SpaceX
NASAは、16日、SpaceX の Crew Dragonによる最初の正式フライトである「Crew-1」ミッションを成功させました。宇宙飛行士四人を無事にISS (International Space Statoin)に届けただけでなく、打ち上げに使った Falcon 9 の回収にも成功しました。
NASAの有人宇宙飛行はスペースシャトルによる2011年7月のフライトを最後に実施されておらず、それ以降は、宇宙飛行士はロシアの宇宙船「ソユーズ」によって往来していました。9年間の空白を経て、NASAが再び有人宇宙飛行を開始した記念すべき日です。
SpaceX は、Tesla の CEO として知られる Elon Musk が2002年に創業した会社で、会社のミッションは、宇宙旅行のコストを下げて、火星に人間が住める居住地を作ることにあります。
このミッションに関しては、Elon Musk 自身が色々なところで語っているので、それを観ていただくのが一番ですが、「人類が地球だけに住む限り、資源は限られているし、第三次世界大戦などで人類が全滅してしまう可能性がある。そのためにも、人類を『複数の惑星に住む種族』に進化させる必要がある」という壮大なものです。
私は「明確なビジョンを持ったリーダーがいること」が会社にとって何よりも大切だと常々主張していますが、そのお手本のような力強いビジョンです。あまりに壮大すぎて、全ての人に理解をしてもらうことは難しいと思いますが、このビジョンに惚れ込んだ投資家が資金を提供し、優秀なエンジニアたちが集まってきた結果が、今の SpaceX なのです。
SpaceX はいくつものイノベーションを起こしていますが、もっとも高く評価すべきなのは、宇宙船の打ち上げに使う Falcon 9 の回収に成功していることです。SpaceX 以前の宇宙船の打ち上げにおいては、使い捨てだった打ち上げロケットを、用意したプラットフォームに垂直に着陸させることに成功したのを最初に見た時には、本当に感動しました(下の写真は、Falcon9 を3つ組み合わせた Falcon Heavy の打ち上げ時の回収シーン)。これまで、ロケットを垂直方向に着陸させることは、専門家の間では「不可能」とされて来たのに、その常識を覆したのです。
SpaceX-Falcon-9-landing
Elon Musk は、SpaceX の設立当初から、ロケットの打ち上げコストは10分の1以下に出来るはず、という信念の元に、コストカットの一つの手段として、打ち上げロケットの回収技術の開発を進めて来ましたが、この手の信念をリーダーが持ち、それに基づいた明確なゴールを設定することにより、初めて、こんなイノベーションが可能になるのです。
SpaceX の企業価値は、既に $46 billion (2020年の8月に $1.9 billion を集めた時の価格)、設立からしばらくは失敗続きで、何度も倒産しそうになっています。それを Elon Musk 自身が莫大な資金を注ぎ込んで、何度も危機から救っている点は、同じく Elon Musk が CEO を務める Tesla と似ています。
Elon Musk が SpaceX を設立したのは2002年ですが、Tesla に関しては、2004年に投資家として参加、2008年に自らが CEO の座についています。
Elon Musk は、それ以前に創業者の一人として関わっていた PayPal の売却で約 $100 million (100億円超)を手に入れましたが、そのほとんど全てを SpaceX と Tesla に投資してしまったそうです。
通常、ベンチャー企業の経営者は、設立資金は自分自身で提供しますが、その後の運営資金は外部からの調達するのが普通ですが、Elon Musk はその点でも他の経営者と大きく異なっています。以前、インタビューで資産運用の話が出た時に、「私は株式市場で資金運用などしない、私の財産は全て SpaceX と Tesla に突っ込んだ」と語っていたのが印象的でした。
今や、どちらの企業も成功しているため、Elon Musk は $105 billion の財産をもち、Forbs の Real Time Billionaires のランキングで四位にランキングされています。
ベンチャー企業のCEOといえば、長時間労働が当たり前ですが、それを SpaceX と Tesla という二つの会社でこなす Elon Musk はまさに超人です。
引用 週刊 Life is Beautiful 2020年11月25日号