ヘリサートを使用するとよい条件

ヘリサート(ヘリコイル・Eサート)は めねじの補強材 で、タップ加工した穴に挿入するステンレス製のコイル状インサートです。樹脂やアルミ合金などの柔らかい母材に強固なねじ山を形成できるため、航空機や自動車などの高耐久性が求められる分野で幅広く使われています。以下では、ヘリサートを使用すべき代表的な条件や注意点をまとめました。

1. 母材が軟質材で強度不足の場合

  • 軟質材のねじ穴補強 – アルミダイカストやプラスチックなどの柔らかい母材では、ネジの締め付け力でネジ山がつぶれてしまう場合があります。メーカーの三友精機は、E‑サートをアルミダイカストやプラスチックに挿入することでステンレスの強固なめねじをつくり、強い締め付けや繰り返し使用が必要な箇所に最適と説明していますsanyu-seiki.com。安久工機のコラムも、アルミ合金や樹脂など柔らかい素材の場合はめねじが弱いため、ヘリサート加工で補強すると述べていますyasuhisa.co.jp

  • 繰り返し使用や強い締結力が必要な場合 – Agency Assist のコラムは、ヘリサートがステンレス材のコイルであり、繰り返し使うねじや強い締め付けが必要な場合に用いると述べていますagency-assist.co.jp。MONOWEB の記事でも、アルミなどの柔らかい金属で何回もネジの開け閉めを行ったり強い力で引っ張るめねじの補強にヘリサートを使うと解説していますd-monoweb.com

2. ねじ山が損傷・摩耗した場合の補修

  • ねじ山がなくなった場合の補修 – 機械組立の部屋は、ヘリサートの使用例として「タップのねじ山が無くなった時」を挙げていますkikaikumitate.com。加工時に下穴径を大きくしすぎてネジ山が少ない場合や、ボルトの脱着を繰り返してねじ山が摩耗した場合にヘリサートを挿入して補修します。

  • サイズを間違えたタップ穴の修正 – 同記事では、タップのサイズを間違えた場合でも(例えば M6 のタップ穴をヘリサートを使って M5 にするなど)修正が可能だと述べていますkikaikumitate.com。ただし間違えたタップが大き過ぎる場合には補修できません。

  • 壊れためねじの復活 – MONOWEB の記事では、ヘリサートを使って壊れたねじ山を補修する方法も紹介されており、一回り大きなヘリサート用のめねじを切ってコイルを挿入することでネジ山を復活できると説明していますd-monoweb.com

3. 振動や衝撃・繰り返し荷重がある場合

  • 応力分布の改善と疲労強度の向上 – ヘリサートはねじ山にかかる力を分散し、ボルトと母材の間で応力を均一にすることでタップの損傷を防ぎますkikaikumitate.com。三友精機のE‑サート説明でも、理想的な応力分布により繰り返し荷重に耐え、疲労限度を増大させるとされていますsanyu-seiki.com

  • 動きの激しい部分や強い衝撃が繰り返しかかる部分 – 機械設計の部屋では、ヘリサートを使うべき箇所として「激しく可動する」「段取り替えでボルトを付け外しする」「強い衝撃が繰り返しかかる」場所を挙げていますhamuteru.com。アルミや樹脂部品を選定する際には、使用状況を想定してタップが壊れないよう、あらかじめヘリサートで補強することが推奨されていますhamuteru.com

4. 軽量化や高温・耐腐食環境への対応

  • 軽量化と強度の両立 – 近年は環境保護や省エネの観点からアルミダイカストやプラスチックなど軽い素材が使われていますが、それらはやわらかくネジ山が弱いため、三友精機は軽量素材に強いめねじをつくる目的でE‑サートが必要だと述べていますsanyu-seiki.com。ヘリサートによって軽量な母材でも強いねじ結合が得られるため、重量増を抑えながら高強度が得られます。

