https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjspe1986/66/9/66_9_1431/_pdf/-char/ja
タイトル (Title)
Ductile-Regime Machining of Optical Glasses by Means of Single Point Diamond Turning
シングルポイントダイヤモンド旋削による光学ガラスの延性モード切削加工に関する研究
ジャーナル名と出版年 (Journal Name & Publication Year)
精密工学会誌, Vol.66, No.9, 2000
第一著者と最終著者 (First and Last Authors)
Ichiro OGURA, Yuichi OKAZAKI
第一所属 (First Affiliations)
機械技術研究所, (つくば市並木1-2)
概要 (Abstract)
本研究は、超精密旋盤を用いた光学ガラスの延性モード切削加工に関する実験結果を示している。延性モードおよび脆性モードに基づく4つの加工タイプを定義し、BK7の加工実験を複数の雰囲気下で行った。特に、メタノールやエタノール雰囲気下では、工具送り量1µm以下でクラックフリーの切削痕を得ることができた。また、BK7では約0.5µmの弾性回復が観察されることが判明した。
背景 (Background)
光学ガラスなどの脆性材料は、特定の臨界切込み深さ以下で加工を行うことでクラックを抑制できる延性モード加工が可能であることが知られている。しかし、従来の研究では臨界切込み深さに関するデータが限られており、詳細な切削痕の評価や深さの関係性についての理解が進んでいない。
方法 (Methods)
高速工具サーボ搭載の超精密旋盤を用い、BK7、SiC、溶融石英ガラスの3種の試料を加工。加工雰囲気はドライ、水、アルコール系(メタノール、エタノールなど)を用い、それぞれの切込み深さと加工痕深さを顕微鏡や粗さ計で評価した。
結果 (Results)
メタノールおよびエタノール雰囲気では、切込み深さ0.2〜1.2µmで安定した延性モード加工が可能であった。
BK7は他の材料(SiC、溶融石英)に比べ加工しやすく、クラックフリーの切削痕が得られたが、SiCと溶融石英では困難であった。
切削条件による加工タイプの遷移が顕著に観察された。
議論 (Discussion)
加工雰囲気が加工結果に大きな影響を及ぼすことが確認された。特にアルコール系雰囲気は延性モード加工を安定的に実現できる条件である。また、BK7の加工結果は理論的な臨界深さと一致しない点があり、さらなる研究が必要とされる。
これまでの研究との新規性 (Novelty compared to previous studies)
従来の研究では未評価だった切削痕深さと切込み深さの詳細な関係性を明らかにした点。また、加工雰囲気の影響について広範な実験を行った点が新規性として挙げられる。
限界 (Limitations)
本研究では、真の切込み深さを測定するためのシステム構築が困難であり、装置のコンプライアンスによる影響を完全には排除できていない。
潜在的応用 (Potential Applications)
光学ガラスを使用した高機能光学素子の製造や、延性モード加工技術を活用した精密機械加工分野での応用が期待される。
被削材 切れ刃 すくい角/逃げ角 加工条件 加工液の情報があれば教えてください
被削材 (Workpiece Material)
BK7(光学ガラス)、SiC、溶融石英ガラス
切れ刃 (Cutting Tool)
ダイヤモンドバイト
ノーズ半径:0.2 mm
すくい角:0°
すくい角/逃げ角 (Rake Angle / Relief Angle)
すくい角:0°
逃げ角に関する詳細情報は記載なし。
加工条件 (Machining Conditions)
主軸回転速度:90 rpm
工具送り量:4 µm
切込み深さ:最大約1.5 µm
加工雰囲気:複数の液体およびドライ条件で実験
加工液の情報 (Cutting Fluid Information)
以下の加工雰囲気で実験が行われた:
ドライ(乾式)
水
ヘプタン
オクタン
メタノール
エタノール
プロパノール
特にメタノールおよびエタノール雰囲気では、延性モード加工が安定し、クラックフリーの切削が可能であったと報告されています。他の雰囲気では安定性が劣り、特にプロパノールでは加工範囲が狭まるなどの問題が確認されています。
他に重要な情報があれば教えてください
他に重要な情報
以下は本論文におけるその他の重要なポイントです:
加工モードの分類
