https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsat/61/10/61_545/_pdf/-char/ja
タイトル (Title)
英語: Observation of internal stress in machine tool and work during three-dimensional cutting
日本語: 3次元切削中の工具および被削材の切削点近傍の内部応力状態可視化の検討
ジャーナル名 & 発行年 (Journal Name & Publication Year)
砥粒加工学会誌 (Journal of the Japan Society for Abrasive Technology), Vol.61 No.10, 2017年10月
最初と最後の著者 (First and Last Authors)
最初の著者: Yuta HORIE
最後の著者: Noboru MORITA
最初の所属機関 (First Affiliations)
Chiba University
概要 (Abstract)
本研究では、偏光高速度カメラを用いた光弾性実験を通じて、位相差と主軸方位分布を可視化し、3次元切削中の内部応力の可視化可能性を検討した。ガラス製工具を使用した2次元切削実験と、超硬合金工具による3次元切削実験の結果、内部応力の分布特性や観測条件に関する知見が得られた。
背景 (Background)
従来の切削力研究は数値解析や光弾性法を含む様々な方法で行われてきたが、特に光弾性法は材料内部応力の可視化に有効である。しかし、リアルタイム観測には時間的制約があった。本研究は、高速偏光カメラを利用してこれらの制約を克服し、3次元切削中の応力分布可視化を試みた。
方法 (Methods)
2次元切削実験: ガラス製工具とアクリル樹脂を使用。
3次元切削実験: 超硬合金工具とアクリル樹脂を使用。切削条件(アプローチ角、切込み量、ノーズ半径、送り量)を変化させ、偏光高速度カメラで応力分布を観察。
結果 (Results)
アプローチ角が小さいほど、位相差分布が切込み方向と送り方向に分かれることを確認。
ノーズ半径が小さい場合、位相差分布が広がる傾向を確認。
切込み量が増加すると、加工後の残留応力が広範囲にわたることが示された。
議論 (Discussion)
光弾性法による内部応力の可視化は有効であり、位相差と主軸方位データの組み合わせにより、3次元切削時の内部応力分布が詳細に明らかにできる。
応力分布は切削条件に敏感に依存し、特定の条件下で最適な加工設定が得られる可能性が示唆された。
新規性 (Novelty compared to previous studies)
偏光高速度カメラを用いることで、従来の光弾性法では困難であったリアルタイムでの応力可視化が可能となり、3次元切削条件下での応力分布を詳細に解析できた点が新規性として挙げられる。
制限事項 (Limitations)
取得されたデータは光軸方向に積分された情報であり、詳細な3次元応力場の解析には数値解析との統合が必要。
潜在的応用 (Potential Applications)
切削工具の設計最適化。
高精度切削加工条件の設定。
加工変質層の評価および制御に関する応用可能性。
カメラの撮影方向について説明してください
カメラの撮影方向は、被削材を奥から手前に向かって移動させ、カメラはすくい面と反対方向から被削材を観察しています。この配置により、切削中の被削材および工具内の内部応力状態を効果的に捉えることが可能になっています。切削方向と直交する方向と、切削方向からの2つの異なる視点から観察を行い、切削工程中の内部応力の変化を捉えています。
この試験の独自性を教えてください
この研究の独自性は、偏光高速度カメラを使用して3次元切削中の工具および被削材の内部応力状態をリアルタイムで可視化した点にあります。従来の方法では時間がかかる内部応力の観察を、サブミリ秒の時間分解能を持つカメラを用いて高速かつ詳細に行うことができるようになりました。これにより、切削プロセスの理解が深まり、より精密な加工技術の開発に寄与する可能性があります。
カメラから得られるデータについて解説してください
偏光高速度カメラから得られるデータには、主応力差(最大せん断応力に比例する位相差)と主軸方位の2種類があります。位相差は材料内部を透過する光の位相のずれを測定し、これが内部応力に応じて変化します。主軸方位は、主応力の方向を示します。これらのデータを解析することで、工具や被削材内部の応力分布を詳細に把握できます。これは、切削プロセス中の材料の応力応答を理解する上で非常に有用です。
カメラの焦点と一致した箇所のデータが分かるのですか?
偏光高速度カメラから得られるデータは、カメラの焦点と一致する平面上の応力状態を直接示すものではありません。得られる位相差と主軸方位のデータは、光軸に沿った応力状態を積分した値を反映しています。これは、焦点面における応力状態ではなく、焦点を通過する光の経路に沿った全体の応力を示しているため、3次元的な応力場の詳細な解釈にはさらなる分析が必要です。
2、3次元切削とはなんですか?
