ディスクブレーキの設計開発と最適化(Fusion 360におけるジェネレーティブデザインの活用)

N. Srinivasan¹,a)、Aritra Sanyal²,b)、Tanishq Bheda²,c)、Leo Harshwardhan²,d)

¹Vellore工科大学 機械工学部 製造工学科(SMEC)、インド・タミル・ナードゥ州 ヴェロール632014
²Vellore工科大学 機械工学部(SMEC)、インド・タミル・ナードゥ州 ヴェロール632014

a) 対応著者: srinivasan.narayanan@vit.ac.in
b) sanyal.aritra09@gmail.com
c) tanishqvir@gmail.com
d) leoisharshwardhan@gmail.com


要旨
ジェネレーティブデザイン(Generative Design, GD)は、設計エンジニア、研究者、学生に高度な最適化機能と利便性を提供し、さまざまな工学分野での採用が拡大している。本研究では、ブレーキディスク設計の初期段階においてAutodesk® Fusion 360のGD機能を適用し、必要な性能要件のみを満たす理想的な形状を自動生成することで、材料、コスト、開発時間の削減を図る。ブレーキディスクは車両停止に不可欠な部品であるが、重量は通常5 kg以上と大きく、ばね下重量および慣性を増加させる要因となる。重量低減はブレーキ部品の寿命延長にも寄与する。本研究の目的は、キャリパによる制動力および生じる摩擦力に耐える十分な剛性を保持しつつ、ブレーキディスクの質量を2 kg未満に削減することである。制動時に発生する摩擦力は熱エネルギーに変換され、過度の高温はブレーキフェードを引き起こして機能不全を招く。理想的には、生成形状が放熱性向上のための流路(ドリル穴やスリット)を備え、ディスクの熱容量を超えないように設計される。自動車用ディスクディスクの平均重量は通常5 kg以上であるが、本研究ではGDを用いて2 kg以下への質量減少を目指す。その際、機械的性能要件を満たしながら質量低減を実現することが最大の課題である。得られた新規結果は既存の従来設計と比較し、GD技術の現状における制約と設計最適化手法としての将来性を議論する。

キーワード: ジェネレーティブデザイン/ディスクブレーキ/Fusion 360/シミュレーション/熱解析/質量削減

1. はじめに

設計は、創造力、専門知識、経験、批判的判断力を必要とする重要なタスクである。従来はスケッチや模型を用いて手作業で行われてきたが、1980年代からのCAD(Computer Aided Design)の普及により、デザインの作成、可視化、共有が飛躍的に進展した。しかし従来のCADは主に設計者の意思決定を支援するものであり、自動的な最適化機能は限定的であった。

近年では、CADソフトウェアがパラメータ設定や反復計算による設計支援機能を搭載し、設計者に提案を行うものが登場している¹。代表的な例がジェネレーティブデザイン(GD)であり、シミュレーションとアルゴリズムを駆使して複数の設計案を自動生成・評価する手法である²。

GDは、与えられた制約条件の下で3Dモデルをシミュレートし、最適な構造や形状を探索する技術である³。Fusion 360のGDはクラウドコンピューティングを活用し、トポロジ最適化を含む複数の設計案を生成する。設計者は境界条件や目標(質量最小化/剛性最大化)を設定できるため、多様な最適解を得ることが可能である⁴。GDと従来のトポロジ最適化の違いは、GDがユーザー定義パラメータを考慮しながら構造性能を向上させる設計案を生成するのに対し、トポロジ最適化は製造可否を必ずしも考慮せず最適形状を追求する点にある³。

GDの実装には、DFMA(Design for Manufacturing and Assembly)に関する十分な知識と経験を有する専門家による運用が望まれる⁵。また、GDは構造性能向上に主眼を置くため、美観の観点では必ずしも魅力的な形状が得られるわけではない⁶。

近年、建築、航空機、自動車産業などで商用CADの拡張機能としてGDが広く採用されつつある⁷⁻⁸。本研究では、自動車用ディスクブレーキの軽量化と剛性確保を両立させる最適設計プロセスを提案し、その有効性を検証する。

2. 手法

初期形状モデルをFusion 360にインポートし、GD機能に以下の制約条件を入力した⁹:

  • Preserve Body: キャリパ接触面など変形不可領域
  • Starting Shape: 最適化対象領域
  • Obstacle Geometry: 材料除外領域

荷重条件として、事前に算出した制動トルク(2 500 N·mm)および重力を適用し、設計目標を「最大剛性」、質量目標を1.5 kgに設定した。材料は鋳鉄、グレイキャスト、チタン、アルミ合金(6061/40 SiC)の4種類を選定し、それぞれGDを実行した。

