旋盤加工のテクニック総覧

1 旋盤加工とは

旋盤加工(Turning)は円筒状の素材を主軸に固定し回転させ、そこに固定した単刃工具を当てて削る加工であるen.wikipedia.org。外径を削る作業を旋削 (turning)、端面を整える作業を端面削り (facing)、穴を広げる作業を**ボーリング (boring)**と呼び、それぞれ切削工具や送り方向が異なるen.wikipedia.org。NC旋盤はベッド・主軸・チャック/コレット・刃物台・キャリッジ・ヘッドストック・テイルストック・CNCコントローラで構成され、工作物を自動的に回転させ工具に対して正確な位置決めを行い、GコードやMコードで制御するproleantech.com。円筒部品の高精度・高表面品位加工や穴あけなどを効率良く行えるproleantech.com

2 切削条件の基本

  • 切削速度: 工具刃先が材料を切削する速度 (ft/min)。素材が柔らかいほど速度を高くでき、刃物の耐久性や材料硬度が下がるほど速度を下げるopenoregon.pressbooks.pub

  • 送り (feed): 主軸1回転当たりの工具移動量。粗削りでは 0.02–0.03 in/rev 程度、仕上げ削りでは 0.002–0.004 in/rev 程度が推奨されるopenoregon.pressbooks.pub

  • 刃物寿命とクーラント: 高圧クーラントは切りくず排出と冷却に効果があり、工具寿命を延ばして高速切削を可能にするctemag.com。工具寿命を最大化するよりも安定した工程を維持することが重要で、適切な時間(およそ15 分)で刃具を交換すると歩留まりが向上するctemag.com

  • チップブレーカー・逃げ角: ノーズ半径より大きい切込みを与えると切削抵抗が減り、切粉が薄くなるctemag.com。ワイパーインサートは高送りでも良好な面粗さを得られるctemag.com

3 主要加工法とテクニック

3.1 旋削 (Straight turning)

旋削は工作物外径を目的径まで削る操作で、粗削り (roughing) と仕上げ削り (finishing) に分かれる。粗削りでは最大限材料を除去するため、切込み深さ0.030 inch、送り0.020–0.030 in/revなど比較的大きな条件で切削するopenoregon.pressbooks.pub。手順は以下のとおりopenoregon.pressbooks.pub

  1. 材料・工具材質から適正な切削速度と送りを選定し、変速機で送りを設定する。

  2. 刃先高さをワーク中心に合わせ、最初に試削りを行って径を測定し、ダイヤルで切込みを調整する。

  3. 仕上げ削りでは工具刃先を砥石で軽く研ぎ、ライトカット (浅い切込み) で径を合わせ、最終寸法より0.002–0.003 inch残して研磨仕上げとするopenoregon.pressbooks.pub

3.2 端面削り (Facing)

端面削りは工作物の端や肩部を平らにし寸法を整える操作である。CNC旋盤では刃物をワーク端面に直角に送り、長さを正確に調整するproleantech.com。手動旋盤では以下の手順が推奨されているopenoregon.pressbooks.pubdajinprecision.com

  1. 刃物をやや外側にセットし、主軸回転を手で回して干渉を確認する。

  2. 刃物をワーク端面近くまで寄せ、送りハンドルを使い中心まで横送りする。必要に応じて複数回削り長さを調整する。

  3. カット終了後は軽く面取りしてバリを除去する。切削速度は通常の旋削より低めにし、送り量も適度に抑えるdajinprecision.com

端面削りでは、刃物の取り付け角度を15–20°程度傾け、センタに突き当てないよう注意するopenoregon.pressbooks.pub

3.3 テーパ加工 (Taper turning)

テーパは径が一定割合で変化する円錐形状で、主軸中心線と加工部の角度で定義される。一般的な方法は以下の3つproleantech.comopenwa.pressbooks.pub

方法 概要・適用 手順の要点
心押台オフセット法 長いテーパに適し、部品をセンタ間で保持しテイルストックを計算した量だけ横にずらすopenwa.pressbooks.pub テーパ比 (太さ差/長さ) の半分だけ心押台をオフセットし、ダイヤルゲージで確認してから通常の旋削を行う。
コンパウンドスライド法 中短テーパに適し、コンパウンドレストを所定角度に回転させロックして斜め送りするopenwa.pressbooks.pub テーパ角から角度を計算し目盛で設定、インジケータで確認する。キャリッジを固定し、クロススライドで切込み深さを設定しコンパウンドハンドルで送りを行う。
専用刃物・成形刃法 精密短テーパ用。刃物先端をテーパ角に成形し、ワークを短い距離で削るproleantech.com 刃物の振動や逃げ角に注意する。量産では効率的だが長テーパには不向き。
送り合成法 数値制御機などで直進送りと横送りを同時に使い斜め方向を出すproleantech.com 熟練者向けでプログラム制御が必要。

