ポイント

  • 働く男女を対象にした睡眠健康調査から、寝室に木材・木質の内装や家具、建具が多いと回答した人は不眠症の疑いが少なく、やすらぎを感じている割合が高いことが明らかになりました。
  • 寝室の木材・木質材料が、睡眠に有用である可能性が示されました。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所は、国立大学法人筑波大学、帝京大学と共同で、働く人を対象にして、日常の睡眠や住環境に関する調査を実施しました。その結果、寝室に木材・木質の内装や家具、建具が多いと回答した人は不眠症の疑いが少なく、寝室で精神的なやすらぎを感じる割合が高いことが明らかになりました。寝室に木製の家具を置くなど、木材・木質材料を多く取り入れることにより、不眠症状の緩和や良い眠りが得られることが期待されます。

本研究成果は、2020年2月18日にJournal of Wood Scienceでオンライン公開されます。

背景

木材を見たり触ったり、木の香りを嗅いだりすると、心拍数や血圧を下げ、副交感神経の働きを活性化することなどがこれまでにわかっています。これらのことから、木材・木質材料に囲まれた住環境で眠れば、良い睡眠が得られる可能性があります。

日本における平均睡眠時間は世界的にみても短く、成人の約2割に不眠の症状があります(Kim et al.Sleep. 2000)。睡眠障害や睡眠不足による生活の質や作業効率の低下は、社会的、経済的に甚大な損失をもたらすため、働く人たちの睡眠を改善することが重要です。

より良い睡眠を得るために、多方面から多角的なアプローチがなされており、例えば、寝酒をしないなどの生活習慣の改善が必要であることはわかっています。しかしながら、木材・木質の住環境が睡眠に良いのかを検証した研究は極めて少なく、わかっていないことが数多くあります。

そこで、森林科学、睡眠医学、産業精神医学(働く人たちの心の健康を守る医学分野)の研究者の共同研究により、木材・木質に囲まれた住環境が睡眠に良いか検証しました。

内容

2016~2017年に、茨城県と東京都の4つの職場で働いている方を対象にして(671名;男性298名、女性373名:年齢22~68歳、平均43.3歳)、活動量計による睡眠計測とアンケート調査を行いました。アンケート調査では、家屋の住環境や自身の寝室、睡眠の状態、生活習慣等に関する質問に回答していただきました。この中には、寝室内に木材・木質の内装や家具、建具の量がどの程度あるのかについての質問もあります。また不眠症の疑いは、アテネ不眠尺度(※1)で判定しました。アンケートを統計的に解析した結果、寝室に木材・木質材料が多いと回答した人たちは、少ないと回答した人よりも、不眠症の疑いのある人が少ないということがわかりました(図1)。さらに、寝室に木材・木質が多いと回答した人たちは、寝室で安らぎや落ち着きを感じる割合もより高いことが明らかになりました(図2)。このことは、対象者の年齢や性別、生活習慣等も考慮したデータ解析を行っても、同様の結果でした。

睡眠を改善するためには、生活習慣を見直すことが重要ですが、習慣を変えるのは難しいことです。本研究は、木材・木質材料が多く感じられる寝室、つまり周りの住環境でも睡眠が改善される可能性を示しました。

今後の展開

本研究は働く世代を対象にしましたが、今後は子供や大学生、高齢者などの世代も対象にして検証することが必要です。また、木材・木質材料のどのような点が睡眠に良い影響を与えるのか、例えば材料の見た目なのか、吸音性なのか、匂いやその他の特徴なのか等を解明していくことも望まれます。日本の森林は伐って利用する時期に来ています。住環境により多くの木材を使うことは、林業の活性化ばかりでなく人々の健康増進にもつながることが期待されます。

 

参照:http://www.tsukuba.ac.jp/wp-content/uploads/200218morita.pdf