金属加工の工作実習の主な題材
金属加工の実習では、金属を加工して部品や製品をつくるために、多様な工程を体系的に学ぶ。調査した日本の大学・高校・職業訓練施設の情報を整理すると、実習は大きく以下のテーマに分類できる。
測定・製図と安全の基礎
-
測定・図面の読解 – 実習では正確な加工のために図面を読み取り、寸法や公差を理解する訓練がある。岡山理科大学は、製図を読んで加工工程をイメージし、鋼材を正確に切削する課題で、スケール・ノギス・マイクロメータなど測定器を使用し、罫書き線を引いた上でフライス加工を行うoist.ac.jp。東院学園の実習では「測定→製図→加工→評価→報告」というプロセスを徹底し、ノギスやマイクロメータで計測した寸法に基づいて注射器の部品を製作し、性能評価レポートを作成するcc.toin.ac.jp。
-
安全・基本操作 – 埼玉大学の「2穴パンチ(パンチ穴あけ器)」製作課題では、旋盤・フライス盤・マシニングセンタ・放電加工機を扱うが、安全と時間厳守が強調されているjisshu.mech.saitama-u.ac.jp。工事に先立ち、服装や工具の扱い方などの安全教育が必ず行われる。
旋盤・フライス盤による切削加工
-
円柱部品・穴開け加工 – 多くの学校で基礎的な旋盤加工が行われる。和歌山県立和歌山工業高校では、鉄材を旋盤で丸棒状に削り出す訓練を行うwakayama-th.wakayama-c.ed.jp。仙台工業高校の旋盤実習では、1年生が丸棒の外径を削り、2年生は穴開けやネジ切りに挑戦するsendai-c.ed.jp。
-
フライス盤での段加工・溝加工 – 順作業として行われるフライス加工では、平面・側面・段差・溝などを加工する。城東工業高等学校のVブロック製作では縦フライス盤を使って六面加工や溝加工を行うizumo-th.ed.jp。
-
2穴パンチや万力などの課題 – 埼玉大学では学生が2穴パンチ(穴あけ器)を製作し、旋盤・フライス盤・マシニングセンタ・放電加工機を使って部品を作るjisshu.mech.saitama-u.ac.jp。仙台工業高校ではフライス盤の実習で小型万力を製作しており、加工後に組み立てと調整を行うsendai-c.ed.jp。
手仕上げ・ヤスリ仕上げ作業
-
罫書き・やすり・鋸切断 – 金属加工では機械加工前の下準備として罫書き線を引き、鋸やヤスリで形状を整える。多くの学校で真ちゅう製の文鎮(ペーパーウエイト)を作る課題があり、鋸引きやヤスリ仕上げ、ボール盤での穴開け、タップやダイスによるねじ切り、旋盤でツマミを作るなど一連の手仕上げが含まれるtaikenkan.monodai.ac.jp。仙台工業高校では銅棒から文鎮を作る手仕上げ実習を行っているsendai-c.ed.jp。
-
工具製作 – 出雲工業高校では1年次に移植ごてを手仕上げで製作し、鋸やヤスリ、板金作業で形を整えるizumo-th.ed.jp。このような工具製作は手作業の訓練と達成感がある。
溶接・板金・組立
-
TIG・アーク溶接の訓練 – 和歌山工業高校ではタングステン極とアルゴンガスを用いたTIG溶接を指導しているwakayama-th.wakayama-c.ed.jp。JEEDの職業訓練では薄板のTIG溶接や半自動CO₂アーク溶接を実施し、強度や外観を評価するwww3.jeed.go.jp。仙台工業高校や出雲工業高校でもガス溶接やアーク溶接を用いて簡単な製品を製作するsendai-c.ed.jpizumo-th.ed.jp。
-
板金・溶接作品 – 出雲工業高校では2年次の製作で工具箱を製作し、板金加工・スポット溶接・ガス溶接を組み合わせるizumo-th.ed.jp。設計材料加工の授業では、薄板の切断や曲げ、リベットやボルトによる接合、ろう付けなどを段階的に学び、最後に組立・塗装まで行うscu.ac.jp。
鍛造・鋳造
-
自由鍛造(鍛造体験) – 出雲工業高校の2年生は自由鍛造で両口鍬の刃を鍛えるizumo-th.ed.jp。熊本県の高校ではエアーハンマーを使って鍛造し、和船の棟梁が用いる「和釘」を作る体験が報告されているsh.higo.ed.jp。千葉県清水高校のブログでも鍛造で金属を叩いて強度を高める様子が紹介されているcms2.chiba-c.ed.jp。
-
鋳造 – 出雲工業高校2年次では木型の製作から鋳型造り、溶解、鋳込みまでの鋳造実習が行われるizumo-th.ed.jp。多くの学校が基礎的な鋳造を取り入れており、高温作業に対する安全教育が重要である。
CNC・CAD/CAM・3Dモデリング
-
数値制御加工(NC/MC) – 出雲工業高校と村山工業高校では、5軸マシニングセンタやNC旋盤のプログラム作成を行い、指導者が基礎から教えるizumo-th.ed.jpmurayama-ih.ed.jp。
-
CAD/CAM・3Dプリンター – 村山工業高校では3年次に歯切り、CNC旋盤、3D CADと3Dプリンタの操作を学ぶmurayama-ih.ed.jp。JEEDの訓練課題には3D CADで小型バイスをモデリングし、組立図を作成する課題や、スパーギヤの製図・設計、3D CADによる組立練習などが含まれているtetras.uitec.jeed.go.jp。
材料試験・非破壊検査
-
