コロナ禍が日本の労働市場にもたらした最大のインパクトの1つが、労働時間の減少だ。
一般の不況期でも企業の操業度低下とともに労働時間の減少が見られるが、全国的に休業や営業時間短縮が広がった今回は、これまで経験したことのない急減が生じた。

総務省の「労働力調査」によると、緊急事態宣言が解除された5月末1週間における平均就業時間は36.1時間で、前年同月に比べて2.2時間も減少した。

労働時間の急速な減少は当然、経済活動の停滞を意味し、宿泊、飲食、教育といった業種での大きな減少はそれを如実に示す。
だが、さらに興味深いのは、より広い業種においても労働時間短縮の動きが見られることだ。

具体的には、週40時間を超える労働者が大きく減り、その減り方は週60時間を超える超長時間労働者でより顕著になっている。
とくに30代後半~40代前半の男性の平均労働時間が大きく減っていた。
従来働きすぎが懸念され、ワーク・ライフ・バランスの実現が特に求められてきた人々の労働時間が大きく減少しているのである。

こうした変化には、経済活動の停滞のみならず、残業時間の上限規制など働き方改革も一定の役割を果たしているだろう。
しかし筆者はそれだけでなく、働き方そのものが変化を強いられた側面も大きいのではないかとみている。

日本企業の場合、「周囲の人が長時間働いているから自分だけ帰るわけにはいかない」といったある種の同調圧力が長時間労働を深刻化させてきた面がある。
ところが、コロナ禍によって「ステイホーム」が叫ばれるとともに、多人数で現場に居残る「密」への懸念が高まった。
テレワークの進展も、同調圧力を弱めた可能性がある。

さらに出張が激減し、会議の頻度も低下した。会議資料作成などに膨大な時間をかけるといった完璧主義の風潮も日本企業ので労働時間が長くなる要因だが、
そうした点も部分的に弱くならざるをえないかった。終業後の社員の飲み会といった時間拘束も減った。

 

要するにコロナ禍は、日本の労働時間を長くしがちであった不要不急の仕事や社内習慣を浮き彫りにするとともに、業務の効率化による労働時間短縮という課題への取り組みを否応なく企業に課した側面があるのではなかろうか。
そうであれば、今後は業務効率化の流れを一過性にしないための取り組みが求められる。
リモートで業務を行う点において、日本企業が世界に立ち遅れているという事実も明らかになっている。

企業には、「働き方をコロナ禍前に戻す」との発想を捨て去り、従来の慣行を一段と見直していく事が求められる。
その際には、業務実態をよく知る現場の社員の意見を吸い上げることが必要だ。
政策的にも、リモートワークの推進を継続するなど、効率化を目指す企業への後押しが望ましい。
コロナ禍で生じた、業務効率化を通じた、ワーク・ライフ・バランス適正化の流れを逃すべきではない。

 

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