◆発表のポイント

  • 血液を元に認知症を判別する方法は、これまで確立していませんでした。
  • 認知症の前段階である MCI や、アルツハイマー病(AD)の患者の血液に特異的に含まれる 4 種類のペプチドを発見。
  • これらのペプチドを認知症のリスクを発見するバイオマーカー(疾患の状況を把握する指標)として活用することで、少量の血清から認知症リスクを判定することが可能になりました。
  • 血液で効果的に認知症診断法ができ、新たな認知症治療薬開発につながることが期待されます。

日本における認知症患者は年々増加しており、2025 年には高齢者の 5 人に 1 人が認知症となると予測されています。これまで認知症診断には脳脊髄液(CSF)中のバイオマーカーや脳内に沈着した放射性物質の測定が有用とされてきましたが、検体採取の侵襲性が高いことなどの問題点があります。そのため、血液試料から認知症を診断する方法が望まれていますが、これまで確立していませんでした。

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経内科学の阿部康二教授と株式会社プロトセラは、MCI、AD 患者の血液を解析し、特異的に存在する 4 種類のペプチドを発見して、この 4 種類のペプチドが、認知症のリスクを発見するバイオマーカーセットとして有用であることを確認しました。その結果、少量の血清(30μL)から認知症をリスク判定することができるようになりました。

今回発見された新しい血中ペプチド性バイオマーカーセットは、新規で、迅速で、非侵襲性で、定量性の高い、低コストな認知症スクリーニング法を提供するほか、これまでの血清アミロイドβや血漿タウを標的にした認知症治療薬開発の失敗に対して新しい創薬アプローチを提供する可能性があります。

本研究成果は 2019 年 11 月 18 日、医学誌「Journal of Alzheimer’s Disease」の電子版に掲載されました。

◆研究者からのひとこと

本研究のポイントは 3 点あり、1 点目は網羅的血清ペプチド解析法を実施して世界で初めて認知症リスク因子を解明したこと、2 点目はその発見された血清ペプチドはアミロイドやタウタンパクの断片ではなく血液凝固系や脳内炎症に関わるタンパクの断片だったこと、3点目はそれらの新しいペプチドの親タンパクがアルツハイマー病の病態に関係していることが、実際のアルツハイマー病脳でも確認されたことです。

<現状>

日本における認知症患者は年々増加しており、厚生労働省によれば 2025 年には 750 万人に達し、高齢者の 5 人に 1 人が認知症となると予測されています。認知症はある日突然発症するものではなく、徐々に認知機能が低下し、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment: MCI)を経て認知症に至ります。

現在、残念ながら認知症に有効な治療薬はなく、認知症の罹患リスクを早期に認識し、症状が軽いうちの予防や認知症の悪化にブレーキをかけるため、本人と社会の双方の努力が必要となります。

これまで認知症診断には脳脊髄液(Cerebrospinal fluid: CSF)中のバイオマーカーや脳内に沈着した放射性物質の測定が有用とされてきました。CSF に比べると血液試料の方が実用的ですが、血清アミロイドβ(Aβ)や血漿タウ(plasma tau)や血清 Aβ1-42 抗体の測定法は未だ十分には確立されていませんでした。

<研究成果の内容>

岡山大学大学院医歯薬学総合研究科脳神経内科学の阿部康二教授とプロトセラは、健常者血清100 例、MCI 血清 60 例、AD 血清 99 例を、プロトセラが特許を保有する新しいペプチドーム(組織や細胞が産生するペプチド総体)解析技術(BLOTCHIPⓇ-MS 法、注 1)を用いて探索しました。その結果、MCI とアルツハイマー病(AD)に特異的な 4 種類のペプチドを発見しました。これらは、従来から指標とされてきたアミロイドβタンパク質やタウタンパク質とは異なるものです。

このバイオマーカーセットは健常者と MCI と AD を識別し、健常者と AD の間で感度が 87%、特異度が 65%(***p<0.001)でした。また、AD 患者のミニメンタルステート検査(MMSE)スコアとこのバイオマーカーセットから得られたスコアの相関は良好でした。AD 患者脳内でこれら 4種類のペプチドの元タンパク質濃度は、凝固活性、補体活性、神経可塑性(注 2)を示す 3 種類(フィブリノーゲンα・β鎖、血漿プロテアーゼインヒビター)で増加し、抗炎症能を持つ一種類(α-HS 糖タンパク質)で減少しました。

 

■論文情報

論 文 名:A new serum biomarker set to detect mild cognitive impairment and Alzheimer’s disease bypeptidome technology

掲 載 紙:Journal of Alzheimer’s Disease

著 者:Koji Abe, Jingwei Shang, Xiaowen Shi, Toru Yamashita, Nozomi Hishikawa, Mami Takemoto, Ryuta Morihara, Yumiko Nakano, Yasuyuki Ohta, Kentaro Deguchi, Masaki Ikeda, Yoshio Ikeda, KoichiOkamoto, Mikio Shoji, Masamitsu Takatama, Motohisa Kojo, Takeshi Kuroda, Kenjiro Ono, Noriyuki Kimura, Etsuro Matsubara, Yosuke Osakada, Yosuke Wakutani, Yoshiki Takao, Yasuto Higashi, Kyoichi Asada,Takehito Senga, Lyang-Ja Lee, and Kenji Tanaka

D O I:10.3233/JAD-191016

 

 

参照:http://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id699.html