植物や動物のクローン作製技術に関する次の記述の、(   )に入る語句の組合せとして最も適切なものはどれか。

植物の場合、( ア )であるオーキシン及びサイトカイニンを高濃度に含む培地で、根や葉の一部を培養すると( イ )と呼ばれる不定形の未分化な細胞塊が得られる。次に、( ア )の組成を変えて( イ )を培養すると再分化し、元の植物と同じ遺伝情報を持つクローンが得られる。
一方、ほ乳類の場合、植物のように分化した細胞の培養を行うだけでは個体をつくることはできない。あらかじめ( ウ )を除去した( エ )に体細胞から取り出した( ウ )を移植して培養した後、母胎に入れることによってクローンを作製する。このようにしてつくられたクローンを体細胞クローンと呼ぶ。
ア:植物ホルモン  イ:プロトプラスト  ウ:核  エ:未受精卵
ア:植物ホルモン  イ:カルス      ウ:核  エ:未受精卵
ア:植物ホルモン  イ:カルス      ウ:胚  エ:卵原細胞
ア:アミノ酸    イ:カルス      ウ:胚  エ:末受精卵
ア:アミノ酸    イ:プロトプラスト  ウ:胚  エ:卵原細胞

https://kakomonn.com/gijyutushi/questions/36522

正解は2番です。

植物組織培養では、オーキシン・サイトカイニンは「植物ホルモン」です(ア)。

それらを高濃度に含む培地で根や葉を培養すると、「カルス」(イ)と呼ばれる未分化の細胞塊が得られます。

哺乳類の体細胞クローンでは、あらかじめ卵細胞から「核」(ウ)を除去し、この脱核卵(「未受精卵」)に体細胞から取り出した核を移植します(エ)。

よって、ア:植物ホルモン イ:カルス ウ:核 エ:未受精卵 が正しい組合せです。

オーキシン・サイトカイニン、カルスについて教えてください。

オーキシン(Auxin)、サイトカイニン(Cytokinin)、そしてカルス(Callus)は、植物の組織培養や再生技術で中心的に使われる概念・物質です。以下、それぞれの概要と特徴をまとめます。


1. オーキシン(Auxin)

  • 化学的性質
    • 主にインドール酢酸(IAA)や合成化合物(NAA、2,4-D など)が培地に添加される。
  • 主な作用
    • 細胞の伸長促進:茎や根の細胞を伸ばす。
    • 根形成誘導:切片やプロトプラストからの根発生を促す。
    • 光屈性・重力屈性:光や重力に応じてオーキシン分布が偏り、植物体が曲がる現象を制御。
  • 組織培養での利用
    • 高濃度ではカルス形成を促進し、適量では根形成を誘導。
    • サイトカイニンとの比率で「根誘導」「カルス誘導」「器官形成」を制御できる。

2. サイトカイニン(Cytokinin)

  • 化学的性質
    • アデニン誘導体(ベンチルアミノプリン:BAP、キノリンジアゾール:KIN、TZ など)が代表的。
  • 主な作用
    • 細胞分裂促進:分裂組織(甘皮層、形成層など)での細胞増殖を促す。
    • 胞子形成・芽形成:シュート(茎頂や芽)の分化・発生を誘導。
    • 老化抑制:葉の老化(葉緑体の分解)を遅らせる効果もある。
  • 組織培養での利用
    • オーキシンとの比率でシュート(芽)やカルスの形成をコントロール。
    • 高サイトカイニン・低オーキシン条件で芽誘導を、高オーキシン・低サイトカイニンで根誘導を狙う。

3. カルス(Callus)

  • 定義
    • 不定形の未分化細胞塊。通常は切片(葉、茎、根など)の外層細胞を培養すると形成される。
  • 形成メカニズム
    • オーキシンとサイトカイニンを適切に組み合わせた培地で、細胞分裂が活発化し、分化しないまま増殖。
  • 特徴と利用
    • クローン繁殖の中間ステップ:カルスからさらにオーキシン・サイトカイニン比を変えて芽や根を分化させ、完全個体へと再生可能。
    • 遺伝子導入や突然変異の固定:カルスを介して遺伝子組換えを行い、その後再分化させることで遺伝子導入植物を得る。
    • 各種物質生産:バイオリアクターでカルスを培養し、ファイトケミカルや薬用成分の生産に応用されることも。

オーキシン・サイトカイニン・カルスの関係

  1. 高オーキシン/高サイトカイニン → カルス形成
  2. 高サイトカイニン/低オーキシン → シュート(芽)分化
  3. 高オーキシン/低サイトカイニン → 根分化

この比率を変えることで、培養細胞の運命(未分化維持 → 芽や根形成)が自在にコントロールできるのが組織培養技術の大きな強みです。

—以上—

ほ乳類の場合、植物のように分化した細胞の培養を行うだけでは個体をつくることはできないのはなぜですか?

