【2019年_神嶌敏弘】変わりゆく機械学習と変わらない機械学習
https://www.jstage.jst.go.jp/article/butsuri/74/1/74_5/_pdf
1. はじめに
マスコミで取り上げられる目立った成果(囲碁ソフトの勝利や機械翻訳の飛躍的向上など)と比べ、機械学習(ML)が“魔法の杖”であるかのような過剰な印象がある。本稿では、何が新しく何が不変なのかを整理し、特に自然科学への応用例も紹介する。
2. 機械学習の定義とデータ分析プロセス
定義:「明示的にプログラミングすることなく,コンピュータに学ぶ能力を与える研究分野」 (Samuel, 1959)。
データ分析の処理:
記述・探索:統計量計算や可視化でデータの俯瞰。
検証:統計的仮説検定や因果推論。
予測:主に機械学習手法による未来データの予測。
3. 研究分野としての機械学習
位置づけ:学習理論、機械学習、データマイニング、ニューラルネットの4分野が相互依存。
3つの評価観点:
妥当性(根拠の確かさ)
有効性(予測精度)
効率性(大規模データ処理)
各分野はこれらを重視するバランスが異なり、万能の手法は存在しない。
4. 変わりゆく機械学習—進展の歴史
αGoの事例:小さな研究成果の積み重ね(自己対戦によるデータ増強、畳み込みニューラルネット+バンディット探索など)がトッププロ撃破を実現。
2000年まで:
ニューラルネット黄金期(パーセプトロン→バックプロパゲーション)
演繹(知識ベース)から帰納(統計的機械学習)へのパラダイム転換
SVMなどの新手法登場
2000年代(ビッグデータ時代):
MapReduceなど分散処理基盤の整備
確率的勾配法の台頭
ベイズ推定技術やアンサンブル学習の普及
2010年代(深層学習隆盛):
多層ニューラルネットの実用化(ReLU, バッチ正規化, 自動微分, GPGPU)
end-to-end学習、敵対的生成ネットワーク(GAN)など新モデル
一方、説明性や再現性の課題も顕在化
5. 変わらない機械学習—基本概念
汎化誤差:見たことのないデータに対する予測誤差。
ノーフリーランチ定理:万能の学習手法は存在せず、問題に応じた手法選択が必須。
醜いアヒルの子の定理:特徴選択や次元削減など、扱う側面の恣意的優先なしに分類は不可能。
6. 機械学習活用の難しさ
目標定式化の困難:本来の目的(例:満足度)を直接的に指標化できず、近似した量(購買確率など)で代替。
不良設定問題:曖昧な定義(「チーズらしさ」など)に伴う不確実性。
データ収集の難しさ:漏洩(leakage)や標本選択バイアスによる訓練データの偏り。
7. 自然科学への応用事例
ブラーエ段階(観測データ収集):IceCubeニュートリノ観測での信号検出、高速データ振り分け。
ケプラー段階(経験則発見):次元制約を用いた物理法則式の自動発見。
ニュートン段階(理論構築支援):ヒッグス粒子検証への変分推定、4色問題証明支援、文献知識抽出など。
8. おわりに
機械学習の成果は不変の理論的制約下で積み上げられており、適用には専門知識との密接な協調が不可欠。
自然科学の進展には、データを集める側と分析する側が互いにフィードバックし合う協力関係が重要である。





