2015年以来、お家騒動が続き、大きく業績を悪化させ、企業価値を毀損してしまった大塚家具。

後継社長となった創業者・大塚勝久氏の娘である大塚久美子氏が志向したビジネスモデルの変更は、ざっくり言うと、高価格帯から中価格帯への変更と、会員制の廃止であった。
私もかつて親につれられて台場の大塚家具に行き、親が数十万円の家具を買う(買わされる)のを観察したことがあるが、販売員が最初から最後まで横について、いかに大塚家具の商品が素晴らしいかを力説しつつ営業するという仕組みであった。

即ち、大塚家具の強みは、
・会員制によるプレミアム感の演出
・会員制を前提とした密着営業
・結果として高価格帯の家具が販売できる

というビジネスモデルであった。

つまり、大塚家具は「家具屋」というよりは「高級有形商材販売業」といったほうが適切なビジネスモデルであったわけである。
大塚久美子氏は一橋大学経済学部を卒業した才媛であり、恐らく優秀であったことは想像されるが、本質的な意味でのビジネスモデルの理解があったかどうか、私としては疑問である。

非合理的な意思決定をさせる

ビジネス本にはよく「相手に得をさせれば自分も得をする」という記述がある。
これはもちろん真実の側面もあるが、一方でやや綺麗事に過ぎるようにも思う。

というのは、営業の局面を想定すると、同じ商品、例えば新築一戸建てを6000万円で売るか7000万円で売るかによって、差額1000万円が会社側のゲインになるか顧客側のゲインになるかはゼロサムゲームだからである。

つまり、個別の営業局面を想定した場合、当然ながら、なるべく相手に非合理的な意思決定をさせ、会社がたくさん儲かるようにしたほうが有利なわけである。
特に、取引の一回性が強いビジネスでは、リピートが想定されていないため、1人の顧客からなるべく多くの利益を搾り取るという方向性でビジネスを展開したほうが有利である。

また、非合理的な意思決定をしたからといって、顧客の満足度が下がるというと実はそうでもない。
家であれば、家を買う理由や、あるいは、営業マンが信頼できそうかどうか、といった定性的なファクターのほうが顧客の満足度に対する寄与度が高いと考えられる。

ネットで売るか、リアルで売るか

この「非合理的な意思決定をさせる」ビジネスの代表例が「来店型保険ショップ」である。

冷静に考えると、保険の良し悪しなどネットで比較すれば一瞬でわかることである。
従って、「来店して人から説明を聞かないとよくわからないよ」という人は、ネットで情報を能動的に調べることのできない「情報弱者」が多数を占めると考えられる。

来店型保険ショップはたいてい駅前の一等地にあり、それだけで大きく地代家賃がかかる。
逆に言うと、その地代家賃をリクープできるような収益性がなければ、大規模展開ができないのである。

会社の儲けは当然顧客に費用転嫁されているわけだ。

さて、その費用転嫁をどのように行うか。
それは「来店型保険ショップ」では、中立を装いながらも、保険会社からのバックマージンが大きい特定の保険をゴリ押し販売しているのではないか?
という疑問が何度も報道されている。

実際、経営側からすると儲かる保険を売りたいに決まっているわけで、そうなるのは当然の帰結とも言える。

大塚家具のビジネスモデル転換の失敗からも学ぶことができるように、「ネットで売る」ことに対して「リアルで売る」ことの優位性は、「意思決定を捻じ曲げて儲かる商品に誘導することができる」ということなのである。

 

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