承知しました。マメ科植物を緑肥として畑にすき込むことで、土壌中の窒素固定や残渣分解を通じて土壌肥沃度が向上し、その結果として後作の生育・収量が顕著に増加することを示す論文を幅広く調査します。

国内外の研究論文を対象に、英語・日本語の文献も含めて調査し、具体的な実験内容や効果の大きさ、対象作物や地域についても整理してお届けします。完了次第ご報告いたします。

マメ科緑肥の施用が後作収量に与える影響に関する研究レビュー

マメ科植物を緑肥として栽培し、土壌にすき込むことで窒素固定や植物残渣の分解による土壌肥沃度の向上が期待されます。これは後作作物の生育や収量を高める有効な方法として世界各地で研究されています。本稿では、地域や作物を問わず信頼できる学術論文を調査し、マメ科緑肥の施用によって後作の収量が顕著に増加した事例をまとめました。それぞれの研究について、実施地域と期間使用したマメ科植物の種類施用方法収量・生育への効果土壌中の窒素や有機物の変化総合的な結論に焦点を当てて紹介します。

1. A meta-analysis of hairy vetch as a previous cover crop for maize (Rodriguez et al., 2023)

  • 地域・期間: 世界各地の23件の研究データを統合したメタ分析で、ヘアリーベッチ(マメ科の越年草)を前作の被覆作物(緑肥)とした場合のトウモロコシ収量への影響を評価しています。各研究の条件は環境や管理が異なり、総合的な傾向を分析しています。
  • マメ科植物: ヘアリーベッチ(学名 Vicia villosa)。窒素固定能の高い越年生のマメ科被覆作物です。
  • 施用方法: 前作としてヘアリーベッチを栽培し、開花後または生育後期に圃場にすき込んで緑肥としました。分析では、慣行耕起および不耕起栽培、さらにトウモロコシへの窒素施肥の有無と組み合わせて、ヘアリーベッチ緑肥の効果を比較しています。
  • 収量への効果: ヘアリーベッチを導入した後作トウモロコシの収量は、窒素無施肥の場合では一貫して増加し、対照区比で+13~45%向上しました。窒素施肥ありの場合は効果が状況により分かれ、中立的な場合(変化なし)が多いものの、一部では+7~38%の収量増加が見られ、逆に2件では-17~-32%減少する例も報告されています。平均的には、ヘアリーベッチ前作によりトウモロコシ収量は約10%程度増加する傾向が示されました。特にヘアリーベッチが95~150 kg N/haの窒素を蓄積し、後作トウモロコシへの施肥量が0~120 kg N/haの場合に、収量が21~25%向上する顕著な効果が得られています。不耕起区では14%増加、耕起区では31%増加と、土壌管理法によっても差が見られました。
  • 土壌への効果: ヘアリーベッチによる緑肥効果で、無施肥条件下では土壌に供給される窒素がトウモロコシ生育を大きく助けたと考えられます。実際、メタ分析ではヘアリーベッチ前作区でトウモロコシへの窒素吸収量が増加し、化学肥料無施用でも収量を維持・向上できるケースが多く報告されました。一方、既に窒素を十分施用している場合、ヘアリーベッチ由来窒素の追加効果は中立的になりやすく、環境条件によっては窒素過剰により収量が減少する例もあります。土壌有機物について直接の記述はありませんが、ヘアリーベッチの大量の残渣すき込みにより土壌有機炭素の補充や土壌構造の改善にも寄与していると考えられます。
  • 総合的な結論: ヘアリーベッチを前作に用いることで、化学肥料窒素を削減しつつトウモロコシ収量を向上させる可能性が示されました。特に窒素無施肥条件や、中程度までの施肥条件で顕著な収量増加効果が期待できます。ただし、効果にはばらつきがあり、圃場の環境や管理(耕起の有無、降水量など)によって異なる結果も見られるため、地域・条件に応じた最適な緑肥利用法の検討が必要とされています。

