これはクーレット流(Couette flow)で、板と床の間の水膜でのせん断による仕事。
- ギャップ:
h=0.5 mm=5.0×10−4 m - 板速度:
U=0.4 m/s - 粘度:
μ=1.0×10−3 Pa\cdotps - 面積:
A=0.5×0.5=0.25 m2
せん断ひずみ率:
dudy=Uh=0.45.0×10−4=800 s−1
せん断応力:
τ=μdudy=1.0×10−3×800=0.8 Pa
力:
F=τA=0.8×0.25=0.2 N
必要な動力(仕事率):
P=FU=0.2×0.4=0.08 W
答え
② 0.08 W
参考:技術士第一次試験-令和2年度機械部門Ⅲ-31解答例 | 技術士のたまご
力×距離の単位と動力の違いを教えてください
もちろんです。整理して違いを説明します。
1. 力×距離 は何か:仕事(またはエネルギー)
- 定義:一定の力
Fで物体をその方向に距離
d
だけ動かすときの仕事(エネルギーの移動)は
W=F⋅d
- 単位:
N⋅m=J(ジュール)。
次元的にはkg⋅m2/s2
。
- 例:10 N の力で箱を 5 m 引くと、仕事は
10×5=50 J。
注:トルクも単位が N·m だが、意味は違って「回転を起こす力のモーメント」でエネルギーではない(ただし次元は同じなので混同しないよう文脈で区別する必要がある)。
2. 動力(パワー)は何か:仕事の時間あたりの率
- 定義:単位時間あたりにどれだけ仕事(エネルギー)をしたか/移したか。
P=dWdt定常ならP=WΔt。
あるいは速度vのときの力による仕事の率は
P=F⋅v
- 単位:
J/s=W(ワット)。
次元的にはkg⋅m2/s3
。
- 例:先ほどの 50 J の仕事を 2 秒でやれば出力は
50/2=25 W。
3. 見比べると
量 | 式 | 単位 | 物理的意味 |
---|---|---|---|
仕事(エネルギー) |
W=Fd |
J (= N·m) | 力で距離を動かした総量(蓄えられた/移されたエネルギー) |
動力(パワー) |
P=dWdt=Fv |
W (= J/s) | その仕事をどれくらいの速さで行っているか(時間当たりの仕事量) |
4. 具体例
- 10 N の力で箱を 5 m 動かす:仕事は
50 J。
- これを 1 秒 でやるときの動力:
50 W。
- 同じ 50 J を 10 秒 かけると動力は
5 W。
5. 補足:よくある混乱
- 「力×距離 = N·m」は仕事だが、同じ単位を持つ「トルク」と混同されがち。トルクは回転の“力のモーメント”でエネルギーではない。
- 動力はスカラーで時間の速さを含む。たとえば同じ仕事量でも「速くやる」ほど必要な動力は大きくなる。
必要なら、この違いを使った演習問題(たとえば一定の力で物体を動かすときの仕事とその時間依存でのパワー計算)を出します。やりますか?
クーエット流について教えてください
もちろんです。**クーエット流(Couette flow)**は、平行な二枚の板の一方(または両方)が相対速度で動くことによって生じる粘性流れで、「せん断駆動された層流」の基本例です。潤滑理論や乱れの安定性、境界層の理解で出てきます。
1. 基本設定(単純な平板クーエット流)
- 2枚の無限に広い平行板が距離
h離れていて、下側の板は静止、上側の板が一定速度
U
で水平方向に動く。
- 流体はその間に挟まれた非圧縮性・ニュートン粘性流体、定常・層流、圧力勾配がゼロ(外からの圧力駆動がない)。
- 座標系:
y=0を下板、
y=h
を上板とし、速度成分は
u(y)
(板方向)のみある。
速度分布(線形プロファイル)
粘性の支配で内部に体積力や圧力勾配がないので、ナビエ–ストークスを簡単に解くと:
u(y)=Uhy.
すなわち、上下に線形に変化する。非圧縮性なので垂直成分はゼロ。
せん断応力(一定)
τ=μdudy=μUh,
流れ全域で一定。これがプレートを動かすために必要なせん断応力で、面あたり力は
τ
、仕事率(動力)はその力に速度をかけた
τ⋅U×
面積。
エネルギー散逸(粘性による)
単位体積あたりのエネルギー散逸率:
Φ=μ(dudy)2=μ(Uh)2.
2. 次元付けとレイノルズ数
非次元化すると
u∗=uU,y∗=yh,u∗=y∗.
レイノルズ数はせん断速度とスケールで定義して
Re=ρUhμ.
