**断面2次モーメント(第二次モーメント)**は、材料力学や構造力学で断面の「曲げ剛性」や「たわみ」を計算する際に用いられる断面形状の幾何特性量です。英語では “area moment of inertia” や “second moment of area” と呼ばれ、記号は一般的に I で表します。
1. 定義
断面2次モーメント I は、断面内部の微小面積要素 dA が、中立軸(曲げによる零ひずみ線)からどれだけ離れているかを2乗して重み付けした面積の総和です。式で書くと、
I=∫Ay2 dA
- A … 断面積
- y … 中立軸からの垂直距離(断面内の位置座標)
- 単位は [length]4(例:mm4, m4)
2. 断面2次モーメントが必要な理由
- 曲げ応力の計算
曲げモーメント M が作用すると、断面上のある位置(距離 y)での曲げ応力 σ はσ=M yIで求められます。I が大きいほど応力は小さくなり、断面は「曲げに強い」ことを示します。
- たわみ計算
梁端のたわみ量 δ は、断面2次モーメント I を分母に持つ式で表され、I が大きいほどたわみが小さくなります。
3. 代表的な断面形状の I の公式
形状 | 式(中立軸中心) | 単位 |
---|---|---|
矩形断面 | I=b h312 | length4 |
円断面 | I=π d464 | 〃 |
丸棒(半径 r) | I=π r44 | 〃 |
中空円筒 | I=π (D4−d4)64 | 〃 |
I形鋼(おおよそ) | Ix≈bf h3−bw (h−2tf)312 | 〃 |
- 矩形断面:幅 b,高さ h
- 円断面:直径 d
- 丸棒:半径 r
- 中空円筒:外径 D,内径 d
- I形鋼:フランジ幅 bf,フランジ厚 tf,ウェブ厚 bw,全高 h
4. 平行軸の定理
中立軸が断面重心から離れた位置にある場合、平行軸の定理を使って計算します。
I=IG+A d2
- IG:断面重心まわりの2次モーメント
- A:断面積
- d:重心まわり軸と新しい軸との距離
5. 実務での使いどころ
- 梁・桁のたわみ設計:支間長、断面、使用荷重から必要な断面2次モーメントを逆算
- 曲げ応力チェック:許容応力内であれば断面形状の決定に使う
- 断面最適化:材料を節約しつつ必要強度を満たす断面形状を検討
まとめ
- 断面2次モーメント I は断面の「曲げ剛性」を表す
- 式は I=∫Ay2 dA
- 矩形・円形など代表断面の公式が存在
- 平行軸の定理で任意軸まわりにも対応
- 梁のたわみ・曲げ応力計算に必須
ご質問や具体的な断面形状、数値例などございましたらお気軽にどうぞ!
定義式について詳しく教えてください
断面2次モーメントの定義式は、断面内の各微小面積要素 dA が中立軸(ゼロひずみ線)からどれだけ離れているかを重み付けした「面積の慣性モーメント」です。以下、座標系をとりながら詳しく見ていきましょう。
1. 座標系の設定
- 断面を xy 平面とし、厚さ方向は無視します。
- 中立軸(断面を曲げた際に伸縮しない軸)を、たとえば x 軸(水平)上に置くとします。
- そうすると、断面内の任意点 P の座標は (x,y) になります。
2. Ix の定義式
中立軸を x 軸とした場合、断面2次モーメント Ix は次の定義に従います。
Ix = ∫Ay2 dA
- y:中立軸(x 軸)からの垂直距離
- dA:微小面積要素
- 積分範囲:断面全域 A
曲げ応力は σ=Mx yIx のように、この Ix によって決まります。
3. Iy と相乗慣性モーメント
同様に、垂直軸(y 軸)まわりの断面2次モーメント Iy は
Iy = ∫Ax2 dA
そして、断面の相乗慣性モーメント(product of inertia)も重要で、
Ixy = ∫Ax y dA
- Ixy が非ゼロだと、曲げモーメントがねじり要素を生む場合があります。
4. 総合的な「極断面2次モーメント」
曲げ方向が任意の場合は、極座標での極断面2次モーメント(polar moment)も使います。
JO = ∫Ar2 dA(r=√x2+y2)
- ねじり剛性 GJ の評価に用います。
極モーメントと直交2軸モーメントの関係は
JO=Ix+Iy\ です。
5. 微小要素での描き方
直感的には、断面を微小幅 dy の水平スライスとして扱い、
- スライス幅:dy
- スライスの長さ(断面に応じて):b(y)
- スライス面積:dA=b(y) dy
- 中立軸からの距離:y
を代入して、
Ix=∫ymaxyminy2 [b(y) dy]
のように1次元積分に帰着できます。矩形断面では b(y)=b 定数になるので
Ix=b ∫h/2−h/2y2 dy=b h312.
6. 平行軸の定理
中立軸が断面重心からずれている場合は、
Ix′=Ix+A d2
- Ix:重心軸まわりの 2 次モーメント
- A:断面積
- d:重心軸と新中立軸間の垂直距離
まとめ
- 定義式:
- Ix=∫Ay2 dA、Iy=∫Ax2 dA、Ixy=∫Axy dA
- 極モーメント J=∫Ar2 dA
- 座標選びと積分範囲がポイント
- 平行軸の定理で任意軸に対応
ご不明点や実際の断面形状への適用例(多角形, 円弧断面など)についてもお気軽にご相談ください!