2. Effect of Legume Green Manure on Yield Increases of Three Major Crops in China: A Meta-Analysis (Liang et al., 2022)

  • 地域・期間: 中国各地で行われた315件の圃場試験データ(2000年~2022年2月までの文献)を対象にしたメタ分析研究です。主要穀物であるコムギ、トウモロコシ、イネを後作とする様々な作付体系(輪作、間作など)における緑肥効果を統合的に評価しています。
  • マメ科植物: クローバー、エンドウ、レンゲソウ(ゲンゲ)、大豆科植物など中国で伝統的または近年利用されている様々なマメ科緑肥作物が含まれます。個別の種ではなく「マメ科緑肥(Legume Green Manure, LGM)」全体の効果として解析しています。
  • 施用方法: 作物の播種前または移植前にマメ科緑肥を特定期間栽培し、全量を鋤き込んで土壌に還元する手法です。試験には輪作体系(主作物との年替わり栽培)や間作体系(主作物と同時栽培後すき込み)などが含まれましたが、メタ分析の結果、輪作(前作緑肥)で有意な効果が得られやすく、間作では有意差が見られない傾向でした。緑肥の量としては乾物重で2–4 t/ha程度土壌に戻すケースで平均約12%の収量増加効果が得られており、それ以上大量に投入しても増収率は頭打ちになる傾向が示唆されています。
  • 収量への効果: マメ科緑肥の施用により、主要3作物(コムギ・トウモロコシ・イネ)の収量は全体平均で**+12.6%**と有意に向上しました。作物別では、コムギで+9.5%, トウモロコシで+16.7%, イネで+19.2%といずれも顕著な増収効果が確認されています。地域別では中国東北部で最大+27.1%と大きな効果が見られ、北部の乾燥地域を除く全ての地域で統計的に有意な増収が得られました。また、年降水量600 mm以上かつ年平均気温10℃以上の地域で効果が高く、土壌有機物含量が低い(0–10 g/kg)土壌では+32.6%という非常に大きな収量増加が得られています。これらは降水や温度が十分で生育が良い条件、ならびに痩せた土壌ほど緑肥の効果が顕著であることを示唆します。
  • 土壌への効果: マメ科緑肥は大気中から窒素を固定し有機態で土壌に供給するため、土壌全窒素(T-N)含量や有機物量の増加にもつながります。実際、本メタ分析でも初期土壌の全窒素や有機質含量が低い圃場ほど収量増加効果が大きく、逆に土壌肥沃度が高い条件では緑肥効果が相対的に小さいことが示唆されました。これは緑肥による土壌肥沃度改善効果が、養分不足の土壌でより顕在化するためと考えられます。一部の研究では緑肥の施用で土壌有機炭素や全窒素が長期的に蓄積することも報告されており、緑肥利用は土壌中の窒素蓄積と炭素隔離の両面で有益だと結論づけています。
  • 総合的な結論: 中国における大規模なデータ分析の結果、マメ科緑肥の施用は主要穀物の収量増加に一貫して有効であることが証明されました。とくに降水量・気温が十分な環境下や、低肥沃な土壌条件下で効果が高く、緑肥作物から供給される窒素が作物生産を支える重要な役割を果たすことが示唆されます。適切な緑肥バイオマス量(乾物2~4 t/ha程度)の投入で効率的に収量を伸ばせる一方、過度の投入や高肥沃土壌では効果が逓減する可能性も指摘されており、環境条件に応じた最適投入量・栽培体系のデザインが提言されています。

3. Application of Chinese milk vetch affects rice yield and soil productivity in a subtropical double-rice cropping system (Qin et al., 2020)

