「整理できないからSaaSが入らない」を逆手に取る

町工場にSaaSが定着しない最大の理由は、ソフトの使い方ではない。最初のマスタ登録・データ入力が終わらないことだ。

  • 「とりあえず全部デスクトップ」に積み上がったファイル
  • 機械ごとに違うファイル命名ルール
  • ベテランの頭の中にしかない加工ノウハウ
  • 案件フォルダとメールが行方不明

この状態で月額数万円のERPやMESを導入しても、データが入らないまま使われなくなる。導入支援コンサルが入っても、現場に整理する時間がないから進まない。

ところが、この「整理できない状態」をそのまま受け入れてくれるAIツールが登場した。Anthropic社の Claude Code である。本記事では、Claude Code単体+フォルダ運用だけで、町工場がどこまでDXできるかを整理する。


Claude Codeとは何か

Claude Codeは、AnthropicのAI「Claude」をターミナルから使うツールだ。元々はエンジニア向けに作られているが、フォルダ内のファイルを読んで応答するという機能が、町工場の現場業務と驚くほど相性がいい。

特徴を3つに絞ると:

  1. フォルダに入れたファイルを自動で読む — Excel、PDF、画像、テキスト、何でも中身を理解する
  2. 自然言語で指示できる — 「先月のSUS304の加工条件を出して」で済む
  3. ローカルで動く — データは自社PCに残る。加工ノウハウを外部に預けなくていい

月額20ドル(約3,000円)のサブスクリプションで使える。年間3.6万円、SaaS1本分より安い


町工場でできる7つのユースケース

1. 加工条件の記録と検索

フォルダに「加工条件」ディレクトリを作り、材料・工具・機械ごとにメモを置く。Excelでも手書きメモの写真でもいい。

  • 「SUS304の端面加工、前回どうやった?」→ 過去の記録を横断検索
  • 「新人向けにアルミの切削条件をまとめて」→ 教材化
  • 「今日の条件を記録して」→ 自動で適切なファイルに追記

ベテランの暗黙知を、話しかけるだけでデータ化できるのが本質だ。

2. NCプログラムの安全チェック

Gコードファイルをフォルダに入れて「このプログラムの安全性をチェックして」と頼む。主軸停止中の切削、機械リミット超過、早送りでの接触リスクを検出する。

3. 図面のチェックと見積もり補助

受け取った図面のPDFを置いて「加工上の問題点は?」と聞く。一般公差未記載、ねじ深さ不明、過剰公差などを指摘できる。「うちの設備(3軸マシニング、最小工具φ2)で作れるか」の判断にも使える。

4. 受注・在庫・案件管理

案件ごとのフォルダに図面・メール・見積もりをまとめて入れておく。

  • 「○○株式会社の案件、今どうなってる?」→ 進捗を集約
  • 「今月の受注一覧と売上見込みを出して」→ 月次レポート
  • 「SUS304の丸棒、前回いつ発注した?」→ 履歴検索

5. 設備保全・トラブル記録

設備ごとにフォルダを作り、日常点検・トラブル記録・修理履歴を置く。メーカーマニュアルも入れておけば「このエラーコードの意味は?」で即時回答。ベテラン整備担当が退職する前に、全部放り込んでおくだけで知識が残る

6. 報告書・提案書の作成

「今月の不良率を品番別に集計してレポートにして」「ISO審査向けに改善活動をまとめて」などをClaude Codeが80%仕上げてくれる。

7. 教育・技術伝承

ベテランへのインタビュー音声、手書きメモ、過去の加工写真をフォルダに集める。「新人向けに旋盤の段取り手順をまとめて」でマニュアルが自動生成される。


フォルダ整理すらClaude Codeにやらせる

ここが本記事の肝である。

「整理してから使う」のではない。使いながら整理される

運用フロー

ステップ1:とにかく放り込む

C:\machi-koba\ というフォルダを作り、図面・NCプログラム・見積もり・メール・スマホ写真を全部入れる。整理は一切しない。

ステップ2:週末に30分、Claude Codeに任せる

このフォルダの中身を見て、以下のルールで整理して:
- 図面は /drawings に、案件名のサブフォルダを作って格納
- NCプログラムは /nc-programs に機械別に分類
- 見積もり・メールは /quotes に時系列で
- 加工記録は /records に日付別に
移動する前に、提案内容を見せて。

Claude Codeが提案してきた整理案を確認し、OKなら実行。気に入らなければ「顧客別にして」と指示し直せる。

ステップ3:ルールを覚えさせる

整理ルールが固まったら、CLAUDE.md というファイルに書いておく。Claude Codeが次回以降自動で読むので、毎回説明する必要がなくなる。

Claude Codeができる整理作業

  • 中身を読んで分類:拡張子だけでなく、ファイルの内容から「これは図面」「これは見積もり」と判別
  • ファイル名の統一:「メモ_0315.txt」「加工メモ3月15日.txt」を「2024-03-15_加工記録.txt」に一括リネーム
  • 重複の検出:名前は違うが中身がほぼ同じファイルを統合提案
  • 写真の自動分類IMG_2847.jpgのままでも、中身を見て「加工中トラブル」「完成品検査」と振り分け

