機械設計とは
機械設計とは、目的の動きを実現するために、力学・材料・加工・機構を理解して、構造物を形として設計する仕事・技術のこと。 つまり、「何を、どう動かし、どう支え、どう作るか」 を決めることです。 機械設計は次の5つで成り立っています。① 機構設計(運動の仕組みをつくる)
機械が「どう動くか」を決める技術。
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歯車、ベルト、チェーン
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ボールねじ、ラック&ピニオン
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クランク、リンク機構
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カム機構
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トグル、てこ、スライダ
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直動案内(リニアガイド、ベアリング)
機構=動きの骨格。
治具・ロボット・設備の “動き” の中心です。
② 構造設計(強度の決定)
機械が壊れないための“強さ”の設計。
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応力(曲げ・引張・せん断)
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剛性(たわみの小ささ)
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座屈(細長い部品が折れる現象)
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疲労(繰り返し荷重)
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固有振動数(共振の危険)
✔「強度=壊れない」
✔「剛性=たわまない」
両方を満たす必要があります。
③ 材料選定(素材の選択)
機械の性能は材料で決まります。
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鋼(SS400、S45C、SCM、ステンレス)
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アルミ(A5052、A6061)
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真鍮、銅
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樹脂(POM、PA、PEEK)
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炭素繊維、焼結材
特徴を理解し、
「重さ・強さ・加工性・コスト」で最適化します。
④ 加工設計(製造方法の理解)
どんな形でも作れるわけではないため、
加工性を理解することが欠かせません。
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旋盤
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フライス盤 / マシニング
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ワイヤーカット
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研削
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鋳造
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板金(曲げ・溶接)
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3Dプリンタ
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表面処理(メッキ・アルマイト・焼入れ)
機械設計者は
「この形状は作れるか?」
を常に考える必要があります。
⑤ 設計図面(CAD / 製図)
設計の結果を伝える手段。
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寸法、公差、幾何公差
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3D CAD(Fusion360, SolidWorks, Inventor)
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2D図面の描き方
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組図、部品図、展開図
図面が悪いと、どれだけ良い設計でも伝わりません。
この5つの要素について、学んでいきます。
① 機構設計(運動の仕組みをつくる)