植物細胞は分化後でも“全能性”(どんな器官にも分化できる能力)を保ち、適切なホルモン条件下でカルス→全個体へと再生できます。しかし哺乳類の場合、以下のような理由で「分化細胞をただ培養するだけ」から個体はつくれません。

  1. 分化によるエピジェネティックなロック
    • 哺乳類の体細胞は、特定の遺伝子群をオン/オフするヒストン修飾やDNAメチル化などで“分化状態”を厳格に固定しています。
    • この状態では、細胞はその組織に特化した機能だけを担い、ほかの細胞系列(心筋や神経など)には自然には戻れません。
  2. 母性因子(および卵子シトプラズム成分)の不足
    • 初期胚の発生には、未受精卵のシトプラズムに蓄えられたリセット/リプログラミング機構(転写因子やリプログラミング因子)が必須です。
    • 分化細胞単独ではこれら母性因子を自前で持たないため、受精卵で起こる一連のエピジェネティック再設定や細胞質–核相互作用を自律的に再現できません。
  3. インプリンティング(親特異的遺伝子発現)の問題
    • 哺乳類には父親・母親由来で発現調節が異なる「インプリント遺伝子」があり、健全な個体発生には正しい親由来のエピジェネティックマーキングが必要です。
    • 体細胞クローン技術(核移植)が必要なのは、こうしたマーキングを卵子の環境中で再プログラムし直すためです。
  4. 胎盤・母体–胎児相互作用の複雑性
    • 哺乳類では栄養供給やホルモン調節を胎盤が担います。植物のように培地にホルモンを加えるだけでなく、「母体との物理的・化学的連関」も生命維持に必須です。

以上のように、哺乳類体細胞は単に培養するだけでは分化ロックが解除されず、卵子由来のリプログラミング機能やインプリンティング、胎盤機構などを経ないと完全な個体発生を始動できないためです。

 

エピジェネティックとはなんですか?

「エピジェネティック(epigenetic)」とは、DNA配列そのものを変えることなく、遺伝子の「発現状態」を制御・維持する仕組みの総称です。具体的には、細胞がどの遺伝子をオン/オフして働かせるかを決める「目印」のようなもので、細胞分裂後にも引き継がれます。以下、主なポイントをまとめます。


1. 定義

  • エピジェネティック制御:DNA配列(塩基配列)を変えずに、遺伝子が発現(転写・翻訳)されやすいかどうかを変える仕組み
  • 細胞の記憶機構:一度獲得した発現パターンを、細胞が分裂しても保持する

2. 主なメカニズム

  1. DNAメチル化
    • シトシン塩基の5位にメチル基(–CH₃)を付加
    • 遺伝子プロモーター領域がメチル化されると、転写因子の結合が妨げられ発現が抑制される
  2. ヒストン修飾
    • ヒストンたんぱく質の側鎖(リジン、アルギニンなど)にアセチル化・メチル化などの化学修飾
    • アセチル化(–COCH₃)が増えるとクロマチンが「ゆるみ」、発現しやすくなる
    • 逆にメチル化の部位や程度によっては発現が抑えられる
  3. クロマチン再編成複合体
    • ヌクレオソームの配置を変えてクロマチン構造を開閉
  4. 非コードRNA(ncRNA)
    • マイクロRNAや長鎖非コードRNAが、転写後のメッセンジャーRNAの安定性や翻訳を制御

3. 生物学的な意義

  • 細胞分化:一つの受精卵から神経細胞や筋肉細胞など多様な細胞が作られる際、エピジェネティックに特定遺伝子をオン/オフして役割を決定
  • 発生・形態形成:時期や部位ごとに必要な遺伝子を精密に制御
  • 環境応答:ストレスや栄養状態などがエピジェネティックに影響し、一時的または長期的に遺伝子発現を変える
  • 病気との関連:がん細胞ではがん抑制遺伝子のメチル化によるサイレンシング(発現抑制)が起こることが知られる

以上のように、エピジェネティックは「遺伝情報のオン/オフ状態を細胞が“記憶”し、次世代に伝える仕組み」であり、発生、生理応答、疾患などさまざまな現象で重要な役割を果たしています。

生物の科目で面白い部分を教えてください

 

生物学には多彩でワクワクするテーマがたくさんありますが、特に以下の分野は“面白い!”と感じやすいポイントです。

  1. 遺伝子編集(CRISPR-Cas9)
    • 特定の遺伝子を狙い撃ちで「切る/貼る」技術。病気の原因遺伝子を修正したり、家畜・作物を改良したりと、応用の幅がぐんと広がっています。
  2. 幹細胞と再生医療
    • 体内の“万能細胞”を使って、失われた組織や臓器を再生する研究。マウスの心筋組織再生から将来的なヒトへの臨床応用まで、その可能性に胸が高鳴ります。
  3. 微生物の世界(マイクロバイオーム)
    • 人体や土壌、海洋などに棲む微生物群集が、宿主の健康や環境循環に大きく関わることが最近の研究で続々と明らかに。自分の腸内細菌が「自分」を作る…なんてロマンがありますね。
  4. 進化と適応のドラマ
    • 長い時間をかけて生物が環境に合わせて変わるメカニズム。ダーウィン以来の系統樹の解読から、フェノタイプ(形質)の変異がリアルタイムで観察できる実験系まで、どんどん深まる理解。
  5. 生態系ネットワーク(共生・捕食・競争)
    • 食物連鎖や共生関係、群集の安定性—一見バラバラな種同士が、実は緻密に結びついて大規模システムを構成していることを紐解くのはまるでSF。
  6. 神経科学と行動生物学
    • 脳神経回路が記憶や学習、社会行動をどう生み出すのか。ナビゲーション能力をもつハツカネズミや、ダンスでコミュニケーションするミツバチなど、動物実験のエピソードも豊富です。
  7. 合成生物学(バイオファブリケーション)
    • 「細胞をプログラミングして新しい機能を持たせる」最先端領域。バクテリアにプラスチック分解機能を持たせたり、植物に光る遺伝子を組み込んだり…アイデア次第でまさに“創造の生物学”。

これらのトピックは教科書の導入〜発展単元にまたがって登場しますが、実験や最新研究の話題を交えれば、きっと授業がグッと面白く感じられるはずです!