Duolingo, Inc.はアメリカ・ペンシルベニア州ピッツバーグに本社を置く教育テクノロジー企業です。2011年にカーネギーメロン大学のルイス・フォン・アーン(Luis von Ahn)氏とセヴァリン・ハッカー(Severin Hacker)氏の2名によって創業されました。創業者のフォン・アーン氏は、画像認証技術「reCAPTCHA」の発明者としても知られ、無料で質の高い教育を世界中に提供するという理念の下でDuolingoを立ち上げました。本社のあるピッツバーグを中心に事業を展開しつつ、アジアなど海外市場への進出にも積極的です。
同社は2021年7月にNASDAQ市場へ新規株式公開(IPO)を行い、ティッカーシンボル「DUOL」で上場しました。IPO時の初値は公開価格102ドルを大きく上回る141ドルとなり、時価総額は約65億ドルに達しました。その後もユーザー数の拡大と収益成長を背景に株価は上昇傾向を示し、2023年から2024年にかけての生成AI機能の導入などで株価が急騰する場面も見られました。2025年8月現在の株価は約340ドル前後で推移しており、同社の時価総額は約150億ドル規模となっています。
事業内容
Duolingoの主力サービスは語学学習アプリ「Duolingo」です。スマートフォンやPC上で動作するこのアプリは、ゲーミフィケーション(ゲーム要素)を取り入れた直感的なレッスン提供が特徴で、世界中のユーザーに40以上の言語コースを無料で提供しています。1レッスン数分程度の短い問題を重ねて経験値(XP)やバッジを獲得していく仕組みで、毎日続けると記録(ストリーク)が伸びるなど、遊び感覚で継続できる設計になっています。こうした工夫により「楽しく効果的な学習」を実現し、世界最多の利用者を持つ教育アプリへと成長しています。2021年時点で月間アクティブユーザー数は約4,000万人でしたが、その後急増し2024年末には1億人を突破、2025年現在は月間1億1,600万人以上が利用しています。利用者の約半数は英語学習者であり、特に英語を第二言語として学ぶ世界中のユーザーから支持されています。最大市場はアメリカ合衆国で、ユーザー数全体の20%を占めつつ同社収益の約45%を生み出しています。またアジア地域が最も成長率の高い市場となっており、世界194か国以上で日々幅広い層に利用されています。利用者層は学生から社会人まで多岐にわたり、語学初心者の入門から趣味・自己啓発まで様々なニーズに対応しています。
Duolingoアプリ以外の主要サービスとして、オンライン英語資格試験「Duolingo English Test (DET)」があります。従来のTOEFLやIELTSに代わる手軽な英語力評価として2016年に開始され、自宅のPCで約1時間で受験・結果取得が可能な点が特徴です。受験料は従来試験より低価格に設定されており、コロナ禍において受験者が急増しました。DETは世界の4,500以上の高等教育機関で公式に受け入れられており、イェール大学やトロント大学など名門校も含め入学審査で活用されています。迅速な結果通知(2日以内)や完全オンラインという利便性から、英語力証明の新たなスタンダードとして浸透しつつあります。また、子供向けのリテラシー学習アプリ「Duolingo ABC」や、学校教師が授業に利用できる「Duolingo for Schools(教育機関向け管理ツール)」、法人向け語学研修サービスなども提供しています。最近では語学以外の領域にも教育サービスを拡大しており、算数アプリ「Duolingo Math」や音楽学習コースも新たに投入されました。これら複数の科目を1つのDuolingoアプリ上で切り替えて学習できるマルチサブジェクト版が2023年末にリリースされ、語学に加えて数学や音楽の基礎を同じユーザー体験で習得できるようになっています。
技術面ではAIを駆使したパーソナライズ学習もDuolingoの強みです。独自開発の学習最適化AI「BirdBrain」がユーザーごとの習熟度や解答履歴を分析し、問題の出題内容や難易度をリアルタイムに調整します。これにより「易しすぎず難しすぎない」絶妙なレベルの課題提供が可能となり、ユーザーのモチベーション維持に寄与しています。さらに2023年にはOpenAIのGPT-4を活用した新機能「Duolingo Max」を導入しました。これは最上位の有料プランで、AIキャラクターとの会話練習(ロールプレイ)や誤答の詳細解説といった高度な機能を提供するものです。Max利用者はアプリ内でビデオ通話風のチャットボット相手に会話練習ができ、AIが発音や文法の誤りを指摘してフィードバックを返すため、実践的なスピーキング力向上が期待できます。こうしたAI機能は段階的に全ユーザーへ展開され、無料ユーザーでも一部生成AI技術による新規コースが受けられるようになりました。実際、Duolingoは生成AIを使って人気言語のコースを大量開発することに成功しており、従来12年かかった100コース開発を1年足らずで148コース追加するなど、コンテンツ拡充スピードが飛躍的に向上しています。このようにテクノロジーを駆使した楽しく続けられる学習体験がDuolingo事業の中核であり、「最高の教育を、誰にでも(Affordable and Accessible)」というミッションの実現を支えています。
財務情報
Duolingo社の業績は近年急成長を遂げており、2024年12月期(FY2024)の通年売上高は7億4800万ドルと前年比+40.8%の大幅増収となりました。売上の伸びに伴い収益性も改善し、2024年の営業利益(GAAPベースの営業収入)は約6260万ドル、当期純利益は8857万ドルを計上しています。前年2023年は売上高5億3110万ドル、純利益1607万ドルであり、2024年は売上・利益ともに記録的な成長を達成しました。純利益ベースで見ると、2022年までは赤字が続いていましたが、2023年に初めて黒字転換し、2024年には純利益額が前年の約5.5倍に拡大しています。この利益急増により、**2024年の純利益率(Net Income Ratio)は約11.8%**に達し、事業の採算性が飛躍的に向上しました。