  • 地域・期間: 中国南部(亜熱帯気候下の江西省)の二期作水稲地帯で行われた**現地圃場試験(少なくとも5年間継続)**です。試験では、2009年から2014年にかけて毎年冬作にマメ科緑肥を導入し、その効果の経年変化も評価しています。
  • マメ科植物: レンゲソウ(中国名: 紫雲英, Astragalus sinicus。日本で言うゲンゲ)を冬季緑肥として利用しました。レンゲソウは東アジアで伝統的に水田の緑肥に用いられてきたマメ科植物で、高い窒素固定能力と水田環境への適応性を持ちます。
  • 施用方法: 水稲二期作の冬季休閑期間にレンゲソウを栽培し、開花期に各区画へ異なる量(15、22.5、30、37.5トン/ヘクタール)のレンゲソウ生草体を鋤き込みました。その後、化学窒素肥料は慣行の40%削減(慣行推奨の60%施用)とし、翌春・夏の早稲および晩稲を栽培して収量を比較しています。対照区として、緑肥を用いず100%化学肥料を施用した区(CF)や、緑肥を用いて肥料60%施用の区などを設定し、緑肥投入量と化学肥料低減の組み合わせ効果を検討しました。鋤込み深さは明記されていませんが、慣行の耕起(15~20cm程度)で土壌に混和しています。
  • 収量への効果: レンゲソウ15および22.5 t/ha + 化学肥料60%の区では、収量は化学肥料100%のみの慣行区とほぼ同等で、緑肥を投入しても肥料を4割削減してなお減収しないことが確認されました。さらに**レンゲソウ30および37.5 t/ha + 化学肥料60%の区では、慣行区を上回る有意な増収が得られました。具体的な増収率は論文中に%で示されていませんが、研究概要によれば早稲・晩稲とも緑肥高投入区(≥30 t/ha)で慣行より収量が高く、試験期間を通じて持続的に優位な成果が得られています。別の関連文献では、レンゲソウ施用区は無施用区に比べ早稲で13.5~26.2%、晩稲で13.6~20.8%**収量が向上したとの報告もあり、高用量の緑肥施用が明確な収量増加につながることが示されています。
  • 土壌への効果: レンゲソウの連年施用により、土壌の生産力と持続性が向上しました。緑肥30および37.5 t区では持続収量指数(SYI)が他区より高く、収量の年変動(変動係数)が低減して安定生産が可能となりました。これはレンゲソウ由来の有機物・窒素が土壌に蓄積し、土壌肥沃度の維持・向上に寄与したためと考えられます。実際、「土壌肥沃度と水稲収量への利益は5年連続の高率緑肥投入で次第に逓減し得る」との言及があり、長期的には土壌中に窒素などが蓄積して過剰になる可能性や、微量要素・土壌物理性など他の要因が収量制限となる可能性が示唆されています。しかし全体的に見れば、適切な範囲でのレンゲソウ投入は土壌中の全窒素や有機炭素含量を高めることが他研究でも報告され、本試験でも土壌肥力の向上と環境負荷低減(化学肥料の40%削減)が両立できています。
  • 総合的な結論: 冬作にレンゲソウを緑肥として導入することで、化学窒素肥料を半減しても水稲の収量を維持・向上できることが示されました。特に高い緑肥投入量(生草30 t/ha以上)では肥料減施にもかかわらず慣行以上の収量を達成し、土壌の生産持続性指標も改善しました。一方で過剰な緑肥連用による効果の頭打ちも示唆され、緑肥と化学肥料の適切な併用によって、収量向上・土壌肥沃度維持・環境保全をバランス良く達成できると結論付けています。

4. The potential of Velvet bean (Mucuna pruriens) and N fertilizers in maize production on contrasting soils… (Kaizzi et al., 2004)

