「負けず嫌い」「競争心」の定義と発達的特徴
定義: 研究者は幼児期・児童期の「負けず嫌い」を、単なる他者への優位志向以上のものとみなしている。例えば渡辺・土井(2007)は、小学生における負けず嫌いを「友だちに負けたくない」という性質に加え、自己に具体的な目標を課して粘り強く達成に挑む『自己向上への意欲』を含むものと定義しているjstage.jst.go.jp。言い換えれば、負けたくないと同時に「自分を磨く挑戦心」を伴うと考えられている。
発達的特徴: 幼児~児童期において、競争心は年齢とともに変化する。研究によれば、競争状況の理解は概ね4歳頃から生じるとされ、この頃から子どもは「勝者はひとり」という競争のルールを理解し、勝つことへの意欲を示し始めるoapub.org。Tsiakaraらのまとめでも「競争心は幼児期(4歳頃)から出現し、幼児は競争概念を理解して勝利を目指す意欲を持つ」と報告されているoapub.org。また、年齢と競争的行動の関係では、3~6歳児では年長児ほど競争行動を多く示す傾向が確認されている(McClintockら1977oapub.org)。一方、感情表出の発達では、3~5歳児を追跡したChaplinら(2017)の研究で、葛藤場面における悲しみの表現は年齢とともに減少し、怒りの表現が増加することが報告されているpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。すなわち、年長児ほど競争での失敗や挫折に対し、泣いて悲しむより怒って不満を表す割合が高くなると考えられる。
負けず嫌いになる要因
性格・気質要因: もともとの性格傾向として、向上心や自己効力感の強い子は競争心が芽生えやすい。研究では、生得的・遺伝的要因もあると示唆されており、安藤ら(※参照3)などの双子研究では性格特性の半分程度が遺伝で説明されるとされる。また、児童心理学では、兄弟姉妹の有無や出生順位も影響すると報告される。例えば末子は「年上に追いつきたい」という欲求が強くなりやすく、負けず嫌いな性格が形成されることが多いと指摘されているlab.kuas.ac.jp。一方、一人っ子は競争経験が少なく甘やかされる傾向から、競争場面を苦手とすることがある(Watanabe & Doi, 2007論文より)。
家庭環境・教育スタイル: 競争心の芽生えには家庭の雰囲気も影響する。たとえば、兄弟・姉妹間で競争が促される家庭や、親が他者比較や成績で子を評価する環境では、子どもは自分も「負けたくない」と感じやすいlab.kuas.ac.jpoapub.org。逆に、失敗を咎めず努力を評価する家庭では、健全な向上心が育ちやすいとされる。教育スタイルでは、成果よりも過程を重視する『マスタリー(習熟)志向』と、他者との勝敗に焦点を当てる『パフォーマンス志向』という概念があるが、Ames(1992)は前者が内発的動機を高め、後者は他者比較を助長して動機づけを損なう可能性を指摘しているjstage.jst.go.jp。すなわち、過度に勝ち負けに固執する環境より、自分の成長を重視する環境の方が、競争心を前向きに育てると考えられる。
負けたときの反応・心理状態
情動表出: 負けや挫折は、幼児に強いネガティブ感情をもたらす。Chaplinら(2017)の観察研究では、困難な課題に直面した3~5歳児を追跡し、年齢が上がるほど悲しみ表現は減少し怒り表現が増加することが示されたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。これは幼児期前期の子どもが、年長になるにつれ挫折時に泣くより怒る傾向が強まることを示唆している。実験的には、負けた直後の行動として小競り合いや投げ出し・癇癪などを起こす子どもが多いが、これは自尊心や自己評価が試される状況でフラストレーションが生じた結果と考えられる。一方で、競争の影響を調べた他の研究では、競争を経験しても協調性や親切行動の程度に大きな差は出ないことも報告されているpmc.ncbi.nlm.nih.gov。Erikssonら(2021)は、幼児に協力型/競争型のボードゲームを6週間体験させた結果、いずれの場合も協力的行動の頻度は同程度だったと報告しておりpmc.ncbi.nlm.nih.gov、競争自体が直ちに反社会的行動につながるわけではないことを示唆している。
対人関係への影響: ただし競争は時に悪影響も持つ。Lamら(2004)などによる先行研究では、競争環境が子どもの学習意欲や対人関係に否定的に働く例が指摘されているpmc.ncbi.nlm.nih.gov。具体的には、勝敗に過度にこだわると友人関係の衝突や孤立を招く恐れがあるため、教育現場では勝ち負け以外にも学びの意義を伝える必要性が示唆されているpmc.ncbi.nlm.nih.gov。
教育的対応・支援
感情への共感と助言: 負けず嫌いの子どもには、保護者・教師がまずその悔しさに共感し、感情を受け止めることが重要である。子どもが負けて泣いたり怒ったりした際には「悔しかったね」「一生懸命頑張ったからね」と認め、自己否定に陥らないよう支援する。さらに、勝つことだけでなくゲームや学習の過程そのものを楽しむ姿勢を促すことで、負けても学びにつながることを教える。これは内発的動機づけを育み、挫折耐性や成長志向(成長マインドセット)を養う教育方針と合致する。
競争の捉え直し: 「負けてもいい経験」を意図的に設ける方法も効果的である。たとえば、協力型ゲームで皆で課題をクリアする体験を重ねたり、短期的な勝敗でなく長期的な自己目標を設定したりすることで、競争心を健全に活かす教育が可能である。先行研究でも、協力的な遊び道具を導入すると、幼児の協調性や社会性が高まることが報告されておりpmc.ncbi.nlm.nih.gov、競争より協同を重視した環境は社会性育成に寄与する。
実証研究例・主な結論
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Hu & Zhu (2018): 中国の研究で、2~4歳と5~6歳の幼児を対象に競争後の再競争意思を比較。結果、年長児ほど競争相手と再度競争したい選択を減少させる傾向が見られたpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。幼児期の競争意識が年齢とともに変化することを示している。
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Tsiakara & Digelidis (2021): 文献レビューで、幼児期(4歳頃~)から競争行動が明確になり、男児の方が一般に競争的行動が多いことや、競争状況下で子どもは“勝ちたい”という意欲を示すことが示されたoapub.orgoapub.org。また、競争状況の理解は4歳頃から発達し、以降は自分自身の成長(自己との競争)を意識する段階へ移行すると議論されているjstage.jst.go.jpoapub.org。
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Eriksson et al. (2021): 幼児(4~6歳)を対象としたスウェーデンの実験で、協力型・競争型ボードゲームを交互にプレイさせた結果、いずれも協力的行動に差はなかったが、子ども達は協力型ゲームの方をより楽しんだpmc.ncbi.nlm.nih.gov。競争だけでなく協調活動も同時に取り入れることの重要性が示唆される。
以上のように、負けず嫌い・競争心は幼児期から見られ、性格や家庭環境など複合的要因で形成される。競争の体験は子どもの発達に必ずしも悪影響を及ぼすものではないが、勝ち負けばかりに囚われると人間関係や学習意欲に支障を来す可能性もある。教育現場や家庭では、子どもの悔しさに共感しつつ「努力と成長」の価値を伝え、競争心を前向きな向上心へとつなげる支援が望まれるjstage.jst.go.jppmc.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。
参考文献: 上記の内容は心理学・教育学の学術論文などに基づいており、必要に応じて各所に引用を示したjstage.jst.go.jpoapub.orgpmc.ncbi.nlm.nih.govpubmed.ncbi.nlm.nih.gov。





