企業の海外展開、研究開発、そしてイノベーションの関係に注目する場合、企業の海外展開の中でも直接投資を通じた海外での研究開発活動が注目されている。
また、イノベーションの有無については、新製品の売上や開発や特許によって把握されていることが多い。例えば、Haneda and Ito(2014)は、海外で研究開発活動を行なっている日本企業はイノベーションの効率が高い傾向にあるという興味深い事実を明らかにしている。

彼女らは文部科学省が2003年と2009年に実施した、全国イノベーション調査のデータを活用し、海外展開をしている企業としていない企業のイノベーション活動の差異を分析した。分析手法はMairesse and Mohnen(2002)、Mohnen,Mairesse and Dagenais(2006)らの提唱するイノベーション会計に基づくものである。

一般に、イノベーションのために多くの資源を投入すれば、例えば研究開発を活発に行えば、イノベーションが実現する確率が高まるのは自然といえる。逆に、少ない研究開発でイノベーションを実現することができれば、その企業は効率よくイノベーションを行なっていることになる。
イノベーション会計はこのような構造要因では説明できない効率要因をとらえようとするものである。

より具体的には、イノベーション会計はイノベーションが知識生産関数と呼ばれる生産関数によって生産され、その生産は構造要因と効率要因で構成されるとする。構造要因とは研究開発など知識創造活動に対するインプットの領域や企業規模など観測可能な産業・企業特殊的な要因であり、効率要因は構造要因で説明できない要因とされている。効率要因は知識生産関数の残差としてとらえられており、生産関数の全要素生産性に対応するものといえる。

Haneda and Ito(2014)はイノベーションの成果、すなわち知識生産関数のアウトプットとして、新製品や新プロセスの開発・導入を行ったかどうかのダミー変数、および新製品の売上を考え、この要因を分析した。

 

彼女らの主要な結果は次の三点である。

第一に、海外展開している企業は新製品や新プロセスの開発・導入確率が高く、また海外での新製品の売上も高い傾向にある。この結果は、海外展開がイノベーションの実現につながることを示唆している。

第二に、イノベーションを海外展開企業の新製品や新プロセスの開発・導入で見ると、その実現は主に構造要因で説明できる。この結果は、国内にとどまっている企業も、研究開発を活発に行えば新製品や新プロセスの開発・導入を実現できることを示唆している。

そして第三に、イノベーションを新製品の売上で見ると、その拡大は構造要因よりむしろ、効率要因が寄与している。この結果は、新製品の売上の拡大という面では海外展開による効果が大きいことを示唆している。

 

 

企業の海外での研究開発活動とイノベーションの関係を分析した例としてはこのほかに日本と米国の特許の申請の要因を分析したIwasa and Odagiri(2004)がある。彼らは1998年の企業活動基本調査、および海外事業活動基本調査を利用して、日本と米国での特許申請に海外での研究開発活動がどのような影響を及ぼすかを分析した。

分析の結果、研究開発活動を目的とした海外子会社の存在が日米での特許の申請に寄付していることが明らかにされている。

 

 

また、新製品や特許ではないものの、企業の海外での研究開発活動と企業の生産性の成長との関係を分析した例に、Todo and Shimizutani(2008)がある。彼らはIwasa and Odagiri(2004)と同様に企業活動基本調査および海外事業活動基本調査のデータを利用している。

分析の期間は1996年から2002年である。分析を通じて、いわゆるハイテク産業においては、研究開発の中でも新製品の開発を目的とするような革新的な研究開発が海外で行われている場合、国内の生産性の成長にプラスの影響を持つことが確認されている。

 

この結果は、海外での革新的な研究開発活動は限定的ながらも生産性成長に寄与する効果があることを示唆しているといえる。ただし、海外での研究開発活動には国内の研究開発活動を促進する働きは見られず、また国内の研究開発の収益性を高める効果も確認できてないとしている。
これは海外の研究開発活動と国内の研究開発の活動は必ずしも補完的な関係にないことを示唆する結果といえる。
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