テーパー加工はドリルのテーパーシャンク、ギヤのテーパボス、スピンドルなどに利用される。利点は複雑形状や高精度加工が可能なこと、欠点は治具や工具費が高く能率が低いことproleantech.com

3.4 穴あけ (Drilling) とボーリング (Boring)

  • 穴あけ: 回転する工作物に固定ドリルを押し当てて穴を開ける操作で、中心を正確に保持すれば高い同軸度を得られるproleantech.com

  • ボーリング: 既存の穴を広げ直径精度や真円度を向上させる作業で、単刃のボーリングバーを使用するwaykenrm.com。大径穴で高精度が必要な場合に適し、エンジンシリンダーなどの加工に用いられる。設備や工具剛性が重要で、ドリルよりも高精度の穴径を得るためには適切な切削速度・送りと切削油を用いる。穴位置や同心度を維持するため、事前の下穴の質やボーリングバーの突出し長さに注意する。

3.5 溝入れ加工 (Grooving)

溝入れは外径・内径・端面に溝や凹部を形成する操作である。単回突き加工と複数回突き加工に分かれ、一般手順は次の通りopenwa.pressbooks.pub

  1. ケガキ液でワークに線を引き溝位置を明確にする。主軸回転数は旋削の約1/4程度に下げる。

  2. 溝入れバイトを刃物台に取り付け、刃先高さと突出長さを調整しキャリッジをゼロ合わせする。

  3. ワーク外径に軽く刃を当てクロススライドをゼロ設定し、潤滑油を供給しながら0.020 inch程度の深さで少しずつ突き込み、深さと径を測定しながら仕上げる。

幅広溝の場合は、初回突き込み後に溝幅を測定し残りの幅を計算して75–95%のステップで複数回突き込むopenwa.pressbooks.pub。外径溝では刃先が中心線よりやや下に、内径溝では刃先が中心線より上に、端面溝では刃物を少し上にして突き込むと良好な仕上がりを得られるdajinprecision.com。溝とスロットの違いは、溝は止まり穴状で通常円筒部に切られるのに対し、スロットは平板などに貫通穴として作られる点であるdajinprecision.com

3.6 ねじ切り (Thread cutting)

旋盤によるねじ切りは、60°などの形状を持つねじ切りバイトを取り付け、主軸回転と刃物の送りを同期させてねじ山を形成する。雌ねじ(内ねじ)・雄ねじ(外ねじ)の両方が加工できるが、一般的な手順は同じであるts-taisei.co.jp

  1. チャックに加工物を固定し、中心ゲージを用いてねじ切りバイトをワークに直角に調整する。深さを設定し、送りレバーを所定のねじピッチに合わせる。

  2. 最初は浅い切込みで加工し、測定しながら徐々に切込みを減らしていく。内ねじの場合はバイトの様子が見えないため、自動送りを利用すると良いts-taisei.co.jp

  3. 数値制御機ではピッチに合わせてギアボックスを設定し、複数回の切削で所定のねじ深さまで加工するopenoregon.pressbooks.pub

なお、単一深さの統一ねじの理論切込み深さ d はピッチ P × 0.750 で求められopenoregon.pressbooks.pub、複数回の切込みに分けて加工する。少量生産やタップ/ダイスでは効率が悪いため、大量生産にはNC旋盤が用いられるts-taisei.co.jp

3.7 ワーク切断 (Parting)

パーティングは細いバイトを用いて材料を切り離し完成品を切断する操作で、切断工具の剛性や支持方法が重要である。細い工具は容易に撓み・破損するため、切削速度と送りを適切に設定し材料を十分に支持しながら加工するengineeringtechnology.org。チップ排出を助けるためにもクーラントを使用し、切断終盤では送りを慎重に制御してワークが折れて飛ばないよう注意する。

3.8 ローレット加工 (Knurling)

