フライス盤とは

 

フライス盤(ふらいすばん)は、金属を切削する工作機械の一種です。主に金属加工において、精密な面取り、溝切り、歯車加工、複雑な形状の穴あけなどを行うことができます。

 

フライス盤は、回転する切削刃を用いて金属を削り取ることができます。加工する金属の固定は、テーブルと呼ばれる水平面に行われ、切削刃はスピンドルと呼ばれる垂直方向の軸に取り付けられています。スピンドルを動かすことで、切削刃をテーブルに近づけたり、離したりすることができます。

 

フライス盤は、大型の工業用機械から、小型のDIY用機械まで多種多様な種類があります。一般的に、フライス盤は、主軸と呼ばれる回転軸を中心に、テーブル上の作業物を移動させることで、切削加工を行います。切削には、刃先を持つ切削工具(カッター)が用いられ、テーブルの移動や主軸の回転、または両方を組み合わせて、作業物の切削を行います。

 

フライス盤は、多くの場合、非常に高い精度で作業ができることが特徴です。また、曲線的な形状や複雑な形状も切削することができるため、部品や製品の設計や製造において、非常に重要な役割を果たしています。また、フライス盤は、CNC(コンピュータ数値制御)によって自動的に作業を行うこともできます。

 

フライス工具の種類と特徴

フライス工具は、フライス盤という工作機械を用いて、金属やプラスチックなどの材料を切削して形状を加工する工具です。フライス工具は、その形状や刃の数、切削面の形状などによって多様な種類があります。加工対象の材料や形状に合わせて適切なフライス工具を選ぶことが重要です。以下では、代表的なフライス工具の種類と特徴について説明します。

 

正面フライス

 

正面フライスとは、フライス盤に取り付けられた工具の一種で、主に平面加工に使用されます。正面フライスは、フライス盤の主軸に対して平行にセットされた切削刃を持つ工具で、フライス盤のテーブルを移動させて材料を切削します。正面フライスは、切削刃が直線状になっているため、平面加工に向いています。正面フライスには切削刃の材質やコーティングによって、耐摩耗性や耐熱性が向上したものもあります。

 

正面フライスは、平面加工だけでなく、スロット加工や溝加工、穴加工にも使用されます。ただし、曲面加工には向かないため、曲面を加工する場合には他のフライス工具が使用されます。正面フライスは、その形状と機能のシンプルさから、広く使われるフライス工具の一つです。

 

正面フライスの外径の大きさと刃数の選択方法

工具径はΦ50 φ250くらいが一般的で、メーカーにより特殊なサイズもあります。直径の大きい工具ほど効率的ですが、工作機械や、ワーク(被削材)に合わせた工具選びが大切です。

 

エンゲージ角

エンゲージ角とは、切削工具の刃先が材料に切り込む際に形成される角度のことを指します。

エンゲージ角が大きくなると、切りくず厚さが、送り量に対して薄くなり、切れ刃が工作物に食い込まず、擦れるような状態になります。
すべり状態になると、過大な圧力がチップに発生して、チッピングが生じやすくなります。

 

一般的な目安として以下のような値が挙げられます。

 

炭素鋼、合金鋼:10度から20

アルミニウム合金、銅合金、真鍮:15度から30

 

実際の加工ではエンゲージ角を把握することが難しいので、正面フライスの外径と工作物の幅で確認します。

 

一般鋼材・・・53
鋳鉄・・・4:3

アルミニウム合金、銅合金、真鍮:3253

 

同時切れ刃数

同時切れ刃数とは、フライス工具に取り付けられた刃が一度に被削材に接して切削を行う数を表す指標です。通常、フライス工具の刃数は1枚から数十枚程度まで様々な種類がありますが、同時切れ刃数はフライス工具を使用する際の重要なパラメータの1つで、加工効率や加工精度に大きな影響を与えます。加工中に同時切れ刃数が変化すると、切削抵抗が変動し、良好な切削を行うことができません。良好な正面フライス加工を行うためには、同時切れ刃数が変化なく一定に保つ事が重要です。

正面フライスと工作物の位置関係によって同時切れ刃数が変わる場合があります。外径、刃数が同じ正面フライスで、工作物の大きさも同じ場合でも、正面フライスの中心と工作物の中心をずらすことにより、同時切れ刃数を増やすことが出来ます。正面フライスに対して工作物が小さい場合(同時切れ刃数が0になる場合がある大きさ)には中心をずらすと良いでしょう。

同時切れ刃数は刃数、正面フライスの外径、工作物の幅、正面フライスと工作物の位置関係によって変わります。

工作物の材質と刃数

工作物と正面フライスの刃数は次式が目安になります。

 

一般鋼材:N=D

アルミニウム合金、銅合金、真鍮:N=D+2
硬質材料:N=2×D

N=刃数(枚)、D=外径(インチ)

 

・同時切れ刃数は工作物と材料の位置関係を変えることによって調整できます。
正面フライスの中心と、工作物の中心をずらして送ることで、同時切れ刃数を安定させることができる場合もあります。

