リチウムイオン電池では、正極・負極間をリチウムイオンが移動することで充放電が進みます。
電解液の主たる役割はそのリチウムイオンを運ぶことですが、それだけでなく、高温・低温域での高電圧作動や高速充電を可能にしたり、電池の安全性と長寿命を確保することなどにも深くかかわっています。

なお、インターカレーションを基本原理とするリチウムイオン電池が実用化できたのは、それに適した電解液の開発に成功したことが鍵となりました。

有機電解液と電解質の成分

 

リチウムイオンは反応性が高く、水と激しく反応するため、従来の化学電池で使われてきた水系電解液は使えません。
代わりに有機溶媒にリチウム塩を少量とかした有機電解液を使用しています。

有機溶媒とは液体の有機化合物の総称で、身近なものではエタノールやベンゼン、トルエンなどがあります。
リチウムイオン電池の電解液は、一般に環状カーボネートと鎖状カーボネートの混合有機溶媒であり、その中に電解質としてリチウム塩を少量溶解させます。
カーボネートとは炭酸塩のことです。

リチウム塩はリチウムイオンの最初の供給源となります。
現在主流のリチウム塩は六フッ化リン酸リチウムです。LiPF6が汎用される理由は、イオン電導度が高く、電気化学的に安定していることに加えて、製造コストが安いためです。
また、良質な電解被膜をつくることや、分化して生じるフッ化物イオンが集電帯のアルミ箔の腐食を防止する機能を有することもわかっています。

ただし、LiPF6の欠点は熱的安定にかけることで、高温環境での作動や保存には適しません。

電解液にはさらに、電極保護や過充電防止、金属溶出を抑制する目的で種々の添加剤が加えられます。
なお、現在の主流は、エチレンカーボネートを混ぜた混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを溶解したものです。

有機電解液の利点

有機電解液を使用することで、起電力が高くなるという利点があります。
水の電気分解電圧は約1.23Vで、これ以上の電圧をかけなければ電気分解が起こらないのですが、逆にいえば放電電圧が1.23V以上になると、水系分解液は自ら水の電気分解を起こしてしまうのです。

実際は電気分解液の成分などによって違ってきますが、ニカド電池やニッケル水素電池の起電力が約1.2Vなのは、こうした電解液からくる制限のためです。
その点、有機電解液では制限電圧が高いため、リチウムイオン電池では高い電圧が可能になりました。

さらに混合有機溶媒は-20℃~という低温度帯での電池の使用を可能としています。
水系電解質の電池に比べて凍結温度が低いので、氷点下での作動に強みがあります。

 

有機電解液が発火の原因に

一方、有機電解液の最大の欠点は、可燃性であることです。
いわばガソリンのようなものなのです。

過去、リチウムイオン電池が発火したり爆発したりする事故が多発したのは、可燃性の電解液が原因の1つです。
鎖状カーボネートの引火点はかなり低いです。

現在の日本製品では発火問題はほぼ解決していますが、すべてのリチウムイオン電池の安全性が認められているわけではありません。
そのため原則的に、航空貨物でリチウムイオン電池を単体で発送することは今でもできません。

電極を覆う被膜は悪玉か、善玉か

電解液の役割には、良質な電極被膜を作ることもあります。
リチウムイオン電池では、副反応として両電極表面に数十nmの厚さのごく薄い不働態皮膜が形成され、これをSEI(Solid Electrolyte Interface)といいます。
不働態とは反応がない状態のことです。

中でも負極の亜鉛を覆うSEIは、初回充電時に電解液の還元反応で作られます。
SEIはリチウム化合物を含むため、リチウムを消費して放電容量を減少させると同時に、充放電効率も低下させます。
と、ここまではSEIは悪玉です。

ところが、2サイクル目以降の充放電からは、SEIは充電で厚くなり、放電で薄くなることを繰り返し、結果的に安定被膜となり、イオン伝導性を持っているため、充放電効率をほぼ100%に安定的に保つのに貢献するのです。

リチウムイオン電池が長期にわたって安定した出力を続けられるのはSEIのおかげでもあり、その意味ではSEIはとびっきりの善玉といえます。

 

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