ローレット加工は円筒や平面にダイヤモンド形・直線形・鋸歯状などのパターンを圧延して滑り止めや装飾とする加工である。グリップ性の向上や放熱性向上に役立ち、ハンドル・ノブ・ギアなどに用いられるfirstmold.com。手動旋盤での手順はfirstmold.com

  1. ワークをしっかり固定し、ローレットホイールを刃物台にセンター高さを合わせて取り付ける。

  2. 主軸を低速回転させ、ローレットをゆっくり接触させ適度な圧力で押し付ける。圧力が弱いと柄が潰れ、強すぎるとワークが変形するため、適切な押圧が重要であるfirstmold.com

  3. パターンが整うまで一定の圧力で送りを行い、出来栄えを観察し必要に応じて調整する。

NC旋盤でのローレット加工ではプログラムでパターン種類、深さ、送り、主軸回転数を設定し、工具経路を定義し、シミュレーション後に加工を行う。クーラントを準備し、加工中は一定の押圧を維持して均一な模様を形成するfirstmold.com

3.9 リーミング (Reaming)

リーマを用いて穴径と真円度、表面粗さを高める仕上げ加工で、ドリルで開けた穴を若干拡大する。リーミングは直径精度 0.0002 inch まで達し、バーの嵌合やピンの精密な嵌合が必要な穴に用いられるmadearia.com。主な目的として、精確な穴径、切削バリ除去、表面仕上げ向上、わずかに曲がった穴の補正、軸・ピンの良好な嵌合が挙げられるmadearia.com。一般的な手順はmadearia.com

  1. ドリルで仕上げ径より少し小さい穴を開け、適量の切削油を使用する。

  2. リーマを工作機械または手でゆっくり穴に挿入し、均一な圧力で回転させながら穴を拡大する。硬い材料では数回に分けて再挿入する。

  3. 加工後はバリを取り除き、仕上がりを確認する。

リーミングでは低速 (約100–500 RPM)・低送り (0.002–0.012 in/rev) で加工し、潤滑・冷却・切粉排出を兼ね備えた切削液を十分に供給することが推奨されるmadearia.com。刃物選定や剛性確保も重要で、不適切な工具や高速回転、片寄った送りはビビりや焼付きの原因となるmadearia.com

3.10 面取り (Chamfering)

面取りは鋭角な角を45°などの角度で削り、バリや怪我を防止する加工。コンパウンドレストを45°に設定し、クロススライドとコンパウンドで切込みと送りを行う。加工手順はopenwa.pressbooks.pub

  1. コンパウンドレストを45°に回し刃物台を整列する。ワーク端にケガキ液を塗り、刃先を角部に近づける。

  2. キャリッジを固定し、クロススライドを前進させて刃先を角部に触れさせゼロ合わせする。コンパウンドレストを使い必要な幅まで送り、クロススライドで深さを調整しながら45°面を形成する。

  3. バックラッシュにより逆方向カットは精度が損なわれるため、コンパウンドを常に同じ方向に送り戻しは行わず、最後の切削で仕上げる。表面を引きずらないよう注意するopenwa.pressbooks.pub

3.11 タッピング (Tapping)

タッピングは既に開いた穴にタップをねじ込んで内ねじを形成する工程である。旋盤を用いたパワータッピングではopenwa.pressbooks.pub

  1. 下穴を適正な径(タップドリルサイズ)に開け、テイルストックにセンタを取り付けてタップを支持する。

  2. 刃物台を外し、低速(100 RPM以下)に設定し長いタップハンドルを取り付け、切削油を塗布する。

  3. タップハンドルを複合レストに寄せて保持しながら主軸を回転させ、同時にテイルストックハンドルで送りを行う。所定深さに達したら主軸を停止し、テイルストックを外して手でタップを戻す。

タップが直角に入るようテイルストックの圧力を維持し、破損やねじれを防ぐことが重要であるopenwa.pressbooks.pub

4 旋盤作業に役立つ一般的なコツ

  • 工具管理とメンテナンス: 同じ加工でも工具やインサートの種類により性能が大きく異なる。現場では工具種類を適切に絞り込み、メーカー推奨の条件に合わせて最大寿命ではなく最適寿命で交換する。インサートポケットやホルダーを定期的に清掃し、締付けトルクを確認するctemag.comctemag.com