 

スローアウェイチップ

正面フライスには、植刃式、スローアウェイ式、ろう付け式の3種類の構造があります。

 

植刃式は、チップを専用のホルダーに挿入し、ホルダーをフライス本体に取り付けます。刃の交換が容易で、専用のホルダーを用いるため、高い安定性があります。

ろう付け式は、チップをろう付けしてフライス本体に取り付けます。植刃式やスローアウェイ式に比べて、チップの取り付けや交換に時間がかかりますが、高い安定性を持っています。また、ろう付け部分が刃先よりも強くなるため、刃の安定性が高まります。

スローアウェイ式正面フライスは、交換可能なスローアウェイチップを使用する方式です。この方式では、チップが摩耗したり破損した場合、チップだけを交換してフライスを再利用できます。チップの種類によって異なる切削特性を得ることができ、切削条件の変化に対応することができます。スローアウェイ(チップ交換式)の正面フライスを使うのが一般的です。スローアウェイチップについて解説していきます。

 

チップの高さをてこ式ダイヤルゲージで確認する

 

正面フライスのチップの高さを確認する方法は以下の通りです。

 

フライス盤の主軸を停止させます。

チップの高さを測定する位置にダイヤルゲージを取り付けます。一般的にはチップの中心付近を測定するのが一般的です。

チップの高さをゼロ点に合わせます。

チップの位置を移動させ、別の位置でもう一度高さを測定します。この時、ダイヤルゲージの針が動く方向に注意してください。

2回目の測定結果をゼロ点として設定します。

チップの高さを測定したい位置に移動させ、ダイヤルゲージの針が示す数値を読み取ります。

 

スローアウェイチップの高さは仕上げ面荒さに直接影響を及ぼすので、全てのチップの高さを調整する必要があります。

チップの角度

アキシャルレーキとラジアルレーキ

アキシャルレーキとは、フェイスミルを側面から見たときの、チップのすくい角のこと。アキシャルレーキのすくい角が正()のときは、切削性が良くなり、溶着も起きにくくなります。
ラジアルレーキとは、フェイスミルの上側、もしくは裏側から見たときの、チップのすくい角のことです。ラジアルレーキは負()のすくい角のとき、切りくずの排出性が良くなります。下記の表はレーキの組み合わせによる切削への影響です。

 

レーキの
組合わせ
適した被削材 加工条件 切味 切削抵抗 刃先強度 切りくず排出
ダブルポジ 軽合金
ねばい材料
非金属
軽切削
ダブルネガ 硬質材料
鋳鉄用
重切削
ネガ・ポジ 鋼、鋳鉄
難削材
切りくず排出性の
悪い材料
汎用
中切削
最良

 

アプローチ角

刃が材料を切り取る角度を「アプローチ角(またはコーナ角)」、アプローチ角の余角を「切込み角」といいます。アプローチ角(または切込み角)は切削抵抗の向きに影響する角度です。 アプローチ角が大きい(切込み角が小さい)と切り取り厚さが小さくなるため、切削抵抗が小さくなります。重切削が可能になり、工具寿命が延びます。しかしアプローチ角が大きい正面フライスは切削抵抗が主軸方向に作用するため、主軸の剛性が弱く、主軸が傾きやすい(軸方向と直角方向の力に弱い)小さな工作機械のときには、アプローチ角が大きい正面フライスを選択するのがよいでしょう。一般にアプローチ角は、20~30°が採用されています。

 

チップ形状

チップ形状と用途を表にまとめています。

チップ形状 用途
丸駒チップ 曲面加工用
第一切れ刃が仕上げ面に平行になっており、仕上げ面を平坦に加工できる
直角削りチップ(アプローチ角 直角の溝を切る際に使用
軸方向の切込みを大きくできます
汎用平面削りチップ(アプローチ角15~45° 汎用性が高く、フライス加工で幅広い用途に使用される
面取りチップ(アプローチ角45° 角を面取りする際に使用

 

エンドミル

エンドミルはフライス加工で使用される切削工具の一種で、円筒形の本体に複数の刃を備えています。工作物の側面から加工することができるため、穴あけ加工や立ち上がり部の加工に適しています。それぞれの種類に応じて、様々な加工に利用されます。

以下にエンドミルの分類表を示します。

 

 

 

分類項目 種類
刃数 一枚刃、二枚刃、多刃
シャンク形状 ストレートシャンク、フラット付きストレートシャンク、モールステーパーシャンク、7/24テーパシャンク、BTシャンク
刃先形状 スクエア刃、ボール刃、ラジアス刃、面取り刃
材質 HSS、超硬合金、コーティングCBN、ダイヤモンドなど
刃長 S、R、M、L、E
底刃の形状 センタカット、センタ穴付き
ねじれ角 なし、低ねじれ、中ねじれ、高ねじれ
外径 0.95~118(ストレート刃エンドミルの場合)

 

