一般成人を対象としたマッサージの効果:最近の研究レビュー

近年、マッサージ療法のストレス緩和や疼痛軽減、筋疲労回復、睡眠改善、血行促進効果について多くの臨床研究が報告されている。本レビューでは、過去5年以内の研究論文を中心にこれらの効果を概観し、各研究の目的・対象・手技・主な結果・結論をまとめる。

ストレス軽減効果

一般成人のリラクゼーションやストレス低減を評価した研究では、短時間のマッサージでも心理・生理面のリラックス効果が確認されている。Meierらのランダム化比較試験(2020年)は、10分間の標準化された肩・首へのマッサージ(ヴァーサス休息)を健康な女性被験者(20代)に行い、マッサージ群で呼吸性心拍変動(HF-HRV)が休息群に比べて有意に大きく増大した(胸部・肩への軽い圧を含む施術)。主観的リラックス度もマッサージ群で有意に上昇し、心理的ストレス感は全群で低下したが、マッサージ群ではより強い副交感神経優位(HF-HRV増加)が認められた。Frickerら(2023年)は、成人大学生(平均22歳、ほぼ全員女性)に椅子に座った姿勢で17分間の背中・首・腕へのアママッサージ(指圧系)を施し、安静群と比較した。結果、マッサージ群ではストレス・不安度が有意に低下し、自己効力感が増加した。また、マッサージに伴ってオキシトシン濃度が有意に上昇した一方、コルチゾールや炎症マーカー(CGRP, IL-6)は変化がなかった。これらより、短時間のマッサージは心理的ストレス軽減と副交感神経活性化を通じてリラックスを誘導し、その一因にタッチによるオキシトシン分泌が寄与する可能性が示唆されている。

研究(著者・年) 対象 マッサージ内容 主な結果
Meier 2020 健常若年女性60名 肩・首への10分間標準マッサージ HF-HRV(副交感神経指標)が休息群に比べ増大。主観的リラックス度上昇
Fricker 2023 健常成人男女59名 椅子で背中・首への17分アママッサージ ストレス・不安度低下、自己効力感増加。オキシトシン増加

痛みの緩和効果(腰痛・頸肩こり等)

腰痛や頸肩部痛を対象としたRCTでも、マッサージ療法の鎮痛効果が報告されている。Chenら(2022年)は、慢性非特異的腰痛の女性患者56名を対象に、計6回のマッサージ施術(30分/回)で局所的に高圧(HF≥2kg)対低圧(LF≤1kg)を比較した。介入終了時点で、高圧群の疼痛スコア(VAS)は低圧群より平均1.33ポイント有意に低く、痛み軽減効果が優れていた。ただし介入終了後の追跡時点では差は消失し、機能障害やQOLへの影響はみられなかった。一方、Skillgateら(2019年)は、亜急性〜慢性の頸部痛患者619名を対象に深部組織マッサージ、運動療法、併用療法、安静指導を比較した大規模RCT(STONE試験)を実施。結果、7~26週の短期的にはマッサージ群で疼痛改善の割合(有意改善発生率)が高かったが、12ヶ月時点では安静指導との差は認められなかった。つまり、マッサージは短期的には痛みや回復感を増進するものの、長期的には持続的優位性は限定的であった。

研究(著者・年) 対象 マッサージ内容 主な結果
Chen 2022 慢性腰痛女性56名 6回(3週) 高圧 vs 低圧マッサージ 高圧群でVAS疼痛低下量がLF群より有意大(平均差–1.33)
Skillgate 2019 亜急性・慢性頸部痛619名 深部組織マッサージ vs 運動 vs 安静指導 マッサージは短期(7–26週)に疼痛改善率増加を示したが、1年時点で安静群と差なし