実際の製造性を考慮すると、GD生成案が全て実加工可能とは限らない¹⁰。そこで、応力解析を行い、材料要件安全率(FOS)Von Mises応力質量形状の製造可否など複数基準で評価し、実用に適した設計を選定した¹¹。

また、ディスクブレーキには耐摩耗性、適切な摩擦係数、圧縮下での強度、低質量、コスト効果、優れた熱容量・放熱性が求められる¹¹。

図1にGDプロセスのフローを示す。全イテレーション生成後、各案を比較・評価し、FOSと質量の最適組み合わせを最終設計として推奨する。

[図1] ジェネレーティブデザインの手順:
  初期形状作成 → 制約設定 → 要件定義 → GDによるIteration生成 → 評価・絞り込み → 総合最終選定

3. 計算

本研究では二輪バイク用ブレーキシステムを想定し、以下の諸元および仮定を置いた¹²⁻¹³:

  • ディスク外径:250 mm
  • 厚さ:16 mm
  • パッド接触面積:2 000 mm²
  • 摩擦係数:μ=0.2–0.5
  • マスターシリンダ圧力:20 MPa
  • 制動力バイアス:50:50
  • 伝達効率:100 %

パッドによる法線力BNは以下の式で求めた:

BN = (0.5×0.5×20×10⁶ Pa)×(2000×10⁻⁶ m²) = 10 000 N

両パッドが同じ力を受けると仮定し、制動トルクTBは

TB = 2×BN×r

ここでrはキャリパ中心からの有効半径(0.125 m)である。したがって

TB = 2×10 000 N×0.125 m = 2 500 N·mm

となる。

4. ジェネレーティブデザイン設定

  • Preserve Body(緑): キャリパ接触面などの形状保持領域
  • Starting Shape(黄): 最適化対象領域
  • Obstacle Geometry(赤): 材料除外領域

荷重として制動トルク(2 500 N·mm、青矢印)および重力(黄矢印)をモデルに適用した。さらに設計目標として「最大剛性」を選択し、質量下限を1.5 kgに設定した(図2, 図3)。

[図2] Preserve Body(緑)、Obstacle Geometry(赤)、Starting Shape(黄)の設定例
[図3] GDにおける設計目標: 最大剛性+質量下限1.5 kg

5. 結果と考察

Fusion 360のGD機能により7つのIterationを生成し、各材料について質量、安全率(FOS)、Von Mises応力を評価した。

Iteration 材料 質量 (kg) FOS Von Mises応力 (MPa)
1 鋳鉄 3.369 2.00 379.0
2 鋳鉄 3.365 2.01 106.4
3 Al合金 1.227 1.01 237.8
4 Al合金 1.230 2.63 91.4
5 チタン 2.602 12.7 21.7
6 鋳鉄 4.327 8.54 19.4
7 Al合金 1.624 9.34 17.7

図11は各Iterationの質量とFOSをプロットしたものである。最適解は「質量最小かつFOS十分高いIteration 4および7」であるが、コストや形状の対称性、製造可否を総合的に考慮し、Iteration 4(質量1.230 kg、FOS 2.63)を最適候補とした。Iteration 3はFOS不足、Iteration 5はチタン材ゆえコスト高、Iteration 2は非対称形状による回転部品での応力偏在が懸念される。

また、熱性能はGD機能に含まれないため、実用化に際しては別途FEAによる熱解析が必要である。

6. 結論

GDは最小限の制約で短時間に形状最適化を行える優れた手法であり、プロトタイピング段階で有用である。しかし現状では静的荷重下向けの設計に適しており、動的荷重、速度・角速度制約、熱や振動、音響といった多様な要件を入力できない点が課題となる。特に適用可能な荷重は「直接力」「圧力」「モーメント」の3種に限られ、熱的要件を含めた解析が不可能である。その結果、連続回転部品であるブレーキディスクでは形状に偏りや不均衡が生じやすく、実用化には手動修正と追加解析が不可欠である。今後はGDツールへの制約種別拡張(温度、振動、音響など)が望まれ、真の意味での自動設計最適化プロセスとなることが期待される¹⁵⁻¹⁶。

参考文献

  1. Mountstephens & Teo, 2020
  2. McCormack et al., 2004
  3. Oh et al., 2019
  4. Elangovan & Anas, 2016

 

追加FEAによる熱解析・振動解析はどのようなツールで行えますか?