延性モードと脆性モードをさらに細分化し、4つの加工タイプとして定義:
タイプ1: 狭い加工痕、深さが小さく、クラックがない。加工痕の両側に材料の盛り上がりが見られる。
タイプ2: 加工痕が幅広くなるが、クラックなし。延性モードでのクラックフリー加工が可能。
タイプ3: 加工痕内部や外側に微細なクラックが発生。材料の脱落はなし。
タイプ4: 全面的な材料の破砕・脱落が見られる脆性モード加工。
加工雰囲気の影響
メタノール、エタノール:
切込み深さ0.2~1.2 µmの範囲で安定した延性モード加工が可能。
ドライ、プロパノール:
加工範囲が狭く、安定した加工が得られない。
被削材による違い
BK7: 加工しやすく、クラックフリーの切削痕を比較的広い範囲で得られる。
SiC、溶融石英ガラス: クラックフリー加工が困難で、延性モード加工の範囲が狭い。
工具切込み深さと加工痕深さの関係
加工条件が臨界点を超えると、加工痕の遷移が急激に変化する。
加工雰囲気や材料特性が、工具送り量に対する加工痕深さの比例関係に影響を与える。
装置のコンプライアンスの影響
加工痕深さは常に切込み深さより小さく、装置の柔軟性(コンプライアンス)が影響している。
臨界切込み深さの理論値との比較
BK7では、理論値(約0.025 µm)に対し実験値は一桁大きい値(約0.2 µm)。
SiCと溶融石英ガラスでは、理論値に近い切削痕深さが得られるものの、加工の安定性が低い。
実用化への示唆
メタノールやエタノールを加工液とすることで、実用的な延性モード加工が可能。
BK7の加工特性が優れているため、光学素子の製造において適した材料とされる。
この研究は、延性モード加工技術の実用化に向けた基礎データを提供しており、特に加工雰囲気と被削材特性が加工性能に与える影響を詳細に示しています。
延性モード切削が可能な条件を教えてください
延性モード切削が可能な条件
論文では、以下の条件下で延性モード切削が可能であることが確認されています:
1. 加工雰囲気(切削液)
メタノール、エタノールが最適:
切込み深さ0.2~1.2 µmの範囲で安定した延性モード切削が実現可能。
クラックフリーの加工痕が得られる。
ヘプタン、オクタンも適用可能:
メタノール、エタノールほどではないが、比較的安定した加工が可能。
ドライ(乾式)、プロパノールは不適:
延性モード加工範囲が狭く、加工の安定性が低下。
2. 被削材
BK7(光学ガラス):
切込み深さ0.2~1.5 µmの範囲で延性モードが適用可能。
他の材料(SiC、溶融石英ガラス)に比べ加工しやすい。
SiC、溶融石英ガラス:
延性モード加工の範囲が狭く、クラックフリーの加工は困難。
切込み深さ0.3 µm以下で延性モード加工が可能だが、安定性が低い。
3. 工具条件
ダイヤモンドバイト:
ノーズ半径:0.2 mm
すくい角:0°
4. 主軸回転速度と送り量
主軸回転速度:90 rpm
送り量:4 µm
5. 切込み深さ
加工痕深さが切込み深さに比例する範囲で、延性モード加工が可能。
切込み深さが0.2~1.2 µmを超えると、脆性モードへの遷移が発生する場合がある。
要点まとめ
延性モード加工を安定して行うためには、**加工雰囲気(メタノール・エタノール)**の選定が最重要であり、特に被削材がBK7であれば広い範囲でクラックフリー加工が可能です。他の条件としては、適切な切込み深さ(0.2~1.2 µm)、工具条件(ノーズ半径0.2 mm、すくい角0°)が求められます。
この研究では、シングルポイントダイヤモンド旋削を用いて光学ガラスの延性モード切削加工についての実験結果を提示しています。BK7光学ガラスを含む複数の材料に対して、様々な雰囲気下での切削試験が行われました。実験では、メタノールやエタノールの雰囲気中で1ミクロメートルの工具切込みによって、損傷のない切削痕を得ることが可能であることが確認されました。また、BK7では約0.5ミクロメートルのスプリングバックが観察されました。
具体的な結果としては、SiCや石英ガラスと比較して、BK7での切削が最も容易であったとされています。メタノールやエタノール雰囲気では、延性モードでの切削が安定して行えることが示されました。
研究の結論として、延性モードと脆性モードの遷移現象をより詳細に理解するために、加工モードを4つのタイプに細分化しました。そして、加工雰囲気が試料表面に及ぼす影響と、加工対象材料の種類による加工結果の違いが調べられました。
今後の課題としては、この研究結果を基に、さらに多様な材料や加工条件についての実験を進め、延性モード加工の適用範囲を広げることが挙げられます。また、加工品質の向上や加工効率の改善に向けた研究も求められるでしょう。
シングルポイントダイヤモンド旋削とは何ですか?