筋肉疲労の回復効果

運動後の筋疲労・遅発性筋肉痛(DOMS)に対するマッサージ効果では、スポーツ・運動科学分野の系統的レビューが報告されている。Davisら(2020年)はスポーツマッサージが運動パフォーマンスと回復に与える影響をメタ分析した結果、筋力・持久力・跳躍等のパフォーマンス指標には有意な向上は認められなかったが、柔軟性とDOMS(運動後筋肉痛)については小さいながら有意な改善効果があった。つまり、マッサージは筋疲労そのものや運動能力を直接改善するより、筋肉痛の軽減や可動域向上をもたらす傾向にあるとされる。さらに近年の研究では、激しい筋負荷後の回復介入として、静的アイシングと比較したマッサージの有効性も検討されている。あるランダム化クロスオーバー試験(2025年)では、総合格闘技(MMA)のラウンド間に5分間のドライマッサージまたはアイスを実施したところ、マッサージは筋肉の硬直増加をより抑制し、筋肉の弾性をより維持する効果が示された。以上より、マッサージは運動後の筋肉痛・硬直を短期的に緩和し、可動域や柔軟性の回復に寄与する可能性が示唆されている。

研究(著者・年) 対象 マッサージ内容 主な結果
Davis 2020 スポーツ選手ら29研究(計1012名) 各種スポーツマッサージ vs 無治療 筋力・持久力には有意改善なし。柔軟性とDOMSの軽減にわずかながら有意効果あり
Xら 2025 MMA選手(局所) 5分間ドライマッサージ vs アイス(グレータ) マッサージ群で筋肉硬直・緊張の増加がより抑制され、筋肉弾性を維持する効果が顕著

睡眠の質向上効果

睡眠改善を目的とした研究でも、マッサージが睡眠の効率や時間を増進する報告がある。Dardiotisら(2025年)は慢性不眠症状を有する成人20名に対し、就寝前45分のリラクゼーションマッサージ(軽めのスウェーデン式)とシャムマッサージ・無介入を比較したクロスオーバー試験を実施した。ポータブル脳波計測の結果、マッサージ施術により睡眠効率が有意に増加し、対照群よりも睡眠潜時が短縮された(睡眠効率が約10.8%増加し、維持睡眠効率も6.96%改善)。著者は、「就寝前のリラクゼーションマッサージは、不眠症患者の睡眠効率を改善する安全な非薬物的介入となりうる」と結論付けている。一方、Gökbulutら(2022年)は閉経後女性70名に毎日7日間の足裏マッサージを行い、対照群と比較したところ、マッサージ群で1日の平均睡眠時間が約1時間延長し、疲労度(FSS)も有意に低下した。これらから、マッサージは睡眠の質・量を向上させる効果が期待され、特に睡眠効率の改善や睡眠時間の延長が観察されている。

研究(著者・年) 対象 マッサージ内容 主な結果
Dardiotis 2025 不眠症状のある成人20名 就寝前45分リラクゼーションマッサージ vs シャム・無介入 マッサージ施術で睡眠効率が約10.8%増加(睡眠潜時短縮)。継続睡眠効率も有意改善
Gökbulut 2022 閉経後女性70名 毎日30分×7日の足裏マッサージ マッサージ群で平均睡眠時間が約8hに延長(対照7h)、疲労度スコアも有意低下

血行・循環改善効果

マッサージによる局所循環促進効果を検証した研究では、直接的に血流量や血管直径の増加を示す結果もある。Felandら(2023年)は26名の健康な大学生を対象にマッサージガン(局所振動装置)の使用周波数の影響を検討した。膝下への振動マッサージ(30Hz, 38Hz, 47Hz、5分/10分)をランダムに適用し、超音波で膝窩動脈の血流を測定したところ、38Hzおよび47Hzでは血流量と血流速度が有意に増加し、コントロール条件(安静)では血流が減少した。特に47Hzで10分間処理した場合、膝窩動脈血流量は施術後3分で最大約47%増加した。同研究は「高周波・長時間の振動マッサージが局所血流を大きく増加させる」と報告しており、筋組織の血行改善を通じた回復促進や疼痛緩和を示唆している。以上より、マッサージ(特に振動刺激を伴う手技)は局所循環を増大させ、血液・リンパの流れを促すメカニズムがあると考えられる。

研究(著者・年) 対象 マッサージ内容 主な結果
Feland 2023 健常若年成人26名 膝下への局所振動マッサージ(30/38/47Hz, 5-10分) 38Hz・47Hzで膝窩動脈血流量・速度が有意増加(47Hz・10分で最大47%増)

参考文献: 上記記載のなど(公式ジャーナル・データベース)。各研究の結果は効果の可能性を示すものであり、継続的介入や個人差による結果の変動に留意されたい。