米中の単純な性能のみを競う開発協議には参加せずに、欧州が推す脱炭素のランキングで持続可能な開発のための手法で上位を独占するというやり方は 今後の日本が目指すべき戦いのひとつだと思います。
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伝統文化とその価値の継承が途絶えつつある日本で、ヨーロピアン・デジタル型の高い付加価値を持つ産業を興す可能性を探ることで、
コアとなる価値を探していく必要があると私は考えています。
そしてそのカギは、ヨーロッパ・アメリカ・中国の3極の中間地点で熟成する
「デジタル発酵」にあると考えています。これは三極の中間地点で独自の通貨と市場を維持しながら、
文化とテクノロジーの両輪で付加価値を上げていくスイスのようなアプローチが必要です。
それは現状のグローバル経済の中で地政学的条件を考えた時の現実的な解のひとつかもしてません。
例えばコンピュータ開発を例に考えてみましょう。
近年、脱炭素の機運が高まるにつれて、コンピュータが消費する炭素量にも厳しい目が向けられるようになってきました。
特に電力消費が激しいのが、ハードウェアとしてのスーパーコンピューターのような高電力消費のものや、あるいはソフトウェア手法としての
ディープラーニングやマイニングなどの長時間の高負荷処理によって価値を生むものです。
ディープラーニングの最新モデルの学習に必要なエネルギーを二酸化炭素排出量に換算した場合、
一般的な自動車の約5倍に及ぶという論文も発表されています。
もちろん、これらの技術は環境保護に大きく貢献しています。ディープラーニングによって電力需要を高精度で予測するシステムが開発されていますし、
現在の気候シミュレーションはコンピュータでの数値計算によるものです。
しかし今後、二酸化炭素排出の規制がより厳しくなれば、研究開発用のハイスペックなコンピュータを性能を許す限りフル稼働させられる状況は限られてくるかもしれません。
車や重機のエンジンに比べれば、炭素の排出が少なく思えるコンピュータの領域も、環境保護の視点での処理能力の議論が必要になってきているのです。
そんな中で存在感を増しつつあるのが、日本の技術です。
国産のスーパーコンピュータで最も名前が知られているのは、理化学研究所の「京」でしょう。
2011年、全世界スーパーコンピュータの演算性能ランキング「TOP500」で世界一になったことで、
日本の技術力を世に知らしめました。
しかし、以降のランキングでは、アメリカ、中国が上位を独占。
最新の2019年6月のランキングでは8位に国産の「ABCⅠ」が入っていますが、
実効性能値ではトップのアメリカの「Summit」に7倍近くの差をつけられています。
単純な演算性能の勝負においては、技術開発に莫大な予算を投じているアメリカと中国に、
日本はまったく太刀打ちできていないのが現状と言えるでしょう。
その一方で、日本のスーパーコンピュータが世界最高水準の性能を発揮しているランキングがあります。
それが、「The Green500」です。
これは、演算性能を消費電力で割ったスコア、つまりスーパーコンピュータの省エネ性能ランキングです。
「The Green500」での日本勢の実績はとても良好です。
2017年6月から2018年6月までの間、日本のモデルがトップ3を独占。
最新の2019年6月のランキングではアメリカに1位の座を明け渡しましたが、
理研の「Shoubu systemu B」はそれまで3連覇の偉業を達成しています。
消費電力当たりの演算性能という限定されたルールの中であれば、
ハードウェアの安定性能などで高度な工業力を持つ日本は、開発規模や
資金力で劣っていたとしても勝ち目はあるのです。
この成果には、これからの日本の進むべき道筋のヒントがあるように思います。
アメリカと中国が熾烈なトップ争いをする一方で、ヨーロッパは理念的制度によって
プラットフォーマーが支配する市場経済を統制下に置こうとしています。
この勢力関係の中で日本はヨーロッパの理念に同調しつつ、アメリカと中国の中間に立つことで独自の存在感を発揮できるのではないでしょうか。
米中の単純な性能のみを競う開発協議には参加せずに、欧州が推す脱炭素のランキングで持続可能な開発のための手法で上位を独占するというやり方は
今後の日本が目指すべき戦いのひとつだと思います。
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