  • 高温や腐食性環境への対応 – 標準のE‑サートは SUS304 相当のステンレス鋼(硬度 HRC43〜50、引張強さ約1,000 MPa)で作られていますが、磁気や導電性が問題となる場合はりん青銅製品が推奨され、高温環境(400〜530 ℃)にはインコネル X750、優れた耐食性を求める場合には SUS316 製品が用意されていますsanyu-seiki.com。使用環境に応じた材質を選ぶことで、腐食や高温によるトラブルを防げます。

  • 緩み防止が必要な場合 – 三友精機では、標準インサートに緩み防止効果を持たせた「ロックインサート」を用意しており、コイルの一部を多角形にしてボルトをしっかり締め付けることで振動や衝撃によるゆるみを防ぎますsanyu-seiki.com。安久工機のコラムでも、コイルが多角形になったロックタイプは温度変化や振動などによるゆるみを抑制したい場合に使用する、と説明されていますyasuhisa.co.jp

5. 使用できる条件と使用できない条件

ヘリサートは万能ではなく、設置の可否やコストを考慮する必要があります。

  • 工具が入るスペースがあること – MONOWEB の記事では、ヘリサートは専用工具で挿入するため、タップが切れることと挿入工具が入る場所でなければ使えないとしていますd-monoweb.com。工具が入らない狭い箇所では適用できません。

  • 板厚が十分あること – ヘリサートには 1D、1.5D、2D など規格長さがあり、板厚より短いものを選ぶ必要があります。板厚が薄い場合にはヘリサートが入らないので使用できませんhamuteru.comd-monoweb.com

  • 加工数が少ない場合 – ヘリサートは一つずつ手作業で挿入するため、挿入数が多いと工数やコストが大きくなります。MONOWEB の記事は加工数が多い場合には本当にヘリサートが必要か再検討すべきだと述べていますd-monoweb.com。安久工機のコラムも、ヘリサート加工はロットが多いほど費用が高くなるため、母材を強い素材に変更する方がコストを抑えられる場合もあると指摘していますyasuhisa.co.jp

  • 止まり穴より通し穴が望ましい – 機械設計の部屋では、挿入途中で失敗したときに通し穴ならそのまま抜き取れるが、止まり穴では逆回転で戻すしかなくタングが折れて取り出せなくなる危険があるため、ヘリサートは通し穴に適用することを推奨していますhamuteru.com

  • 高衝撃や頻繁な脱着に耐える設計が必要 – 動きの激しい部分や強い衝撃が繰り返しかかる場所ではヘリサートを使うと良いですが、必要以上に多用すると作業が煩雑になります。機械設計の部屋は、ヘリサートの数が多くなる場合は材料を強いアルミ(A2000 系や A7000 系)に変える方法も示しており、ヘリサート採用前に材料変更によるコスト比較を検討するよう提案していますhamuteru.com

6. 業界別の使用例

三友精機によると、E‑サートは航空機・ロケット・人工衛星・自動車・鉄道車両・船舶・医療機器・電気機器・通信機器など幅広い製品に組み込まれていますsanyu-seiki.com。これらの分野では、軽量化と高い信頼性が求められるため、アルミや樹脂などの軽量材にヘリサートを用いて高強度のねじ結合を実現しています。安久工機のコラムも、自動車部品や航空機器、精密機器など耐久性と信頼性が必要な分野で広く利用されていると述べていますyasuhisa.co.jp

まとめ

ヘリサートは、柔らかい母材に強固なめねじを形成したり、損傷したねじ山を修復したりするために使われるステンレス製のコイルインサートです。アルミや樹脂などの軟質材に使用してネジの繰り返し脱着や強い締結力に耐える必要がある場合、振動や衝撃が大きい部分、軽量化を図りながら高強度を確保したい場合、高温・腐食環境に耐えるねじが必要な場合などに効果的です。一方、工具が入らない場所や板厚が不足している場所、大量の挿入が必要でコストが高くなる場合には適さず、材料変更など他の方法も検討する必要があります。使用条件や環境を考慮し、適切な材質・長さ・タイプのヘリサートを選定することが重要です。