定義式の積分はどのように解きますか?
定義式
Ix = ∫Ay2 dA
の積分手順は、断面形状に応じて「微小要素 dA を表現」し、「座標で積分範囲を指定」することで解きます。以下、代表的な例を2つ挙げて説明します。
例1:幅 b、高さ h の矩形断面の場合
- 座標設定
- x 軸は矩形の幅方向、y 軸は高さ方向。
- 中立軸を矩形の中心(y=0)にとります。
- 微小要素の取り方
- 横スライス:厚さ dy、長さは一定で b。
- よって微小面積 dA=b dy。
- 積分範囲
- 上端 y=+h/2 から下端 y=−h/2 まで。
- 定義式への代入
Ix=∫+h2y=−h2y2 (b dy)=b∫h/2−h/2y2 dy
- 積分
∫y2 dy=y33⟹Ix=b[y33] h/2−h/2=b((h/2)3−(−h/2)33)=b2 (h/2)33=b h312.
例2:半径 r の円断面の場合
- 座標設定
- 極座標 (r,θ) を使い、中心を原点にとります。
- 中立軸は通過する任意の直線ですが、極モーメント J(ねじり用)は全周対称なので極座標で扱うと楽です。
- 微小要素の取り方
- リング状微小幅 dr、角度幅 dθ。
- dA=r dr dθ。
- 中立軸からの距離はそのまま r。
- 積分範囲
- r:0 から R
- θ:0 から 2π
- 極モーメント定義
J=∫Ar2 dA=∫2πθ=0 ∫Rr=0r2 (r dr dθ)=∫2π0 dθ∫R0r3 dr
- 積分
∫2π0dθ=2π,∫R0r3 dr=R44, ∴J=2π R44=π R42.これが 極断面2次モーメント。
一方曲げ用 Ix(ある直径軸まわり)なら
Ix=12J=πR44 です。
一般的な手順まとめ
- 中立軸を決める(曲げ軸・ねじり軸)
- 座標系を選ぶ(直交/極座標など)
- 微小面積要素 dA を式で表す
- 定義式に y2 dA(または x2 dA, r2 dA)を代入
- 積分範囲を決める
- 積分して閉形式の結果を得る
具体的な断面形状ごとに、④の dA と⑤の範囲設定だけ変えればすべて同じ流れで解けます。
もし他の形(中空矩形、I形鋼、多角形など)での手順が必要でしたら、遠慮なくお知らせください!
定義式の積分の意味を言葉で表すと、距離の2乗×微小面積を全域で足し合わせるということですか?
そのとおりです。
断面2次モーメントの定義式
Ix=∫Ay2 dA
を言葉で言い換えると、
「断面を無数の小さな面積要素に分割し、それぞれの要素が中立軸からどれだけ離れているかの距離の2乗に、その微小面積を掛けたものを、断面全域にわたって足し合わせる」
という意味になります。
- y2:中立軸からの距離を2乗したもの
- dA:その位置にあるごく小さな面積
- ∫A:断面全体をなめて「足し合わせる」操作
距離の2乗で重み付けすることで、中央から離れた部分ほど「曲げに対して効く」度合いが大きく評価される、という性質を定量化しているわけです。
微小要素の取り方は縦スライスでもできますか?
はい。微小要素の取り方は自由で、縦スライス(縦長の小矩形)を使っても同じ結果が得られます。ただし、その場合は積分の順序や被積分関数(距離の2乗)が変わる点に注意してください。
1. 矩形断面での例
幅 b、高さ h の矩形断面を考えます。中立軸を横方向(x 軸)にとったときの Ix は
Ix=∫Ay2 dA
ですが、縦スライスを使うと次のように書き直せます。
- 縦スライスの取り方
幅方向に細いスライスを切り出し、dA=h dxと表せます(h はスライスの高さ、矩形なので一定)。
- スライスごとの「モーメント」
ただし Ix は各スライス内の微小面積要素すべてに対して y2 を掛け合わせる必要があるため、
スライス1枚あたりの寄与は∫+h2y=−h2y2 dy = h312となり、これにスライス幅 dx を掛けます。
- 全幅にわたって積分
Ix=∫+b2x=−b2[∫h/2−h/2y2 dy] dx=∫b/2−b/2h312 dx=h312 b
これで先ほどと同じ Ix=b h312 が得られます。
2. まとめると…
- 横スライス:
dA=b dy を使って
Ix=b∫h/2−h/2y2 dy - 縦スライス:
dA=h dx のスライスごとに「スライス内の y2 積分」を先にやり、
Ix=∫b/2−b/2[∫h/2−h/2y2 dy]dx
どちらの取り方でも面積を覆い尽くし、距離の2乗×面積を全域で足し合わせることに変わりはありません。
積分の順序(∫dx∫dy⇔∫dy∫dx)を入れ替えただけ、というイメージです。