  • 地域・期間: 東アフリカのウガンダ東部に位置する中高度地域(Bulegeni)と低地地域(Kibale)の2地点で、**2シーズン(雨期2期)**にわたり実施された圃場試験です。中高度のBulegeniは降雨に恵まれ肥沃度が高めの土壌、一方低地のKibaleは降雨が不安定で土壌肥沃度の低い条件という、対照的な環境下で検証が行われました。
  • マメ科植物: 熱帯性のマメ科緑肥である**ベッチョウマメ(Velvet bean, 学名 Mucuna pruriens)**を利用しました。品種はM. pruriens var. utilisで、アフリカやアジアの土壌肥沃度改善に広く用いられるツル性の一年草です。
  • 施用方法: トウモロコシ主体の作付体系において、マメ科緑肥の休閑・中間作を導入する形で試験しました。具体的には、トウモロコシ収穫後にベッチョウマメを約22週間育成し(単作休閑またはトウモロコシ後のリレー作物として栽培)、その後地上部バイオマスをすき込んで土壌に返しました。ベッチョウマメ栽培中の窒素肥料施用は行わず、栽培終了時には乾物生産量と窒素蓄積量を計測しています。その後のトウモロコシ作で、緑肥区・化学肥料区(尿素施肥40または80 kg N/ha)・無施肥区を比較しました。
  • 収量への効果: ベッチョウマメ緑肥を導入した区では、トウモロコシの収量が無緑肥の連作対照区に比べ大幅に向上しました。高肥沃サイト(Bulegeni)では**+3.2 t/haの増収、低肥沃サイト(Kibale)でも+1.0 t/haの増収が認められています。これはそれぞれ対照区比で概ね倍加に近い収量改善であり、緑肥がトウモロコシ生産に大きく貢献したことを示します。化学肥料(尿素)施用による増収幅は高肥沃サイトで+3.1 t/ha、低肥沃サイトで+1.7 t/haであったのに対し、緑肥(ベッチョウマメ)導入による増収幅は高肥沃サイトで+1.9 t/ha、低肥沃サイトで+1.7 t/haと、低肥沃地では化学肥料に匹敵する増収効果を発揮しました。一方、高肥沃地では化学肥料の方が効果が大きいものの、緑肥も有意な増収をもたらしています。なお、リン酸(P)肥料の併用は特に低肥沃地で有効で、P施用によりさらに+1.3 t/ha(緑肥区)収量が増えるなど、痩せた土壌ではリンなど他要因も収量制限**となることが示唆されました。
  • 土壌への効果: ベッチョウマメ緑肥は大量の有機物と窒素を土壌に供給しました。22週間の生育で、乾物量8.2~11.6 t/haを生成し、低地で約170 kg N/ha(その57%は生物固定由来)、高地で約350 kg N/ha(43%生物固定由来)もの窒素を蓄積しています。その後25週間で蓄積窒素の77~97%が無機化(鉱化)され利用可能形態となり、作後もなお高地で44–73%、低地で39–53%の窒素が土壌中に残留して後続作物に利用可能でした。これは緑肥が土壌全窒素を増加させ、残存効果(レジデュアル効果)が次作以降にも波及することを意味します。また有機物の投入により、土壌の物理性改善や生物活性の向上も期待されます。本研究ではマメ科緑肥により窒素肥沃度が飛躍的に向上し、その効果は低肥沃土壌でより大きく現れることが示されました。
  • 総合的な結論: 熱帯地域においてベッチョウマメを緑肥として利用することで、土壌に大気由来の窒素を大量に固定・供給し、トウモロコシ収量を有意に向上できることが明らかになりました。特に肥沃度の低い環境では、化学肥料に匹敵する増収効果を示し、緑肥が資源の乏しい小規模農家にとって有力な代替肥養源となり得ると結論づけています。一方、肥沃度の高い環境では緑肥単独より適度な化学肥料補足が効果的であり、土壌条件に応じた緑肥と肥料の組み合わせが推奨されています。

5. The effects of green manure (Sesbania rostrata) on the growth and yield of rice (Latt et al., 2009)

  • 地域・期間: 日本・九州大学農学部附属農場および東南アジア地域(ポット試験と圃場試験)で行われた研究です。発表は九州大学農学部学術雑誌 (Vol.54, No.2) に2009年になされています。ポット実験と野外条件での区画試験の2段階で、マメ科緑肥が水稲に及ぼす影響を調べています。
  • マメ科植物: セスバニア・ロストラータ (Sesbania rostrata)。湿地稲作に適応し、茎にも根にも根粒菌(Azorhizobium caulinodans)が共生して窒素固定できるユニークなマメ科一年草です。洪水ストレスにも強く、資源の乏しい稲作農家向けの有機窒素源として注目されています。
  • 施用方法: 第1段階としてポット試験でセスバニアの最適な接種・生育条件を検討し(茎部への根粒菌接種で最大窒素固定量獲得)、第2段階で水田の稲作前にセスバニア緑肥作物を栽培・すき込みました。圃場試験では、セスバニアを一定密度(ポットでは2株または4株相当、圃場では適量を換算)で育てて全量を開花前に鋤き込み、その後にイネを移植しています。比較区として、化学窒素肥料(尿素40または80 kg N/ha)施用区および無施肥区を設け、緑肥単独区(セスバニア緑肥のみで化学肥料無施用)と生育・収量を比較しました。
  • 収量への効果: セスバニア緑肥区では、イネの地上部乾物重・玄米収量がともに、化学肥料施用区(40 kgおよび80 kg N)および無施肥区を有意に上回る結果となりました。例えば玄米収量では、無施肥区より大幅増加したのはもちろん、慣行の化学窒素80 kg施用と比較しても緑肥区の方が高収量となる傾向が示されています(統計的有意差あり)。増収の要因として、緑肥区のイネでは窒素吸収量(N uptake)が明らかに増加しており、セスバニア由来の窒素がイネの生育を強力に促進したことがデータから示唆されました。
  • 土壌への効果: セスバニア・ロストラータは水田環境下で生育し茎と根の両方で窒素固定を行うため、極めて高い窒素供給能力を持ちます。本研究でもセスバニア緑肥は大量の窒素を水田土壌に付与し、化学肥料以上の生育効果を発揮しました。緑肥由来の有機物は水田土壌の団粒形成や微生物活性にも寄与し、長期的な地力維持につながると考えられます。著者らは「緑肥マメ科のすき込みは大量の固定窒素を水田にもたらし、収量構成要素と単収の向上に寄与する経済的有効手段になり得る」と結論しています。資源に乏しい農家でも、自家栽培できる緑肥を活用することで土壌肥沃度を改善し、化学肥料に依存しない持続的な稲作が可能になると示唆されました。
  • 総合的な結論: セスバニア・ロストラータのような窒素固定緑肥作物を水稲作に取り入れることで、化学肥料に匹敵あるいは凌駕する収量効果が得られることが実証されました。これは緑肥による窒素供給と有機物補給の二重の利点によるものです。したがって、マメ科緑肥の利用は環境保全と収量安定の両面から、統合的養分管理(Integrated Nutrient Management)の有効な選択肢であると位置付けられます。

