますが、季節をまたいで使ううちに、底面や薄い部分から脆さが出てくる可能性があります。
PETG(グリコール変性PET)も化学的にはエステル系ですが、PLAに比べて加水分解の進行が格段に遅く、ペットボトルの材料と同系統であることからも分かる通り、水に触れる用途に耐えます。
違い2:夏の直射日光の熱に耐えるか
PLAの荷重たわみ温度はおよそ55〜60℃です。
屋外の直射日光下では、黒い樹脂の表面温度が60℃を超えることは珍しくありません。PLA製の鉢が夏に変形したという話はよく聞きます。
PETGは70〜75℃程度まで耐えるので、屋外でも形を保ちます。
この点は色の選択とも関係します。濃色は熱を溜めやすいので、PLAでなくても淡色を選んだほうが安全です。地温が上がると根も傷みます。
違い3:紫外線と屋外耐候性
PLAは紫外線で劣化し、脆化・変色が進みます。
PETGはPLAより耐候性がありますが、長期の屋外運用ではASAのほうが上です。ASA(アクリロニトリル・スチレン・アクリレート)はABSの耐候性改良版で、屋外看板などに使われます。
- 室内や半日陰:PETGで十分
- 一年中、直射日光の下:ASAを検討
ただしASAは印刷難度が上がり、密閉チャンバーがほぼ必須です。臭いも出ます。
PETGの弱点
いいことばかりではありません。PETGには扱いにくさがあります。
糸引きしやすい:リトラクション設定の追い込みが必要です。鉢のような造形では、細かい凹凸の間に糸が残りやすくなります。
ベッドに食いつきすぎる:PEIシートに直接印刷すると剥がせなくなることがあります。糊を薄く塗る、テクスチャードシートを使うなどの対策をしてください。
オーバーハングが垂れやすい:PETGは全体の冷却をPLAより弱めにするのが基本ですが、オーバーハング部分だけは冷却を強める必要があります。
表面がつやつやする:積層痕が光って目立ちます。鉢の見た目を重視するなら、マットタイプのPETGを選ぶと陰影がきれいに出ます。
印刷設定の目安
鉢として使う場合の設定です。機種やフィラメントで変わるので、出発点として考えてください。
- ノズル温度:230〜250℃
- ベッド温度:70〜85℃
- 冷却:40〜70%(PLAより弱め、ただしオーバーハングでは強める)
- 速度:PLAより2〜3割遅く
- 壁(ウォール):3周以上
最後の項目が重要です。薄い壁は水漏れの原因になります。
そもそもFDMの印刷物は完全防水ではない
ここは誤解されやすい点です。
PETGを使っても、FDM(積層)方式の印刷物は完全防水ではありません。 層の間には微細な隙間があり、無処理だとレイヤーラインに沿って水がじわじわ染み出します(weeping)。
鉢本体は「濡れて吸水する」部品なので多少の透水は問題になりません。ですが、水を溜める受け皿を自作するのは勧めません。
受け皿は四六時中水を溜め続ける部品で、要求性能が完全防水です。壁を厚くする、底層を増やす、内面をコーティングするといった対策はありますが、手間の割にリスクが残ります。
漏れて困る側は市販品を買い、こだわりたい側を作る。これが現実的な分担です。
用途別のまとめ
| 用途 | 推奨 |
|---|---|
| 腰水で使う鉢(室内・半日陰) | PETG |
| 一年中、屋外の直射日光下 | ASA |
| 水を溜める受け皿 | 市販品を購入 |
| 試作・形の確認だけ | PLAで可 |
| 屋内の観賞用・乾燥系植物 | PLAでも可 |
色の選び方
材料とあわせて、色にも実用上の意味があります。
- 濃色・黒:熱を溜め、腰水の水温と地温が上がる。避けたほうが安全
- 透明・半透明:光が用土まで届き、藻やコケが湧きやすい
- 真っ白:腰水を続けると水位のラインに白い塩類の輪が出て目立つ
- サンド、ウォームグレーなどの中間色:熱を溜めず、汚れも目立たず、植物の葉色が映える
見た目の好みだけでなく、こうした理由から淡色の中間色をおすすめします。
おわりに
PLAは優秀なフィラメントですが、水と熱という2点で鉢には向きません。
手元にPLAしかないなら試作には使い、実際に植える鉢はPETGで刷り直す。この使い分けで失敗が減ります。
鉢そのものの寸法設計(深さや形状の決め方)については、食虫植物の鉢を3Dプリントで作る:Meshy AIとCADの役割分担で詳しく書いています。
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