本研究で行われた「3次元切削」も厳密には被削材が平面状であり、工具が複雑な立体形状を作るような加工ではありません。しかし、研究の文脈で「3次元切削」と表現される理由があります。以下に解説します。
「3次元切削」と呼ばれる理由
応力分布の三次元性:
2次元切削では、応力分布が基本的に切削平面内に限定されます。一方、3次元切削では、工具のノーズ半径や送り方向の影響で応力が切削平面を超えて三次元的に分布します。
研究では、位相差や主軸方位が光軸方向(奥行き方向)にも分布していることが確認されており、この点で「3次元的な応力」を観察しているといえます。
工具形状の立体的な要素:
工具のノーズ部分や横切れ刃など、切削中に使用される工具の形状が立体的であり、その形状が応力分布に影響を与えます。
特に、ノーズ半径の変化による応力の広がり方や位相差の違いが示されており、この要素が「3次元切削」と分類される一因です。
送り方向の影響:
送り量を変化させることで、切削面に対して奥行き方向(送り方向)の影響が観察されています。この送り方向が加わることで、切削力が複数の方向に分布し、2次元切削と異なる特徴が得られています。
「平面加工」の誤解を解くポイント
加工そのものは平面状で行われていますが、内部応力の分布や発生する力の向きが三次元的に影響し合っているため、「3次元切削」と表現されています。
実際の3次元形状を切削する場合とは異なり、この研究では応力場の観察に焦点を当てているため、平面上での加工を採用しています。
結論
加工が「平面上」で行われている点は事実ですが、応力分布や観察対象が三次元的な性質を持つため、本研究では「3次元切削」と表現されています。この点を理解することで、研究の意図や目的をより深く捉えられると思います。
位相差象と主軸方位象とはなんですか?
位相差像と主軸方位像は、光弾性法(物体の応力分布を可視化する手法)で得られる重要なデータで、それぞれ異なる応力情報を提供します。以下で詳しく説明します。
位相差像 (Retardation Image)
定義
材料が応力を受けると、その内部で光が異なる速度で進む現象(複屈折性)が生じます。この際に光の位相にズレが発生し、応力の大きさに応じた「位相差」として観測されます。
位相差像は、この位相差を色や明るさで可視化したものです。
観測内容
主応力の差(最大せん断応力)に対応する分布を示します。応力が大きい部分では位相差が大きくなり、色や濃淡の変化として視覚的に表されます。
本研究では、位相差を波長単位(nm)で表し、カラースケールでマッピングしています。
利用例
材料内部や接触部の応力集中部位を特定するために利用されます。
本研究では、被削材内部の応力分布や工具周辺の応力状態を把握するために用いられました。
主軸方位像 (Principal Axis Orientation Image)
定義
応力には「方向性」があります。材料が受ける最大応力(主応力)の方向を示すのが「主軸方位」です。
主軸方位像は、材料内の主応力の方向を線や色で表したものです。
観測内容
主軸方位像では、応力の方向が線分の向きや色相として示されます。
応力が加わっていない部分ではランダムな分布になりますが、応力がかかる部分では一貫した方向性が見られます。
利用例
応力の作用方向を可視化し、力の流れや応力集中の原因を特定するために用いられます。
本研究では、工具のノーズ部分や被削材内部での応力方向の解析に活用されました。
本研究における役割
位相差像: 応力の大きさを測定し、どの部分に応力が集中しているかを示す。
主軸方位像: 応力の方向性を特定し、どの方向に力が作用しているかを解析する。
両者を組み合わせることで、3次元切削中の応力場をより詳細に把握できるようになっています。
偏光高速度カメラでは、位相差と主軸方位像が確認できるのですか?