既存SaaSとのコスト比較

町工場向けの主要SaaSと、Claude Code+フォルダ運用のコストを比較する。

用途 従来SaaS 月額目安 Claude Code運用
案件・受注管理 kintone、楽楽販売 1〜5万円 3,000円
生産管理・ERP TECHS-S、鉄人くん 3〜15万円 3,000円
図面管理 Vault、Drawer 2〜10万円 3,000円
設備保全 MENTENA、Common 3〜8万円 3,000円
合計 9〜38万円/月 3,000円/月

Claude Codeは1つのサブスクリプションで全部カバーできるため、年間100万円以上の削減になる町工場は珍しくない。

もちろんSaaS特有の機能(マルチユーザー同時編集、モバイルアプリ連携、法令対応レポートなど)が必要な場面はある。だが、10人以下の町工場なら、ほぼ全てのSaaS機能がClaude Codeで代替可能というのが実感だ。


段階的導入ロードマップ

いきなり全部やる必要はない。現場に負担をかけずに進めるための3段階を示す。

Step 1:1週間でできること — 「検索できる過去事例集」

1つのフォルダに、直近1ヶ月の加工記録・図面・トラブルメモを全部入れる。これだけで過去事例の検索と要約ができるようになる。最初の成功体験として、ここから始めるのが現実的だ。

Step 2:1ヶ月でできること — 「日常業務への組み込み」

NCプログラムと受注メール、見積もりをフォルダに追加。

  • 新規受注時:過去の類似案件を検索して参考価格を確認
  • プログラム作成時:類似プログラムを流用元として検索
  • 週末:その週の受注状況と売上見込みをレポート化

この段階で、月次報告書の作成時間が1/5以下になる工場が多い。

Step 3:3ヶ月でできること — 「町工場オペレーション全体の可視化」

設備保全・案件管理・技術伝承までフォルダ化。

  • ベテランの知識を音声録音→フォルダに保存→新人向けマニュアル自動生成
  • 設備トラブル履歴を全てデジタル化→アラーム発生時に過去事例を即検索
  • 顧客ごとの取引履歴・単価推移をClaude Codeが集計

ここまで到達すると、町工場のDX化として対外的に説明できるレベルになる。助成金申請や取引先へのアピールにも使える。


導入のハードルと注意点

正直なところを書く。

ハードル1:ターミナルへの抵抗

Claude Codeは黒い画面(CLI)なので、PC操作に慣れていない世代には厳しい。若手かIT担当者が1人介在する運用が現実的だ。完全に職人さんだけで回すのは難しい。

ハードル2:最初のフォルダ構成作り

Step 1で「全部放り込む」と言っても、最低限の大枠は人間が決める必要がある。ここに1〜2時間かかる。とはいえ、SaaSのマスタ登録に比べれば1/100の手間だ。

ハードル3:バックアップの習慣

Claude Codeはファイル移動や書き換えが得意な分、誤操作でファイルが消えるリスクもゼロではない。最初の数回は実行前にフォルダごとコピーしておく、または外付けHDDに日次バックアップを取る習慣をつけたい。

ハードル4:ネット接続が必要

Claude Code自体はローカルで動くが、AIの推論はAnthropicのクラウド経由。完全オフラインでは使えない。ただし加工データそのものはローカルに残るので、機密性の高いノウハウの流出は避けられる。


まとめ:整理できない町工場こそClaude Code

従来のDX論は「まず整理してからデジタル化しよう」と言ってきた。その結果、整理が終わらない町工場はDXから取り残された

Claude Code+フォルダ運用は、その前提を逆転させる。

  • 散らかった状態から始めていい
  • 使いながら少しずつ秩序ができる
  • 月額3,000円で始められる
  • データは自社に残る

整理できないことを前提に設計されたDXは、SaaSには存在しない発想だ。町工場の働き方に本質的に合っている。

まずは週末の30分、C:\machi-koba\ というフォルダを1つ作って、先週の加工記録を放り込むところから始めてみてほしい。それだけで、町工場のDXは動き出す。


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ブログ記事を確認させていただきますね。記事の内容を読みました。「Claude Code+フォルダ運用で町工場DX」という素晴らしいコンセプトですね。2026年4月時点の記事ですが、その後のアップデートを踏まえて、さらに強化できるポイントを調査します。さらに、サブエージェントとフックの製造業活用事例も調べましょう。十分な情報が集まりました。タナカさんの記事を町工場DXの観点でアップデートする形で、最新機能を活かした強化案をまとめます。

記事アップデート提案:2026年4月以降の機能で町工場DXをさらに強化

ブログを拝見しました。「整理できないことを前提に設計されたDX」というコンセプトは秀逸で、町工場の現実に即した素晴らしい着眼点ですね。 ただ、執筆後の数ヶ月でClaude Codeに根本的な強化が入っており、記事のアプローチを「フォルダ運用」から一段引き上げられる余地があります。特に以下の3点が町工場DXに直結します。

