機械保全2級 三相誘導電動機|工場のどこで使われ、なぜ「始動」と「型式」が問われるのか

機械保全技能検定(2級)では、三相誘導電動機に関する問題がよく出ます。同期速度の計算、始動方式、かご形と巻線形の違いなど、覚えることが多く感じるテーマです。

しかし、これらはバラバラの知識ではありません。「工場で電動機をどう使い、どんな課題があり、だからどう選ぶか」という一本の筋でつながっています。この記事では、その筋道に沿って、三相誘導電動機を保全の視点から解説します。丸暗記ではなく、現場でどう関わるかとセットで理解すれば、試験にも実務にも効きます。

なお、実際の過去問と正解は機械保全技能検定の公式サイトで公開されています。本記事は問題文を引用せず、問われるテーマを解説する形で進めます。

目次

工場のどこで使われているか:動くものの多くが誘導電動機

まず、三相誘導電動機が工場のどこにあるかを押さえておきましょう。結論を言うと、「動くもの」の多くがこれで駆動されています。

  • クレーン・ホイスト(巻き上げ、横行、走行)
  • 送風機(ファン)・ブロワ、換気ダクトの排気
  • ポンプ(冷却水、給排水、油圧ユニット)
  • コンプレッサー(工場のエア源)
  • コンベア・搬送設備
  • ミキサー、撹拌機、粉砕機

これだけ広く使われる理由は、三相誘導電動機が構造が単純で、丈夫で、安価で、メンテナンスが楽だからです。特に後で説明する「かご形」は、摩耗する電気接点のような部品がなく、基本的には軸受さえきちんと管理すれば長く回り続けます。だからこそ、工場の動力源の主役であり、保全の対象として最も数が多いモーターでもあります。

保全担当として見れば、「工場中にある、いちばん身近な機械」がこの三相誘導電動機だと言えます。

課題:始動の瞬間に大電流が流れる(突入電流)

これだけ便利な誘導電動機ですが、扱ううえで避けて通れない課題があります。始動時に大きな電流が流れることです。

三相誘導電動機を、そのまま定格電圧で始動(直入れ始動、全電圧始動)すると、始動電流は定格電流のおよそ6〜8倍にもなります。これは、始動の瞬間は回転子が止まっていて、電気的には変圧器の二次側を短絡したような状態に近いためです。

この大電流は、2つの問題を引き起こします。

一つは、電源設備への負担です。一瞬とはいえ定格の数倍の電流が流れるので、変圧器の容量、ケーブル、遮断器がそれに耐えられなければなりません。電動機を選ぶとき、電源容量を考慮しなければならないのはこのためです。実際、電力会社は一定容量(おおむね3.7kW)を超える三相誘導電動機については、始動電流を抑える始動装置を使うよう定めています。

もう一つは、電圧降下です。大きなモーターを直入れすると、始動の瞬間に系統の電圧が一時的に下がり、同じ電源につながっている他の機器に影響します。照明がちらつく、他の設備が不安定になる、といった現象です。

対策:始動電流を抑える始動方式

そこで、ある程度大きな電動機では、始動電流を抑える始動方式が使われます。代表的なものを挙げます。

直入れ始動(全電圧始動):最初から定格電圧をかける最もシンプルな方式。始動操作が簡単で始動トルクも大きいですが、始動電流が大きいため、比較的小容量の電動機に使われます。

スターデルタ(Y-Δ)始動:最も一般的な減電圧始動です。始動時は固定子巻線をスター(Y)結線にして、1相にかかる電圧を下げることで、始動電流を直入れの約1/3に抑えます。回転が上がったらデルタ(Δ)結線に切り替えて、定格運転に移ります。ただし、始動トルクも約1/3になるため、始動時に軽い負荷でよい用途(ファンやポンプなど)に向いています。

リアクトル始動・コンドルファ始動:始動時に電圧を落として始動電流を抑える方式です。

インバータ(VVVF)始動:周波数を徐々に上げて滑らかに始動する方式。始動電流を抑えられるうえ、運転中の回転数制御による省エネ効果も大きく、近年広く使われています。