シングルポイントダイヤモンド旋削は、単一のダイヤモンドカッティングツールを使用して材料を加工する超精密旋削加工法です。この方法は、光学品質の表面仕上げが要求される非球面レンズや鏡などの光学部品の製造に特に適しています。
ダイヤモンドは非常に硬いため、この加工方法では非常に滑らかで、高い表面品質の仕上げを実現できます。シングルポイントダイヤモンド旋削は、ガラス、金属、セラミックスなど様々な硬脆材料の加工に適用されます。
この加工技術の主な特徴は以下の通りです:
高い精度と表面品質: ダイヤモンドのカッティングエッジは非常に鋭く、微小な加工が可能であり、非常に滑らかな表面を生成します。
非接触加工: 材料を削り取る際、非常に少ない力で加工するため、加工物へのストレスが最小限に抑えられます。
多様な材料の加工: ダイヤモンドは硬いため、硬脆材料を含む多種多様な材料の加工が可能です。
複雑な形状の加工: この技術は非球面や複雑な形状を持つ部品の加工に適しており、高度な形状制御が可能です。
シングルポイントダイヤモンド旋削は、精密工学、光学、航空宇宙工業、微細機械加工など、多岐にわたる産業分野で利用されています。
BK7とは何ですか?
BK7は、光学用途に広く使用される高品質なガラスの一種です。このガラスは、特に光学機器での使用に適しているため、レンズ、プリズム、窓など様々な光学コンポーネントに用いられます。
BK7ガラスの主な特徴は以下の通りです:
高い透明度: BK7は、可視光線から近赤外線領域にかけて非常に高い透過率を持っています。これにより、光学系での画像品質が向上します。
低い色収差: ガラスの屈折率が波長によって異なるため生じる色収差は、BK7では比較的低いです。これは光学系での精度向上に寄与します。
安定した化学的および物理的特性: BK7ガラスは化学的に安定しており、一般的な環境条件下では腐食や劣化が少ないです。また、温度変化に対しても比較的安定した光学特性を保ちます。
加工の容易さ: BK7は硬脆材料でありながら加工がしやすいため、精密な光学部品の製造に適しています。
これらの特性から、BK7ガラスは望遠鏡、顕微鏡、カメラ、プロジェクターなど、多くの光学機器で基本的な材料として利用されています。高い光学的性能とコストパフォーマンスのバランスが求められる場面で特に重宝されています。
加工装置等のコンプライアンスにより、工具送り・・・とはどういう意味ですか
加工装置等のコンプライアンスにより、工具送り量と実切込み深さが異なるという表現は、加工装置の機械的な柔軟性や変形性(コンプライアンス)によって、工具を一定量進めた(送り量)にも関わらず、実際に材料に切り込む深さ(実切込み深さ)が異なることを指しています。
具体的には、加工装置には多少の「ゆるみ」や「たわみ」が存在し、これが装置のコンプライアンスと呼ばれます。工具を進める際、このゆるみやたわみが影響し、実際に工具が材料に切り込む深さが、設定した送り量と異なる場合があります。特に精密加工では、この違いが重要な問題となり得ます。
たとえば、装置の構造部分が加工力によってわずかに変形すると、工具の先端が予定よりも少ない深さで材料に切り込むことがあります。その結果、加工される部品の寸法精度に影響が出る可能性があります。
このため、精密な加工を行う際には、装置のコンプライアンスを考慮して、実際の切込み深さが設計値に合うように調整することが必要になります。加工機械の剛性を高める、適切な補正値を設定するなどの対策が取られます。
試薬の影響を詳細に教えてください
試薬を加工点に適用することによって加工雰囲気を変更し、それが切削加工の結果に影響を与えるというのは、特に光学ガラスなどの硬脆材料の加工において重要な側面です。試薬が加工雰囲気に与える影響を詳細に解説します。
潤滑効果: 試薬は加工面に潤滑作用を提供し、工具と材料の間の摩擦を減少させます。これにより、工具の摩耗が減り、加工された表面の品質が向上します。また、摩擦熱の低減により、材料の熱的損傷のリスクも低下します。
冷却効果: 特に液体の試薬は、加工中に発生する熱を吸収し、材料や工具の温度上昇を抑制します。これにより、熱による材料の変形や損傷、工具の摩耗が抑えられ、加工精度が保たれます。
化学的影響: 一部の試薬は材料表面と化学反応を起こすことがあります。これにより、材料の表面特性が変化したり、切削しやすくなったりすることがあります。しかし、望ましくない化学反応によって材料が損傷する可能性もあるため、使用する試薬の選択には注意が必要です。
クリーニング効果: 加工過程で発生する微細な粒子や切削屑を除去する効果もあります。これにより、加工面の清浄度が保たれ、高品質な表面仕上げが実現します。
実際の加工条件下でどのような試薬が最適かは、加工される材料の種類、加工される部品の要求仕様、加工環境などによって異なります。例えば、ドキュメントにあるようにBK7ガラスの場合、メタノールやエタノールが使用されることがあります。これらのアルコール系試薬は、潤滑や冷却効果に加えて、蒸発しやすいため加工後のクリーニングが容易という利点もあります。
工具の切込み深さはどのように確認していますか?