機構設計では主に以下の5つを扱います。- 回転を伝える機構(ギア・ベルト・チェーン・軸継手)
- 回転→直線の変換(ボールねじ・ラック・クランク)
- 直線を案内する(リニアガイド・スライダ)
- 運動を生成・調整する(カム・リンク)
- 力を増幅する・保持する(てこ・トグル・カム)
- 歯車(Gear)
- ベルト伝動(Belt drive)
- チェーン伝動(Chain drive)
- 軸継手(カップリング / Coupling)
回転を伝える機構(ギア・ベルト・チェーン)
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歯車(Gear)
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- 回転速度を変える(減速・増速)
- トルクを変える(増トルク)
- 回転方向を変える
- 正確な同期運動を作る(ガタが少ない)
- 大きな力を確実に伝える
"平歯車" 【通販モノタロウ】 最短即日出荷
② はすば歯車(ヘリカルギア)
歯が斜め。高負荷・静音・滑らか。
振動・騒音が少ない。ただし歯が斜めであるため、歯車が回るときに軸方向の力(推力)が発生します。
"はすば歯車" 【通販モノタロウ】 最短即日出荷
③ ベベルギア(かさ歯車)
軸に角度がついた状態での動力伝達に使われる。普通は90°が多い。
方向変換に使う
"かさ歯車" 【通販モノタロウ】 最短即日出荷
④ ウォームギア(ねじ+歯車)
ねじ(ウォーム)+ホイールの組合せ。動力はかならずウォームからホイールに伝えられる。
大減速(1/20 〜 1/100 が容易)
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⑤ ラック&ピニオン
回転 → 直線へ変換。
用途:ステアリング、ロボットの直線機構
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⑥ 内歯車(プラネタリギア)
遊星歯車装置の中心で使う。
"内歯車" 【通販モノタロウ】 最短即日出荷
ウォームギアとかさ歯車の使いわけ
ウォームギア(ウォーム+ウォームホイール)とかさ歯車(ベベルギア)は、 どちらも “回転の方向を90°変える” 目的で使われますが、特徴・用途がまったく違う ため、正しい使い分けが重要です。 ウォームギアとベベルギアの違い| 項目 | ウォームギア(worm gear) | かさ歯車(bevel gear) |
|---|---|---|
| 回転方向の変更 | 90° | 90° |
| 減速比 | 非常に大きい(1/20〜1/100) | そこそこ(1/1〜1/5程度) |
| 効率 | 低い(50〜90%)摩擦大 | 高い(95%程度) |
| 逆転防止 | ほぼ逆転しない(自己保持性) | 逆転する(自己保持しない) |
| 騒音 | 静か | やや大きい(ヘリカルなら静か) |
| トルク特性 | 重荷重に強いが速度は低い | 高速・高効率・比較的高トルク |
| 発熱 | 大きい | 小さい |
| 用途 | 低速・高減速・逆転禁止の装置 | 高速回転・高効率の動力伝達 |
ウォームギアは 「大減速+逆転防止+静音」 が必要な場面で最強です。
- 昇降ステージ
- バルブの開閉
- 工場のゲート・扉
- 小型リフト
- 旋盤の刃物台送り
- 望遠鏡の角度調整
- ロボットの関節ロック(保持機構)
- 自動車のデファレンシャル(差動装置)
- 電動工具
- ミキサー・カッター
- ロボットの90°伝達
- 工場の高速回転駆動軸
ラック&ピニオンとボールねじの使い分け
ラック&ピニオン = 長距離・高速・安価・粗精度向け 移動が速い。丈夫で壊れにくい。長距離移動に最強(工場搬送) ボールねじ = 高精度・高推力・静か・短距離向け CNC の基本。高精度位置決めの王様。数十cm〜1mのストロークに最適| 用途・条件 | 最適機構 | 理由 |
|---|---|---|
| 長ストローク(1m〜10m以上) | ラック&ピニオン | 長さの制限なし・延長可能 |
| 高速移動(1〜3m/s) | ラック&ピニオン | 回転数を上げても問題ない |
| 中精度でOK(±0.1mm程度) | ラック&ピニオン | 簡易位置決めに向く |
| 高精度位置決め(μm単位) | ボールねじ | 予圧でバックラッシゼロ |
| 高推力が必要(数kN) | ボールねじ | ねじが強力に力を発生 |
| 静音・滑らかさ重視 | ボールねじ | 転がり摩擦で静か |
| コスト重視 | ラック&ピニオン | 部品が安い |
| 粉塵・悪環境 | ラック&ピニオン | 構造がシンプルで丈夫 |
| 切粉が飛び散る環境 | ラック&ピニオン | ボールねじは粉塵に弱い |
ホイストクレーンの走行はどっち
ホイストクレーンの走行は「ラック&ピニオンではない」+「ボールねじは絶対使わない」 クレーン走行は“ギア+車輪”かチェーン/Vベルト+減速機方式が圧倒的に多いです。 長ストローク(数十m〜100m以上)で、ラックを敷き詰めるのは現実的でない。ボールねじは完全に無理。 大荷重(1t〜50t以上)でラックでは耐久性が不足するため、車輪駆動が最強。 衝撃・振動が大きい(吊り荷の揺れ)があり、ギア減速機と車輪は衝撃に非常に強い。 メンテ性と安全率が求められるため、産業規格(JIS / FEM)でも主流は車輪駆動。 粉塵・油・屋外でも壊れにくい必要があるため、ラック&ピニオンやボールねじは悪環境に弱い。歯車の基本用語