破壊・強度試験 – 出雲工業高校では材料試験(引張試験、スパーク試験、硬さ試験、焼入れ・焼戻し、金属組織の観察)を行い、金属特性を学ぶizumo-th.ed.jp。村山工業高校の3年次では引張・硬さ・衝撃試験などの材料試験も実施するmurayama-ih.ed.jp。
-
非破壊検査 – JEEDの訓練では染色浸透探傷試験や超音波探傷といった非破壊検査を含み、溶接接合部の品質を評価しているwww3.jeed.go.jp。
エンジン分解・組立・電気制御
-
エンジン分解・組立 – 仙台工業高校では小型ガソリンエンジンや自動車エンジンの分解・組立実習があり、機械の構造を理解するsendai-c.ed.jp。村山工業高校の3年次にもエンジン分解・組立が含まれるmurayama-ih.ed.jp。
-
電気・シーケンス制御 – 仙台工業高校ではテスター制作やリレー・シーケンス制御の訓練があり、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)を使った制御も学ぶsendai-c.ed.jp。出雲工業高校でもリレーシーケンス制御やPLCを含む制御実習を行うizumo-th.ed.jpizumo-th.ed.jp。
研究課題・応用作品
-
作品製作 – 高等学校や専門学校の上級生は自由研究や卒業製作として金属加工の応用作品に取り組む。村山工業高校ではギア付き作品やトレーラー、バラのオブジェなどを研究テーマとしているmurayama-ih.ed.jp。
-
性能評価とレポート – 東院学園の注射器競技のように、自分で製作した製品の性能(注射器の飛距離など)を競い合い、結果をレポートする課題があり、反省や改善策をまとめるcc.toin.ac.jp。
主な課題と題材の一覧
| 分類 | 主な題材(課題例) | 使用する主な機器・技術 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 測定・製図 | 図面読み取り、注射器の製図・評価 | ノギス、マイクロメータ、製図ツール | 岡山理科大学oist.ac.jp、東院学園cc.toin.ac.jp |
| 旋盤・フライス盤 | 丸棒削り、穴開け、Vブロック製作、2穴パンチ、万力 | 汎用旋盤、フライス盤、マシニングセンタ、放電加工機 | 和歌山工業高校wakayama-th.wakayama-c.ed.jp、出雲工業高校izumo-th.ed.jp、埼玉大学jisshu.mech.saitama-u.ac.jp、仙台工業高校sendai-c.ed.jp |
| 手仕上げ | 文鎮(ペーパーウエイト)作り、移植ごてなどの工具 | 罫書き、ヤスリ、ボール盤、タップ・ダイス | 教育用ガイドtaikenkan.monodai.ac.jp、仙台工業高校sendai-c.ed.jp、出雲工業高校izumo-th.ed.jp |
| 溶接・板金 | TIG溶接、CO₂半自動溶接、工具箱作り、薄板切断と曲げ | TIG溶接機、溶接ロボット、スポット溶接機、プレスブレーキ | 和歌山工業高校wakayama-th.wakayama-c.ed.jp、JEED訓練www3.jeed.go.jp、出雲工業高校izumo-th.ed.jp、設計材料加工scu.ac.jp |
| 鍛造・鋳造 | 鍛造で和釘や両口鍬を製作、鋳物(鋳鉄)作り | エアーハンマー、炉、鋳型、木型 | 出雲工業高校izumo-th.ed.jp、熊本高校sh.higo.ed.jp、清水高校cms2.chiba-c.ed.jp |
| CNC・CAD/CAM | NC旋盤やマシニングセンタによる加工、3D CADでバイスモデリング、歯車設計 | CNC旋盤、マシニングセンタ、3D CADソフト、3Dプリンタ | 出雲工業高校izumo-th.ed.jp、村山工業高校murayama-ih.ed.jp、JEED訓練tetras.uitec.jeed.go.jp |
| 材料試験・検査 | 引張試験、硬さ試験、非破壊検査 | 万能試験機、顕微鏡、浸透探傷剤、超音波探傷機 | 出雲工業高校izumo-th.ed.jp、JEED訓練www3.jeed.go.jp、村山工業高校murayama-ih.ed.jp |
| エンジン・制御 | ガソリンエンジンの分解組立、リレー制御、PLC制御 | 工作用エンジン、PLC、テスター | 仙台工業高校sendai-c.ed.jpsendai-c.ed.jp、出雲工業高校izumo-th.ed.jpizumo-th.ed.jp |
| 研究課題・応用作品 | ギヤ付き作品、トレーラー、金属のバラ、性能コンテスト | 材料・加工機全般、評価設備 | 村山工業高校murayama-ih.ed.jp、東院学園cc.toin.ac.jp |
まとめ
金属加工の工作実習では、図面読解と測定、安全教育から始まり、旋盤・フライス盤による切削、手仕上げ、溶接や板金、鍛造・鋳造、NC/CAD/CAM、材料試験、エンジン分解や制御といった多岐にわたる課題が用意されている。具体的な題材としては、文鎮、移植ごて、2穴パンチ、万力、工具箱、両口鍬、和釘、Vブロック、注射器などがあり、学生や訓練生はこれらの製作を通じて加工技術と安全意識を身に付けている。さらに、上級者向けには3D CAD/NC加工や自由研究としての作品製作、性能評価コンテストなど応用的な課題が提供され、多様な技能を統合して実践力を養っている。