エンドミルの構造

ストレートエンドミルの外径は0.95mm118mmまでが規定されています。

エンドミルの刃数が多いとエンドミルの断面積は大きくなります。その結果エンドミルの強度が上がり切削時のたわみが小さくなるため、加工精度良くなります。
エンドミルの刃数が多いとチップポケット大きさは小さくなります。その結果切りくずの排出性が悪くなり、切りくずが詰まりやすくなります。

 

エンドミルについては下記ページに詳しくまとめられていますので確認してください。

エンドミル(オーエスジー)

エンドミルの外径許容差

JISでは、エンドミルを刃数で分類した場合、2枚刃と多刃の2種類に分類しています。
二枚刃のエンドミルの外径許容差は、はめあい公差h10と同じです。すなわち、市販されているエンドミルは、呼び外径より、直径が幾分小さくなっています。
多刃エンドミルの外径許容差は、はめあい公差js14と同じです。呼び外径より、プラスにもマイナスにも振れる可能性があります。

このようにエンドミルの外径は±0の精度ではないので、穴あけ加工を行う場合には、許容差を注意する必要があります。

フライス加工で使う道具

フライス加工では、さまざまな形状の工具を使用するため、それらを保管・管理するための工具や、加工に必要な道具が必要になります。以下では、フライス加工で使用される代表的な道具について説明します。

油砥石

 

油砥石は、刃物や金属加工工具の研削作業に用いられる砥石の一種で、鉱物油を添加して研削作業を行うことができます。

 

一般的に、油砥石はシリコンカーバイト(SiC)やアルミナ(Al2O3)などの超硬質研磨材料から作られています。これらの砥粒は、刃先を鋭利にするために使用されます。油砥石には、鉱物油が含まれており、砥石と刃物の接触部分で生じる熱を冷却するために使用されます。また、油砥石は、研削粉や刃物の切屑を適切に排出するためにも使用されます。

 

油砥石は、金属やプラスチックなどの加工に使用されるさまざまな種類の工具に使用することができます。また、異なる粒度の油砥石を使用して、加工品の表面の仕上げを調整することもできます。ただし、油砥石は、使用中に砥粒が詰まることがあるため、定期的な清掃が必要です。

 

切削現象と基本理論

 

切削加工の3条件とは、「切削速度」、「送り速度」、「切り込み深さ」のことを指します。切削条件をいい加減に決めてしまうと非常に危険です。

切削速度:工具が回転する速度で、単位はm/minm/sなどです。材料の種類によって切削速度は異なり、硬い材料ほど切削速度が低くなります。

送り速度:工具が回転しながら進む速度で、単位はmm/minなどです。材料によって最適な送り速度が異なり、送り速度が速すぎると工具に負荷がかかって寿命が短くなる可能性があります。

切り込み深さ:工具が一度に切り込む深さで、単位はmmなどです。切削力や切削熱の発生量にも影響を与えます。深すぎると工具に負荷がかかり、また加工精度も低下する可能性があります。

 

 

 

切削速度

フライス加工の標準的な切削速度を示します。

m/min

  高速度工具鋼
(エンドミル)
超硬合金
(正面フライス 荒加工)
超硬合金
(正面フライス 仕上げ加工)
鋼材(S45C 15~20 75~100 150~200
鋼材(S20C 30 100~120 180~200
鋳鉄(鋼材) 24 30~60 75~100
50 150~240 240~300
アルミニウム合金 150 95~300 300~1200

参考:絵ときフライス加工の基礎のきそ

 

送り速度

送り速度Fmm/min)の式は以下の通りです。

 

F = N × f × Z

 

ここで、

F:送り速度(mm/min

N:主軸回転数(rpm

f:切れ刃1枚当たりの進組(フィード)速度(mm/刃)

Z:切削工具の刃数(刃)

 

表に正面フライス加工の標準的な1刃当たりの送り速度を示します。チップは超硬合金チップを使用した場合です。

mm/刃)

  荒加工 中仕上げ加工 仕上げ加工
鋼材(S45C 0.15~0.2 0.08~0.15 0.05~0.1
鋼材(S20C 0.15~0.3 0.12~0.15 0.05~0.1
鋳鉄(鋼材) 0.3 0.1~0.15 0.05~0.1
0.3 0.1~0.15 0.05~0.1
アルミニウム合金 0.3~0.5 0.1~0.15 0.05~0.1
ステンレス 0.15 0.1~0.15 0.05~0.1

参考:絵ときフライス加工の基礎のきそ

切込み深さ

 

切込み量と加工精度の関係は一般的に切り込み量が大きいほど加工精度は低く、加工時間は短く、刃物への負担が大きくります。切り込み量が小さいほど加工精度は良く、加工時間は長く、刃物への負担が小さくなります。極端な場合は切り込み量が深すぎるとたわみによる振動が発生する現象が起こります。(ビビリ)反対に、切り込み量が浅すぎると表面を滑ってしまう現象が起こります。(スリップ現象、こすり現象)

正面フライス加工の標準的な切込み深さは表のようになります。チップは超硬合金チップの場合です。

mm

荒加工 10以下
中仕上げ加工 0.5~0.1
仕上げ加工 0.3~0.5

 

 

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