 

商用ツール
ANSYS Workbench

熱解析(Steady-State/Transient Thermal)モジュール

構造動解析(Modal、Harmonic Response)モジュール

GUI でモデル定義からポスト処理まで一貫して実施可能。豊富な教材とサポートが魅力。

Abaqus/CAE

熱伝導解析(Coupled Temperature-Displacement も可)

周波数応答解析(Frequency、Harmonic)

複雑な接触/大変形問題に強く、耐熱-構造連成解析も実施可能。

COMSOL Multiphysics

Heat Transfer Module と Structural Mechanics Module を組み合わせて熱-応力解析

モーダル解析 や 周波数応答解析 が同一モデル内で完結

マルチフィジックス(流体-熱-構造連成)解析にも対応。

Autodesk Nastran In-CAD / Fusion 360 Simulation Extension

Fusion 360 上で Nastran ソルバーを利用し、線形静解析/モーダル解析 が可能

別途 Thermal モジュールを追加すれば定常/過渡熱解析にも対応

すでに Fusion 360 をご利用中なら学習コストが低い。

Siemens Simcenter 3D (旧 NX Nastran)

モーダル解析、ハーモニック応答、熱解析 など豊富なソルバー群

CAD モデリングから最適化ツールまで幅広く連携。

Altair HyperWorks (OptiStruct, AcuSolve)

OptiStruct:モーダル/ハーモニック解析/トポロジー最適化

AcuSolve:CFD+熱伝導解析

ライセンス形態が柔軟。

SOLIDWORKS Simulation

Thermal、Frequency、Harmonic 解析モジュールを搭載

SolidWorks CAD とシームレス連携。

オープンソース/無償ツール
CalculiX

CCX(ソルバー)で熱伝導、構造(モーダル/静的)解析が可能

CGX(プリ/ポスト)と組み合わせて使う。

Code_Aster(Salome-Meca プラットフォーム上)

定常/過渡熱伝導、モーダル/ハーモニック解析に対応

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Elmer FEM

熱伝導や線形/非線形構造解析、モーダル解析をサポート

GUI もしくはスクリプトで操作可能。

選定のポイント
解析の高度度合い

複雑な熱-構造連成や高温下のマテリアル挙動を評価するなら、ANSYS や Abaqus、COMSOL が最適。

コストとライセンス

研究室・学術用途ならオープンソース(CalculiX、Code_Aster)や学術ライセンス版の商用製品を検討。

既存環境との親和性

すでに Fusion 360/SolidWorks をお使いなら、その拡張モジュール(Nastran In-CAD、Simulation)をまず試すのが手軽。

ご要望の解析精度や予算に応じて、上記からいくつかピックアップしてトライアル版を動かしてみるのがおすすめです

Fusion 360ならどのような解析ができますか?

Fusion 360の「Simulation」ワークスペースでは、以下のような構造/熱/疲労に関する解析が可能です。なお、ほとんどは標準機能ですが、一部の解析(座屈解析やイベントシミュレーション)は「Simulation Extension」ライセンスが必要になります。

線形静解析(Static Stress Analysis)
部品に加わる荷重・拘束条件のもとでの応力分布、変位を評価し、安全率(Factor of Safety)も可視化できます
オートデスク

モーダル解析(Modal Analysis)
固有振動数とモード形状を求め、共振リスクや振動特性を把握できます
オートデスク

熱解析(Thermal Analysis)
定常状態の熱伝導解析により、温度分布をシミュレートし、ホットスポットや放熱経路を検討できます
オートデスク

疲労解析(Fatigue Analysis)
サイクル荷重下での材料疲労寿命を予測し、耐久性を検証できます
オートデスク

ジェネレーティブデザイン(Generative Design)
トポロジー最適化を用いて軽量・高剛性設計を自動生成し、複数案を探索できます
オートデスク

Simulation Extension で利用できる高度解析
構造座屈解析(Structural Buckling Analysis)
圧縮荷重下での座屈荷重係数(臨界荷重)を算出し、座屈リスクを評価できます
オートデスクヘルプ

熱応力解析(Thermal Stress Analysis)
温度場と静的応力を連成解析し、熱膨張による歪み・応力集中を検討できます
オートデスクヘルプ

動的イベントシミュレーション(Dynamic Event Simulation)
衝突や衝撃、加速度・速度・慣性を伴う時間依存荷重を考慮した完全動的解析が可能です
オートデスクヘルプ

補足:CFD(流体解析)について
Fusion 360単体には流体解析(CFD)機能は搭載されておらず、電子機器向けの簡易風洞解析(Tech Preview)や、フル機能のCFD解析が必要な場合は別製品(Autodesk CFDなど)の利用が必要です