ソフトウェア・エンジニアという職

先日、「シリコンバレーで働いてわかった『日本人がお金持ちになれない』納得の理由』納得の理由」記事を目にしました。魅力的なタイトルの割に、あまり中身はないのですが、要約すると、

シリコンバレーでソフトウェア・エンジニアとして働けば年収1億円も無理じゃない
日本企業はコア製品を外注するからダメ
となります。どちらもそれなりに正しいことを言っていると思いますが、「日本人がお金持ちになれない」理由にはなっていないと思います。

まず最初の点に関して言えば、「ソフトウェア業界が非常に恵まれている」ことに尽きると思います。90年代から始まった、情報革命は今でも続いており、今や、あらゆる業界がインターネットやソフトウェアを活用する時代になっています。

結果として、優秀なソフトウェア・エンジニアは引く手数多で、中堅どころのエンジニアが、基本給で年収15万~20万ドル(1500万円~2000万円超)を稼げます。それに加えて、この業界にはストック・オプションという素晴らしボーナス・システムがあり、会社での成績と会社の株価次第では、数千万円から数億円のボーナス収入を手に入れる可能性すらあります。つまり若くして、ミリオネラ(100万ドル以上の資産を持つ人、日本語で言えば「億り人」)になることが十分に可能なのです。

少し前に、米国の大学でトップクラスのテニス・プレーヤーと話す機会がありましたが(ジュニアの世界大会で2度ほど優勝経験がある人です)、プロになってランキングのトップ100に入ったとしても食べていくのはやっとなので、自分は大学を卒業したらプロにはならずに普通の会社に就職すると言っていたのが印象に残りました。

ソフトウェア・エンジニアで大学時代にそのレベルで活躍していたら、どこにでも高給で雇ってもらえ、すぐに上に書いたような「エリート・エンジニア」の仲間入りをすることが出来ます。つまり、テニス・プレーヤーと比べたらはるかに敷居は低いのです。

具体的な数字を見つけることは難しいですが、私が知っている限りで Microsoft だけで少なくとも1万人以上のミリオネラを生み出してきました。

Microsoftに匹敵する規模の会社が5つあり(Apple、Google、Facebook、Amazon)、さらにその下に中堅どころの会社がたくさんあることを考えれば、業界全体で少なく見積もっても20~30万人のミリオネラを生み出している計算になります。

テニス・プレーヤーが世界ランキングのトップ100に入ってようやく食べていけることと比べたら、千から一万倍ぐらいソフトウェア・エンジニアは恵まれた職業なのです。

野球やサッカーのようなチーム・スポーツだと、テニスよりは恵まれていると思いますが、それでも「野球やサッカーで食べていくこと」は簡単ではないし、それこそ年収1億円を超えるような選手になれる人はごく一部です。

子供達に人気の Youtuber も、トップクラスはたくさん稼いでいますが、それで食べていける人は Youtube チャンネルを持っている人の 0.01% にも満たない狭き門です。

それと比べると、大学でしっかりとコンピューター・サイエンスを勉強し、伸び盛りのベンチャー企業に就職しただけで、エリート・エンジニアの仲間入りが出来、そして少し運が良いだけで(ストック・オプションのおかげで)ミリオネアになれるソフトウェア業界は、本当に恵まれていると思います。

そう考えると、この商売は子供達にもっと人気があっても良いと思いますが、残念ながらアンケートを取ると、サッカー選手やYoutuberに常に負けています(日本でも米国でも同じで結果です)。

 

引用:週刊 Life is Beautiful 2020年9月1日号