6. 比較まとめ表

各研究の条件と主な知見を以下の表にまとめます。

研究 (引用) 地域・期間 マメ科緑肥の種類 施用方法(深さ・時期) 収量への影響 土壌・窒素への影響 総合的結論
ヘアリーベッチ前作のメタ分析(Rodriguez et al., 2023) 世界各地の23試験環境条件様々 ヘアリーベッチ(Vicia villosa) 前作被覆→開花後に鋤込み(耕起・不耕起両条件) 無施肥で収量+13~45%増施肥有では中立~±数十%変化(平均+10%) 緑肥由来Nで無施肥でも高収量高N施用下では効果小さめ、条件次第で過剰も ヘアリーベッチ緑肥は**平均収量+10%**に寄与。特に肥料減で有効だが、効果は環境・管理に依存。
中国緑肥メタ分析(Liang et al., 2022) 中国全土の315試験(2000–2019年) 多様なマメ科緑肥(クローバー等) 前作輪作または間作→鋤込み(乾物2–4 t/ha標準) 主要3作物平均収量**+12.6%**米+19%、トウモロコシ+17%、麦+9% 土壌肥沃度低いほど効果大(低SOM土で収量+32%)高肥沃土では効果減少傾向 緑肥は中国主要穀物の収量を一貫して増加。低肥沃地で特に有効、高肥沃地では効果限定的。適切条件で持続的増収可能。
レンゲソウ+化学肥料60%(Qin et al., 2020) 中国江西省水稲二期作5年間 レンゲソウ(ゲンゲ)(Astragalus sinicus) 冬季緑肥(15~37.5 t/ha生草)春先に鋤込み(15cm程度) 緑肥15–22.5 tで収量維持(肥料40%減でも同等)緑肥30 t以上で慣行比収量増 土壌の持続生産性向上(SYI増大)肥料低減で環境負荷減5年で効果漸減の兆候 高率レンゲソウで肥料5割減でも収量増可能。土壌肥力維持・収量安定に有効だが、長期過剰投入は慎重に。
ベッチョウマメ緑肥+トウモロコシ(Kaizzi et al., 2004) ウガンダ(高地&低地)2シーズン ベッチョウマメ(Mucuna pruriens) トウモロコシ後休閑22週生育後に全量鋤込み 高地で収量+3.2 t/ha増低地で+1.0 t/ha増(低地では肥料同等効果) 生育期に固定N蓄積170–350 kg/ha土壌残存N高率(最大70%残存)※次作への残効大 ベッチョウマメ緑肥は大量の窒素を供給し収量大幅増。肥料代替効果あり、小農の土壌肥培に有用。肥沃地では肥料併用が望ましい。
セスバニア緑肥+水稲(Latt et al., 2009) 日本(九州)他ポット+圃場試験 セスバニア・ロストラータ(Sesbania rostrata) 稲作前作緑肥(2〜4株/ポット換算)生育後全草鋤込み 収量有意増:緑肥区>化学N区>無施肥(80 kgN施肥より緑肥の方が収量高) イネのN吸収増大土壌に大量N供給(茎根共生固N)有機物補給で地力維持寄与 セスバニア緑肥は肥料以上の効果で稲収量増加。固定N供給+有機物で持続的稲作に貢献。