主要な収益源は有料サブスクリプション(Super Duolingo)によるもので、全売上の約8割を占めています。Duolingoは基本サービスを無料提供し、大半のユーザーからは課金をせずとも利用できますが、その中の約10%程度の熱心なユーザーが広告非表示や追加機能を求めて有料プランに加入するフリーミアムモデルです。結果として、ユーザーの約1割の有料会員が全体収入の8割を支える構造になっています。残りの収益は、無料ユーザー向けアプリ内広告や、アプリ内で販売する追加アイテム(例:復習用テストやハート回復アイテム等の課金)並びに前述のDuolingo英語テスト受験料などによって構成されています。広告収入は総売上の約9%、アプリ内課金は約3%とされており、同社売上の約90%近くが継続課金型のデジタル収益で占められていることになります。
直近の四半期決算も引き続き高成長が続いています。2025年第1四半期(1~3月期)の売上高は2億3070万ドルと前年同期比で約38%増収となり、市場予想(約2億2380万ドル)を上回りました。営業面では有料プラン加入者数の増加や値上げ効果、新規ユーザー獲得キャンペーンの奏効もあり収益拡大が進んでいます。四半期の純利益は約3513万ドルに達し、前年同期(約2696万ドル)から30%以上増加しました。営業キャッシュフローも潤沢で、2024年通年の営業活動キャッシュフローは2億8550万ドルと前年比+85%増加しています。同社は無借金経営(有利子負債ゼロ)を維持しており、増収増益により手元資金も2024年末時点で7億8579万ドルの現金同等物を保有するなど資金基盤は盤石です。2025年通期も大幅な成長が見込まれ、経営陣は2025年の年間売上を9億87百万~9億96百万ドルと予測し、従来予想から上方修正しました。営業利益ベースでもAI活用による効率化で利益率向上を目指しており、2025年の調整後営業利益(Adjusted EBITDA)は前年から増加する見通しです。以上のようにDuolingoは急拡大フェーズにありつつも、2024年以降は黒字経営とキャッシュ創出を両立しており、財務的にも健全な成長軌道に乗っていると言えます。
株式情報
DuolingoはNASDAQ市場に上場しており、ティッカーシンボルは「DUOL」です。発行済株式はクラスA普通株と創業者・役員が保有するクラスB株の2種類があり、デュアルクラス構造によって経営陣が一定の議決権を維持できる仕組みになっています(一般公開されているクラスA株に比べ、クラスB株は1株あたり多くの議決権が付与)。2021年7月28日のIPOでは、公開価格102ドルに対し初値が141.4ドルを付け、調達額は約5億21百万ドル、初日の終値ベースの時価総額は約65億ドルとなりました。上場後の株価は堅調に推移し、特に2023年~2024年にかけて業績の黒字化や生成AI関連サービスへの期待感から大幅な株価上昇が見られました。2023年末時点で株価はIPO価格の数倍となり、52週高値は544.93ドルを記録しています。しかしその後はハイテク株全般の変動に連動して調整局面もあり、2025年8月現在の株価は340ドル前後となっています。それでも年初来では上昇基調を保っており、2025年の年初から約50%近い株価上昇を示しています。株価のボラティリティは高いものの、市場からは引き続き高成長エドテック企業として注目される存在です。
主要株主については、創業者2名(フォン・アーンCEOおよびハッカーCTO)が議決権株を通じて相応の持分を維持する一方、上場企業として機関投資家の保有が大きな割合を占めています。特に米国大手資産運用会社が上位株主に名を連ねており、フィデリティ(Fidelity)社が約9.1%、バンガード(Vanguard)社が約9.0%、ブラックロック(BlackRock)社が約8.8%の発行株式を保有しています(いずれも2025年時点の推定保有比率)。他にもGrowth株投資で知られる英投資会社ベイリー・ギフォード(Baillie Gifford)やDurable Capital Partnersといった機関が数%規模の株式を保有しています。浮動株比率は全体の8割程度と見られ、残りは創業者や初期投資家が保有するクラスB株に相当します。配当は現在行っておらず無配を継続しています。
株価の推移を見ると、2021年の上場後は堅調なスタートを切り、教育分野のデジタル化需要拡大を背景に投資家の関心を集めました。特に2020年代前半のコロナ禍ではユーザー数の急増もあって業績見通しが上方修正され、株価上昇に拍車がかかりました。2023年には生成AIを活用した新サービス(後述)や収益の黒字化が相次ぎ、株価は年間を通じて上昇トレンドとなりました。2025年5月にはAI機能付きの有料プランが好調との決算を受け、翌年通期業績予想の上方修正とともに時間外取引で株価が**+13%急騰**する場面もありました。その後、短期的な調整を挟みつつも長期成長期待から高いバリュエーションを維持しています。もっとも、経営陣自身は自社を単なる語学アプリ企業ではなく「ユーザーの時間を奪い合うあらゆる娯楽サービスと競合する存在」と位置づけており、株主にも長期的な視点で投資するよう呼びかけています。実際、創業者CEOのフォン・アーン氏は株価について「当社の使命とビジョンに共感する投資家にこそ参加してほしい」と述べており、事業の社会的意義と収益拡大の両立に自信を示しています。