板厚5mmのアクリルにM5のタップを立てる場合、脱着が多い箇所でなければヘリサートにする必要はないですか

いい質問です。結論からいうと: 板厚5 mmのアクリルに直接 M5 タップを立てて、「あまり脱着しない」「強く締め付けない」用途なら、必ずしもヘリサートを入れる必要はありません。 ただし、いくつか条件つきです。順番に整理します。

アクリル+M5タップだけでいける条件

次の条件を満たすなら「樹脂に直接タップでもOK寄り」です。
  1. ボルトの締め付けトルクが低い
    • 位置決め用の軽い押さえ程度(手で軽く締めるくらい)
    • 強いクランプ力や保持力を求めない
  2. 分解・再組立の回数が少ない
    • ほぼ固定しっぱなし
    • 例えば「つけたら基本外さない」「せいぜい数回外すかも」くらい
  3. 衝撃・振動がほとんどない
    • 振動があるとネジ穴がガタついて割れやすいです
    • 展示台・カバー・簡単なフタなどの用途は比較的安全
  4. ねじのかかり長さが十分ある
    • M5の場合、理想的にはめねじの有効ねじ長さは少なくとも直径と同程度ほしい(=約5 mm)
    • 板厚5 mmなら、座ぐりなどで薄くしなければギリギリそのくらい確保できます
    • ただしアクリルは脆いので、金属みたいな期待はできない。許容荷重はかなり小さいと思って扱うべき
この条件であれば、樹脂に直接タップで済ませても実用になりやすいです。 実際、ヘリサートは「アルミや樹脂などの軟らかい材料で、繰り返し使うねじや強い締め付けが必要な場合」に使う補強材、と説明されています。繰り返し使用や強い締め付け荷重があるときに使う、というのがポイントです。これは、樹脂やアルミのめねじは何度も脱着したり高荷重をかけるとネジ山がつぶれたり壊れるから、という理由です。

ヘリサートを入れたほうがいい・入れないと割れるリスクが高い条件

逆に、下のどれかに当てはまるなら「最初からヘリサート推奨」です。
  1. 何度もボルトを外す場所
    • メンテハッチ、治具のクランプ位置、実験用で毎回部品を付け替える場所など
    • 繰り返しの脱着や強い締付け力がかかる場所では、樹脂のねじ山はすぐナメます
    • こういう場合は最初からヘリサートを入れておくべき、という指針があります。
  2. がっちり締めたいところ(高いクランプ力が必要)
    • 固定力を信頼したい、荷重が乗る、衝撃がかかる
    • アクリルは引張り/割れに弱いので、強トルクで締めるとネジ山より先に母材が割れることもあります
    • ヘリサートを入れるとステンレスのめねじになるので、強い締め付けに耐えやすいと説明されています。
  3. 緩みが困る・脱落したら困る安全重要部位
    • 例えば動く装置のカバー保持、センサ固定、回転体のクランプセットビスなど
    • ヘリサートには「ロックタイプ」(一部が多角形でゆるみ止め機能を持つもの)もあり、振動環境でのゆるみ防止に使われます。
  4. 割れたら修理が大変な部位、交換不能な高価部品
    • 万一ネジをナメて補修し直すくらいなら、最初からヘリサート入れた方が安い
    • アクリル側が割れて修理不能になると困る構造体や光学部材など

板厚5 mmという条件の注意

  • ヘリサートには標準長さ(1D, 1.5D, 2Dなど)があり、基本はねじ径×1倍(=約5 mm for M5)やそれ以下の長さを選びます。薄板なら短いタイプを選んで入れることができます。
  • ただし、アクリル5 mm板に下穴→専用タップ→挿入…という加工はそこそこ手間です。1か所だけならまだしも、たくさんあると現場負担・コストが一気に跳ねます、という注意点もあります。
  • 工具のアクセスも必要です。ヘリサートは専用工具で真っ直ぐ入れる必要があるので、狭い場所・縁ギリギリなどだと入れられないことがあります。工具が入らない箇所は不可、という整理があります。

まとめ(あなたのケースに当てはめると)

