並行作業では、必ずどこかが抜ける
3Dプリンタで配布用の小物をまとめて刷ろうとすると、確認事項が一気に増える。
姿勢は適正か。サポートは要るのか要らないのか。何個必要なのか。色はどう割り振るか。ベッドに収まるか。フィラメントは足りるか。
一つひとつは難しくない。ただ、18ファイルを相手に全部を頭に置いたまま進めると、どこかが抜ける。今回は実際に抜けた。しかもAI側も人間側も抜けた。
この記事は、その抜けどころが両者で違っていたという記録である。「AIは便利」という話ではない。AIも間違えたし、間違え方に傾向があった、という話だ。
やったこと
手元にあったのは、ThingiverseとPrintablesから落としたパズル系のSTLとBambu Studioのプロジェクトファイル、合わせて18個。これをP2S(造形範囲256×256×256mm)で、AMSに入っている黒・白・赤・青のPLA Basicを使って一括で刷りたい。色分けもしたい。
作業をこう分けた。
- AI側:全ファイルの寸法・体積・メッシュ健全性の計測、印刷姿勢の評価と修正、プレートへの配置、色の割り当て
- 人間側:スライサーでの最終確認、実際の印刷、結果のフィードバック
結果は4プレート。フィラメント交換回数0、合計187.86 g、約6時間29分。
| プレート | 色 | 個数 | 重量 | 時間 |
|---|---|---|---|---|
| A | 黒 | 3 | 41.76 g | 1h53m |
| B | 白 | 4 | 43.85 g | 1h14m |
| C | 赤 | 9 | 50.43 g | 1h31m |
| D | 青 | 10 | 51.82 g | 1h51m |
ここに至るまでに、6回の相互修正があった。
AIが間違えた4回
1. 必要個数を根本的に読み違えた
最初の配置で、パズルキューブを1個、パズルスフィアを1個しか置かなかった。
正解はキューブが3個、スフィアが6個である。どちらも「同じ形の部品を複数個組み合わせて完成する」設計だった。1個だけ刷っても、ただの変な形の塊が手元に残るだけだ。
体積から推測はしていた。45mm角のキューブに対して部品の実体積が28.19cm³しかない。キューブの体積は91.1cm³だから、明らかに足りない。そこで「他のピースのSTLが別にありませんか」とは聞いた。
だが答えを出せなかった。回転対称性を疑ってボクセル化して検証したものの、3回対称でも4回対称でも一致しない。当然で、この設計は回転ではなく平行移動でスライドして噛み合う。中心まわりの回転しか試していない検証では、永久に見つからない。
判明したのは、README.txtをアップロードしてもらってからだ。そこには一行こう書いてあった。「3 identicle parts that slide together」。
2. 同じ間違いをもう一度した
フィジェットスパイラルスフィアも1個しか配置しなかった。これも正解は2個。「一つのSTLに同一形状の部品が入っていて、2色で刷れる」という設計だった。
キューブとスフィアで同じミスをして、その後もう一度同じミスをしている。パターンとして学習できていない。
3. 取り扱い方を正反対に説明した
印刷後に部品が固着していた場合の対処として、こう答えた。「両手で持って少し力を入れて捻れば動き出します」。
READMEには逆のことが書いてあった。「do not force together」——無理に押し込むな。摺動面にブロブ(樹脂のダマ)が残っていないか先に確認せよ、と。
力をかけろと言ったのは、一般的な print-in-place モデルの経験則から出た推測である。そして推測を推測として提示しなかった。これがいちばん危ない間違い方だった。
4. ライセンスに触れなかった
スパイラルスフィアは CC BY-NC-ND、つまり販売禁止・改変禁止・帰属表示必須である。無償で配る分には問題ないが、私はメルカリで3Dプリント品を売っている。「お土産用」という言葉だけで判断して、この確認を自分から持ち出さなかった。
人間が抜けた2回
1. サポートがオンのままだった
最初のスライス結果は、サポート材が2.08m/6.31g計上されていた。
この中にはフィジェットスパイラルスフィアが入っている。print-in-place、つまり組み立て不要で可動部がそのまま刷り上がる設計だ。可動部の隙間にサポートが入り込むと、除去できず固着する。刷った瞬間に失敗が確定する類の設定ミスだった。
サポートを切った結果、造形時間は2h13m→1h45mに短縮された。
2. プレートDでブリム設定を忘れた
ブリムはプレートごとのオブジェクト設定なので、プレートAで設定しても他のプレートには引き継がれない。プレートDのスライス結果にブリムの輪郭が見当たらなかった。
そしてこれは、すでに一度失敗している条件そのままだった。
最大の失敗は、どちらのせいでもなかった
プレートAの印刷中、造形物がベッド上で動いた。