  • 加工データの記録と教育: デジタルデータベースで加工条件や工具寿命を記録し、改善点を可視化する。新人オペレータに対して定期的なトレーニングを実施し、適切なセッティング、クーラントの使い方、異音や振動の兆候を学ばせるctemag.com

  • クーラントと切粉管理: 切削熱を効率的に除去するため、特に難削材や高速加工では高圧クーラントを使用するctemag.com。低圧でもノズル位置を最適にすれば工具寿命を伸ばせる。切粉の排出が悪いとビビりや工具破損の原因となるため、チップブレーカー付きインサートや適正な送りで処理しやすい切粉形状を目指す。

  • 安全対策: 旋盤は回転体や突出刃物を扱うため、安全カバーや非常停止スイッチの確認が必須である。長い棒材を加工する際は後部の振れ止めやステディレストを使用し、切断時はワークをしっかり保持して飛散を防ぐ。

5 まとめ

旋盤加工は円筒部品の精密加工に不可欠な加工法であり、粗削り・仕上げ削り・端面削り・ねじ切り・溝入れ・テーパ加工など多彩な操作を組み合わせて部品の機能と外観を整える。各加工には適切な工具セッティングと切削条件があり、刃物高さや角度、切削速度・送りを調整することで高精度な仕上げを得られる。さらに、クーラントの適用や工具管理などの基礎を守り、工程を計画的に行うことで、加工効率と品質を高め安全に作業できる。新しいCNC技術や自動化機構を活用しつつ、基本的な旋盤テクニックを理解しておくことが重要である。

加工時に使えるマニアックなコツがあれば教えてください

旋盤加工には基本的な手順や条件を守ることが重要ですが、慣れてくるとちょっとした工夫で効率や仕上げが大きく向上します。以下にマニアックながら役に立つコツを挙げます。

  • ノーズRのカスタマイズ – 標準よりやや大きめのノーズRを持つチップを選び、送りを高めて表面粗さを保つ「ワイパーインサート」を使うと、仕上げ面の目をつぶして光沢が出やすくなります。逆に硬い材料や細長いワークでは小さなノーズRにして切削抵抗を低減するとビビり対策になります。
  • 送り角度の工夫 – 刃物のリード角(進入角)を大きくすると切りくずが幅広で薄くなり、工具への負荷が下がります。逆にリード角を小さくすれば切りくずは厚くなりますが、荒取りで材料を早く落とせます。
  • 高圧クーラントノズルの位置調整 – 切削点にクーラントを的確に当てることで、切りくずを巻き付かせず、工具寿命を大幅に伸ばせます。外径加工では刃先後方から、内径ボーリングではバイトホルダー内部にノズル孔を通してピンポイントで噴射すると効果的です。
  • 芯押し台や振れ止めの活用 – 細長い軸物はわずかな振れでも仕上げに影響するため、移動振れ止めや定置振れ止めを適切に配置し、振動のない姿勢で加工します。心押し台センタには回転センタを用いると熱の発生と摩耗を抑えられます。
  • ダンピングボーリングバー – 深穴内径加工では長いボーリングバーが共振しやすくなります。内部にタングステンや鉛を充填した制振ボーリングバーを使うとびびりが大幅に減少し、深い穴でも良好な面品位が得られます。
  • ステップ荒削り – 荒削りでは一度に多く削ると工具負担が大きくなります。断面を複数のステップに分けて切込み量を徐々に減らし、最後に定寸まで追い込むと工具寿命が延び、加工時間も短縮しやすくなります。
  • パーティング時の逃げ溝 – 細い突っ切りバイトは途中で折れやすいので、切断予定位置の近くに小さな逃げ溝を設けて応力を分散します。切削が終盤に差しかかったら送りを減らし、刃物がワークを押し広げないよう潤滑と冷却を十分に行います。
  • ローレットの対角送り – ローレット加工では、回転中にわずかに横送りを与えながら模様を刻む「対角送り」を取り入れると、ムラのない美しいパターンになります。送り量はパターンピッチの半分以下に抑えます。
  • チップポケットの清掃習慣 – インサートを交換する際、工具ホルダーのポケットに詰まった切りくずや微細な鉄粉を除去してから新しいチップを取り付けることで、クランプ面の密着性が向上し、欠けや寸法ブレを防げます。

こうした小さな工夫を積み重ねることで、安定した加工品質と高い作業効率を実現できます。各コツを試す際は機械や工具メーカーの推奨条件を守り、安全を最優先にしてください。