  • 「板厚5 mmのアクリル」
  • 「M5タップ」
  • 「脱着が多い箇所ではない」
→ この条件だけを見ると、ヘリサート必須まではいきません。直接タップでも運用できる可能性は高いです。 ただし、次のときは最初からヘリサート入れた方が安心です:
  • ドライバーで“ギュッ”と強めに締めたい予定がある
  • 稼働中の装置で微振動や衝撃がある
  • 万一なめたら困る(やり直しできない)
今の用途が「フタ固定」「軽いブラケットの位置決め」「見た目用パネルのねじ止め」みたいな低荷重・ほぼ外さない場所なら、そのままM5タップでOK寄りです。 逆に「治具で使うクランプ位置」「センサー保持でたまに外して調整」「子どもがガチャガチャ触る・振る」みたいな場所なら、最初からヘリサート入れておくと後で泣かないです。  

最小長さが1Dになっているのはそれ以下は浅くて締結を推奨してないからですか

はい、そのとおりです。 ヘリサート(スレッドインサート)の標準長さが「1D(=ねじ径の1倍)」を最小としている理由は、これ以下では十分なねじ山のかかりが得られず、締結強度・引き抜き強度・ねじ山のせん断強度が保証できないためです。

🔧 1Dが最小推奨長さとされる技術的理由

1. ねじの「かかり長さ」は引張り強度を決める要因

ねじ締結部では、ボルト軸部が引張り荷重を受け、めねじ(母材側)はせん断応力でそれを受け止めます。 このときの**有効ねじ山長さ(かかり長さ)**が短すぎると、
  • 母材側のねじ山が破壊される
  • 引き抜き荷重に耐えられない といった問題が起きます。
一般的に、鋼製ボルト × アルミや樹脂など軟質母材では、 「ねじ径の1倍程度のねじ山長さ」でボルト強度に対して釣り合う」とされます。 つまり、1Dで設計すると、めねじ側の強度とボルト側の強度がほぼ同等レベルになります。 (これ以上長くしても、せん断面積は増えてもボルト軸部が先に降伏するため、効果が薄い)

2. 1D未満だと母材破壊モードが先行する

たとえば M5 の場合、
  • 1D=5 mm のねじ山長さがあると、 → M5ボルトの降伏強度(例:8.8級で約800 MPa)に見合うせん断面積が確保できる。
  • 0.5D=2.5 mm では、 → 有効ねじ山数が半減し、母材(特に樹脂やアルミ)が先にせん断破壊します。
したがって、ヘリサートメーカー(三友精機・ニチアス・Böllhoff など)も最短長さを1Dとし、それ以下は製造ラインナップに存在しないことが多いです。

3. ヘリサート固有の理由

  • ヘリサートはコイル状のステンレス線材で、ねじ山の応力を広く分散する設計になっています。 → しかし短すぎると「両端部しかかからず」、コイルのねじ座屈や抜けが起きやすくなる。
  • 挿入工具(タング折り込み)にも**最低限の巻き数(約1D分)**が必要です。 → これ以下では物理的に加工・挿入が安定しないという製造上の制約もあります。

4. 薄板でどうしても1D未満しか取れない場合

どうしても板厚が足りない(例:t=3 mm のアクリルに M5 など)ときは:
  • 貫通穴にしてナット or インサートナットを裏側で併用
  • 樹脂溶着ナット(ヒートインサート)や段付きブロックの埋め込み
  • 圧入式ブラインドインサート(Eサート短尺品や樹脂専用品)
などの代替手段が推奨されます。 ヘリサートを短く切って入れるのは、構造的にも保証外(不安定)です。

✅ まとめ

観点 1Dを下限とする理由
構造強度 母材のせん断強度とボルト引張強度のバランスが取れる
コイル形状 応力分散と安定した固定に最低限必要
加工性 タップ加工・挿入工具・タング折り作業が確実になる
標準化 JIS/ISOでも最短1Dを基準寸法として設計・供給

ご希望であれば、**M5に対してどの程度のねじ山長さでどのくらいの引抜き荷重に耐えられるか(数値例)**も計算して示せます。希望されますか?