- クーエット流は線形的には任意のReで安定(線形安定)だが、実験的には有限振幅摂動で遷移し、乱れが出るのは典型的に
Re∼103程度以降。
3. 一般化
- 両方の板が動くとき:上板速度
U1、下板速度
U0
なら
u(y)=U0+U1−U0hy.
- 圧力勾配がある場合(クーエット–ポアズイユ流):せん断駆動と圧力駆動が重なった合成流れになり、速度プロファイルは二次の項も持つ。
- 円筒座標系のクーエット流(円筒間流れ):内筒/外筒の回転による流れで、線形ではなく対数的な速度分布を持つ。回転数差でせん断が生じる。
4. 物理的な使いどころ
- 潤滑:薄い潤滑膜における動く部材間のせん断のモデル化。
- 基底流(ベースフロー):乱れの成長や遷移研究での基本解。
- 粘性散逸の評価:流体にせん断をかけたときの熱化やエネルギー損失計算。
- 実験・シミュレーションの検証ケース:解析解があるので数値コードのベンチマークになる。
5. クーエット流の特徴まとめ
- 駆動:一方の壁の運動(せん断)だけで流れる。
- 速度プロファイル:線形(単純ケース)。
- せん断応力:全域で一定。
- 圧力勾配不要(純粋なせん断駆動)。
- 乱れへの遷移:線形安定だが実際は摂動で乱れが生じる臨界的なRe が存在。
必要なら、クーエット流を使った具体的な数値例(板の間隔・速度・粘度を与えて力/動力やレイノルズ数の計算)、クーエット–ポアズイユ流の導出、あるいは安定性の概観(摂動成長の考え方)も出せます。どれがよいですか?
流体によるせん断力の式と、材料のせん断の式は関係がありますか?
はい。式の形は似ている部分があって「類推」はできるけれど、本質的には違うものです。違いと関係を整理します。
1. 基本の式と意味の違い
流体(ニュートン流体)のせん断応力:
τ=μdudy
τ:せん断応力(Pa)
μ:粘性係数(動粘度ではなく動粘性係数、単位 Pa·s)
du/dy:速度勾配(せん断速度、
˙γ
とも書く)
- 意味:流体は「せん断ひずみ率(変形の速さ)」に比例して応力を出し、変形を続ける(流れる)。これは率依存的(時間的に変形し続ける)で、エネルギーは散逸される。
固体(線形弾性体)のせん断応力:
τ=G γ
G:せん断弾性率(せん断剛性、単位 Pa)
γ:せん断ひずみ(変形の大きさ)
- 意味:固体は変形量そのものに比例して応力を返し、エネルギーを弾性エネルギーとして蓄える。変形を除けば応力は戻る(可逆)。
2. “ひずみ率”との関係での類似と違い
流体のせん断応力はせん断ひずみの時間変化(率)に比例し、固体はひずみそのものに比例する:
流体: τ=μ ˙γ,˙γ≡dγdt固体: τ=G γ
この点で、流体粘性は固体のせん断剛性の時間微分版と考えられ、両者を組み合わせたモデルが粘弾性(例:マクスウェルモデル、ケルビン・フォークトモデル)になる。
3. 粘弾性モデル(つなぎとしての関係)
たとえばマクスウェルモデル(ばね+ダンパの直列)は:
dγdt=τη+1Gdτdt
再整理すると(応力側):
τ+λdτdt=η ˙γ,λ=ηG
ここで
η
は粘性係数(流体的)、
G
は弾性係数(固体的)、
λ
は緩和時間。時間スケールによって挙動が「流体的」か「固体的」かに変わる。つまり せん断応力とひずみ/ひずみ率の関係を一つの式でつなげている。
4. 直感的な違いのまとめ
- 流体:せん断をかけ続けると無限に変形(流れ)する。応力は変形の速度に比例。エネルギーは熱として散逸。
- 固体:せん断をかけるとある変形量で応力が出て、そのまま保持される(弾性的なら戻る)。応力は変形量に比例。エネルギーは蓄えられる(解放可能)。
5. 例:クーエット流との対比
クーエット流では、上板が速さ
U
で動いて間の流体に線形の速度分布ができ、せん断ひずみ率は一定
˙γ=U/h
。せん断応力は
τ=μU/h
で、これは流体的な「抵抗力」。
同じ幾何で固体の薄層をせん断変形させれば、ひずみ
γ=U/h×t
(時間で増える)に対し応力は
τ=G γ
と増え、時間で応力が増す(流れず蓄える)。
必要なら、これらを使った演習(たとえば与えられたせん断歴で応力がどう変わるか、マクスウェル/ケルビン・フォークトモデルの応答の時間発展、実測から粘性と弾性を分離する方法など)を出せます。どちらがよいですか?