サポートを切った直後だったので「サポートがないせいか」と考えるのは自然だ。だが違う。サポートは物を支える機能であって、ベッドへの定着力は一切増やさない。
原因はビルドプレートの皮脂だった。テクスチャPEIは表面に凹凸があり、その谷に手の脂が溜まる。そしてIPA(イソプロピルアルコール)では落ちない。むしろ薄く伸ばして広げてしまうことがある。
正解は中性洗剤とぬるま湯で洗うことだ。Bambu Lab の公式推奨でもある。洗って完全に乾かし、以後は表面を素手で触らない。
これは人間の作業ミスでもAIの判断ミスでもなく、単に「知っているかどうか」の問題だった。そしてこの手の知識こそ、検索してもノイズの中に埋もれやすい。
AIが確実に役に立った部分
間違いの話ばかりしたので、明確に効いた部分も書いておく。数値で検証できる作業は、人間より確実だった。
印刷姿勢の定量評価
各パーツについて、面法線と面積から「Z=0での接地面積」と「45度を超える下向き面の面積」を全方向で計算し、最適姿勢を選んだ。
| パーツ | 接地面積(変更前→後) | 備考 |
|---|---|---|
| Twins_A | 477 → 766 mm² | 組立座標のまま10.4mm浮いていた。オーバーハングも210→0 mm²。 |
| パズルキューブ | 744 → 2006 mm² | 高さも29.6→19.4mm。45mm角の面が全面接地する姿勢へ。 |
| キューブスタンド | 12.7 → 660 mm² | 球面が下向きだった。 |
キューブスタンドは、元のままなら接地面積12.7mm²、つまり爪の先ほどの面積で40mm近い球体を支えることになっていた。ほぼ確実に失敗する。
READMEの記述と幾何形状の照合
パズルキューブのREADMEに「Bridge length is 22mm」という記述があった。これを手がかりに6方向すべてを評価したところ、ある姿勢でのみ z=33.9mm の位置に505mm²(約22×23mm)の水平な下向き面が1箇所だけ現れた。
数値が一致した。これが作者の意図した姿勢である。文章の記述と幾何形状が突き合わさった瞬間で、こういう照合は機械のほうが速い。
色割り当ての組み合わせ最適化
4色・15種類・計26個を、「1プレート1色(パージ廃棄ゼロ)」「中身と入れ物は別色」「同一形状の複数部品は色を散らす」という制約下で割り振る。結果、4プレートの実体積は76.9/94.6/101.4/90.8 cm³とほぼ均等になった。
パズルキューブの3個を1プレートに混色で置くと、45mm分・約300層すべてで色替えが発生する。パージ量が本体に匹敵する。3枚に1個ずつ散らしたのはそのためだ。
結論:抜けどころが違うから、補い合える
整理するとこうなる。
AIが抜けたのは、外部文書に書かれた一次情報だった。必要個数、取り扱い方法、ライセンス。どれも形状からは読み取れず、READMEに書いてあった。そして推測で埋めて、推測だと言わなかった。
人間が抜けたのは、設定の引き継ぎと横展開だった。サポートのオン・オフ、プレートごとのブリム設定。一度やったから大丈夫だろう、という思い込みが働く場所だ。
どちらも抜けたのは、現場の暗黙知だった。プレートの洗い方は、どちらも最初は持ち出さなかった。
だから分担が成立する。AIに「数えろ」「測れ」「全通り試せ」を投げ、人間が「それは実物と合っているか」を見る。逆にAIに「前の設定は引き継がれているか」を聞かせる。
重要なのは、AIの出力を検証なしで通さないことだ。今回、私の最初の配置案をそのまま印刷していたら、組み立て不能なパズルの部品が1個ずつ出来上がっていた。刷り上がって手に取るまで気づかない類の失敗である。
逆に言えば、READMEを1枚アップロードするだけで、その失敗は全部回避できた。AIに渡す情報が足りていないとき、AIは「足りない」と言わずに推測で埋める。これが最大の注意点だと思う。
並行作業で頭がいっぱいのときこそ、この性質は効いてくる。自分が確認できない状態で、確認したふりの出力を受け取ることになるからだ。
今回使用したモデル
- Puzzle Cube (easy print no support) by WildRoseBuilds — https://www.thingiverse.com/thing:2975065
- Puzzle Sphere by emmett — https://www.thingiverse.com/thing:5862
- Fidget spiral puzzle sphere by Galaxy33 — https://www.thingiverse.com/thing:6704812(CC BY-NC-ND)
- Puzzle – Triple twins by AndresMF — https://www.thingiverse.com/thing:2823493


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