多色印刷をやると、造形物より捨てるフィラメントのほうが多い。これはマルチカラー3Dプリンタを使ったことがある人なら誰でもぶつかる話です。
ただ、その廃棄量が何によって決まるのかは、意外と整理されていません。個数を増やせば増えるのか。色数を増やせば増えるのか。同じ3色でも組み合わせ方で変わるのか。
Bambu Lab P2S でカエルのモデルを12個、3色で同時出力して実測しました。結論から書きます。
廃棄量は「1レイヤーに登場する色数 × 層数」で決まります。造形物の個数はほぼ関係ありません。
この一点を理解しているかどうかで、フィラメントの消費量が倍以上変わります。
実測データ
条件はこうです。
- プリンタ: Bambu Lab P2S + AMS
- モデル: 関節可動のカエル(37.5 × 40 × 11.7 mm)を12個
- 積層ピッチ: 0.2 mm
- フィラメント: PLA 3色(黒・赤・青)
- 配色: 「胴体・模様・瞳」に3色を割り当てた6パターンを各2個
スライス結果です。
| 造形物 | フラッシュ | プライムタワー | 合計 | |
|---|---|---|---|---|
| 黒 | 14.96 g | 13.16 g | 3.03 g | 31.15 g |
| 赤 | 16.03 g | 16.00 g | 1.25 g | 33.28 g |
| 青 | 15.49 g | 10.59 g | 1.21 g | 27.28 g |
| 合計 | 46.48 g | 39.75 g | 5.49 g | 91.72 g |
フィラメント交換回数116回、印刷時間6時間53分。
造形物46.48 g に対して、廃棄(フラッシュ+タワー)が45.24 g。ほぼ1対1です。
交換回数が理論値とぴったり一致した
ここが今回いちばん腑に落ちたところです。
造形物の高さ11.7 mm を積層0.2 mm で割ると、58層。1レイヤーあたり3色を使うので、色替えは2回。58 × 2 = 116回。
実測値と完全に一致しました。
つまりスライサーは、**1つのレイヤーの中で「1番の色の領域を全オブジェクトまとめて出力 → 2番に切り替え → また全オブジェクト」**という順序で動いています。12個あろうが1個あろうが、レイヤーあたりの切り替え回数は変わりません。
交換1回あたりの廃棄量は 45.24 ÷ 116 = 約0.39 g。この値はノズル径とフラッシュ設定で決まる、ほぼ固定のコストです。
だから「個数を増やす」が最も効く
廃棄量が個数に依存しないということは、逆に言えば造形物を増やせば増やすほど、廃棄の比率が下がるということです。
同じ条件で個数だけ変えた場合の試算です。
| 個数 | 造形物 | 廃棄 | 廃棄が全体に占める割合 |
|---|---|---|---|
| 6個 | 約23 g | 約45 g | 66% |
| 12個(実測) | 46.5 g | 45.2 g | 49% |
| 24個 | 約93 g | 約45 g | 33% |
6個を2回に分けて印刷すると廃棄は90 g。12個を1回で印刷すれば45 gで済みます。同じ成果物で廃棄が半分です。
多色印刷では「必要な数だけ刷る」より「プレートが埋まるまで並べる」ほうが圧倒的に有利になります。単色印刷の感覚とは逆なので、意識して切り替える必要があります。
次に効くのが積層ピッチ
廃棄量 = 層数 × 色替え回数 × 交換1回あたりの量、なので、層数を減らせば直接効きます。
同じモデルを0.12 mm で刷ると97層。0.2 mm なら58層。それだけで廃棄が約4割減ります。
高さ12 mm 程度の小物であれば、0.12 と 0.2 の見た目の差はほとんど出ません。多色印刷では、積層を細かくするコストが単色より重いということです。
「3種類の2色」という罠
今回いちばん間違えやすいと感じたのがここです。
12個を全部3色で刷るのは廃棄が多い。ならば1個あたり2色に減らして、組み合わせを3種類にすればいいのでは、と考えたくなります。カエルAは黒と赤、カエルBは赤と青、カエルCは青と黒、という具合に。
これはまったく減りません。
なぜなら、プレート全体で見れば毎レイヤーに黒・赤・青の3色すべてが登場するからです。個々のオブジェクトが2色でも、プリンタから見れば3色印刷のままです。色替えは層あたり2回、廃棄量は3色フルと同一になります。
廃棄を減らしたいなら、プレートに載せる色そのものを2本に絞るしかありません。その場合、色替えは層あたり1回になり、廃棄はきれいに半減します。
裏を返せば、3色使うと決めた時点でコストは確定しているということです。であれば配色のバリエーションはケチらず、組み合わせを使い切ったほうが得です。今回6パターン作ったのはそういう判断です。
おまけ: 配布データの「使われていないフィラメント」
今回のモデルは4色指定の配布データでしたが、中身を解析したところ、4本目のフィラメントが1面も使われていませんでした。
内訳はこうでした。
| スロット | 面積比 | 用途 |
|---|---|---|
| 1 | 約59% | 胴体の地色 |
| 2 | 約41% | 腹・手足・模様 |
| 3 | 0.17% | 瞳のみ(6.8 mm²) |
| 4 | 0% | 未使用 |
4色モデルとして配布されていても、実質は3色でした。AMSのスロットを1つ無駄に占有していたことになります。
さらに言えば、3本目は瞳の6.8 mm² だけ。実質2色+アクセントの構成です。
配布データを使う前に中身を確認すると、こういうことが分かります。スロットが空けば、そこに別の色を入れて配色のバリエーションを増やせます。今回はこの空きスロットを使って、6パターンの配色を組みました。
見積もりを外した点
正直に書いておくと、事前の試算で造形物の重量を大きく外しました。
インフィル15%として「体積の35%程度」で計算し、12個で26 g と見積もっていました。実測は46.5 g、体積の62%です。
原因は、造形物が高さ11.7 mm と薄かったことです。壁と上下のソリッド層だけでほぼ埋まってしまい、インフィル率がほとんど効いていませんでした。 薄物や小物では、インフィル率から重量を推定する計算は成立しません。
廃棄量のほうは45 g前後という見積もりがほぼ的中しました。層数と色数から計算する方法は、モデル形状に依存しないぶん精度が出るということでもあります。
まとめ
- 廃棄量は「層数 × 色替え回数 × 交換1回あたりの量」で決まる
- 造形物の個数は廃棄量に影響しない。プレートを埋めるほど比率が改善する
- 積層ピッチを上げると層数に比例して廃棄が減る
- 1個あたりの色数を減らしても、プレート全体の色数が変わらなければ意味がない
- 配布データのフィラメント指定は、実際に使われているか確認する価値がある
多色印刷は「廃棄が多いから避ける」ものではなく、廃棄が固定費であることを前提に設計するものだと考えたほうが実態に合います。固定費なら、割る母数を大きくすればいい。それだけの話です。
※数値はBambu Lab P2S、PLA、特定モデルでの実測値です。プリンタとフラッシュ設定によって交換1回あたりの量は変わります。ご自身の環境ではスライス結果の内訳で確認してください。


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