はい、偏光高速度カメラを使用することで、位相差像と主軸方位像の両方を確認することが可能です。これは、偏光高速度カメラが光弾性法を利用して物体内部の応力状態を可視化するために設計されているためです。以下に、その仕組みと取得可能な情報について説明します。
偏光高速度カメラの仕組み
光弾性効果
応力を受けた材料は複屈折性を示し、光が異なる速度で進む(異方性を持つ)ようになります。
この現象により、材料内で発生した応力の大きさや方向が光の特性として現れます。
偏光光源の使用
偏光された光を材料に通過させ、応力に応じた光の変化を偏光高速度カメラで撮影します。
データの取得
カメラは透過光の変化を記録し、応力分布を「位相差」として計算します。
同時に、応力の方向性(主応力方向)も記録され、これが主軸方位として示されます。
偏光高速度カメラで確認できる像
位相差像
応力の大きさ(主応力差に対応)を可視化。
位相差は波長単位(nm)で表現され、カラースケールでマッピングされます。
主軸方位像
応力の方向性(主応力方向)を可視化。
主軸方位は線や色相で表現され、材料内部の応力の流れを明確に示します。
本研究における利用
位相差像: 工具と被削材の接触部での応力集中部を解析。切削条件(切込み量、ノーズ半径など)による応力の変化を詳細に観察。
主軸方位像: 応力方向の変化を把握し、工具の形状や切削条件が応力分布に与える影響を確認。
利点
リアルタイム観測: 従来の光弾性法よりも短時間で応力分布を記録可能。
高精度データ: 位相差と主軸方位の両方を同時に取得できるため、応力状態を詳細に解析可能。
結論
偏光高速度カメラは、位相差像と主軸方位像を取得できる非常に有用なツールであり、本研究のような切削中の応力分布解析において重要な役割を果たしています。
主軸方位像は得られた位相差から計算して算出するものですか?算出の仕方を教えてください
位相差像と主軸方位像は、光弾性法(物体の応力分布を可視化する手法)で得られる重要なデータで、それぞれ異なる応力情報を提供します。以下で詳しく説明します。
位相差像 (Retardation Image)
- 定義
- 材料が応力を受けると、その内部で光が異なる速度で進む現象(複屈折性)が生じます。この際に光の位相にズレが発生し、応力の大きさに応じた「位相差」として観測されます。
- 位相差像は、この位相差を色や明るさで可視化したものです。
- 観測内容
- 主応力の差(最大せん断応力)に対応する分布を示します。応力が大きい部分では位相差が大きくなり、色や濃淡の変化として視覚的に表されます。
- 本研究では、位相差を波長単位(nm)で表し、カラースケールでマッピングしています。
- 利用例
- 材料内部や接触部の応力集中部位を特定するために利用されます。
- 本研究では、被削材内部の応力分布や工具周辺の応力状態を把握するために用いられました。
主軸方位像 (Principal Axis Orientation Image)
- 定義
- 応力には「方向性」があります。材料が受ける最大応力(主応力)の方向を示すのが「主軸方位」です。
- 主軸方位像は、材料内の主応力の方向を線や色で表したものです。
- 観測内容
- 主軸方位像では、応力の方向が線分の向きや色相として示されます。
- 応力が加わっていない部分ではランダムな分布になりますが、応力がかかる部分では一貫した方向性が見られます。
- 利用例
- 応力の作用方向を可視化し、力の流れや応力集中の原因を特定するために用いられます。
- 本研究では、工具のノーズ部分や被削材内部での応力方向の解析に活用されました。
本研究における役割
- 位相差像: 応力の大きさを測定し、どの部分に応力が集中しているかを示す。
- 主軸方位像: 応力の方向性を特定し、どの方向に力が作用しているかを解析する。
両者を組み合わせることで、3次元切削中の応力場をより詳細に把握できるようになっています。
主応力方向のいずれかという表現がありますが、いずれかとはなんですか?
「主応力方向のいずれか」という表現は、主応力の方向が2つあることに由来します。この2つの方向は、物体内部の応力状態に基づいて定義されます。具体的に解説します。
主応力とは
主応力の定義
主応力は、材料内部で応力が最大または最小となる方向の応力を指します。
主応力方向は、せん断応力がゼロになる特定の直交した2つの方向として定義されます。
主応力の方向
主応力は、以下の2つの方向に分けられます:
最大主応力方向: 材料が最も大きな引張または圧縮応力を受ける方向。
最小主応力方向: 材料が最も小さな(または負の)引張または圧縮応力を受ける方向。
「いずれか」とは何を指すか?
