論文詳細情報

https://www.yan.mech.keio.ac.jp/wp-site/wp-content/uploads/2Ductile-regime-turning-at-large-tool-feed.pdf

タイトル(英語 & 日本語)

Ductile regime turning at large tool feed
大きな工具送りにおける延性域旋削

ジャーナル名 & 発行年

Journal of Materials Processing Technology, 2002年

第一 & 最後の著者

Jiwang Yan, Hirofumi Suzuki

第一著者の所属機関

Department of Mechatronics and Precision Engineering, Tohoku University, Japan(東北大学 精密機械工学専攻)


概要(Abstract)

延性域旋削(Ductile regime turning)は、脆性材料の無欠陥表面を得るための新技術である。しかし、産業応用における最大の課題はダイヤモンド工具の摩耗である。本研究では、ストレートノーズダイヤモンド工具を用いた延性域旋削を提案し、ナノメートルレベルの未変形切りくず厚さを実現すると同時に、広い切削幅を確保することで平面ひずみ状態を維持する方法を紹介する。本手法では、小さな切れ刃角を採用することで、数十マイクロメートルの大きな工具送りでも延性域旋削を可能にする。単結晶シリコンを加工し、切りくず形態や加工表面の質感を分析することで、脆性-延性遷移メカニズムを解明した。その結果、ナノメートルレベルの粗さを持つ延性表面を得ることに成功し、塑性変形した連続切りくずの生成を確認した。


背景(Background)

光学結晶、ガラス、先端セラミックスなどの脆性材料は、光学・電子産業で広く使用されている。これらの材料は、高精度で無欠陥な表面が要求される。従来の研削やラッピングでは、研磨が不可欠であったが、ダイヤモンド旋削により直接鏡面仕上げが可能となった。しかし、この技術にはダイヤモンド工具の摩耗という重大な課題がある。既存のラウンドノーズ工具による旋削では、工具送りが制限されるため、広範囲の加工には不向きであった。


方法(Methods)

1. 加工モデル

  • ストレートノーズダイヤモンド工具を使用。
  • 未変形切りくず厚さ h は工具送り f と切れ刃角 k に依存し、以下の関係式で表される: h=fsink
  • 非常に小さい k を設定することで、大きな工具送りでも未変形切りくず厚さを抑え、延性加工を可能にする。

2. 実験装置

  • 使用機械: TOYODA 超精密旋盤
  • ダイヤモンド工具:
    • 主切れ刃長 1.25mm
    • 切れ刃角:0.25°
    • すくい角:0°〜-40°
    • 刃先半径:約50nm
  • 試料:
    • シリコンウェハ (111) & (100)面
    • 直径 76.2mm, 厚さ 1.2mm
  • 切削条件:
    • 工具送り:1–40 µm
    • 切り込み深さ:1–5 µm
    • 主軸回転速度:1500 rpm

結果(Results)

1. 脆性-延性遷移の臨界切りくず厚さ

  • 工具送りを連続的に変化させた加工を行い、Nomarski顕微鏡とAFMで表面観察。
  • 臨界切りくず厚さ dc は結晶方位によって異なる:
    • Si (111) 面では h-211i, h1-12i, h1-21i 方位が最も加工困難。
    • Si (100) 面では [100] 方位が最も臨界厚さが小さい。
  • すくい角の影響:
    • すくい角が負になるほど dc が増加し、延性加工が可能になる。

2. 脆性-延性遷移メカニズム

  • 脆性モードでは、1–10 µmの粒子状切りくずが生成され、クラックが多数観察された。
  • 延性モードでは、連続したリボン状切りくずが観察され、ナノレベルの滑らかな表面が得られた。
  • 遷移メカニズム:
    • 未変形切りくず厚さが大きい場合 → 切削域に引張応力集中 → 破壊が発生しやすい。
    • 未変形切りくず厚さが小さい場合 → 圧縮応力優勢 → 延性変形が支配的になる。

3. 大きな工具送りによる延性域旋削

  • 20 µmの工具送りでも延性加工が可能
  • 工具先端角を179.6°に設定し、40 µmの工具送りでも良好な表面を実現。
  • 表面粗さ:
    • 20 µm送り: Ra = 5.1 nm, Rmax = 37.4 nm
    • 40 µm送り: Ra = 7.3 nm, Rmax = 52.2 nm

考察(Discussion)

  • 負すくい角が延性域旋削を助長し、臨界切りくず厚さを増加させる。
  • 応力状態の変化が遷移の主因であり、特に負すくい角が高圧力場を形成し、脆性破壊を抑制する。
  • ストレートノーズ工具は平面ひずみ条件を維持し、従来のラウンドノーズ工具よりより大きな臨界切りくず厚さを実現。

新規性(Novelty compared to previous studies)

  • ストレートノーズダイヤモンド工具の使用により、大きな工具送りでの延性加工を実現。
  • 結晶方位とすくい角の影響を定量的に評価。
  • 40 µmの工具送りでも鏡面仕上げが可能であることを実証。

限界(Limitations)

  • 実験は単結晶シリコンに限定されており、他の脆性材料への適用性は未検証。
  • 旋削条件(機械剛性、工具形状)の影響を考慮する必要がある。

潜在的応用(Potential Applications)

  • 光学コンポーネント(赤外線レンズ、レーザー反射鏡)
  • 半導体ウェハ加工(ナノスケールデバイス製造)
  • 精密セラミック部品(医療機器、電子部品)