工具の切込み深さの確認は、加工品質と精度を保証するために非常に重要です。切込み深さを確認する方法はいくつかあり、使用される具体的な方法は加工の種類、必要な精度、利用可能な測定装置によって異なります。以下は、工具の切込み深さを確認する一般的な方法です:
直接測定法: これは、マイクロメーターやダイヤルゲージなどの精密測定器具を使用して、工具の先端から加工面までの距離を直接測定する方法です。この方法は、特に加工前の設定で有用ですが、加工中の測定には適していません。
間接測定法: 工具の位置を制御する数値制御(NC)システムやコンピュータ数値制御(CNC)システムからのデータを使用して、工具の位置と切込み深さを間接的に確認する方法です。この方法はリアルタイムでの監視が可能で、特に複雑な加工や高精度が求められる場合に有効です。
光学的方法: 顕微鏡や光学式測定器を使用して、加工後の部品を観察し、切込みの深さを測定する方法です。これは加工後の検証に特に有用で、加工された特徴の微細な詳細を確認することができます。
電子的方法: 工具と加工面との接触を電気的に検出する方法です。例えば、工具が加工面に接触すると回路が閉じることを利用して、接触点での工具の位置を確認します。これは、特に微細加工や薄膜加工で有効な方法です。
試験切削と測定: 実際の加工条件下で試験的な切削を行い、その後で加工された部分の深さを測定する方法です。これにより、実際の加工条件での工具の挙動や材料の反応を考慮した上での切込み深さの確認が可能となります。
加工機械の精度、使用される測定装置の精度、および加工条件によって、適切な切込み深さの確認方法が選択されます。実際の適用には、加工の種類や要求される精度、利用可能な技術や設備に基づいた適切な方法の選定が重要です。
工具の切込み深さはどのように確認していますか?
工具の切込み深さの確認方法として、主に触針式粗さ計を使用して切削痕の深さを観察しています。触針式粗さ計は、触針が加工表面を走査し、その際の高低差を測定することで表面の粗さや微細な形状を測定する装置です。この方法では、工具の切込みによって生じた加工痕のプロファイルを精密に捉え、切込み深さを測定することができます。
加工実験では、工具サーボと試料の初期位置によって決まる切込み開始点から、工具が試料に切り込んだ深さを、触針式粗さ計で測定したステージの回転角と指令信号から算出しています。この測定結果は、加工条件下での工具切込み深さと実際に得られた切削痕の深さとの関係を示し、加工プロセスの精度と品質を評価するために使用されます。
また、実験では加工中に試料への試薬の適用によって加工雰囲気を変更し、これが切削痕の深さや加工品質にどのように影響するかを評価しています。試薬の使用は、切削痕の深さに直接的な影響を及ぼし、加工プロセスの最適化に寄与する重要な要素です。
触診式粗さ計の仕様を教えてください
使用されている触針式粗さ計はRank Taylor Hobson社製のTalyScanで、触針の先端半径は5μm、最小分解能は3nmです。この装置は、加工された表面の微細な凹凸を測定するために使用され、加工品質の評価に寄与しています。触針が試料表面を走査し、その際の高低差を精密に測定することで、工具の切込み深さや加工表面の粗さを評価することができます。