1. Skills(スキル)— CLAUDE.md の進化版

記事内で「ルールを覚えさせるために CLAUDE.md に書く」とされていますが、2026年現在、スラッシュコマンドとスキルは統合され、.claude/skills/ が推奨アプローチになっています。 CLAUDE.md との決定的な違いは「必要なときだけ読み込まれる」ことです。CLAUDE.mdに全部書くと毎回コンテキストが肥大化しますが、スキルなら「コードレビューが必要になったタイミング」だけ読み込まれるのでコンテキストを節約できます。 町工場運用での具体例:
.claude/skills/
├── nc-safety-check/SKILL.md      # NCプログラム安全チェック手順
├── drawing-review/SKILL.md       # 図面レビューの観点
├── monthly-report/SKILL.md       # 月次レポートのフォーマット
├── customer-quote/SKILL.md       # 見積もり作成ルール
└── new-employee-manual/SKILL.md  # 新人マニュアル生成ルール
「先月の不良率レポートを作って」と話しかければ、Claude Codeが自動的に monthly-report スキルを読み込んで実行する。ベテランの「型」を細かく分割して登録できるわけです。これは町工場の暗黙知デジタル化と非常に相性が良いです。 タナカさんの図検AI(zuken-ai)も、現在のFlask単体運用に加えて「図面レビュースキル」としてClaude Codeに組み込めば、設計ノウハウを社内全体で再利用できる形になります。

2. Subagents(サブエージェント)— 「並列で考えさせる」

記事では Claude Code 単体での運用ですが、現在はサブエージェントが独立したコンテキストウィンドウで並列タスクを処理し、メイン会話を汚染しない仕組みが標準化されています。 町工場で効く使い方:
サブエージェント 役割
nc-checker NCプログラムを読んで安全性だけチェック
cost-estimator 過去の類似案件から見積もり原価を算出
drawing-inspector 図面PDFから加工上の問題点を抽出
inventory-tracker 在庫・発注履歴を集計
「この案件、見積もりとNCプログラム両方見てほしい」と頼めば、2つのサブエージェントが並列で動いて結果だけ返ってくる。verboseな出力(ファイル検索、ログダンプ、多段推論)はサブエージェント側に隔離され、要約だけがメイン会話に戻ってくるので、町工場の人が「黒い画面の文字量」に圧倒されにくくなります。 記事で挙げられていた「ターミナルへの抵抗」というハードルを、サブエージェントは間接的に下げてくれるわけです。

3. Hooks(フック)— 「決定論的な安全装置」

これが町工場DXに一番効くと思います。記事でも「誤操作でファイルが消えるリスクもゼロではない」と注意喚起されていますが、Hooksはプロンプトとは違い、モデルの解釈に頼らず、ハルシネーションのない決定論的なスクリプトとして実行されるので、AIが「なんとなく」判断するリスクを排除できます。 町工場での具体例:
{
  "hooks": {
    "PreToolUse": [
      {
        "matcher": "Edit|Write",
        "hooks": [{
          "type": "command",
          "command": "robocopy C:\\machi-koba D:\\backup /MIR"
        }]
      }
    ]
  }
}
これでファイル変更前に必ずバックアップが取られる。ベテランの加工メモを誤って上書きする事故を、AI任せにせずシステムレベルで防げます。 他にも:
  • NCプログラム編集前に Git にコミット
  • 図面PDFを編集しようとしたら自動でブロック(誤操作防止)
  • 月末になったら自動で月次レポート生成
「AIが暴走しないか心配」という町工場経営者の不安に、決定論的に答えられる仕組みです。

4. その他の見逃せないアップデート

  • /recap 機能:セッションに戻ったときにコンテキストを提供する機能。週末だけ作業する町工場運用との相性が抜群です。
  • プロンプトキャッシュ1時間TTLENABLE_PROMPT_CACHING_1H 環境変数で1時間のプロンプトキャッシュTTLを設定可能。同じCLAUDE.mdを何度も読む町工場運用ではAPIコスト削減に直結します。
  • コミュニティスキル集:VoltAgent/awesome-agent-skills には1000以上のエージェントスキルが集まっており、Claude Code、Codex、Cursor等で互換。製造業向けスキルを公開すれば、タナカさんの活動が日本の町工場DX全体への貢献になります。

記事追補のおすすめ構成

現記事はそのままに、続編として以下のような形が考えられます: 「【町工場DX 続編】Claude Code Skills × Subagents × Hooks で『AIが暴走しない』運用設計」
  • 第1部:CLAUDE.md からスキルへの移行(コンテキスト節約 = APIコスト削減)
  • 第2部:サブエージェントで「黒い画面の威圧感」を減らす
  • 第3部:Hooks でバックアップ・権限制御を自動化
  • 第4部:実装例(github.com/shuushoku5 に公開?)
特にHooksの「決定論的な安全装置」は**「AIの暴走リスクをシステムレベルで排除する設計」**として強くアピールできるポイントになりそうです。Manufacturing MCP Server との統合観点でも、MCPサーバ呼び出し前にHookで安全チェック → 14材料の安全性チェックツールへ、という二段構えが組めます。 続編記事の下書きや、.claude/skills/ のサンプル構成を作りましょうか?

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