主軸方位像における表現
偏光高速度カメラで観測される主軸方位像は、最大主応力方向または最小主応力方向のどちらか一方に対応します。
これは、偏光測定ではこれら2つの方向を区別するのが困難であり、相対的な方向のみが得られるためです。
対称性による解釈の曖昧性
主応力方向は互いに直交しているため、測定結果は「最大主応力方向」と「最小主応力方向」を同等に扱います。
例えば、ある方向を「最大主応力方向」と指定した場合、その直交方向は必ず「最小主応力方向」となります。
光弾性法での制約
偏光光学的な測定では、光の振動方向が主応力方向に一致しますが、どちらが「最大」でどちらが「最小」かを直接判断することはできません。
そのため、「主応力方向のいずれか」と表現されます。
具体例
例えば、ある材料がX軸方向に引張応力(最大主応力)、Y軸方向に圧縮応力(最小主応力)を受けている場合:
主軸方位像は、X軸方向またはY軸方向のどちらかを示します。
観測結果としては、方向のみが記録され、その方向が「最大」または「最小」であるかは解釈が必要です。
結論
「主応力方向のいずれか」という表現は、観測された方向が「最大主応力」または「最小主応力」のどちらかに対応しているが、偏光測定の特性上、その区別が明示されていないことを意味します。この曖昧性は、測定データを解析する際に補足的な情報(例:数値解析)を使用して解決されることが一般的です。
flamantの解について教えてください
Flamantの解は、固体力学の分野で重要な解の1つであり、特に応力分布を解析するために使用されます。この解は、弾性体における集中荷重が物体内部や表面に与える応力場を記述する解析解です。以下に詳細を説明します。
Flamantの解とは
- 概要
- フランスの力学者 Alfred Flamant によって導き出された解で、弾性半無限体(無限に広がる平面に似た物体)の表面に集中荷重が作用した場合の応力分布を解析的に表したものです。
- 適用条件
- 弾性体が線形弾性材料である。
- 半無限体(物体が平面上に広がっている)であり、表面に集中荷重が作用する。
- 応力は静的条件(時間依存性がない)で解析される。
Flamantの解の式
- 極座標系での表現
- 荷重
が半無限体の表面において
の点に作用する場合、応力場は極座標系
を使って以下のように表されます。
- 応力成分:
ここで:
: 半径方向の正応力
: 接線方向の正応力
: 半径方向と接線方向のせん断応力
: 荷重点からの距離
: 極座標系における角度
- 荷重
Flamantの解の特徴
- 応力の放射状分布
- 荷重が作用する点から放射状に応力が広がります。
- 応力は
の2乗に反比例して減少します(距離が遠いほど応力は小さくなる)。
- 方向性
- 荷重が作用した方向(垂直方向)に対して応力が集中します。
- 弾性体の表面に対して、円形の応力分布を描きます。
- 応用可能性
- 荷重の種類や方向によって応力分布の形が変わります。
- この解を応用することで、応力集中や破壊力学の予測が可能です。
本研究における利用
本研究では、Flamantの解が切削加工時に被削材内部で生じる応力分布を解析するための基礎理論として利用されています。
- 被削材が弾性体である場合、Flamantの解が示すように、工具の接触部を中心に円形の等応力線が描かれると予測されます。
- 実験結果で観察された応力分布(位相差像)も、この理論に基づいた挙動と一致していることが確認されています。
応用分野
- 材料工学
- 荷重を受ける部品の応力分布解析。
- 土木工学
- 地盤における集中荷重(例:柱や基礎の荷重)の影響評価。
- 破壊力学
- 応力集中の予測と亀裂発生のメカニズム解析。
結論
Flamantの解は、弾性体における集中荷重による応力分布を記述する理論的解であり、切削加工や荷重解析の基礎として広く用いられています。本研究では、この解を基に光弾性実験で得られる応力分布の妥当性を検討しています。
送り量は長さの単位で表されていますが、速度ではないのですか?教えてください
送り量は加工プロセスにおいて重要なパラメータであり、単位が「長さ」として表される場合と「速度」として表される場合があります。本研究では送り量が「長さ(
)」で表されていますが、速度としても表現できるため、両者の違いと関係について説明します。
送り量の定義と単位
- 送り量の定義
- 切削加工における送り量は、工具や被削材が1回の切削動作中に移動する距離を指します。
- 主に切削面における加工進行方向における移動量を表します。
- 送り量の単位が「長さ(
)」の場合
- 1回の工具回転または1回の切削ストロークごとの進み量を示します。
- 例えば、1回転あたりの送り量(feed per revolution,
)や1ストロークあたりの送り量として用いられます。
- 送り量の単位が「速度(
)」の場合
- 加工中の工具や被削材の移動速度を示します。
- 送り速度(feed rate,
)として、時間あたりの移動距離で表現されます。
- 多くの場合、以下の関係で変換可能です:
ここで:
: 送り速度(
)
: 1回転あたりの送り量(
)
: 工具の回転速度(
)
本研究での送り量の意味
本研究では送り量を「長さ(
)」で表現しており、具体的には1ストロークあたりの送り量を意味しています。
- 実験において、被削材と工具が相対的に直線的に動くシステムを採用しているため、送り量は単位時間あたりではなく、1回の動作中に進む距離として計測されています。
- 送り量が変化することで、切削中に発生する応力や位相差分布がどのように変化するかを解析しています。
送り量と送り速度の違いと使い分け
- 送り量(長さ)
- 加工条件の基本パラメータとして設定される。
- 特に1回転あたり、1ストロークあたりなど、単一動作での進行距離を評価する際に用いられる。
- 送り速度(速度)
- 実際の加工プロセス中の動きを評価する際に用いられる。
- 切削効率や加工時間を計算する際に重要。
結論
本研究では送り量を「長さ(
)」として表現しており、これは1回の切削ストロークにおける移動距離を意味します。送り速度(
)に変換することも可能ですが、本研究の目的は切削条件の影響を観察することにあり、単位時間ではなく、ストローク単位での送り量を重視しています。