2020年のノーベル経済学賞はオークション研究に貢献したミルグロム氏、ウィルソン氏が受賞した。
オークションは、美術品、生花や魚、オンライン広告、公共調達、ネットオークションなど、さまざまな分野で使われているが、日常で使われることはあまりない。
それはなぜか。
オークションには向き不向きがあるからだ。
本校では、そのメリットである「価値発見効果」とデメリットである「参加費用」を解説した上で、「オークションの考え方を取り入れた」売り方の工夫例を紹介する。
価値発見効果と参加費用
「価値発見効果」のメリットを理解するために、まずは、値段交渉を行う場面を考えよう。
仮に筆者のみが新鮮なイワシの買い手で、2000円まで支払ってもよいと考えているとする。
フランス在住の筆者がイワシに飢えていることは売り手には内緒にする。
足元をみられて価格を吊り上げられたくないからだ。
売り手が完全にだまされてくれることはないだろうが、安い値段、例えば500円で売ってくれることもあるだろう。
もしこれがほかにも買い手のいるオークションであれば、話は変わってくる。
私はなるべく値段を抑えたいが、2000円払ってでもイワシを食べたいのが本音なのでそこまで興味がないふりはできない。
競り負けることへのおそれから、500円(=競争がないときの価格)よりも高い金額で入札を行う。
競争が激しいと予想すれば、入札額をさらに上げ、評価額の2000円に近づく。
つまり、競争があると、評価額近くまで入札額が上がる。
そして落札価格は、その商品に最も高い価値を見出している人の評価額に近づく。
このように競争を通じて、売り手が本来知りえない最高評価額(=価値)に価格が近づく効果を、本稿では「価値発見効果」と呼ぶ。
その源泉は、競り負ければ入手できないというおそれである。
一方でデメリットは参加費用だ。
オークション開催を持ち、ほかの参加者が入札を終えるのを待たなければならないという非金銭的な手間・費用がかかる。
また、周波数オークションや企業買収競争など大規模なオークションでは、入札準備に入念な事業評価が必要であり、その評価には多大な費用がかかる。
最終的な落札者以外にとって、これらの費用は無駄となる。
参加費用は買う側がかぶるので、売る側には関係ないと思うかもしれないが、それは違う。
例えば、オークションにさんかする意思のないA社に参加を促す場合を考えよう。
参加者の意志がないのは、参加費用の回収できるほど低価格で落札できるとは予想していないからである。
参加を促すには、送料を売り手に負担したり、手数料や最低落札価格を下げたりしてA社に「餌」をまく必要がある。
もちろん、餌代は売り手持ちだ。
参加費用が高くなればなるほど必要となる餌代も増大するため、売り手は少数精鋭でオークションを開催したくなる。
売り方をどう工夫するか
ここからは、価格発見効果に対して参加費用が①大きい場合、②小さい場合、③中程度の場合に分けて、どう売れば売り手の収入が大きくなるかを検討する。
結論を先に述べると、参加費用が高くなれば、参加を促す餌代を節約する必要が増すため、オークションで販売するのが望ましいのは、参加費用がある程度低い②と③のケースのみだ。
ただし望ましいオークションの運用方法は異なる。
①価格発見効果に対して参加費用が大きすぎる場合、例えば相場感がしっかりしている場合にはオークションは不向きだ。
よそでなら150円で買えるとわかっているジュースをオークションで売るべきではない。
なぜなら、手間のかかるオークションに買い手が参加するのは、落札価格が150円未満のときだけだからだ。
そればら最初から150円で売ればよい。
一方②価値発見効果に対して参加費用が小さい場合、評価額が低そうな入札者を優遇するオークションが、期待落札額を高くすると知られている。
例えば、ある販売権をめぐり対等なルールで大規模事業者と新規の小規模事業者とを競争させると、おそらく前者が勝つ。
既存の安定した販売経路や優秀な人材を確保している大規模事業者なら同じ販売権でもより高い収益が見込め、また、資金力もあって評価額が高くなるからだ。
一方で、自社が有利だと思えば、入札額を評価額より低く抑えようとするだろう。
したがって、この場合は小規模事業者を適度に優遇すれば、競争効果を高め落札額を上げる事ができる。
実際、米国政府は国内の事業者や小規模事業者落札額の数%に補助金をだしたり、借入金利を優遇したりすることで、資金力のある外資や大規模事業者が独占してしまわないように工夫している。
しかし筆者らの研究によれば、③価値発見効果に対して参加費用が中程度の場合、逆に、評価額が高そうな入札者を優遇するほうが期待落札額は高くなる。
この状況では、価値発見効果が十分にあるので、競争が完全になくなってしまわないよう配慮する必要がある。
一方で、前述のとおり、買い手の参加を促すための餌代は売り手持ちなので、最終的に負けそうな企業への餌代は節約する必要がある。
この2つの条件を満たす条件を満たす売り方が、評価額が高そうな入札者の優遇である。
さ
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