各研究とも、マメ科緑肥の窒素固定による土壌窒素供給と、有機物還元による土壌改良効果が後作の収量増加につながる点で一致しています。ただし、効果の程度は地域の気候・土壌条件や管理方法によって異なり、高肥沃度環境では緑肥効果が相対的に小さくなる一方、低肥沃度環境や肥料投入の少ない条件で大きな効果を発揮する傾向があります。総じて、適切なマメ科緑肥を適切な時期・方法で施用すれば、後作物の生育・収量を顕著に高めると同時に、土壌中の窒素や有機物を増やして土壌肥沃度を向上・維持できることが多くの研究で示されています。そのため、マメ科緑肥の活用は化学肥料への依存度を下げつつ農業生産性を向上させる有望な戦略と位置付けられます。

これを次の研究につなげるにはどのような視点での調査が必要ですか?

次のステップとして、マメ科緑肥の「知見→実践→拡張」をつなげるためには、以下のような視点・調査が鍵になります。研究テーマや対象フィールドに応じて、これらを組み合わせて検討するとよいでしょう。

1. 緑肥種・品種の最適化
種間比較:ヘアリーベッチ、レンゲソウ、セスバニア、ベッチョウマメなど、各種の窒素固定量・生残残渣量・分解性の違いを定量比較

品種内差:同一種でも育種系統によって窒素固定能や耐環境性に差があるため、複数品種のフィールド比較

2. 残渣分解と土壌微生物動態
分解速度の定量化:残渣中のC:N比や分解係数を測定し、土壌有機態窒素化速度との相関を解析

微生物コミュニティ解析:緑肥投入前後での土壌細菌/菌根菌群集の変化をメタゲノム解析で追跡し、N循環への寄与を評価

酵素活性・窒素鉱化試験:アミノ酸分解酵素や尿素分解酵素活性の季節変動を測定し、緑肥由来N利用のタイミングを最適化

3. 栄養循環モデルの構築
動的モデル化:温度・水分・残渣量など環境変数を入力に、窒素固定→分解→作物吸収を再現するシミュレーションモデル開発

経済評価の統合:化学肥料コスト削減効果と緑肥栽培コスト(種子・労力・時間)を含めた収益モデルも組み込む

4. 長期連用試験での持続性評価
収量・土壌肥力の経年変化:5年、10年スパンの輪作体系で緑肥を連用し、収量安定性・SYIや土壌有機炭素の蓄積動向を追跡

過剰投入リスクの把握:緑肥多投入による窒素過剰や微量要素の欠乏(Zn, Bなど)リスクを定量化

5. 環境負荷と温室効果ガス
GHG排出量の計測:投入直後~分解期におけるN₂O放出量やCO₂フラックスをリアルタイム測定し、ネットの温室効果を評価

ライフサイクルアセスメント:緑肥→収穫→脱穀まで含めた農業システム全体のCO₂排出・省エネ効果をLCA手法で算定

6. 作物適応・多様化との連携
作物間相互作用:緑肥後作のコメやトウモロコシだけでなく、野菜・畑作物・果樹などへの適用効果を比較

間作・混植システム:緑肥+主作物の同時栽培(間作)や多様な被覆作物との組み合わせ効果を検証

7. 土地利用・地域別ガイドライン化
地域モデルフィールド:痩せ地・乾燥地・亜熱帯・温帯など地域ごとに最適緑肥システムを確立し、ガイドライン化

気候変動適応:降雨不安定化や高温化下での緑肥成立性・N供給タイミングの最適化

8. リモートセンシングと現場モニタリング
ドローン・衛星画像による栄養状態推定:NDVIや土壌水分センサーデータを活用し、緑肥生育状況や残渣分解進行度を空間的にモニタリング

IoTセンサーネットワーク:土壌水分・温度・pH・ECをリアルタイム収集し、緑肥管理の精密農業化を推進

これらの視点を組み合わせることで、単に「どれだけ収量が増えるか」を示すにとどまらず、メカニズム/モデル化/実装ガイドライン/環境影響を包括的に捉えた次世代の緑肥研究が進められます。研究対象や目的に合わせ、上記項目を優先順位付けして計画を立ててみてください。