保全の現場では、「このモーターはなぜスターデルタなのか」「インバータ化で始動電流と電気代を下げられないか」といった判断に、この知識が直結します。

かご形と巻線形:回転子の構造が違う

ここまでの「始動」の話を踏まえると、かご形と巻線形の違いが理解しやすくなります。両者の違いは、回転子(ローター)の構造にあります。

かご形誘導電動機

回転子が、金属の導体バーを両端でリング状につないだ「かご」のような構造をしています。リスのかごに似ていることが名前の由来です。

  • 長所:構造が単純、丈夫、安価。摩耗する電気接点がなく、メンテナンスが楽。堅牢で信頼性が高い
  • 短所:始動電流が大きく、始動特性を外から調整しにくい
  • 用途:工場のモーターの大多数。ポンプ、ファン、コンプレッサーなど、始動時に重い負荷がかからないもの

先に述べた始動電流の問題は、主にこのかご形の話です。だからこそ、スターデルタなどの始動方式が発達しました。

巻線形誘導電動機

回転子にもコイル(巻線)が巻いてあり、その端子がスリップリングとブラシを通して外部に引き出されています。外部に始動抵抗器をつなぐことができます。

  • 長所:回転子回路に抵抗を入れることで、始動電流を抑えつつ、大きな始動トルクを得られる。始動が済んだら抵抗を短絡する
  • 短所:構造が複雑で高価。スリップリングとブラシという摩耗する保全箇所がある
  • 用途:クレーン、巻き上げ機、大型ミル、圧延機など、重い負荷を始動の瞬間から力強く動かす必要があるもの

冒頭で挙げたクレーンに巻線形が使われるのは、重量物を停止状態から持ち上げるのに、大きな始動トルクが必要だからです。用途から型式が決まる、という関係が見えてきます。

覚え方の核心

かご形は「単純・丈夫・安いが、始動特性の融通は利かない」。巻線形は「大きな始動トルクを稼げて始動電流も抑えられるが、複雑・高価で、ブラシの手入れが要る」。 始動性能と保全性のトレードオフだと理解すると、丸暗記せずに済みます。

保全の視点:型式によって点検項目が変わる

この違いは、保全の実務にそのまま反映されます。

かご形は電気的な摩耗部品がないので、点検の中心は軸受(異音、振動、発熱、グリース)と、絶縁、端子の緩みなどです。一方、巻線形はこれに加えて、スリップリングとブラシの摩耗・接触状態という固有の点検項目があります。ブラシは消耗品なので、摩耗量の管理や交換が必要です。

つまり、「どの型式のモーターか」が分かれば、「何を重点的に点検すべきか」も決まる。試験で問われる型式の違いは、現場の点検計画に直結する実務知識なのです。

試験対策への回収

まとめると、三相誘導電動機のテーマは、次の一本の筋でつながっています。

  1. 工場の動力源として広く使われる(用途)
  2. 始動時に定格の6〜8倍の突入電流が流れる(課題)
  3. だから始動方式(スターデルタなど)で電流を抑える(対策)
  4. 用途に応じてかご形・巻線形を選ぶ(型式選定)
  5. 型式によって点検項目が変わる(保全)

同期速度の計算、始動方式、型式の違い——試験で個別に問われる項目も、この筋で理解すれば、なぜその知識が必要なのかが腑に落ちます。丸暗記より、はるかに忘れにくくなります。

実際の過去問は公式サイトで公開されています。この筋道を頭に入れてから解くと、単なる正誤問題が「現場の判断につながる知識」として身につくはずです。

おわりに

三相誘導電動機は、工場でいちばん身近な機械でありながら、始動、型式、保全と、奥行きのあるテーマです。機械保全の勉強では、こうして「用途→課題→対策→選定→保全」の流れで理解すると、知識がバラバラにならず、実務にも生きてきます。

このシリーズでは、機械保全2級の各テーマを、同じように現場の視点で掘り下げていきます。試験勉強をしながら、日々の保全業務の理解も深めていければと思います。


本記事は、機械保全技能検定(2級・機械系保全作業)で問われるテーマを、筆者の実務経験と公開されている技術情報をもとに解説したものです。試験問題そのものは引用しておらず、実際の過去問・正解は機械保全技能検定の公式サイトをご参照ください。始動方式や機器の選定は設備条件により異なるため、実際の設計・保全にあたっては各機器の仕様や関係法令をご確認ください。

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