① モジュール(m) 歯の大きさを表す基本パラメータ。 m = 基準円の直径 ÷ 歯数 ② 歯車の速度伝達比 歯車をかみ合わせた際の駆動側の回転速度と従動側の回転速度の比を速度伝達比といい、基準円直径の比、歯数の比に反比例する。 速度伝達比 = 回転速度1 ÷ 回転速度2=歯数2 ÷ 歯数1=基準円直径2 ÷ 基準円直径1 歯車の選定では事前に「軸間距離」、「モジュール」、「速度伝達比」を決めておきます。 モジュールの値は歯の強度計算から求めます。 選定方法について|小原歯車工業株式会社ベルト
ベルト伝動とは、2本以上のプーリー(滑車)にベルトを掛けて回転を伝える機構(回転 → 回転)のことです。 静音・低コスト・長距離伝達が得意 という利点があります。 ベルト伝動は大きく以下に分かれます。 1. Vベルト(V-belt) 最も一般的な工業用ベルト。 コストが安い。伝達トルクが大きい。 少し滑る(クラッチのように保護作用) 精度が必要な駆動には使えない
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2. タイミングベルト(歯付きベルト)
歯が噛むため“滑りゼロ”。ベルト伝動で位置決めができる。
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3. フラットベルト(平ベルト)
平らなベルト。古典的だが軽負荷・高速で優秀。
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ベルトの材質と使い分け
| 用途 | 最適材質 | 理由 |
|---|---|---|
| 一般用途(モーター駆動) | CR(クロロプレン) | 標準・長寿命 |
| 高温(80〜140℃) | EPDM | 耐熱性が強い |
| 精密位置決め(XY) | PU(ポリウレタン)+アラミド心線 | 伸びが少ない・軽い |
| 軽搬送ライン | PU / ポリエステル | 安定した摩擦 |
| 重荷重搬送 | ワイヤ心線+ゴム | 破断強度が高い |
| 食品加工 | PU+ナイロン布 | 衛生性・洗浄性 |
| 高速回転(ファン) | CR / EPDM | 熱に強い・振動吸収 |
Vベルトの選定方法
Vプーリー/Vベルトの設計・選定手順を次の6ステップに整理しています。
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設計動力の計算
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ベルトの種類およびプーリー溝形状の選定
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回転比の計算
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プーリーの組み合わせの選定
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ベルト長さ・軸間距離の決定
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プーリー溝本数(=ベルト本数)の計算
まず、モータ出力PN(kW)に負荷補正係数Koを掛けて「設計動力Pd」を出す。
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PN:モータなどの伝動動力(kW)
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Ko:負荷補正係数(ファンなのか、コンプレッサなのか、衝撃負荷か…で決まる)
2.ベルトの種類およびプーリー溝形状の選定
次に、高速軸(小プーリー側)の回転数 n₁ と 設計動力 Pₙ から、
どのベルト(A/B/C など)を使うかを選びます。
求めたい減速比(回転比)をはっきりさせます。
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n₁:高速軸(小プーリー)回転数
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n₂:低速軸(大プーリー)回転数
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D :大プーリー径
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d :小プーリー径
4.プーリーの組み合わせの選定
カタログの寸法表から、i に近いプーリー径の組み合わせを拾います。 5.ベルト長さ・軸間距離の決定 ① 概略ベルト長 L を計算 NBKの公式 No.4 を使って 「候補の D, d, 概略中心距離 C から L を算出」します。 実際のベルト長 L から 中心距離 C を再計算し、最初の想定(約620mm)との差を確認します(公式No.6)。 6.プーリー溝本数(=ベルト本数)の計算 基準伝動容量 Pr と付加伝動容量 Pa を計算し(公式No.7)、接触角 θ を考慮して、必要本数を求める 1溝あたり何kW伝えられるか× 溝本数 ≧ 設計動力 Pd となるように、溝本数(=ベルト本数)を設定します。




